第24章 ── 第15話
セプティム侯爵が目を覚ましたのは三〇分以上経ってからだった。
その間、誰も介抱してやらなかったのが印象的。
もちろん俺の仲間たちもね。
神々に意見をしたのもあるが、どうも俺に対抗心を燃やしていた貴族らしく、最近は王に少し疎ましく思われていたような雰囲気だ。
ただ今回、神々が降臨し俺の擁護をしたことで、密かに俺に負の感情を持っていた王の直臣の貴族たちは、表立って俺に対抗しようとしなくなると思われる。
神々に神界から監視しているぞと公言された以上、いくら貴族たちが秘密裏に工作しようにも、全てを見透している神々に見放される可能性が高いんだから当然だろう。
神の威圧で気絶していたセプティムが目を覚ました。
「こ……これは失敬しました……神々を名乗る者たちを見ていたら気が遠くなりまして」
自分があらぬ格好で床に転がっていた事を認識して、セプティムが恥ずかしそうに着ている貴族服の乱れを正して立ち上がった。
「よい。先程も諸侯にいったが、今回の事は口外法度である。其の方も心得よ」
「……は?」
セプティムは納得できなそうな顔でリカルドに聞き返している。
「そもそも、アレが神々であったかも判明しておりません。
魔族の大掛かりな魔術やも……」
セプティムがそこまで言った時、天井を貫いて白い稲妻が落ちてきた。
バリバリという音と共にセプティムが稲妻に飲み込まれたのが一瞬だけ見える。
俺は眩しすぎて目を瞑ってしまう。
音もしなくなったので、恐る恐る薄目を開けてセプティムの方を確認する。
セプティムは何事も無かったように自分の身体や周囲を見回している。
「何だったのだ……?」
フンボルトが稲妻が降ってきた天井を見上げているが、天井に稲妻による黒焦げなどはない。もちろん床の絨毯にもね。
「神々の警告では?」
オルドリンがセプティムをジロリと見る。
「その可能性が高そうですな」
「あの方々を目の当たりにして、神々かどうか疑うなど気がしれませぬ」
「然り然り。ここにいる者、全てが命じられるでもなく跪いたのですからな」
「我らの陛下ですら、跪いた存在を疑う事など出来申さぬ」
直臣貴族たちがセプティムの切り離しに掛かっている。
とばっちりを受けたくないからだと思うが、露骨過ぎて怖い。
当のセプティムが、それらの声を聞いて弁明しようと口を開いたが……
パクパクと口を動かしただけで声は出なかった。
セプティムは自分の喉を押さえ、また口をパクパク。
あらら……こりゃ凄い。
まさに目の前で神罰を見た。
要らぬ事を言えないように神々によってセプティムの声は奪われたのだ。
「こ、これが神罰か……」
リカルドがセプティムの様子を見て動揺している。
「よ、良いか皆のもの……神罰を恐れるなら……他言無用であるぞ」
「ぎょ、御意にございます!!」
たったアレだけで周囲に対する威力が凄いね。さすがは神罰というべきか。
まぁ俺としては、神罰というと天空から黄金の巨大なゲンコツが落ちてきて潰されるようなイメージだったんだけどね。
ゴッド・フィスト的な命名が頭をチラリと過ぎったが、それは口に出すまい。
セプティムは顔面蒼白になりながら口を噤み、部屋の隅に移動した。
相当、落ち込んでいるようだが自業自得だよ。
神々が降臨したばかりだというのに、神を疑うような事を言ったんだし。
帰ったばかりの神々が、下の様子を窺ってないわけないだろうにな。
気を取り直して場の空気を収めねばなるまい。
「さて、ここにいる方々だけには、彼らを紹介しておきたいと思います」
俺がそう声を掛けると、国王と貴族一同がこちらに振り向いた。
「う、うむ。余が知らぬ顔もできまいな。
ただ、余は魔族に会うのは初めてであるし、古より伝わり聞く魔族に恐れを抱くのも許して欲しい。
だが、神々がお約束下さった以上、其の方たち三人がクサナギ辺境伯の部下として付き従う事は認めよう」
いつもどおり国王リカルドは柔軟性が高い。
頭の固いやつだと、こうは行かないからね。
この国王の臣下になったのは正解だったな。
「では、まず……フラウロス」
「御意」
豹人族のような見た目のフラウロスが前に出てきて、仰々しくお辞儀をする。
「彼は魔軍にいた者でしたが、共に行動していた魔族が嫌いだったみたいで俺と戦った後に恭順した者です」
「我が主よ、それは違いますぞ。
我はヤツが嫌いだったのではなく、ヤツの行いの卑怯さが嫌いだったのですぞ」
それがどう違うのか、俺にはよく解らないんだけど。
「戦いとは正面きって正々堂々と対峙すべきでしょう」
「そうか? 敵の裏をかいて楽に倒せるなら、少々卑怯でもいい気がするんだけど?」
俺がそう言うとフラウロスは溜息を吐く。
アモンもやれやれポーズだ。
「それは相手の力が強大であった場合でしょう。それは卑怯ではありません。
自分の方が力が上、格が上である者が卑怯に振る舞ってはなりません」
「そういうもんかね。了解だ」
アモンの言い分に俺は頷いて見せる。
「その点、我が主は問題ありませぬぞ。
我が主は、いつも一番最初に矢面に立っておられた。
ヤマタノオロチの時もリンドヴルムの時にも」
そうか?
