第23章 ── 第14話
奥に進むにつれ、モンスターとの遭遇が少なくなってきた。
時たま出会うモンスターも、個体レベルが高かったり、種族的に強靭なものだったりになる。
「……っと。これで全滅だな」
突然現れた武装トロールを殲滅し、剣を振ることで刃に付いた血を吹き飛ばす。
「ドラゴンまでどのくらいだ?」
「んー、あと一〇キロ近くあるね。とんでもなく広いな、この鉱山は」
戦闘を挟んでもあと二時間は掛からないと思うが、空気に含まれる毒素はどんどんと濃くなっているため、どんな事故が起こるか判らない状況だ。
大マップ画面で分布図を調べたところ、縦穴付近には敵となりそうなモンスターはあまりいないようだ。
縦穴からドラゴン方向の毒素の影響がはじまるあたりの広い部分に弱めのモンスター、奥に行くごとに順々にレベルが高いモンスターが巣食っている。
ドラゴンから離れていく方向の坑道には、強いモンスターがひしめき合っている感じを受ける。
縦穴を堺に端に行くほど強いわけだ。
ただ、ドラゴンに近い方は生息密度はどんどん低くなる。
遠い方が密度が高い。毒の影響なのは一目瞭然だ。
毒の影響を受けたくないモンスターは反対側に集まり、熾烈な縄張り争いに明け暮れていると思われる。
だからドラゴンから一番離れた奥は強いモンスターが巣食っているんだと思う。
反対に、ドラゴンに近い場所も毒素に抵抗できるほどに強靭なモンスターが巣食っている。
縦穴周辺が一番安全なゾーンになってるのがちょっと可笑しい。
俺たちがドラゴンを倒した後、この坑道最奥をドワーフたちは制圧しなければならないんだから大変だな。
ま、ドラゴン以外のモンスターは、レベル三〇程度までしかいないので、ドワーフたちだけで何とかなるとは思うけどね。
二時間ほど掛けて、ドラゴンがいると思われる地区までやってきた。
この先の通路を右に曲がった大広間にドラゴンがいるはずだ。
曲がり角から、一瞬だけ顔を出して奥を確認する。
大きな広間の真ん中に例の結晶のようなものが大量に生えてる岩が鎮座していた。
結晶は他の場所で見たものより遥かに大きく、一つは人の背丈ほどもあった。
「ドラゴンはどこじゃ?」
俺の腹の下からマリスも覗き見ているが、ドラゴンらしき姿は見えない。
マップで確認すると、やはり広間にいる事になっている。
「あの岩がドラゴンかもしれん。マップ画面には広場の中心にいることになってるし」
「ふむ。岩に擬態できるドラゴンじゃろか……ここから見るだけでは種族がわからぬのう」
俺のマップ画面での検索ですら詳しい情報が解らない得体のしれないドラゴンだ。警戒するに越したことはない。
しかし、最もドラゴンに詳しいマリスにヤツの種族などを判断してもらうには、アレの目の前に出ていくのが一番だ。
でも、世界最強種族で名高いドラゴンの前に、マリスをのこのこ行かせるのも躊躇われる。
既に毒素の濃度は特性マスクの解毒性能いっぱいいっぱいなのだ。
悠長にしている暇もないのが実情だ。
魔法で一気に焼き尽くそうとも考えたが、炎耐性とか持ってたら意味がない。
「トリシア、一番強力な射撃スキルは?」
「前に使っただろ。
ふむ。あの技か。
確かに属性魔法などよりも単純な物理属性攻撃の方が相手に与えるダメージはデカイかもしれない。
それに俺が作った特殊な徹甲弾の威力が上乗せできれば、巨大な破壊力になる。
「よし、トリシア。そのスキルで例の弾丸をヤツにお見舞いしてくれ。
その後、俺とマリス、コラクスで攻撃を開始する」
トリシアが頷き、マリスとコラクスがハイタッチした。
「ケント、私はどうするんだ?」
ダイアナ・モードのアナベルが出番はないのかとソワソワしている。
「前に言ったろ。今回の敵は毒素を撒き散らすんだ。いざという時のために、支援魔法、治癒魔法、解毒魔法などをいつでも唱えられるようにしておいてくれ」
「わかったぜ……本当は一緒に突っ込みたいんだけどな」
俺は首を振る。
「アナベルはチームの要だ。仲間を戦える状態に維持させるのは、アナベルにしかできない。
代わりがいない以上、アナベルが倒れた瞬間に俺たちの負けだと思え」
少々大げさにアナベルに言い聞かせる。
少々不満げながら顔を赤くしたアナベルの肩にトリシアが手を置いた。
「戦闘狂と言われるお前には不満かもしれないが、ケントたちを守ってくれ」
「解ってるよ! トリシアも攻撃を外すなよ!」
プリプリ怒っているようだが、実は照れているようだ。
「ハリス」
「ああ……」
「ハリスは敵の撹乱だ。俺たちに的を絞らせないようにできるか?」
「や、やってみる……」
ハリスの顔は緊張に固まっている。声もいつも以上に硬い。
さすがにドラゴン相手だ。いつものようには行かないと踏んでいるに違いない。
「フラちゃんは……」
「心得ております。魔法による攻撃支援でございましょう」
「そうだが、属性魔法以外に使える魔法は?」
「そうですな。物理、変化、空間属性あたりを織り交ぜましょう」
空間属性魔法使えるんか!? 後で教えてもらいてぇ!
