第23章 ── 第2話

 さて、興奮気味のドワーフはさておき、もう一つのピンを調べてみよう。


『ドラゴン?

 レベル:??

 脅威度:??

 正体不明のドラゴン。正しいデータを参照できません』


 なんじゃこりゃ?


 表示されているダイアログの文章を見て、俺は絶句してしまう。

 今まで見たこともない情報すぎて思考が一瞬停止してしまった。


 この表示を見て、より検索機能の謎が深まってしまった感もあるね。


 どこからデータを参照しているのか。誰が正しいデータだと判断しているのか。相変わらず謎だらけです。


「えーと、ハンセンさんだっけ? この奥にドラゴンいるんですかね?」


 俺がそう声を掛けると、ハンセンと赤ら顔のドワーフ、ユーグがビクリと身体を震わせた。


「ド、ドラゴン……」

「アンタ……何で……その秘密を……」


 秘密だったんかい。


 ドワーフによると、数百年前に地中で暴れまくっていたドラゴンが最奥に封印されたという伝説があるという。


 封印されたドラゴンは、地中に毒を撒き散らし、ドワーフたちが採掘していた鉱物を汚染しまくったんだそうな。

 それ以来、最奥の坑道は使用不可能になってしまったとか。


 さすが、ドワーフの国だな。この奥は鉱山なんだなぁ。


「どんな鉱石が取れるの?」

「今では、普通の金属類ですが……」


 もちろん、金属鉱石以外も取れるようで、宝石なども採掘しているらしい。


 ちなみに、ドラゴンが封印されているような最奥では、アダマンタイト鉱石などの魔法金属も掘れたそうだ。


 など、と言っているように、アダマンタイト以外の魔法鉱石も取れていたとか。

 俺の知っている魔法金属は、ミスリル、アダマンチウム、オリハルコンしかない。ドーンヴァースでは、この三種類しかなかったしね。

 ということは、それ以外の鉱石が地下深くに眠っているという事だ。


「アダマンタイト以外の魔法鉱石ってのは……」


 俺は必死に冷静を装いつつ問う。


「ワシらも詳しくはしらんだやな。鍛冶屋の長老にでも聞けば解るかもしれんだやが」

「是非、会って話を聞きたいんだけど」

「かまわんだやな、ユーグ?」

「ああ、客人は珍しいから、長老も喜ぶだやな」


 ドワーフたちの反応から、奥のドワーフ都市は別に秘密でも何でも無いようだ。

 このトンネルの存在が忘れられたため、ドワーフの都市も忘れられただけらしい。


 彼らドワーフたちは、取れた鉱石などを精錬し、アゼルバードの港町まで運んで商売をしているそうだ。

 そして、食料や生活必需品などを買い込んで戻ってくる。


 ちなみに、エルデンが中央政府から隔絶した生活を送っているため、支援物資を持っていってるらしい。

 ドワーフの国に保護してもらってるのなら、エルデンはドワーフの国の領地なんじゃないのかと思わなくもない。


「んじゃ、長老さんに会わせてもらえる?」

「ええよ」


 長老に会わせてもらえるという事なので、馬車や騎乗ゴーレムをインベントリ・バッグに仕舞い込む。


「ほげぇ!? き、消えた!?」

「ま、魔法道具だやな!?」


 二人とも何だか超驚いている。


「ああ、そうだよ。魔法道具だ。無限鞄ホールディング・バッグとか知らないか?」


 どうやらドワーフの二人は、鞄系の魔法道具は知らないようだ。


 騎乗ゴーレムにはそれほど驚かなかったのに、鞄系魔法道具には相当驚いているのがアンバランスだな。


 奥の都市に案内されている時にマリスからドラゴンの情報を聞いてみる。


「地下に住むドラゴンは、どんなのがいるの?」

「ドラゴンは大抵地下に住んどるじゃろ」


 確かにそうだ。洞窟の中は地下と言えなくもないし。


「んじゃ、周囲を毒で汚染するドラゴンってのは?」

「ん。色々おるのじゃ。ウロボロスとかヨルムンガントとかのう」


 聞いてはいけない名前が出てきたので、深くは突っ込まないようにしたい。

 そんな有名ドラゴンたちとは会いたくありません。


「トリシア。ミスリル、アダマンチウム、オリハルコン以外の魔法金属って何か知ってる?」


 トリシアは俺の問いに首を傾げる。


「聞いたことはないな。そんな金属があったら冒険者ランクの色に取り入れられているはずだ」


 確かに。


「私、聞いたことあります!」


 アナベルがビシッと手を上げた。


「マジで!?」

「えーと……神々が精霊に生み出させた金属らしいですよ」

「それってオリハルコンでは?」

「そうなんです?」


 いや、知らねえよ。神々の金属って言えばオリハルコンだろ。


「いや、待て……」


 トリシアが考え込む。


「精霊に生み出された金属は、オリハルコンではない。

 オリハルコンは神力によって生み出されたと聞いている。

 別の金属があるに違いない」


 ふむ。トリシアの言うことも一理ある。


 ということは、精霊力に富んだ金属かもしれない。

 フレイム・タンとかアイス・ブランドとかが簡単に作れる金属かもしれん。


 魔法付与で作る場合、使用者のMPを戦闘ターン毎に一定量消費していく感じの武器になる。

 最初から各属性が付いていたらMP消費を減らせるよな。


 もし手に入るなら、後々の魔法道具の開発に非常に役に立つ。武器以外でもな。


 例えば、魔法の蛇口のコアに水の鉱石が使えたらどうだ?

