第23章 ── 第12話

 ランドールの王統継承が議会に認められ、戴冠式が一週間後に決まった。

 王統継承者を連れてきた俺たちの功績が、団長議会に非常に高く評価されたのは言うまでもない。


「冒険者たちよ。我がハンマールの未来を輝かしいものにした功績に報いたい。

 何かのぞみはあるかや?」


 団長議会の議長を務めるノーム、ユイロース・ダーロットが胸に手を当てて、俺たちに頭を下げた。


「実は俺たち、地下最奥に入りたいと思っていたんだ」


 俺がそう言うと、ダーロットだけでなく、周囲が騒然とした。


「あの呪われた坑道に足を踏み入れるつもりなのか!」

「信じられんだなや。勇猛を通り越して無謀としかいえん」

「無謀というより阿呆だなや」


 団長たちからは「愚者の戯言」といった意味合いの言葉が口々に発せられた。


「そ、それは認められんだなや。

 地下最奥へと続く縦穴は、数千年の長きに渡り、我ら魔術師団が封印してきた禁忌の地。

 そこへ侵入する事はまかりならぬ」


 俺は一つ頷く。


「鉱床を汚染するドラゴンが住み着いているんだよね?」

「左様」

「そのドラゴンを俺たちが、何とかしてやるよ」


 俺がそういうと、団長たちが呆れたように深い溜息を吐く。


「そんな事ができる人間などおらぬ」


 ダーロットが可哀そうな者を見るような目を俺に向けた時、マリスが噴火した。


「ケントがドラゴンを倒せぬじゃと?

 ケントを舐めるのも大概にしておくのじゃ!!」


 ドス黒いオーラが周囲を染めていく。


 あ、ヤバイ。


「ヤマタノオロチを吹き飛ばすほどのケントへの暴言、万死に値する!」


 バチン、バチンとマリスの鎧のベルトが吹き飛び始めたので、俺は慌ててマリスを抑えに掛かる。


「落ち着け!

 彼らは知らないだけだ! 別に馬鹿にしているわけじゃない!」


 こんな時ほど、トリシアやハリスたちにもマリスを抑えてほしいんだが、大抵俺だけが慌ててる気がする。

 皆を見回すと、マリスだけじゃなく、仲間たちもギリギリとした殺気を発していた。

 トリシアは鋭い視線を周囲に向けているし、ハリスはいつも以上に無表情で懐に手を入れて手裏剣を握っている。

 アナベルは神罰をマリオンに願う祝詞をブツブツ言っている。


 フラウロスやアモンも当然ヤバイ状態だ。

 フラウロスは身体の周囲に見たこともないような紫色の炎が揺らめいているし、アモンなんか顔がモロ悪魔っす!


「てめぇら……いい加減にしろおおぉおぉぉぉ!!」


──ゴンゴンゴンゴンゴンゴン!!!


 俺は些か手加減なしのゲンコツを素早く全員に落とした。


「あだっ!」

「うぉ!」

「……くっ!」

「いたいですう」

「ふごぉ!」

「うっ!」


 仲間たちが全員涙目になり、殺気や怪しいオーラ、炎などが消えた。


「ちょっと言われたくらいで、キレるのはやめろ。俺たちは冒険者だろうが」

「しかしじゃな。チームのリーダーたるケントを馬鹿にされては我らの沽券に関わるではないか!」

「そうだぞ、ケント。これはある意味、教育だ。舐められたままにしては、後々仕事がなくなるぞ」


 俺は一つため息を吐く。


「別に舐めちゃいないだろ。俺たちのレベルを知らないから言っただけだ。

 俺たちは冒険者だろ。

 何のために皆、能力石ステータス・ストーンを持っているんだよ」


 俺がそういうと、仲間たちはハッと気づいたように顔を上げた。


「あ」

「忘れていた」

「確かにそうでしたー」

「……冷静さを……欠いてしまった……ようだ……」


 全く……

 まあ、最近は名乗るだけで事は足りていたからな。気持ちは解らんでもないが。


「西側に来てから、結構経つから忘れてたんだろうけど、自分たちの能力をクライアントに示せるのが能力石ステータス・ストーンの役割りだろう。

 ドラゴンを倒せるかどうか、彼らに見せて吟味してもらおうじゃないか」


 仲間たちは頷いた。魔族たち以外は。


「我が主よ。能力石ステータス・ストーンとはなんぞや?」

「私も存外知りませんが」


 ああ、魔族連は能力石ステータス・ストーンを知らないのか。

 人間世界に関わりが薄いと知らない可能性は高いな。


能力石ステータス・ストーンってのはこれだ。大きめの神殿で売っている魔法道具だよ」


 俺はインベントリ・バッグから能力石ステータス・ストーンを取り出して二人に見せる。


「ほほう。して、これはどんな効果が?」

「自分の能力を数値などで見ることができるんだ」


 俺は自分のステータスを表示して二人に見せる。


「主様の能力がこれですか。凄いですね」


 アモンは俺がステータスの表示されたウィンドウを見せると、感心したように覗き込む。


「お前らも後で買っておくといいよ」

「そうします」


 さてと、これを団長たちに見せて……ん?


 周囲に目を向けると、団長たちの半分が気絶していた。

 マストールとランドールも抱き合って涙目でこっちを見てた。


 あ、仲間たちの威圧やらオーラやら殺気やらでやられちゃったか。

 仲間たちのレベルは既に亜神クラスだからなぁ……


「まあ、いいか。

 さてさて、これを見てくれ。

 これだけのレベルなら地下最奥に向かっても問題ないんじゃないかな?」


 気分も意識も切り替えて、能力石ステータス・ストーンで表示されたステータス画面を見せようとする。


 俺が一歩踏み出すと、ダーロットが一歩さがる。

 二歩進むと、二歩下がる。


「ハリス!」

「承知……」


 ハリスの分身が影に消え、ダーロットの後ろに出現する。


「な! わ! うぉ!」


 ハリスの分身は、あっという間にダーロットを拘束し、俺の前まで彼を連れてきた。


 らくちん。


 ダーロットにステータスを見せる。

 さすがにその数値に驚きを隠せないようだ。


「次!」


 いつのまにか、ハリスの分身たちによって団長連が一列に整列させられており、順番にステータスを見るよう、強制的に並ばされている。


 さすがハリスです。ソツがない。


 次々に俺たちのステータスを確認させられた団長たち。

 すでに逆らう気力もないようです。


「はい。これで最後ね」


 最後の団長が俺たちのステータスを確認し、ひな壇へと戻っていった。


「で、どうかな?

 これだけの戦力ならドラゴンともやり合えると思うけど?」


 ダーロットはコクコクと頷き、他の団長も無言ながら同意している。


 議会での用事も済み、俺らとマストールは退出する事に。

 団長とランドールは、まだ何か話し合うらしく玉座の間に残るようだ。


「ケント……いや、トリシアもじゃが、肝が冷えたぞ」


 マストールは少々ご機嫌斜めだが、怒っているというほどではない。


「すまんな。最近、仲間たちは気が短くてなぁ」

「バカシアは、いつもどおりじゃよ。それにしても、お前ら、一体何をしたらあれほどになれるんじゃ?」


 東側最強の盾であった彼が、以前会った頃の仲間たちからは想像もできないと首を振る。


「まあ、色々だよ。俺自身は元からレベルは高かったんだ」

「ふむ……パワーレベリングというヤツじゃな。英雄神が神々の底上げに使った秘技として伝わっておる」


 アースラさん、そんな事してたんすか……初耳ですよ。


 しかし、アースラならやりかねないとも思う俺がいる。


 もしかしたらアースラ、俺や仲間たちの訓練の時みたいに神々も追い込んでたんじゃないだろうか。

 神々には、ご愁傷さまと一言伝えたいですな。

 ま、四万年も前の話なので、今更だが。



 宿に戻った俺たちは、まずマストールをトリエンに送り出してから、早速地下探索のための準備に取り掛かる。


 仲間たちは必要なモノの買い出しや装備の準備や補修などをやってもらう。


 俺は仲間たちの武器メンテとトリシアの銃の弾丸の作成だ。


 今回の探索ではドラゴンとの戦いは確実にあるはずだ。

 なので徹甲弾的な何かを作ろうと思っている。

 ただのフルメタル・ジャケットでは、鱗すら貫けないからな。


 弾丸自体に何らかの魔力付与をしてみよう。


 俺はオタク知識の中から現実世界で使われている軍事技術についての知識を引っ張り出す。


 バンカーバスター。

 爆弾だし、小型化は難しいか。ボツ。


 航空機系やミサイル系はダメだな。となると戦車砲弾かね。


 徹甲弾系だと、高速徹甲弾(HVAP)、装弾筒付徹甲弾(APDS)、装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)あたりだな。


 この際だし、一番手が込みそうな超小型APFSDSの開発に取り掛かる。


 部品を一つずつ削り出していく。

 弾丸の重量が重い方が威力は上がるので、アダマンチウム製弾丸だ。形的にはフレシェット弾に似てるな。


 しかし、こういう部品を作る際には旋盤機が欲しくなる。

 後で開発してみようか。


 銃は便利だけど、弾丸の安定供給を考えないといけないから、面倒な兵器ですな。

 トリシアに別の武器を作った方が早そうな気もするよ。

 まあ、この銃以外に同系武器を作らないように心掛けるとしよう。


 銃のメンテと弾丸の補充が、こんなにネックになるとは思わなかった。


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