っと、そんな事を考えている暇はないな。
「よし、ではトリシア頼む」
トリシアは超小型APFSDS弾が詰め込まれた弾倉をバトルライフルに装着し、チャージング・ハンドルをゆっくりと引いた。
チャキリと小さい音がして、チャンバーに弾が装填される。
準備完了だ。
トリシアは腹ばいになると、バイポットを開いて角から銃口を広場の中心の岩に向ける。
俺たち三人もいつでも走り出せるように準備した。
アナベルが小さな声で呪文を唱えて
チリチリと空気が張り詰めた。
──ドン!
トリシアのバトルライフルが火を吹き、音速を越えた弾丸が中央の岩に飛来する。
普通なら見えないほどの速さだが、俺の動体視力ではゆっくりと飛んでいるように見えた。
俺は敵に弾丸が到達する前に角から走り出る。
その時だった。中央の岩が身震いをしたのが見えた。
そして弾丸が岩に到達する前に何らかの力場にぶち当たった。
その力場に衝突した弾丸が稲妻のような干渉光を発する。
なん……だと……!?
弾丸に干渉している力場が同心円状の波を周囲に発している。
某巨大ロボットアニメのなんちゃらフィールドっぽいエフェクトだ。
聞いてねぇ! そんなの聞いてねぇぞ!
あのバリアは物理攻撃じゃ太刀打ちできねぇ!
俺は慌てて岩に走り出す。
「トリシア! 射撃中止! あのバリアをどうにかするまで、待機しろ!
俺がバリアを破ったら攻撃再開!」
それだけ言うと、俺は足に力を入れた。
トリシアの弾丸と同じように音速の壁を越えた俺の突進に、マリスとアモンは付いてこれない。
あのバリアに阻まれるだろうから、二人にはまだ出番はない。
俺はヘパさんとマストールが作ってくれたオリハルコン製の剣を構えて矢のように突き進んだ。
「いくぜ……南無三!」
弾丸を防いだ見えないバリアが直ぐそこに近づいてきた。
俺は力任せに剣を突いた。
案の定、バリバリと閃光が煌めく。
予想通りだ……完全物理障壁。
障壁強度は魔法強度レベル一〇に匹敵する。
ドラゴンの鱗なんかより、こいつを何とかしなければ……
コイツはオリハルコンですら破る事はできない。
オリハルコンの剣で瞬速の連撃を決めても干渉光が光るばかりで突破もできない。
反則だろおお!!
心の中で叫んでも問題は解決しない。
俺は必死に打開策を考える。糸口は見えない。
しかし、何かあるはずだ。考えろ!
オリハルコンがダメならアダマンチウム製の愛剣はもっと役に立たない。
魔法は?
物理障壁なら魔法が抜けるんじゃ?
そう思った瞬間、後ろからフラウロスの
しかし、見えない力場に弾き飛ばされた。
干渉光から力場が岩をドーム状に覆っているのが解った。
これは
何人も中には入れない。魔法でもだ。
まさか自分以外にあの魔法を使える者がいるとは思わなかった。
自分以外が使うと反則度合いが良く分かる。
まさにチート魔法だ。
またもや、岩がブルリと震えた。
ゆっくりと頭部がこちらを向いた。
ドラゴン……?
確かにドラゴンっぽいフォルムだった。
岩のひび割れの下に紫色に似た鱗が見え隠れしている。
しかし、身体全体が岩に覆われて動きにくそうにも見える。
ドラゴンの目はどんよりと淀んでおり、半開きの口からは毒々しい色の涎が垂れている。
「グガガガ……」
言葉にならない呻き声をドラゴンが発する。
なんだこいつは……
正常なドラゴンと言っていいのか判らん状態だぞ?
岩に覆われたドラゴンの背中には例の結晶が乱立し、ドラゴンが動くたびに結晶同士がぶつかって割れてバラバラと地面に落ちる。
「グォォオン……」
ドラゴンの呻きが何とか意味をなして俺の耳に届いた。
「助けろ……俺を殺せ……」
俺にはそうに聞こえた。
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