第24章 ── 第13話
一通りお説教は終わったので、料理人たちには数日間、ここでの料理の提供をお願いしておく。
「何日かよろしくお願いするね」
「承りました、師匠!」
エッソから快い言葉が帰ってくる。
「君たちを帝国へ返す時に給金として銀貨二枚を払おうと思ってるが、他に何か希望はあるかな?」
「銀貨二枚もですか」
他の料理人もゴクリと喉を鳴らした。
宿屋専属の料理人としては破格の金額だろう。
数日働くだけで、他には無いレシピ、二~三ヶ月ほどの給料を支払われるのだ。
万が一という事もあると思って「危険手当」という側面もあるからな。
この世界ではそういう発想はないだろうけど。
「マッカラン、彼らの安全を守るように」
「はっ!」
マッカランの返事に頷いて返し、彼に料理人の警護を任せて
「まずは王都に立ち寄るよ」
「王都の問題は落ち着いているんだろうな?」
「ああ。マップ画面を確認する限り、法国のスパイは片付いたようだね」
トリシアの問いに大マップ画面を開いて確認する。
「国王への報告の次は主戦場かや?」
「そうなるね」
「腕が鳴るな!」
主戦場にはドヴァルス侯爵の軍勢がいる。
彼自身がいるかは知らないが、マリスとしては会いたくないのかも。ロリっ子大好きっぽいからな。
相変わらずダイアナが出張ってきてる。アナベル自身は戦いの場があればそれでいいっぽいな。
既に何度か見ている近衛兵たちに、もう驚きはないらしく俺たちが姿を現すとビシッとした敬礼をしてくれた。
しかし、マリスの後ろからブラック・ファングが出てきた時は顔が固まってた。
今回、主戦場にダイア・ウルフ部隊を展開させたいのでブラック・ファングを連れてきている。
「ああ、これはマリスの部下だから気にしないで」
俺がそういうと、近衛兵は顔を強張らせつつもコクコクと頷いた。
「国王陛下か宰相閣下にお会いしたいんだが、お忙しいならオルドリン近衛団長閣下に取り次いで欲しい」
「はっ! 只今、会議室におわしますので、ご案内いたします!」
連日、会議室に詰めているらしい。
頑張るなぁ。
「クサナギ辺境伯閣下をご案内致しました!」
近衛兵が声を掛けると直ぐに扉が開いた。
「領主閣下、お待ちしておりました」
扉を開けて顔を出したのはアーベント・ロッテルだった。
「お、アーベントじゃないか。任務に問題はないか?」
「はっ! 恙なく、終了致しました!」
アーベントの返事にニヤリと俺は笑う。
「ご苦労さま。さすがはロッテル家の嫡男」
「お褒めに預かり、光栄に存じます」
ロッテルは嬉しげな笑顔を浮かべつつ、扉の横に移動して跪く。
会議室に入ると、陛下たちが目に入る。
「陛下、カリオハルト自治領を制圧致しました。現在、第四ゴーレム部隊とダイア・ウルフ部隊に警備させています」
俺の報告に国王、フンボルト、オルドリンが目を瞠る。
「たった一週間でか!?」
「何という早業……」
「さすがは辺境伯殿だ。王国一の戦略家でもあったか」
オルドリンは買い被り過ぎな気もするね。戦略なんて全く無いよ。
とっとと殲滅して帰ってきただけだからね。
「総督など、他国の貴族たちは家族も含めて全て救出してあります」
「ご苦労であった。これで後方の驚異は去った」
フンボルトがホッとしたように言う。
気持ちは解る。二正面作戦はキツイ事になりかねないからね。
「どうした? 扉を閉めよ」
いつまでも扉が閉まらないので、国王リカルドが訝しげにしている。
「ああ、ブラック・ファング、早く入れ」
俺が扉の外に声を掛けると巨大な黒い狼が顔を覗かせた。
「私が入ったら驚かれるのでは?」
「気にするな。暴れなければ大丈夫だよ」
「創造主と主様の前で暴れるような無粋な真似はしませんよ」
ブラック・ファングはトットと軽快に会議室に入り、マリスの後ろに行儀よく座る。
会議室にいる俺の仲間以外の全員が固まった。
「ダイア・ウルフだと!?」
軍人であるオルドリンたちは即座に武器に手を掛けた。
「こら、脳筋将軍! 我の部下に武器を向けるなら、其の方は我の敵じゃぞ!?」
マリスの怒声にオルドリンが武器の柄に置いた手を慌てて離した。
俺も慌てて場を取りなす。
「陛下、以前冒険者ギルドからご報告が上がったと思いますが、彼はトリエンから帝国北部一帯を縄張りとするダイア・ウルフの長のブラック・ファングと言います。
今回の戦いに参戦したいと申し出があったので連れてきています」
目を白黒させていた陛下が興味深げにブラック・ファングに視線を向ける。
「余はダイア・ウルフという魔物を初めて見るが、精悍な生物だな」
立ち上がってブラック・ファングに近づこうとする国王をフンボルトが押し留めようとする。
