第23章 ── 第16話
突然、背中にヤバイ電撃が走った。
サッとウンディーネとノーミーデスを抱え跳躍する。
──ガチンッ!
慌てて振り向けば、長い首が大きな鎌首が巨大なリンドヴルムの頭が俺たちのいた場所にあった。
ダラダラと牙の覗く口から涎が垂れている。
「な、何事!?」
「リンドヴルムが噛み付こうとしたんじゃな」
慌てて聞くと超余裕のマリスの声が聞こえてくる。
「さすがは主様でございます。完全に死角からの攻撃ですら余裕の回避行動です」
いやいやいや。危険感知スキルが無かったら噛みつかれてたよ!
「折角助けてやったのに、何で攻撃してくるんだよ!」
「腹が減っておるからじゃろうか?」
確かに涎がダラダラですな。
「ガルルル! 肉と復讐を果たせる機会を逸したか」
えーと、肉(俺)と復讐(ノーミーデス)?
それぞれ指差し確認。
「なんて恩知らずな……」
「じゃのう」
「全くです」
マリスとアモンはともかく、精霊の皆さんもウンウンと頷く。
ウンディーネの影からノーミーデスもコクコク。
いや、お前は恩というより仇の方だよね?
「俺を肉だと?
二〇〇〇年もノーミーデスに封じられてたから空腹なのは解るが……」
俺の目がギラリと光る。
「トリシア!!」
俺の掛け声に反応し超小型APFSDSが多数飛来する。
結構離れてるしサプレッサーの効果で銃声は殆ど聞こえないが……
「
トリシアがスキル名を囁く声を聞き耳スキルが拾ってきた。
うーむ。俺の聞き耳スキルの性能が良すぎるせいかね。気にしないことにする。
リンドヴルムに振り向くと、超小型APFSDSがリンドヴルムの眉間あたりに集中的に突き刺さっていた。
流石にドラゴンの装甲板並の鱗を完全には貫けなかったか。
それならば……
「戦闘開始だ!」
「待っておったのじゃ!」
マリスが嬉々として突進する。
「アクセル・ステップ! デストラクション・チャージ!」
アダマンチウム製ショート・ソードにスキルが乗ったマリスの攻撃がぶち当たる。
──ガキィィイィィン!!
強烈な金属音が鳴り響き、リンドヴルムの鱗が何枚も弾け飛んだ。
「ははは! マリス殿! いい突撃です!」
アモンも攻撃を開始する。
「それそれそれそれ!!」
──キンキンキンキンキンキン!
アモンの突き攻撃が心地よい金属音と共にリンドヴルムの鱗を一枚ずつ剥がしていく。
それじゃ俺も。
スッとリンドヴルムの真下まで瞬時に移動する。剣の峰の方を使って……
「刀技……
要は鱗取りね。
「ギャアアァァァアァァァ!!」
リンドヴルムが壮絶な悲鳴を上げた。
「ヒイィィイィィ! 綺麗に鱗が剥がされていく! なんと恐ろしい技じゃ!」
マリスが顔面真っ青で震え上がる。
「おらぁ!」
俺は無慈悲にバンバン鱗をこそぎ落とす。
リンドヴルムも逃れようと、必死に巨体を仰け反らせるが逃しはしない。
バリバリと剥がされていく鱗が、地面を敷き詰めていく。
後で回収しようっと。ドラゴンの鱗は色々と使い道があるからね!
「やめてぇええぇぇぇぇ!」
「やめいでか! オラオラオラァ!」
リンドヴルムの懇願など無視だ。
俺に牙を向いた事を後悔しながら素っ裸になるがいい。
漸くリンドヴルムも観念したのか、戦闘行動を開始した。
リンドヴルムには翼も腕もない。長い蛇のような身体に太い脚が一対付いているだけだ。
だが、その身体を鞭のようにしならせ、巨大な頭が俺の方に振り回される。
鞭の先端は音速を越えると言われる。
その先端にはリンドヴルムの巨大な顎だ。
音速で迫る顎と鋭い牙が俺の身体を切り裂きに来た。
「アホか。その程度のスピードで俺を捉えられるわけないだろ」
スイと避ける。
──ゴアァアァァァ!
