第23章 ── ドワーフ王国と精霊魔竜

第23章 ── 第1話

 翌日。


 朝のうちに自称”町”の人と話して情報を集める。


 トンネルを抜けるのに徒歩で三日ほど掛かること。

 トンネルの真ん中あたりにドワーフたちが住んでいる。


 と、あまり役に立たない情報しか集まらない。


「便利そうなのに、何で使われなくなったんだろね?」


 俺の疑問には通りすがりの”町”人が応えてくれる。


「ああ、船が使われるようになったからだとか……」


 それを聞いたのがいつの話かわからないが、船が貿易や輸送に活用され初めて、地上を行き来することが無くなっていったという。

 そして、このトンネルは忘れ去られてしまった。


 ついでに、この自称”町”も忘れ去られているわけだが……


 まあ、生活に不自由もしていないようなだし、トラリア政府の問題なので、俺達がどうこうする理由も義務もないから放置でいいかな?



 朝食も終わったので俺たちはトンネルの前に集まる。


「ようやくトラリアから出国だ。このトンネルの先はアゼルバードという国らしい」

「砂の国だと聞いたが」

「うん。国土の殆どが砂漠らしいね」

「砂漠ってどんなのでしょう?」


 そうか。今まで訪れた国や地域で砂漠っぽい地形はなかったな。砂漠を知らなくても仕方ない事かもしれない。


「砂漠というのは、極端に雨の降らない地域の事でね。砂と岩しかないんだよ」

「あー、あれか!。見たことあるぞ。とにかく砂しかないのじゃ」

「想像できません」

「行ってみれば解るよ。とにかく、砂砂砂! って感じだから」



 エルデシア大トンネルは、馬車が四台並んで歩けるほど横幅があるので、徒歩より馬車や馬で移動する方が良さそう。


 馬車を出してスレイプニルとダルク・エンティルを繋ぐ。


 俺とトリシアは馬車に乗り、ハリス、マリス、アナベルはそれぞれ騎乗のゴーレムに乗り込んだ。


「さあ、出発だ」


 騎乗ゴーレムに目を白黒させている自称”町”の人々に見送られ、俺達はエルデシア大トンネルへと侵入した。


 トンネル内は照明もないので、馬車の前後に二つずつ設置されているランタンが頼りだ。


 それでも周囲を薄暗く照らすだけなので、視界はよろしくない。

 俺は聞き耳スキルや危険感知スキルを総動員、馬車の上にトリシアが陣取ってライフルで警戒にあたる。


 夜目スキルを持つトリシアとハリスは、周囲の状況が見えているんだろうな。


 トンネル内部は、何百年も放置されているのに崩落したような跡もなく堅牢な雰囲気だ。

 もちろん、地面にはホコリが溜まっているのだが、年月の割りに少ない気がする。


 ぱっと見だが、花崗岩のような深成岩を彫り抜いて出来ているみたいだね。


 この世界にプレート・テクトニクス理論が当てはまるかは解らないけども、地表近くに深成岩があるのを考えると、大陸は動いているんだろう。


 山脈がどう出来たかも自ずと推測できるね。



 一日ほど進んだが、長いトンネルがずっと続いているだけだ。


 さすがに同じような風景しか続かないと飽きてくる。


 そう思ってから数時間ほど進んだ頃、ミニマップ画面に変化があった。


 右側の壁の奥に構造物らしきものが現れたのだ。


 早速、大マップ画面を開いてみると、巨大な構造物が広がっている。


 五〇メートルほど先にあるシークレット・ドアが、その構造物の入り口っぽい。


 シークレット・ドアから入った場所は八〇メートル×三〇メートルくらいで、右の壁に沿った内部に横たわっている。

 そこには白い光点が三〇個ほどあり、動き回っていた。


 これは少集落の人々が言っていたドワーフたちではないだろうか。


 しかし、人々が言っていたドワーフ集落ではなさそうだ。


 なぜなら、その部屋の奥に相当広い構造物が構築されているからだ。

 その大都市レベルの構造物には、何万もの光点を確認できる。


 この光点が全部ドワーフだとしたら、一大ドワーフ王国だよな。


 などと考えて進んでいると、ハリスが白銀を寄せてきた。


「ケント……右側に……隠し扉だ……」


 隠し扉まで、あと二〇メートルほどなのだが、ハリスは既に気付いたようだ。


「ああ、気付いている。中にドワーフが三〇人ほどいるぞ」


 そういうと馬車上のトリシアがライフルを右方向に向けつつ、呪文を唱え始めた。


「……セルシス……エスト・ヴァース。物体感知センス・オブジェクト……」


 トリシアが感知魔法を掛けた。


「確かにあるようだな。警戒は必要か?」

「いや、あそこの集落の人々の話では敵対的な存在ではないようだから、そこまで警戒は必要ないと思う」

「了解じゃ、じゃが気は抜かんぞ」

「畏まり~♪」


 トリシアの問いに答えると、マリスとアナベルも返事をした。


 ガラガラと音を立てて進む馬車が、あと一〇メートルでシークレット・ドアまで到達しようとした時、そのシークレット・ドアが音も無く開いたのが見えた。


 その入口からはドワーフが二人ほど出てくる。


「よう! 珍しいだやな! 馬車かよ!」


 赤ら顔をした片方のドワーフが陽気に話しかけてきた。


 俺は、そのドワーフのあたりで馬車を止める。


「こんちわ。エルデンでここにドワーフ族が住んでるって聞いたけど、本当だったんだね」

「おー、エルデンの人々が言ってたんだやな!」


 ん? 聞き覚えのある語尾ですな。


「君たちはここに住んでるの?」

「そうだやな。ここは旅人の為の宿泊所だや。オラたちは宿泊所の運営を任されているんだやな」


 ということは、運営をするように言い渡す人物なり組織なりがあるという事だ。


「それにしても何百年も人が通らない場所だと聞いたけど、それなのに宿泊所を維持しているの?」


 当然の疑問を聞いてみた。


「まぁ、地竜様と人間の約束だで、客が来なくても維持は義務なんだやな」


 またもや竜か。東側より西側の方が竜伝説が多いな。

 地竜っていうと、どんなドラゴンだろうか?


