第23章 ── 第8話

 息子たちへの意見を聞くために、マストールを連れてファルエンケールに行こうとしたら、団長議会に頑なに拒否された。


 また王が戻ってこなくなる事を危惧しての事なのだが、王族の信頼度マジ低いのな。


 仕方ないので、俺とファルエンケールの元重鎮トリシアを連れて行くことに。それとマリスが付いて来たそうにしていたので、彼女も連れて行く。


 素敵忍者には逃げ出すかもしれないマストールの監視を頼んでおいた。

 アナベルは暇過ぎてアモンと組み手を始めてしまったので、同行の意思を聞く機会もなかった。

 フラウロスはアナベルのお気に入りなので、アナベルの護衛役に。

 てな訳でハリス、アナベル、フラウロス、アモンはお留守番だ。


 ファルエンケールの西門の外に魔法門マジック・ゲートを開いて転移すると、西門の警備兵が目が武器を構えて目を丸くしていた。


「おつかれさん」


 ニコやかに片手を上げて挨拶する。


「こ、これは! ワイバーンスレイヤー様!? 団長閣下まで!?」


 毎度、トリシアは団長と呼ばれるね。「元」なんだけど。


「我は歓迎されないのかや……少々寂しいのう」


 マリスが地面にある小石を蹴ってスネた。エルフの警備兵が慌てたようにマリスにフォローを入れた。


「て、鉄壁少女もご一緒で!」

「うむ!」


 マリスに輝く笑顔が戻ってくる。


 二つ名が「鉄壁少女」か。まあ、たしかに鉄壁だが……俺としては微妙な二つ名な気がしないまでもない。

 マリスは喜んでいるみたいだから、別にいいか。


 マリスは、門に急遽併設された木造の警備詰め所に連れて行かれた。


 トリシアはファルエンケールの人間だし、俺は名誉市民の称号を持ってるので街に入るのには何の問題もない。

 しかし、マリスは俺たちの同行者だが、一応身分証明手続きが必要なのだという。


 マリスが手続きを終えるまでに、エルフの警備兵に色々と話を聞いた。


 ファルエンケールの存在が公になった為、商人や冒険者などの来訪者が増え、治安維持の為に警備が強化されたんだとさ。


 トリエンも急激に人口や人々の流れが増え、一時期治安の悪化が問題となったからなぁ。

 ミスリルの産地であるファルエンケールも例外じゃないだろうね。


 こういった友好国の治安問題の為にも、望む国にゴーレム兵の小規模輸出を始めても良いかもしれない。

 その辺り、国王陛下と宰相閣下に相談してみよう。


 マリスは五分も掛からずに戻ってきた。


 従来の訪問者だと、普通なら都市への紹介状、身分証明ができる物(書類や物品)の提出、手荷物検査、身体検査などの手続きが必要になる為、一五分ほど掛かるところだが、マリスの場合は冒険者ギルド、トリエン支部の冒険者カードだけでいいらしい。


