第22章 ── 第49話
街道を示すラインの端に近づくにつれて、大マップ画面の尺度をどんどんと拡大できるようになってきたので、その場所の詳細が解り始めてくる。
大マップ画面は自分を中心に拡大縮小するので、少し離れた所だと詳細が解るほど拡大できなかったのだ。
さて、その詳細だが、どうやら点線の部分がトンネルを示すのだと解った。
ウェスデルフとルクセイドを繋ぐトンネルが同じような点線だったから判明したんだけどね。
相も変わらず定期的な確認を怠っている面倒くさがりな俺の責任なんですけどね。
で、トンネルの入り口付近だが、トンネルの入り口を隠すように小さな森が存在している。
その森の中に、粗末な小屋がいくつか並んでいるのが確認できた。
村や集落と呼ぶにはお粗末な規模だが、人が住んでいるのは間違い無さそうだ。
ちなみに、このトンネルにラベルが付いてなかったが、トンネルだと認識した途端にラベルが付いた。
このトンネルは『エルデシア大トンネル』。ティエルローゼ大陸最大の山脈を古代ドワーフが掘り貫いて作り出したモノらしい。
なんだか指輪で有名な作品に出てくる例の坑道を思い出してしまう。炎の鞭やら炎の剣を持っていそうな怪物もセットでね……
二時間ほど飛行して森と街道が繋がる部分に到着したので、地上に着陸した。
俺は自動車をインベントリ・バッグに収納しつつ、周囲を確認する。
街道は森の中に繋がっているのだが、他の場所で見た街道と違って整備が殆どされていない。
森の中に続く街道は平らな岩を敷き詰めたもので、森の外の街道よりも近代的な感じがするのだが、岩と岩の間から雑草が伸び放題だ。
この街道……もしかしたら、あまり使われていないのかもしれない。
「陰気臭い場所じゃのう」
マリスが装備を取り出しながら言う。
トリシアとハリスが地面の状況などを確認している。
「足跡などはあまり確認できないな」
「最後に……この道が……使われたのは……二ヶ月以上……前だろう……」
追跡スキルのレベルが低い俺にはよく判らないが、トリシアやハリスは判るようだ。
「二ヶ月も使われてないってことは、人はいないのでしょうか?」
アナベルが心配そうに口を開いた。
「いいえ、アナベルさん。人はいるようですよ」
アモンが耳に手を当てるような仕草をする。
なるほど、何者かがいるのは確かなようだ。
俺の聞き耳スキルで陽気な音楽が聞こえてきた。
「聞こえるな?」
トリシアも耳を澄まし音楽を捉えたようだ。ハリスもそれに頷いた。
「行ってみるのじゃ!」
マリスが森への街道を進み始めてしまったので、俺も他の仲間たちも一緒についていくことにする。
森と言っても本当に小さい森なので、二〇分もせずに、小屋が建ち並ぶ所まで来てしまった。
突然現れた俺たちに、森の中の小集落の人々は呆気にとられた。
「お、お、お、お」
「で、で、で、で」
何を言っているのかサッパリ解りません。
というか、ここ、まだトラリアだよね? 西方語じゃないのか?
「こんにちは」
俺は一番近くにいた薪を担いでいる中年のおじさんに声を掛けた。
「で、伝説のお客様がやってきたぞ!」
おじさんは薪を担いだまま、奥に走っていってしまう。
「伝説のお客様?」
俺はおじさんの言葉を困惑した顔で口にし、仲間たちを振り返った。
「ケント、お前、来たことあるのか? 伝説のお客様とか言われていたが」
「来たことあるわけないだろ。誰かと間違えているんじゃないか?」
「そうじゃなぁ。ケントが来たことあるなら、我らも一緒じゃろし」
仲間たちと話し合っていると、人がいっぱい集まってきた。
いっぱいといっても、一五人くらいだけどね。
「ようこそ! エルデシア大トンネルの入り口の町、エルデンへ!」
なんてことはない。俺たち全員が「伝説のお客様」だったらしい。
というか、ここが町とか意味解かんねぇけど。集落とか村とかいう規模じゃないし。
「ここにお客様が訪れるのも何年ぶりですかね!?」
自称町長と名乗ったアムセンという老人が、本当に嬉しそうに言う。
「いや、俺に言われてもね。何年ぶりなんですか?」
「そうですね。ワシが町長になったのは四〇年近く前でしたし、引き継ぎの時に聞いたのは四〇〇年くらい前だとか何とか」
合わせて四四〇年前が最後って事か?
