第24章 ── 亡国の怨念
第24章 ── 第1話
玉座の間に険しい顔で戻った俺の様子を見て、仲間たちが少し不安げな顔になる。
リーダーたる者、仲間に不安を与えるのはマズイとは思うが、事が事だけに顔に出てしまった。
「全員集まってくれ」
俺がそう言うと、仲間だけでなく会議に出ていたドワーフたちも集まってきてしまう。
「あ、すまん。仲間だけで話がしたいんだ」
ドワーフたちは渋々離れていくが、ランドールは仲間面して留まっている。
「ランドール、君もだよ」
「えー? つれないのう」
他国の王様に本国の一大事を聞かせるつもりはないぞ。却下だ、却下。
「すまんな。今回は冒険者関係の話じゃないんだ。他人に聞かせる話じゃない」
「ふむ。もし、困ったことがあるのじゃったら言ってくれ。ワシも協力を惜しまんつもりじゃ」
ま、新米王様でも味方に付けておけるのは心強い。
オーファンラントが困ったことになったとしても、ハンマール王国の財力を背景にできるのは助かる。
ドワーフたちに自覚が無かったとしても、ハンマールは超絶な資源力を持つ国なのは間違いないからだ。
中世国家において、鉄や貴金属を思うがままに産出できるってのは強靭な国力を誇れるほどの事だ。
鉱石の採掘というのは、技術力の低いうちは事故の多発する危険な産業なのだ。
ドワーフの種族特性は、それほどに価値のあるモノなのだが、オーファンラントにしろ、ファルエンケールにしろ、あまり考慮されてない気がしてならない。
俺がマストールに工房を自由に使わせていたり、彼を慕ってトリエンに在住するドワーフが増えた事を喜んでいるのもそれが理由だ。
中世時代のティエルローゼに重厚長大産業を一手に握れたら、誰にも手が出せない地域になるだろう。
一部、魔法技術を独占する支配層だけが便利な世の中ってのは性に合わない。
とまあ、そんな難しい事を考えるのは今は置いておこう。
「その時は頼むよ」
ランドールにそう言うと、彼はニヤリと笑って玉座に戻っていった。
俺は仲間たちを伴い、玉座の間を出て応接室の一つを貸してもらう。
「何だ? どうしたんだ?」
トリシアが心配そうに聞いてきた。
「オーファンラントに戦争を仕掛けてきた国がある」
「なんじゃと? トリエンは無事かや?」
マリスが憤慨したような声を出した。
「今のとことは無事のようだが……」
「何か問題があるんです?」
アナベルが首を傾げた。
「トリエンは北との連絡を絶たれているようだ」
都市防衛にはゴーレム部隊がいるので、大規模攻勢を掛けられても何ら問題にもならないだろう。
トリエン地方一帯の防衛はダイア・ウルフ部隊による早期警戒、防衛活動が期待できるとも思う。
ただ、首都方面との連絡を絶たれている状態では、トリエンの孤立は免れない。
周囲が同盟国に囲まれているのでトリエンだけは無事でいられたが、最終的にトリエンだけが生き残ったってのでは何の意味もない。
「一先ず王都デーアヘルトに向かおうと思う。
トリエンに帰還するのはその後だ」
「魔法で向かうのかや?」
「それしかないだろう」
こういう時に転移系魔法は非常に有効な手段になる。
通信系の魔法道具もだ。
通信手段というモノに馴染みのないティエルローゼの人間たちは、その重要性をあまり理解できてないようだが、こと戦時においては戦術魔法部隊一個小隊より、遥かに有意義なモノだ。
戦争において情報は最大の武器になり得るのだ。
「では早速、王城に
俺は仲間たちの了承を待たずに王城の謁見室へと
転移門には、マリス、アモン、ハリス、俺、トリシア、アナベル、フラウロスの順で入っていく。
謁見室に出てみると、初めて
「陛下はどこに?」
近衛兵の一人に声を掛けると、彼は敬礼をして答えた。
「はっ! 現在、陛下の招集に参集した直臣の方々と戦時作戦室にて会議中でございます!」
そんな部屋があったんだな。
俺たちの到着と共に、近衛兵の一人が走り出していったが、先触れか何かだろうか。
「んじゃ、陛下の所まで案内してもらおうかな」
「了解いたしました!」
俺たちは近衛兵に先導されて、城の三階にある部屋へと案内される。
「入れ」
近衛兵がドアをノックすると、中からフンボルト閣下の重苦しい声が聞こえた。
「クサナギ辺境伯閣下とお連れの方をご案内致しました!」
その声を聞くと、国王リカルドが一番奥の豪華な椅子から立ち上がった。
「辺境伯! 来てくれたか!」
「ご無沙汰いたしておりまして、申し訳ありません、陛下」
「何、気にするな。我が国の危機に際し、予の招集に答えてくれた事に感謝する」
「陛下に称号を賜る者として、当然の事です」
俺はリカルドに対して忠義を示すために跪いて見せた。
仲間たちも同様に跪く。
アモンとフラウロスは微妙な顔をしているが、空気を読んで俺に従った。
