第24章 ── 第11話
厨房に戻った後、コンソメ粥を完成させる。
この時、俺はインベントリ・バッグから、あるポーションを取り出してコンソメ鍋にコッソリと投入しておいた。料理人には見えないようにね。
これは回復ポーションではない。
ソフィア・バーネットがセリス嬢に作っていたヤツと同様の錬金薬だ。
少し興味深かったので試行錯誤して作ってみたんだが、今まで使う機会もなかった。
今回は飢餓状態の救助者がいるので実験に付き合ってもらおうと思っている。
そもそも、本当だったら救助する必要もない者たちだしな。
同盟筆頭国であるオーファンラントへ何の情報ももたらすこともできなかった無能な管理者たちだ。
俺は法国だけでなく、カリオハルトの管理を任されていた貴族たちにも静かな怒りを感じていたのだ。
表面上は穏やかに対応してやったが、自治領民の不穏な動きすら感知できず、オーファンラント、
そんな奴らを実験台に使ってもいいよな?
ま、実験といっても、彼らの為になる実験だ。
命が助かるんだから文句はないだろう。
粥の完成には時間が少々掛かっているが、これの効果は多分凄い。
少々救助者を待たせてしまったが、五日も絶食しているんだし、半日くらい遅れても問題ないだろう。
粥の完成手順を教えた後は料理人たちに同じように作らせる。
で、出来たそばから配るわけだが、仲間と料理人たちだけだと一三人しかいない。
とてもじゃないが五〇〇人以上に配るのに時間が掛かり過ぎるし、折角の粥が冷めてしまう。
なので、料理人たちにはガンガン作らせ、配給はゴーレム兵にやらせた。
数だけは揃ってるからな。
そういった作業は料理人に任せて、俺と仲間は城の中の探索に出撃した。
既にゴーレム兵の突入で城の内部の赤い光点は幾つもない。
殆どが城の最上階である四階に陣取っている。
もう人質も全員救出済みなので、何の驚異ともなり得ないだろう。
「んじゃ、最後の掃討戦だ」
「ただの一般人じゃと何の張り合いもないのう」
「だな。自爆攻撃も俺たちには効かないもんなぁ」
俺は力なく首を振る。
一般的な兵士には効いたのだろうが、オルドリン子爵クラスになると軽症にしかならない。レベル四〇を超えると殆どかすり傷程度が与えられればいいところだ。
「しかし、油断は禁物だぞ、ケント。ま、私たちではレベルが違いすぎるが」
トリシアが一般論として警告をしてくるが、彼女もまた気が抜けてしまうのを理解している。
「ここが終わったらどうするんです?」
アナベルに問われ、少々考える。
「そうだな……大マップ画面で見る限り、王都の掃討作戦は終わったようだし……
報告がてら王都に寄って、第一ゴーレム部隊を回収して最前線に向かうか」
アナベルがニヤリと笑った。
「ふふ。次はどんな戦いが待っているだろうな!」
ダイアナ・モードに切り替わるの早すぎ。
ま、大した戦闘にはならないんじゃないかな。
マップで見る限り、二つに分かれていた戦場が一つにまとまりつつあるようだし。
四階に続く階段の一番上にテーブルなどでバリケードが作られていた。
その向こう側には五人ほどの法国民がいた。
話し声からは、ドーガにやられた理性がないヤツらとは思えない内容が聞こえてくる。
「来たぞ!」
「あんな強力なゴーレムが相手なんて……救世主様がいてくれたら!」
俺たちの足音でゴーレム兵が来たと思っているらしい。
四階は総督の執務室や家族の生活スペースなどがある階で、かなりの広さがある。
その四階のそこかしこから、階段前のエリアに敵が集まってくるのがマップの光点で解る。
総勢で三〇人にも満たない。
「そろそろ突撃してもいいかや?」
マリスはウズウズしているようだ。
「ちょっと待って……」
俺は大マップ画面の検索を使い。敵の情報を確認してピンを幾つか立てた。
「よし、ピンを立てたヤツらは生かしておいてくれ。後はいい」
「了解じゃ。スイフト・ステップ! シールド・チャージなのじゃ!」
マリスが高速移動しながらシールド・チャージをかまし、バリケードを粉砕する。
バリケードの一部が粉砕され、その向こうにいた法国民たちが吹き飛ばされる。
ピンが立っている奴らは、上手い具合に避けている。さすがマリスだ。
高レベル帯になってからのマリスは、こういう繊細な挙動もできるようになっている。
アモンも嬉々として突入していく。
「ハリス」
「解ってる……了解だ……」
ハリスの分身がピンの数だけ影に沈んでいった。
ハリスの兄貴は相変わらず便利すぎです。
「私もいくぜ!」
