第23章 ── 第5話
ダレルの事は置いておこう。
さて、現在、ハンマール王国の運営は、スプリガンの宮廷魔術師団長を筆頭として、貴族団長、職人団長、鉱夫団長、住民団長、各種族兵団長などによって運営されているらしい。
◯◯団長ってのが役職のトップらしい。
この、◯◯団というのは、大まかに分けた職業による寄り合いで、一番年上の者、力の最も強い者、技術が一番の者など、他者よりも秀でているものが団長になる。
よって、鍛冶屋の長老は、職人団長だったらしい。
実は偉い人パターン、キタコレ。
「さて。ここ、ドワーフの王国で俺がやりたい事だが……」
「ふむ。何の目的もなくドワーフの国に入り込むなどないと思っていたが、やはり何かあるんだな?」
お察しの通りですトリシアさん。
「ああ、俺の目標は魔法鉱石だ」
「そんな事を言っておったのう。じゃが、アダマンチウムならトリエンにマストールが持ってきておるじゃろ?」
「いや、それじゃない。俺の目的は精霊が作ったとかいう魔法鉱石だ!」
俺はニヤリと笑いつつ宣言する。
「やはりオリハルコンなんです~?」
アナベルが顎に指を添えつつ首を傾ける。
「いや、トリシアが言ってた通り、多分違う。俺の予測では、精霊力が宿った魔法金属の鉱石じゃないかと思う」
「精霊力……だと……?」
ハリスに俺は頷いてみせる。
「例えば、水や氷の属性が付いた鉱石とかな」
「それが何の役に立つのじゃ?」
「冷蔵庫のコア部品に使えそうだ。もちろん武器に氷の属性が付いてたら、サラマンダーとか火属性の魔物は一撃だろう」
「なるほどなのです! 魔法を唱えずに付与魔法が掛かっている感じですね!」
アナベルも理解したようだ。
「ああ。火とか水とか風とか。そういう属性が最初から付与されている金属なら、色々な用法がありそうだ。みんなの武具のアップグレードにも役に立ちそうだ」
トリシアも力強く頷いた。
「チームの総合力アップに良さそうだな。我々も参加しよう」
「我もじゃ!」
「私もです~!」
「俺も……」
「我が主の行く所、どこまでもお供する所存」
「私も同行致します」
仲間全員の了承を得られたので、俺の個人的な物欲を満たす事が目的となった。
「ただ、問題が一つ」
俺が指を一本立てると、みんなの目が集中する。
「どんな問題だ?」
「大マップ画面でみると、坑道の奥に行くには、今は使われていない縦穴を降りなければならないんだが……」
「
「いや……その縦穴に封印魔術が掛けられているようだ」
そう。ドラゴンが封じられている坑道は、都市の地下にあるのだ。
厚さ五〇〇メートルの分厚い岩盤が、最奥の坑道と俺達を阻んでいる。
「封印を解けばいいのではないです?」
「そうだが、あれだけの封印だし、維持の為に
それと封印区を守るために兵士が二〇人以上、配置されている」
俺がマップ画面を観察して知った情報を皆に教える。
「ふむ。そこを強引に強行突破するようなマネはできんな」
「トリシアの言う通り。どうにかこの国の運営筋に話をつける必要がある」
「交渉ってやつですね!」
その交渉ってやつが面倒なんだよなぁ。
二〇〇〇年も守られてきた封印だ。解除してくれと言っても、「うん、いいよ」とはならんだろう。
「確かに……厄介だな……」
魔法で封印されている以上、ハリスの隠密でも侵入は不可能だろう。
「こっそり解除して侵入もできない」
封印が解かれたら、封印を維持していた
「別の所に穴を掘ったらよいじゃろ」
「最奥の坑道までは五〇〇メートルの岩盤が守っている。五〇〇メートル掘るのは時間の問題で現実的じゃないし、掘ってる最中に発見されるだろうね」
「魔法はどうだ? 以前、帝国兵を埋める為に魔法で穴を掘っていただろう?」
ん? 帝国と戦ったあそこで使った魔法か。
「
多分、今の俺が使ったら、レベル九〇以下の生物は即死だと思う。
「そんな凶悪なモノじゃったのか……」
さすがのマリスも口をあんぐりと開けてしまう。
「ただ穴を作るだけの魔法なんて俺は知らないよ。トリシアは知ってるか?」
「いや、私も知らん。私は水、土、風、光、理力属性しか習得しておらんからな」
ふむ。俺は火、水、土、木、金、風、雷、光、闇、生命、精神、物理、魔術、理力、空間、時間の属性は覚えている。触媒魔法もある。
だが、土属性魔法スキルはレベルが低すぎる。
単純に穴を開けるだけの術式は構築できると思うが、深さ五メートルの穴が掘れるかどうかだろう。
MPも回復ポーションも大量にあるから、行くことはできると思うが……
それに、これを実行して最下層に行くというプランには欠点がある。
「行くのはいいが……帰ってきた時が問題だな」
「どういう事だ?」