「随分と忘れ去られているようですが……ここはトラリアに所属するんですよね?」
俺がそう問うとアムセン自称町長はキョトンとした顔をする。
「もちろん、そうですが? もう何十年もセティスから官吏も来てませんので……もしかして独立してる事にでもなっているんですか?」
「いや、そうはなってないと思いますが……」
見捨てられたコロニーを発見してしまった気分です。
色々と村人から伝承など聞いた所によると数十年前までは、この村にも中央政府から税金だとかを徴収しに来る官吏がやってきていたらしい。
ただ、トンネルを利用する商人も来ない土地に官吏も興味はなかったようで、全然来なくなったそうな。
元々はもう少し大きな村だったようだが、全く人の行き来が無いため、どんどん人口が減っていったという。
「よく、今まで他の町と交流もないのに生き残れましたねぇ」
本当にどうやって生き残ったのか。
「まあ、必要な食料は森と海、それとトンネルから手に入りますので別に困ることはないのですよ」
森と海からは解るが、トンネルから?
「トンネルからも何か手に入るんですか?」
「そりゃ、トンネルの小人たちが持ち込んできますので」
トンネルの小人? なんだそれ?
「その小人というのは?」
「このトンネルを掘り抜いた小人たちですよ?」
む、大マップ画面のラベルにポップ・アップしたフレーバー・テキストのドワーフたちの事だな!?
「トンネルの中にドワーフの町でもあるの!?」
ドワーフは妖精族だが、エルフなどと都市に住んでいるイメージしかない。
しかし、現実世界の伝説や物語においては、鉱山で暮らしている記述も多い。
俺のイメージするドワーフのイメージに合致するドワーフ族が大量に住んでいる可能性がある。
「えーと、町という程ではありませんかな。トンネルの中央あたりに横道がありましてね。そこに三〇人ほどの小人さんが暮らしてますよ」
いや、三〇人て、この自称町より人口が多いじゃねぇか。ここが町なら、ドワーフの住処も十分町だろ。
と思ったが口には出さないでおこう。
「ところでじゃ! さっき、歌というか音楽が聞こえておったのじゃが!?」
マリスが空気も読まずに質問をした。
「おお、やはり我らの儀式が功を奏したのですな!」
「儀式じゃと?」
「そうです。我らは毎日やっております。千客万来の儀式と申しましてな」
自称町長が言うに、数百年前、久々に来た「
シンノスケめ……面白半分で嘘を教えたんじゃないのか?
「では、実際にやってみましょう!」
自称町長はノリノリで……いやここの人たち全員がノリノリでした。
それは盆踊りのような感じだった。
焚き火の回りを盆踊りのように踊り回るのだ。
何人から演奏をして、残りが回る。
「ルルル~♪ ル~リヌ~シュ~♪ ソ~マ~ン♪」
何語だよ!
とてもシンノスケが教えた歌詞とは思えない。どっかの民謡か?
「ケント」
トリシアがポンポンと俺の肩を叩いた。
「ん?」
「この歌の歌詞をよく聞け」
ん? 歌詞? 意味が判らんが?」
「ブレ~♪ ジン~♪ モ~トマ~インクルス~♪」
なるほど。確かに魔法詠唱における
最後に「マインクルス」が来ているので精神系魔法の呪文なのは間違いない。
後は最初に戻って同じ歌詞だ。
呪文を聞いて術式を解析してみると、精神魔法による祝福呪文のようだ。
効果は使ってみないと解らないが、呪文の並び方を見ると、対象を嬉しい気持ちにさせるってだけのモノらしい。
これが千客万来の意味になるのは理解できない。
もしかすると、久々の客に平常心を忘れて興奮した人々を平静にするためにシンノスケが掛けた魔法なのではないか……と俺は推測する。
前にも言ったが、この世界は魔法のスキルを習得していなくても、魔法の行使は可能だ。MPはゴッソリ持っていかれるけどね。
ただ、長い間伝わって来たせいだろう。
これじゃ魔法は発動しない。第一、最後に呪文名を唱えないとダメだし。
ま、それはいいか。代々伝わって来た伝統芸能だと思うことにしよう。踊りは盆踊りっぽいしね。
この自称エルデンの町で、掘っ立て小屋を一つ充てがわれた。
俺たちが来たことに大喜びされ、かつ、お客として歓待されてしまったので、充てがわれた小屋で宿泊しないわけにもいかなかったんだけど。
仕方ないので、俺も料理で町の人を歓待してやった。
人々は外の町にはこんなに美味い物があるのかとビックリしていたが、手の混んだ料理じゃないので、少々心苦しく思いましたよ。
歓待の席で情報収集した所、このトンネルの先がアゼルバード王国という国らしい。
砂漠の国だそうだが、その国の商人も今はこのトンネルを使っていないそうだ。
立派なトンネルなのに何で使わないんだろうね? やっぱりトンネルに化け物でも出るんじゃないか……?
このトンネルを使っていいのか少し心配になってきました。
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