アナベルもアモンの後に続いた。
彼女が出ていったら、俺の出番はないな……
「我が主の仲間の方々はコラクスと相性が良さそうですな」
「失礼ですよ、フラ」
いや、同感です。みんな、ホント好戦的すぎます。
「いや、アイツらはアレでいいだろう。
下手に抑制したら、アイツらの持ち味を活かせない。
ここぞという所で指示に従える冷静さは必須だが、最近はそれほど暴走することはないからな」
アラクネイアの言葉にトリシアが答える。
確かに。
一番暴走が心配なのはアナベルだけど、最近はそういう事もない。
戦闘前に指示をしておけば、しっかり行動してくれるようになった。
本当ならトリシアも結構イケイケなタイプなんだと思うけど、俺が司令塔として行動して欲しいと頼んでから、仲間たちへの指示や援護に徹している。
お陰で俺は楽をさせてもらっていると思う。
制圧は五分も掛からなかった。
ピンを立てていたヤツらは、ハリスが確保したので無傷で拘束できた。
俺はハリスがロープで縛って連れてきた三人の法国民に視線を落とす。
「どうも、お初にお目に掛かる。トリエン辺境伯のケント・クサナギだ。
シュノンスケール法国工作部隊指揮官、レジオナル枢機卿殿?」
俺がそう言うと、一人の捕虜が愕然とした顔で見上げた。
「な、何故、私の名前を……」
俺はニッコリと笑う。
「随分と手の混んだ計画だったようだけど、俺にはお見通しだったんだよ」
「くっ……やはり情報通りの切れ者でしたか……」
やはり俺の情報は仕入れていたようだね。
「さて、聞きたい事があるんだけどさ」
「戦時捕虜条約に基づいた権利を要求します」
「何いってんの? 戦時捕虜条約が君たちに適用されるわけないじゃないか」
今回の件はティエルローゼの東側で規定された戦時捕虜条約違反状態で引き起こされた戦争だ。
よほどお人好しでなければ、条約による権利を認めるわけがないだろう。
俺も大概お人好しと思われているが、今回の敵に対しては絶対に認めるつもりはない。
「お前たち法国は何の布告もなく俺たちの国、オーファンラントに攻め入ってきた。
そのような国の国民をどう扱ったとしても、我が国の周辺国は文句はいわないだろうよ」
ジロリと睨むとレジオナル枢機卿は表情を固くする。
「今回はそれだけじゃない。オーファンラント周辺にドーガを蔓延させようとしていたのも解っている。
これも条約違反だろ?」
「し、知りません。そんな事は……」
枢機卿は目が泳いでいる。
「それでは試してみよう」
俺は少し廊下の奥に入った部屋に行き、そこにあった木箱から小ビンを取り出して戻る。
そしてガッとレジオナルの顎を掴み、顔を上に向けさせ強引に口を開ける。
小ビンの蓋を親指で弾いて飛ばす。
コンコンと石畳の上を小ビンの蓋が跳ねていった。
枢機卿の目は小ビンに向けられており、目を見開き、顔面蒼白で冷や汗をダラダラ流しながら必死に俺の力に抗おうとしている。
「やへてくらはい! ゆるひてくらはい!」
やはりな。コイツは中毒患者ではなかった。
クリックして表示されたダイアログの情報は正確無比ですな。
俺は手荒く掴んだ顎を離してやる。レジオナルは強かに床に叩きつけられた。
レジオナルは痛みに身悶えしたが、それ以上に恐怖にガタガタ震えている。
「知っている事を全て吐け。。法王とその背後にいる者についてな。
そうすればドーガ中毒だけは許してやろう」
レジオナル枢機卿とその部下である大司祭長、大神殿長の三人は、簡単に口を割った。
この三人だけがドーガに侵されていない大人の法国民だった。
彼らはドーガの恐ろしさをよく知っており、中毒患者たちを操る為に訓練された支配階層だ。
カリオハルト自治領の法国民の最高指導者たちだ。
この三人が派遣されて来る管理貴族たちに取り入りながら、東側各国の情報を手に入れ本国に送っていたのだ。
それと共に、各国の国民にドーガに侵された法国民を送り込み、工作活動に従事させていたワケだ。
こいつらの所為で少なからずトリエンの民もドーガ中毒にされたのだ。
例え本国からの命令があったとしても、到底許せない。
三人の知っている事を精神魔法も駆使して引き出し、全ての情報を絞り出したと確信できたところで、捕虜をトリエンに魔法で送り出した。
後々、他国への説明の為にも王国の役に立ってもらう予定なので生かしておくことにした。
しかし……楽には生きさせないよ。
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