 大マップ画面に大都市が全部入るように拡大して「ドラゴン」で検索してみると、ピンが三本ポスポスと立った。


 それをクリックしてみると、一つはマリスだ。

 マリスは変化しているものの、俺が真の姿を認識している為かピンが立った。

 変化前と変化後の姿が同一だという認識があれば、別の姿でも検索が可能という事だ。

 未だに、この検索条件の完全な仕様は掴みきれてないから、こういう事例を増やしていく必要があるのだ。


 三つの内の二つ目は、画面ギリギリに立ったもので、北の海の中を移動中だ。


 クリックすると……


『テレジア・リヴィア

 レベル:一〇〇

 脅威度:重大

 大海に生息するリヴァイアサン種の古代竜。水の精霊の力を用いてカリスによって生み出された最初の水生竜。

 海の秩序を守る事を秩序の神ラーマと契約した海の守護者』


 うげぇ!? ヤマタノオロチより古参のエルダー・エンシェント・ドラゴンを発見!


 遠洋ながら、物凄い速度で東へ向かっています。


「どうしたのじゃ? 顔色が悪いようじゃが?」


 マリスが俺の顔を見て、不思議そうに首を傾げた。


「い、いや。何でもないよ。ははは」


 俺はマリスに乾いた笑顔を向けておく。

 触らぬ神に祟りなし。見なかったことにしようと思う。


「ところであんたらの乗ってる馬だが……」


 ドワーフの二人は俺たちのゴーレム・ホースを興味津々で眺め始めていた。


「おい、ハンセン! こりゃ、ミスリルだや! この馬たちはミスリル・ゴーレムだやな!」

「そうか? お前の鑑定眼は信用ならねぇからな? 御者台の旦那。ちょいと触らせてもらっていいか?」

「壊さなければいいよ」


 ハンセンと呼ばれたドワーフは、腰に下げていた工具を取り出すと、馬車に繋がれているスレイプニルを調べ始める。軽く叩いたり、ルーペで表面を覗いたりしている。


「こ、こいつは……とんでもねぇお宝じゃねえか!」

「ハンセン?」


 ハンセンの異常な反応に、もう一人のドワーフが不安げになっている。


「だ、旦那……この……このゴーレムを譲ってもらうわけにはいかねぇだろうか……?」


 ドワーフがとんでもない事を言い出した。


「いや、無理。こいつだけは無理だよ」

「金……なら幾らでも……」

「金の問題じゃないんだよ。そのゴーレム・ホースは、この世界では絶対に手に入らない代物なんだ。この世界の富を全部出されても譲る事はできない」


 そう言ってやると、ドワーフは落胆の色が激しくなる。


「こ、このミスリル鉱は……とんでもない代物なんだや……表面を少しでも削らせてもらえたらええんだやが……」

「ああ、無理だよ」


 削れるモノなら削ってみてもいいけど。


 実はスレイプニルは、この世界では破壊不可能だ。以前、仲間たちのゴーレム・ホースを作る際に色々調べた時に判明したんだよね。


 ドーンヴァースでは破壊可能だったスレイプニルだが、この世界に来てからのスレイプニルには破壊不可属性に似た能力をもっていたんだ。


 ドーンヴァース製の武器でなら傷も破壊も可能なのだが、ティエルローゼ製のいかなるモノでも傷をつけることができなくなっている。


 これについては色々仮説を考えたんだが、ドーンヴァース製の金属で出来ているからではないかと思われる。


 インゴットは別だが、ドーンヴァース製の金属で完成された物品は、全てが同じような性質を持っていた。


 これは金属の純度に由来するのではないかと思う。


 どんなモノであれ、金属は純度一〇〇%という事はありえない。これは、現実世界でもティエルローゼでも一緒だ。


 しかし、ゲームであるドーンヴァースでは別だ。

 ドーンヴァースでミスリルとかアダマンチウムなどの希少金属のみならず、鉄や銅、銀、金などの金属においても、その金属は純度が一〇〇%になっている。


 この純度一〇〇%という部分が、ドーンヴァース製品に破壊不能属性に似た能力を与えるのではないかと思っている。


 ティエルローゼでドーンヴァース製アイテムが、チート級のアイテムになる事の証左ともいえる。


 もっとも、各種インゴットも純度一〇〇%なのだが、素材アイテムの為か、この能力はない事は確認済み。


 ただ、これらインゴットを使って武器や防具を作った場合、破壊不能に似た能力は発現しない。

 加工中に不純物が交じる為だと思われる。


 ハンセンというドワーフは、そのあたりに驚いたのではないかと思う。

 何にしても、興味を持たれるのは仕方ないと思うし、地底ドワーフ王国を見学できるかもしれないので、対応は間違えないようにしたいところだな。

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