「して、辺境伯。この国難にどのような協力をして頂けましょうな?」
宰相のフンボルト侯爵は、無駄な社交辞令は必要ないといった感じで、俺に支援内容について聞いてきた。
俺も状況がよく解っていないので何とも言いようがないが、ある程度の戦力的な支援を出さないと駄目だろうね。
「そうですね。まだ状況の説明もして頂いていないので、正確な支援を答えるのも難しいところですが……」
俺はリカルドとフンボルトに二本の指を立てて見せた。
「まず、我が領地に展開中のゴーレム部隊を二〇〇〇体」
俺がそういうと、この部屋にいる他の貴族が「おおっ!」と驚きの声を上げた。
集まっている貴族たちだが、俺の知らない顔ばかりだった。
知っている者といえば、近衛隊長オルドリン子爵閣下とその副官マチスン男爵くらいか。
俺はあまり貴族の社交界にも出ないし、交流があるのは大貴族とか宰相とかばかりだからね。後は下級貴族ばっかりだし。
「オルドリン閣下。今の状況はどうなってるんです?」
ここは、将軍をしていた彼に戦況を聞くのが手っ取り早いだろう。
「クサナギ辺境伯殿の領地の情報は全く入って来ていないが、北部の戦況は混沌としている」
オルドリンが大きなテーブルの上広げられたオーファンラントの地図を指し示す。
地図の上にはチェスのコマに似たモノが置かれており、現在知りうる部隊の展開状況などを示している。
「現在、我が国の戦力は主に、アルバラン、ピッツガルトを中心に展開しております」
「敵部隊の規模は?」
「それなのですが」
オルドリンは渋面を作った。
「具体的な総数は未知数です。そして敵の兵科は……一般市民のようです」
「は?」
「ですから、法国の臣民による総攻撃と言った風情なのです」
シュノンスケール法国は一般市民に武装をさせて送り込んでいるのか?
「一般市民では敵にならないでしょう?」
「ですが、数が尋常ではありません」
報告によると一〇万人規模の群衆部隊がおよそ三つ確認されている。
こちらの戦力は、アルバランが領土防衛隊と衛兵隊を合わせても一二〇〇〇人、ピッツガルトが九〇〇〇人程度。
敵が一〇レベル以下の一般市民がメインだったおかげで、戦力的には何とかなっているという。
もし、この群衆部隊の背後に軍事専門職による部隊が編成されていたら、間違いなく戦線は突破されてしまうだろうとの事だ。
俺は腕を組んで考えてしまう。
冒険者的に考えて、この群衆は殺していい対象なのだろうか?
無理やり戦争に駆り出されている市民だとしたら、保護対象になりはしないか。
「ケント。この場合、条項に違反しはしないぞ。
攻め込まれている以上、敵は一般的な軍人として判断される」
俺が何に思案を巡らせているのかトリシアには解ったのだろう。
「なるほど。俺のいたところの戦時国際法にも似たようなモノがあったよ。
便衣兵は即銃殺されても問題にならないとかなんとか」
要はベトコンに対してアメリカが処した対応そのまんまだね。
ベトナム戦争などで色々問題になったそうだけど、ハーグ陸戦条約とかジュネーブ条約とか色々な戦時規定に照らしても、保護対象にならないんだっけ。
「捕虜は取りましたか?」
「何人かは……ただ、捕まえるまでは鬼人の如き奮戦を見せていたのですが、拘束された瞬間から呆けて何も喋れないような有様だそうです」
何ぞそれ?
トリエンに保護されたウチの工作員もアレだったけど、法国の手の者は常軌を逸している感が否めない。
宗教国家って聞いてるし、国民に何をさせても不思議はない。
俺の予想では、国民を洗脳しているだけではなく、薬などによって意思を薄弱にし、思うままに操っているのではないかと思う。
だとしたら、法国の支配者には許すまじ悪の所業の責任をキッチリと取らせる必要があるだろう。
オーファンラントのみならず、俺の領土にまで攻撃した報いは必ず受けさせる。
ウェスデルフとの戦争の時、オーファンラントはカリオハルト自治領を助けたというのに、恩を仇で返すとは許せん。
仇には報いを与えてやろう。
シュノンスケール法国は、俺の怒りを買った段階で滅ぶべき国家となったのだ。
二度と牙を向けられないようにしなければ。
安全保障とは過剰なほどに行っておくべきだ。
普通の国なら国家破綻しそうな感じだが、俺の財力と魔法技術などがあれば、そこまでの問題にはならない。
なので今回は徹底的にやらせてもらうつもりだ。
他国からしたら驚異だろうが、逆らう方が悪いのだ。
地域の平穏を保つのは圧倒的な軍事力。
覇権主義だって?
ここはティエルローゼ。
こんな事は弱肉強食の世界なら当たり前の事なのだ。
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