通り過ぎると思ったその時、何やら紫色のガスがリンドヴルムの口から吐き出され、マトモに食らってしまった。
「うぐっ! ポイズン・ブレスか!?」
防毒マスクを付けているといっても、そのキャパシティを超えてしまっては意味はない。
強烈な刺激臭が俺の鼻孔に入り込んでくる。
致死性の毒ガスを吸い込んでしまった。
いくらマスクとアナベルの
……
…………
………………あれ……?
「……なんともないな?」
確かに刺激臭は半端ないし、体中紫色の粘液みたいなのがこびり付いているが、それだけだ。
んー、毒抵抗判定に成功した?
リンドヴルムには必殺の攻撃だったのだろうか。
ヤツ自身も目をまん丸にして驚いている。
「バ、バカな……俺の毒霧攻撃が効かないだと……!?」
「あー、うん。全く効かないな」
俺はポリポリと頭を掻く。
「じゃあ、こっちのターンでいいのかな?」
リンドヴルムが怯み、後ろに下がった。
「危ないぞ……」
どこからともなく、ハリスの声が聞こえた途端……
──ドカン!
リンドヴルムの足元が突然爆発した。
「忍法……
一発の地雷でリンドヴルムの足の鱗が綺麗に吹き飛ぶ。
リンドヴルムはタタラを踏むようにさらに後方に下がっていく。
──ドガン! ドガガガガン!
ハリスの仕掛けた地雷が連鎖的に爆発していく。
鱗がなくなった足に次々に爆発ダメージが突き刺さり……
リンドヴルムは、ただ蛇のようになってしまった。
「ウガアァァァァ!?」
リンドヴルムがのたうつ度に、さらに地雷が爆発する。
──ドガガガガガン!
ついでに、トリシアが追い打ちの射撃をしているらしく、リンドヴルムの鱗が剥がれた身体にバスバスと穴が空き、リンドヴルムの鮮血が撒き散らされる。
マリスとアモンも現在の状況を見て後ろに下がった。
うっかりハリスの地雷原に巻き込まれたらヤバイもんな。
もう俺の出番は無さそうだな……
「はははは!! いいな! もういいよな!」
目を爛々と輝かせたアナベルがウォーハンマーを振りかぶって頭上から降りて……いや、落ちてきた。
「うらぁああぁぁぁっ! 龍天破城槌!!」
──ドギャバリドーン!
リンドヴルムの脳天に超重量のアダマンチウム製のハンマーヘッドが叩きつけられた。
地面とハンマーヘッドのサンドイッチ。
運の悪い事に、その地面の下にはハリスの地雷が……
戦闘は終わった。
エンシェント・ドラゴンを相手にしたというのに呆気なく。
しかも全くの無傷。
何千年も生きてきたドラゴンだというのに、こんな簡単でいいのか?
ま、その内二〇〇〇年は身動きもできず、かつ、何も食べてなかったようだから、相当なハンデはあったとは思うけど。
うちのメンバー、相当強くなってきたね。
もう、マジで敵がいなさそう。
リンドヴルムは死んだ。
鱗を全て剥がされ……アナベルの脳天トンカチ、そして爆死。
なんとも哀れな死に様でしたな。
「うぉぉぉ! やったぞ! これで我々はドラゴン・スレイヤーだ!」
トリシアが坑道から駆け込んできて、いつものトリシアらしからぬはしゃぎようだ。
「おお、そうじゃな。ドラゴン・スレイヤーじゃ!」
マリス、君は正真正銘ドラゴンなんだけど、スレイヤー付いちゃっていいのか?
まあ、ドラゴン同士で殺り合ってるらしいから、それはそれでいいのか。
「うはは! トドメは私が刺してやったぜ!」
リンドヴルムの死骸の上でビシッとポーズを決めるダイアナ・モードのアナベル。
まあ、確かにそうだけど、ハリスの地雷のお陰もあったと思うよ。
俺はハリスに目をやる。
ハリスも俺の方に顔を向けた。
俺がニヤリと笑うと、ハリスが微笑みながら右手の親指を小さく立てた。
俺も親指を立てて返す。
あれから一年ちょい。ハリスと俺の約束は果たされた。
これで俺たちは名実共にティエルローゼの冒険者のトップに立ったんじゃないか?
まあ、神様は除外しておいてくれ。
人間出身のアースラなんかが出張ってくると困るからね。
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