「作った穴は、すぐに消えるぞ? 帰りは封印された縦穴を通らざるをえない。
その時、封印を解いた場合、この国と戦争になるぞ?」
俺がそう言うとトリシアが目を伏せた。
俺たちはオリハルコンの冒険者なのだ。人々を助ける事が仕事だ。
どこの国であれ、国家が運営する施設などへ攻撃と判断されるような行動は控えなければならない。
その行動が民を助けるなどの理由なら別だが、今回は私利私欲の行動だ。
「では、どうするのです?」
「幸い今回知りあった鍛冶屋の長老が、国家運営の重鎮らしい」
俺がそういうと、トリシアが伏せていた目を上げた。
「ふむ。あの爺さん。結構偉いヤツだったのか」
「うん。そういう事。なので、あの爺さんに協力してもらうかと思っている」
「善は急げじゃな。今から行くのじゃ」
「いや、祭に疲れて街中が寝静まっているよ。明日の朝にしよう」
地下だと時間感覚が無くなって困るよね。今は夜中の四時半です。
「俺たちも一眠りしてからにしよう」
「了解だ。みんな布団に潜り込め!」
トリシアは立ち上がると命令するようにビシッとベッドを指差すポーズをとる。
パッと見はカッコいいけど、単に布団に入るように指示しているだけなのが残念なところ。
戦場でなら、凄いカッコいいポーズなのにな。
次の日の朝、俺たちは激しいノックの音で目を覚ます事になった。
──ドンドンドン!!
扉が叩き破られるような激しいノックに、仲間たち全員が武器に手をやる始末だ。
しかし、外でノックをしているのは、宿屋の主人であるドワーフだ。
筋肉だるま過ぎて、力の加減が出来てないと思われる。
「お客さ~ん。寝てるんですかい?」
激しいノックの音にかき消されそうな声を俺の聞き耳スキルが拾っている。
「みんな、慌てるな。あれは宿屋の主人だ」
俺はベッドから降りて扉に近づく。仲間たちは武器にやった手を戻した。
「こんな朝はやくから何の用だ?」
俺は扉を開けて、宿の主に声を掛けた。
「おはようございます、お客さん。団長議会から手紙が来てますよ」
「手紙だって?」
宿屋の主人から蝋で封印された羊皮紙を手渡さる。
「どうも」
「そんじゃ私はこれで」
用事が終わると主人はとっとと廊下を戻っていった。
「何じゃ? 手紙かや?」
「団長議会とか言ってたな」
団長議会とは、例の各団長が集まって国家運営の方針などを話し合うための議会組織だ。日本で言えば国会に相当するだろう。
「国の最高機関から手紙か。ケント、お前何かしたのか?」
「いや、なんにも。長老と知り合ったくらいだぞ?」
俺に思い当たることは何もないが。
「強いて言えば、剣を一振り作ったくらいだな」
俺がそういうとトリシアがヤレヤレと肩を竦めた。
「ソレの所為だろう」
「何でだよ」
「お前の鍛冶の腕はマストールと同等なんだぞ? ヘパーエスト神にすら師事を受けたと聞いている。
そんな男が打った剣を職人の長老などに見せたら、大騒ぎになるのは当たり前だ」
確かに、そうか。
長老も「凄い凄い」と連発してたしなぁ……
ちょっと不用意だったかもしれん。
でも俺、物作りが大好きなんだよなぁ。現実世界でもプラモとかよく作ってたし。
ま、鍛冶の腕を見込まれて何か作れとかいう話かもしれんし、それはそれでいいか。
俺は手紙の封を切って広げて読んで見る。
なになに? 今日の午後一番に団長議会に顔出すようにだと?
手紙にはそんな内容が懇切丁寧な西方語で書かれていた。
ただの冒険者に出した命令書にしては丁寧な所に好感が持てる。
人数は書かれていないから、俺だけなのだろうか?
ま、仲間を連れて行っても文句は言われなさそうだけど。
「よし、午後一で、その団長議会とやらに顔を出してみよう」
「我も行って良いのかや?」
マリスが俺の腰に抱きついてくる。
「ああ、全員で行こうと思う」
「ふむ。私たちがチームで訪問している事を先に見せ付けておくわけだな」
トリシアが腕を組んでニヤリと笑った。
別に戦闘前の示威行為で行くわけじゃないんだが。どうもトリシアは、そういう意味で言ってる気がするんだよな。
「ドワーフの元老院ですね! 何だか面白そうです!」
「そうだな。帝国なら元老院にあたる組織だろう。アナベル、失礼のないようにな」
アナベルは天然なので注意したところで意味はないけど、一応ね。
ハリスも無言で頷いている。
「では、我らも」
「主様、お供致します」
魔族二人もそう言って笑う。
この二人は下僕チックすぎるんだよな。もうちょっと打ち解けてくれるといいなぁ。
俺は仲間に主人面するのは苦手なんだよ。
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