トラリアの軍と戦った時は、仲間を前面に出してた気がするが?
俺がそう言うと、ハリスは呆れ顔だ。
マリスやトリシアは何が可笑しいのか笑い声を上げている。
アナベルは興奮しつつ力強く頷いている。
「やれやれ……自分の実力を……もっと正しく……理解してほしいもの……だ」
「ケントは本当に面白いのう。
あの程度の戦力がケントの相手になるわけあるまいが」
「その通り。ケントなら一分も掛かるまい。大精霊一匹で瞬殺だな」
「ケントさんなら一睨みです!」
いや、一睨みでは無理ですよ、アナベルさん。
確かにイフリート召喚で一発ではありますが、あれでは助かる者も助からなくなりますよ。
無差別に殺すだけならそれもいいけど……
あいつら精霊は人間と感覚が違うからね。
ハンマールの地下であいつらが言った事を思い出して欲しいよ。
マグマで一斉に殺そうとしてたでしょうが。
まあ、あの四人の大精霊の中で一番人間の事が解ってそうなのは、暁月坊ことシルフィードじゃないかと思う。
一緒に、風呂で酒を飲んだ仲ですしな。
「えーと、続いてコラクスことアモン」
俺の紹介にアモンが、リヒャルトさんっぽく執事風に頭を下げる。
「主様よりご紹介にあがりました、アモンでございます。コラクスとお呼びください。
人魔大戦のおり散った破壊神カリス様が四天王、『武』の化身で御座います」
太古の時代から生きている伝説の大魔族の一人だと聞き、俺たち以外の人間は顔面蒼白になる。
「ぶ、武の化身と聞いて、王国一の剣士と言われてきた私としては、コラクス殿の腕に興味あります」
震えながらもオルドリン子爵だけが前にでた。
それを見てアモンは少し微笑みながら目を細めた。
「ふむ。貴方は人間としては中々腕が立つようですね。
後で少し一緒にお稽古しませんか?」
おいおい。お前はレベル九五だろうが。
猫の子を撫でる程度の力で大抵の人間は死ぬレベルだぞ、大丈夫か?
「あ! 私もそれにお付き合い……するぜ!」
アナベルが天然素材丸出しで嬉しげに手を上げたが、途中で狂戦士ダイアナが顔を出した。
「ダイアナ・アレン殿も興味ありか」
オルドリンがニヤリと笑う。
「コラクスにはトリシアとハリスの三人で勝ったが、単騎ではまだ経験がないんだよ。腕試しはしておきたいだろ!」
オルドリンが目を見張り、アモンの顔を見た。
「ええ、ケント様のお仲間は中々の腕達者でしたよ」
アモンがニッコリ笑うもんだから、オルドリンが驚愕の表情になる。
「どれだけ差を付けられたのか……」
「倍以上じゃろ、倍」
マリスが腕を組みウンウンと頷く。
などと盛り上がっていると、俺の服の裾をアラクネイアがクイクイと引っ張る。
「主様、私の紹介はまだですか」
「ああ、ごめん」
あっちで盛り上がっているせいで、アラクネイアは寂しく思ったに違いない。
「では、最後に魔族連が紅一点」
俺がアラクネイアをグイと押し出して前に来させる。
アモンたちと戯れるオルドリン以外の国王と貴族は、アラクネイアの美しさにゴクリと喉を鳴らしている。
「彼女はアラクネイア。魔軍に協力はしていたが、魔軍に所属している魔族ではありません。
彼女は新しい生物を生み出すという一点で、一部の生物からは創造主として崇められる存在です」
「我ら種族の生みの神です」
俺の紹介にブラック・ファングがブンブンと縦に首を振る。
「ああ、このダイア・ウルフ種族も彼女が作り出したんですよ」
そう俺が紹介するとアラクネイアも微笑みながら頷いた。
そういや、俺の名声を高める事になったワイバーンも彼女の作品なのかな。
魔軍の尖兵とか言われてたような?
ドラゴン似だからカリス自ら作った可能性も高いけどね。
「ご紹介に預かりました、アラクネイアと申します。今はアラネアと名乗っております。良しなに」
淑女然としたお辞儀をするアラクネイアに貴族たちは釘付けだ。
ま、ぐるっとティエルローゼを回ってきた俺が見ても、ファルエンケールの女王クラスの美女は数人しか確認できてない。
ケセルシルヴァ、アラクネイア、リサドゥリアス、ウンディーネくらいか?
トリシアやマルレニシアなどのエルフ、レベッカ、ニンフたちも人間に比べると相当な美女だが、上記四人は別格だからね。
アナベルは美人だけど可愛い系なので、美女には含めてませんよ。マリスは幼女なのでダメです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます