第23章 ── 第11話
俺は素体に魔法付与を行い、ランドールのゴーレムに生命を吹き込んでやった。
今回は俺のゴーレムという訳ではないので、バックドアの設置は控えておく。
「っと、こんなもんかな」
「おお、動きよる!」
ドスンドスンとゴーレムは歩き、ランドールの前で跪く。
「ヴヴ……」
球体関節ゴーレムだけに、人間とほぼ同じ動きができるようだ。
なかなか凄いね。
ステータスを調べてみると、ストーン・ゴーレムだけにレベル二二と低めなのだが、防御力は通常のストーン・ゴーレムの四割り増しだ。
人間とほぼ同じだけの関節を持つので、武器、防具などを装備可能。魔法攻撃も殆ど効かない。
支援があれば通常の戦闘では三〇レベルあたりの敵まで相手できそう。
やっぱ、ゴーレムって優秀だよな。
多額の金と大量のMPが必要なのが欠点だけど。
出来上がったゴーレムにランドールは満足そうだ。
「使徒さま、ありがとう! ワシの専属護衛にするつもりじゃ!」
つか、今まで一人で旅してきたランドールに必要なのだろうか?
彼、
翌日の朝、ランドールと仲間を連れてハンマールの玉座の間へと戻る。
俺たちが戻った時、玉座の間には衛兵のみが残っており、仲間も団長たちもいなかった。
「冒険者殿! お戻りになられたか!」
衛兵にやっと戻ってきたと安堵されてしまった……
「申し訳ない。王様候補を連れてきたんで許してくれ」
俺がそう言うと、衛兵はランドールに視線を移してから跪いた。
「お初にお目にかかります。城の防衛を担当しております、衛兵のクァールです。お見知りおきを」
「そりゃ、ご苦労ですな。ランドール・ファートリンと申す」
「ファートリン?」
衛兵のクァールは少し怪訝な顔をした。
ま、「落ちたる人」なんて意味の名前を名乗ってるしな。
ハンマーを名乗ればいいのにね。
衛兵に連れられ、食堂に通される。
まだ朝飯時なので、朝食をご馳走してもらえるらしい。
食堂に入ると、ガツガツと料理を食べる仲間たちが目に入った。
「おかえりなさーい」
ブンブンと手を振るアナベル。両手に骨付き肉を持ってるのが気になる。
「行儀悪いぞ」
注意すると、テヘペロ笑いをして椅子に座った。
アモンとフラウロスは食事をやめて俺の所まで来て跪く。
「おかえりなさいませ、主様」
「おかえりをお待ちしており申した」
「へいへい。変わりはなかったかな?」
「何の問題もありません」
ハリスはランドールを見て驚いていた。
「ランドールの……爺さん……?」
その囁きにランドールがハリスを見つめた。
「誰じゃ?」
「ハリス……クリンガムだ……」
「む? クリンガム? クリンガム家の坊主か! でかくなったのう!」
「二一年……ぶり……だからな……」
やっぱり、例の話に出てきたのはハリスでしたか。そうじゃないかと思っていたよ。
「ケント……爺さんが……王様候補なのか……?」
「ああ、そうだ。ランドールさんは、れっきとしたハンマー氏族の男だぞ?」
朝食にマストールは顔を出していなかった。
どうも、継承権第一位は待遇が違うようで、別室で食事しているようだ。
朝食後、一時間ほど休憩の時間があったので、仲間たちとの情報共有を行っておく。
一時間後、団長たちが全て集まった旨が知らされたので、仲間たちと共にランドールを連れて玉座の間へと向かった。
ランドールは流石に緊張しているようで、同じ方の手と足が同時に出ていたりする。
ランドールさん、ベタ過ぎです。
「冒険者の方々が参りました!」
玉座の間の入り口に配置された衛兵が中に声を掛けつつ、扉を開いてくれる。
俺は広間に入ると演壇のあたりまで進んだ。
「お待たせして申し訳ない。王様候補を連れてきた」
俺の後ろからランドールが姿を表すと、マストールの目が光る。
マストールは玉座から素早く立ち上がる。
「おお! ランドール! お前が来てくれたのか!」
マストールの顔は明らかに喜色に染まっている。
ランドール自身は、マストールを一瞥しただけで視線をそらした。
「別に、お主の為に来た訳じゃないぞい」
「相変わらずツンツンしておるのう……」
長い間、顔を合わせていなかった
「マストール、そう言うなよ。お前がワガママを言った所為でランドールさんは、ここに来ることになったんだぞ。これは貸しだからな」
「すまんな、ケント」
俺はマストールの謝罪を無言で頷くことで受けておく。
例のローブ姿のノーム、宮廷魔術師団長が演壇に上がり、大声を張り上げた。
「それでは、先日の団長議会の続きだなや!」
パチパチと疎らな拍手がひな壇から響いてくる。
俺が転移してから、何かあったのかな。団長たちに疲れが見える気がする。
「えー、王様に相応しい人物を連れてきたよ。彼はランドール。マストールと腕を競い合ったハンマー氏族のドワーフだ」
俺はランドールの背中を押して、演壇の前に立たせた。
「ラ、ランドールじゃ! ケントの要請でここに参った!」
周囲の団長がジッとランドールを凝視する。
「ふむ、マストール様に良く似ておるなや」
「ランドール様の方が年上のようだなや」
「ランドール様の後ろにいる石人形はなんだや?」
マストールが玉座の上から降りてきて、ランドールの隣までやってくる。
「ランドール、申し訳ない。ただ嫡子というだけで、お主の望みを潰してしまった事がワシにはずっと心に引っかかっておった」
「そのような些末な事はいい。今のワシには何の価値もない」
ランドールは右腕の袖をまくり、グッと右の拳を握り込んで突き出した。
マストールも同じようにして、ランドールの拳に自分の拳を当てた。
「ワシが王になってやる。今後、ハンマールの隆盛に驚くなかれじゃ」
「ワシも負けぬ。後世、トリエン、ファルエンケール連合の技術革新を刮目してみよ」
二人がニヤリと笑う。
「ところで、ランドール様。そちらの石人形は何でしょうか?」
議長である宮廷魔術師団長のノームが興味深げに声をかけてきた。
「これか? これはワシが作ったストーン・ゴーレムじゃよ。製造工程に工夫を施し、通常のゴーレム素体よりも頑丈な構造を考案した」
「おお、少々見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「ワシの身辺護衛ゴーレムじゃ、壊すなよ」
ノームは鑑定の魔法などを使って、どんな魔法が付与されているのか調べ始める。
「す、素晴らしい魔法付与技術……これは一体……」
「ケントが付与してくれたのでな。昨日まではただの素体であったのじゃが、今はちゃんとしたゴーレムじゃぞ」
興味をそそられたのか他の団長たちも、ひな壇から降りてきてストーン・ゴーレムを取り囲み始めた。
「ヴヴ……?」
ゴーレムは少し戸惑うような仕草をするも、ランドールに危害が加えられそうにないと判断したのか、その場から動かない。
「これは人間を模して作られておりますな。芯となる部分、外装となる部分で素材をかえておられる」
石工団長がコンコンとストーン・ゴーレムを拳で叩きながら素材を識別した。
そんな事で鑑定できるんだ……俺は石工スキルは持ってないので、非常に興味深い。
マストールも人間大の小さめのストーン・ゴーレムを検分する。
「この構造体は関節じゃな。強度が下がりそうじゃが」
「関節には花崗岩を使っておる。ただの岩ではないのじゃ。花崗岩の成分を調べ、一番硬いモノを使用しておる」
「ふむむ。ケントのゴーレムとは、また別の設計構造じゃなぁ。さすがはランドールじゃ。ワシの見込んだ男だけはあるのう」
ランドールは嬉しそうなんだが、眉間のシワを深めた。
「上から目線じゃな。鍛冶スキルでは負けておるかもしれんが、石工スキルでは負けんぞい。木工スキルも彫刻スキルもな!」
「むむ。確かに鍛冶スキルは負ける気はせんが……他のスキルは勝つ気がせんのう……」
「フハハハ、精進せい。その内、鍛冶スキルもぶち抜いてやるわい」
「む。ワシも負けぬぞ!」
中々、ほのぼのする光景じゃないか。
しばらく、ストーン・ゴーレムで盛り上がっていたが、団長たちも漸く落ち着いたところで、議長のノームが声を上げた。
「諸君! ランドール様を新しき王と認めるか!?」
その途端、ひな壇の団長たちが、足踏みを始める。
ドンドンと大きな音を立てて踏み鳴らされる足踏みが、綺麗に揃い始める。
かなり広い広間なのだが、部屋全体が揺れているような錯覚を受ける。
「「「ヴィア・フェアザメル・ウス・ウンテル・デ・ノイ・コーニズ! ヴィア・ネン・ウンテル・デ・ノイ・コーニズ!」」」
団長たちが声を揃えて叫んだ。
ドワーフ語だな。微妙にドイツ語に似ている気がするなぁ。
ちなみに「新しき王の下に我ら参集せし! 新たな王の下に我ら跪かん!」という意味だ。
当たり前のようにドワーフ語が理解できてしまっている不思議現象に、俺はもう驚きもしませんよ。動物の言葉も解るようになってるしね。
「新たなる王の誕生だなや! ランドール王陛下万歳!」
「「「ランドール王陛下万歳! ハンマール王国に
団長たちの大合唱が広間に響き渡る。
それと共に、城の上の方から大きな鐘の音がハンマールの都市全体に鳴り響いた。
轟音にも似た音──いや、ハンマール国民の大歓声だろう──が、地底都市を揺るがせている。
よし! これで、ドワーフの国、ハンマール王国に新たな王を就ける事に成功した。
ここからは俺のターン!
既に、地下探索についての許可も取り付けてある。
後は地下最奥でドラゴンを探し出し、問題を解決するだけだ!
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