「陛下! 魔獣ですぞ! 無闇に近づいてはなりません!」
「そんなに気にするな、人間よ。私は主様の敵以外の人間は敵と見做さない」
俺にはそう聞こえるが、俺とハリス以外には「わふわふ」言ってるようにしか聞こえないだろう。
「大丈夫ですよ。彼はマリスの敵じゃなければ敵とはしないと言っています」
フンボルトは俺の言葉に少し警戒を解く。
「辺境伯殿がいうなら、少しは安心ですが……」
魔獣すら仲間にするとは、規格外だと宰相は呆れ顔になる。
リカルドがブラック・ファングに少しだけ近づく。
「我が国の危機に参戦してくれた事を有り難く思う」
「礼には及ばぬ。」
「国王よ。ブラック・ファングはモフモフなのじゃぞ。触ってみるか!?」
国王にこの言い草。マリスは相変わらず恐れ知らずだわ。
「モフモフか。では失敬して……おお。確かにモッフモフだぞ、ロゲール」
リカルドはご満悦だが、オルドリンとフンボルトは顔を青くしてアワアワしている。
それを見てアラクネイアはニッコニコだ。
リカルドは、それに目を留め、さらにアモンとフラウロスに目をやる。
「辺境伯、部下が増えたようだが」
「あー、はい。この三人は西方で出会った者たちです」
俺は三人を順番に紹介する。
フラウロスは「フラ」として、アラクネイアは「アラネア」、アモンは「コラクス」としてだ。
紹介していくうちに、直臣貴族のうちの一人の顔色がどんどん白く、いや青くなっていくのに気付いた。
「セプティム侯爵殿、何か……?」
「い、いえ、何も!」
セプティム侯爵は必死にプルプルと頭を振る。
「何だ、セプティム。思う事があるなら申せ」
リカルドに命令されたセプティムは、まじまじと俺たちを見た。
「こ、この三人は……クサナギ辺境伯殿は、この三人に騙されているのではないかと……」
「騙されている? 一体どういうことだ?」
フンボルトの怪訝な顔になって俺たちを見た。
「わ、我が家には古より伝わりし古文書がりまして……」
古文書か。セプティム侯爵は魔族に関して何か知っているようだ。
このまま秘密にしておけない雰囲気だな。
「知っておる。古くから書物の管理を任されていた家柄だからな。古文書もあろうよ」
「あー、すみません。皆を怖がらせるかと思って黙っていたんですが……」
俺はリカルドとセプティムの会話に割って入る。
「彼らは普通の人間ではありません」
「ほう。普通でない? どう普通でないのだ?」
「彼らは魔族です」
再び場の空気が凍りつく。
セプティムはやはりという顔になった。
「ただ、彼らは俺の部下になりました。人間に害をなす魔軍の者ではありません」
俺が説明したとしても魔族と聞いておいそれと信じる人間はいない。
国王、宰相、オルドリン、その他貴族、近衛兵、全員が緊張と警戒の雰囲気になってしまった。
魔族と関わりがあると聞いただけで、本物と思っていた偽皇帝を裏切る選択をしたディッセルという例もあるのだ。
さて、どうしたものか。
魔獣程度なら誤魔化しも効いたが、魔人種である魔族となるとそうもいかない。
このままでは、俺たちは人類の敵になりかねないぞ。
その時だった、ズドンといった音が鳴ったかと思うと、会議室の隅に白い光の柱が三本立ち上がった。
その光の柱はから三人の人影が出てきた。
「な、何事だ!?」
全警戒状態のオルドリンが大剣を抜いた。
「慌てるな。神に剣を向ける愚かな行為で死ぬことになるぞ」
厳しい面でアースラが静かに言う。
やれやれ、ここで神の降臨とは……
神の横槍が入るなら助かりそうではあるが、国王たちには精神面のケアが必要になるかもしれない。
「我はアースラ・ベルセリオスなり」
「儂はヘパーエストである」
有名な神を名乗る二人は、いつもと違って身体から畏怖を感じざるを得ないオーラを纏っていた。
バタバタと国王や他の貴族たちが土下座の如く平伏してしまう。
うーむ。この神力による土下座強要。これが普通の神降臨ってヤツですかね。
ちなみに、もう一人の神はベリアルだよ。
彼は既に神力のオーラを纏っているし、見た目だけなら一番神々しい。
名乗らないのは有名な魔族の名前だからだろうな。
セプティムは魔族の名前に詳しいっぽいし。
魔族が人間としての名を名乗る時は、一定の法則がある。
コラクスとかワタリガラスの学術名だからねぇ。
こういう所で身バレするとは思いもよらなかったけども。
しかし、この後の処理は神どもに任せて大丈夫だろうね?
アースラやらヘパさんが関わると微妙な気もするんだよな。
後、ベリアルに妙な怒りを買わなければいいな。
呼び出しただけで滅ぼされた国もあるからね。
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