 なによりガーディアン・オブ・オーダーのメンバーだという事が身分証明に有利に働いていると警備兵は言う。


 他に聞いた話では、ファルエンケール内に冒険者ギルドの支部が創設されたという。

 トリシアには遠く及ばないものの、エルフの冒険者としてオーファンラントで比較的有名な者がギルドマスターに就任したらしい。

 冒険者時代の最終ランクはミスリルだそうだ。サブリナ女史と同じなら問題はないだろう。


 魔法金属のランクまで行く冒険者が相当に稀な存在なのは、俺の経験からは理解できない部分だが、トリシア曰く一〇〇〇人に一人くらいの割合らしい。

 トリエン地方における高位冒険者が皆無だった理由がよく分かります。


 田舎なのでランクが上がるような重大な問題は起こりづらいし、起こったとしても解決できるほどの高レベル冒険者は少ない。


 ウスラ率いるブロンズ冒険者が中堅と言われる地方だったからねぇ。

 最高ランクのカッパー冒険者は、あの狩人冒険者の爺さんしか居なかったし。


 カッパー程度まで上がると、大抵は引退して別の仕事を始めてしまうらしいからな。

 前領主に雇われていたクリスの護衛ドレンも元カッパー冒険者だったっけ。



 ファルエンケールの街に入り、ドワーフの多い区画へ向けて大通りを進む。


 確かに妖精族以外の人間種をちらほらと見かけるね。

 人族が殆どだが、獣人族も少々いるようだ。


 それらの人類種は、商人が殆どだと見受けられる。

 大きな荷物を背負っているのは行商人だろうし、そうでないものは冒険者風の護衛を連れていたりする。


 こうやって見ると俺が来た頃とは違う印象を受けるね。


 まず、トリシアに案内してもらってマストールの第二工房へと連れて行ってもらう。

 そこがマストールの長男、ルクソール・ハンマーが運営する工房だ。


 第二工房に到着して、俺は目を見張る。第二工房はマストールが詰めていた第一工房よりも大きかった。

 ハンマー氏族の者が大半を占める工房だというが、二〇〇人くらいが作業に従事しているんじゃないだろうか。

 中にはスプリガンもノームも見受けられるし、ファルエンケールの工業を一手に担っているに違いない。


 作業している小人たちを眺めていて判ったが、基本的にミスリルのインゴットとそれらを利用して作る武具がメインの生産物のようだ。


 外界へ輸出するとしたら、相当な金が動きそうな物量だな、こりゃ。


 外界のミスリル製品の物流は、前に聞いた時には殆どないって話だったはずなのだが。


 ここまで大量に作られているという事は、外部との貿易が活発化している事の証左だろう。


 しかし、ただのミスリル製品では、魔法付与されていないので、少々丈夫で錆びにくい程度の物品でしかない。

 ミスリル製品は魔法付与、いわゆる魔化作業を施してからが真価を発揮するんだけどな。


 今のままではトリエンの俺の工房の競争相手にはなり得ないので少し安心する。


 永遠化パーマネント技術がなければ無理だからなぁ。

 永遠化パーマネントは、確認できているだけでも俺、トリシア、エマ、ソフィアさんしかモノにしていないセンテンスなので、何の問題ない。


 フラウロス、アモン、アラクネイアたち魔族連からの情報によれば、魔族の中にも魔化技術を持った者が一人いるようだが、それ以外は皆無だ。


 アーネンエルベ魔導文明時代の異物アーティファクトであるPCサーバの情報データは削除しておいたので、拡散する心配もないしね。


「で、マストールの息子というのはどこにおるのじゃ?」

「どこだろうね? マストールみたいに地下工房に籠もってたり?」

「私も知らん。こっちの工房に来る事は少なかったからな」


 トリシアが知らないとなるとお手上げです。


 俺たちがキョロキョロしていると、ドワーフの一人が不審そうな目でやってきた。


「ウチの工房に何か御用ですかい?」


 ドワーフはジロジロと俺とマリスを見る。トリシアはエルフなので、それほど不審そうには見られていないようだ。


「別に怪しいものじゃないよ。マストールの息子さんに会いたいんだ」


 俺はそう言ったのだが、このドワーフの耳には入ってないようだ。

 あちこち動き回りながら、俺たちが装備している武器や防具に目を奪われていた。


「むむ。この大盾の意匠は……こっちの杖は見たこと無い形を……」


 などと、ブツブツ言いながらじっくりと見ている。


「なんじゃ!? 我らの武具に興味があるのかや!?」


 マリスが余りの居心地の悪さに、ドワーフの視線から隠れようと俺を盾にしはじめた。


 守護騎士ガーディアン・ナイトが護衛対象を盾にするなよ。


 仕方ないので、マリスの盾になりながら、ドワーフの視線からマリスたちを守るように立ち回る。


「武具を見たいのは判ったから、質問に答えてくれ。マストール・ハンマーの身内の居場所を知らないか?」


 少し大きめの声でドワーフに告げると、ドワーフはやっとこちらに目を向けた。


「親父が何だって? 親父は今、トリエンって街に行ってるよ!」


 負けじとドワーフは大声で答えてきた。


「ほう。君がマストールの息子かな? 長男のルクソール?」

「ルクソール? 俺はランデールだ。三男だよ」


 ルクソールを筆頭にフェルダール、ランデール、ヴィントール、ネクタールという息子たちがいるという。


「君がマストールの息子なら、話は早い。その五人を至急集めてほしいんだ」

「へ? 何で?」


 何でって言われてもね。君たちの親父さんが駄々こねてるせいだよとは言えないな。


「マストールの行く末について、至急息子である君たちに話があるんだ」


 怪訝そうな顔をするランデールにそう言うと、少し焦った顔になる。


「親父に何かあったのか!? よしきた。すぐに集めよう!」


 ランデールは工房内に走っていった。


 少し待つと、三人のドワーフを連れて戻ってくる。


「よし、親父の工房に行くぞ。付いてこい!」


 ランデールは俺たちにそう言うと走っていく。


 親父に似て、息子たちも足が早いな。ドワーフって殆どが鈍足だと思ってたけど、血筋なのかね?


「競争なのじゃ!」


 ドワーフの様子を見て、マリスが対抗心を燃やてしまう。

 高レベルのステータスを活かし「ドヒュン!」って効果音が響きそうな俊足でドワーフたちを追っていく。


「やれやれ。まだまだ子供だな」


 トリシアが肩を竦める。


 そういうトリシアさんも結構悪ガキっぽい所ありますけど。


「ま、そこがマリスの可愛いところかもね」

「ケントは子供っぽい方が好みなのか?」


 何故がトリシアが変な所に食いついた。


「いや、子供っぽくも大人っぽくも関係ないけど」

「はっきりしないヤツだな」


 トリシアは俺の回答に不満なようで、少し頬を膨らませる。

 トリシアのそういう表情は珍しいので、ついじっくりと見つめてしまう。


「む。何だ? 私の顔に何か付いているか?」


 トリシアは顔を撫で回す。


「いや、別に何も。ほっぺを膨らませたトリシアは珍しいので、脳内フォルダに映像を保存してただけだ」

「脳内フォルダ? どういうスキルだ? 映像を保存? 何か新しい魔法道具を作ったのか?」


 まあ、そういうのは気にすんな。


 俺は無言でニヤリと笑い第一工房へと歩き出す。


 トリシアはしつこく俺に纏わりついて吐かせようとするが、ニヤリ顔でスルーしておこう。


 フォルダの内容開示請求されたら困るからな!

 半分以上がアナベルさんのラッキースケベ映像などとバレたら困るからね!

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