 大気中の魔力を消費せずに使えるので、水を生み出す効率が非常に優れた物になるだろう。


 魔法の蛇口の基本的なMPは大気から勝手に供給されるが、同時に大気中の水分も取り入れて、効率を上げるように魔法付与されている。

 なので、これから行くアゼルバードのような砂漠の国だと、水を生み出す効率が劇的に低下するのだ。

 水は出ると思うけど、他の地域ほどの水量は期待できない。


 既成品の機能向上は考えておく必要はあるからね。


 都市に続く階段を降りきると、巨大な空間に出た。


 空間内には、レンガや石造りの建物がビッシリと立ち並んでいる。

 空間の天井には、仄かな光が無数にあり、まるで荘厳な夜空の星のように光っていた。


「すげぇな。星空みたいだ」

「綺麗なのです!」

「地下なのにのう。天井が抜けておるのじゃな」

「そんな訳はあるまい。なにか別のモノが光っているに違いない」

「ああ、あれは光ゴケだなや」


 ハリスがスッと影に消え、すぐに戻ってきて、俺に微妙に発光する物を渡してきた。


「これは?」

「コケだ……」


 すげぇ早業。勝手に取ってきていいのかよ。


 ドワーフたちに視線を送ると、気づいていないようなので、インベントリ・バッグにさっさと入れおく。


 光ゴケが何に使えるのか分からんけど、錬金術とか錬金魔法の触媒に使えそうな気がするよね。

 ドワーフ王国には、俺の知らない素材が色々とありそうな気配だ。


 ドワーフの都市はファルエンケールのドワーフが住んでいる地区の家々に似た物が多い。

 都市を歩く人々もよく似ている。ドワーフが殆どだが、スプリガンやレプラコーンも少なからずいる。


 あと、ノームが三分の一ほどいる事も特徴だろうか。

 ファルエンケールにもノームは殆どいなかった。他の場所でノームを見たといえば、トリエンでウスラの仲間だったダレルくらいだ。


 あ……ここの方言的な語尾ってダレルのそれじゃねぇか!


 という事は、ここはダレルの故郷なのかもしれない。



 案内された場所は、多くの鍛冶屋や道具工房などが立ち並ぶ一角だった。


「ここが鍛冶屋の長老が治める、工房区でさ」

「へぇ……どんな物を作ってるのかな?」

「港町で売れそうな物が殆どだやな」


 武器、防具は勿論だが、革製品、食器、楽器、木製品など何でも作ってるようだ。

 こんな地下で木製の家具など作ってるのは謎だ。木なんて生えそうにないし。


「木はどこで伐採してんの?」

「輸入品でさ。中央森林から仕入れて運んでくるんだや」

「輸送が大変そうだなぁ」


 ユーグがニヤリと笑い、ムキムキと腕の筋肉を強調したポーズで得げな顔をする。


「我らドワーフの手に掛かれば余裕だなや」


 確かにドワーフなら運搬に特化していそうではある。

 ドーンヴァースでも筋力特化型の種族だったしな。

 ドワーフは筋力度、器用度、耐久度が高く、戦士や騎士に向いた種族だ。その分、敏捷度や知力度が若干低い。


 といっても、それはNPCの事でプレイヤーはそれに捕らわれないから注意が必要だ。


 ちなみに、スプリガンは知力度と敏捷度に特化したドワーフだ。

 ノームは知力度と精神度、直感度が高い。


 それぞれに特徴があり、外見はあまり変わらない。背が小さく、そして髭だ。


 一頻り工房を覗いてから、長老の工房に向かった。


 長老の工房はハンマー氏族の工房そっくりだ。

 もしかして、これがドワーフの建築様式なのかも。


 長老の工房には、様々なドワーフが出たり入ったり、奥には溶鉱炉もある。


 ハンセンが出てきたドワーフに声を掛けた


「おう、ガルド。長老様はいるだな?」

「奥でインゴット作っとる。邪魔せん方がいいだなや」

「勝手に入るぞ。お客を連れてきただや」


 ハンセンとユーグは、俺たちを手招きして奥に入っていく。


 邪魔しない方がいいと言っていたけど、いいのかね?


 俺はマストールの事を思い出していた。


 あいつも仕事始めると、周囲が見えなくなるタイプだったからね。

 職人気質の長老となると、あんな感じかもしれないし。


 工房の奥に入っていくと、一心不乱にインゴットをぶっ叩く白髪、白髭のドワーフがいた。


 他のドワーフは、その人物に近づこうとせず、周囲を行き来している。


「あれが長老だで」


 ユーグが指をさす。


「おーい。長老様よ! お客人をつれてきたで! 作業をやめんかい!」


 ハンセンが長老に近づき、肩を叩いた。


 その瞬間、ハンセンが吹き飛んだ。


「邪魔すんねい! 今、良いところだなや!」


 すげぇパワーだな……


 長老とやらが、ハンマーを持つ手を後ろに振り抜いたようだ。

 しかし、ハンセンは空中でクルリと回って綺麗に着地した。


 ずんぐり体型なのにハリスみたいな事しやがったよ。


「長老は相変わらずだなやぁ……」

「おー痛ぇ……手加減無しだなや」


 ドワーフの二人はやれやれと肩を竦めた。

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