第22章 ── 第29話
俺が修理したパソコン型神器をアリーゼに見せられたリステリーノは、パソコンの修理費用を支払うと金箱を持ち出してきたが、物が物だけにおいそれと払える金額ではなかったため顔面を蒼白にしていた。
あのパソコン、俺の作った飛行自動車より間違いなく高価だからな……
なので代わりに俺が作った魔法道具を買い上げてもらうという契約を結んでおいた。
ちょっとした魔法道具でも金貨数千枚とかで買ってくれるそうなので、金に困った時に良いだろう。
リステリーノの闇市を後にし、宿屋に一度帰ることにした。アースラが降臨してきてしまっているので、彼も一緒にだ。
直ぐに帰るかと思ったら、俺の料理を食わせろと煩いんだよね。
部屋に戻ると既に他の全員が帰ってきていた。
「ただいまー」
「遅いのう。我はもう三つも仕事を終えてきたのじゃぞ?」
「へへ~ん。三つほど潰してきたぜ!」
マリスとダイアナモードのアナベルが得意そうにしているのを見て、背筋にザワリと何がが走っていくような嫌な予感がした。
「何を潰してきたって……?」
「ケントが言っておった闇市じゃ! 何故か我らが近づくと因縁を吹っかけてくるでのう」
俺は目の前が真っ暗になる。そして脳裏には二人が悪鬼のごとく闇市の手勢と戦う姿がイメージされた。
「というか、英雄神と一緒なのは何でなのじゃ?」
「ホントだ! アースラ様と一緒じゃねぇか! 稽古付けてもらえないか!?」
アナベルよ、君は遠慮しなさい。こう見えても神ですよ?
「ケントの料理食ってからな。さすがに連日女神カレーばかりじゃ食傷気味だよ」
アースラによると神界で俺の教えたカレーを料理の神ヘスティアが量産しているらしい。
日本のように神が多い神界では、それでも足りないらしく料理関係の神々総出でカレーを作っていて、他の料理に手が回らず、カレーばかりなのだそうだ。
カレー好きのアースラも逃げ出すとはある意味地獄かもしれない。
「それよりも報告の続きだ。闇市を三つ潰してきたって?」
「そうじゃ。女子供の来るところじゃないとか何とか言われたのじゃが、アナベルを見て色目を使ったヤツがいたのじゃが、失礼なことをしたようでのう……アナベルにぶっ飛ばされたのが騒動の切っ掛けじゃな」
その後、騒ぎを聞きつけた衛兵隊がやってきて、マリス、アナベル、衛兵隊勢力と闇市勢力の戦いになったらしい。
マリスとアナベルが味方している以上、衛兵隊に負けはなく、その後幾つか出てきた証拠や証言などから、他の闇市の所在が割れて立て続けに潰したという。
「何か報奨金を貰ったのじゃ」
「金貨五〇枚だったけどな」
マリスとアナベルは衛兵隊に協力したということで、報酬を手に入れたらしい。
マルテナス商会という組織の系列が仕切っていた闇市だったそうだ。
リステリーノが言っていた敵対組織だな。
マルテナス商会はセティスで闇市を取り仕切る組織の中では四番目くらいに勢力だったような……
衛兵は一〇人くらいしかいなかったそうだし、マリスとアナベルだけで一〇〇人近くいた敵の殆どを掃討したっぽい。
マリス……アナベル……恐ろしい子っ! と思ったが、レベル七〇超えが二人もいたら、その一〇〇倍いても敵じゃなかったろうね。
「で、トリシア、ハリスは?」
二人の報告が終わったので、トリシアとハリスの報告を促す。
マリスとアナベルの報告では何の情報も得られてないようなので、こっちに期待する。
「私の方は、闇市と貴族の繋がりが幾つか解った」
トリシアが調べた闇市は基本的に貴族への便宜を図っているそうだ。セティスに集まってくる税としての物資の一部が闇市に流れているという。
トラリアでは街や村の生産物の約六割を税として収めなければならないのだが、その一部を着服している貴族たちがいる。
それらが、闇市を取り仕切る商人に流されているという。
リステリーノも仕入先は教えてくれなかったが、あの絹織物を見る限り同じような貴族と関わりがあるのだろう。
「という事は、他の闇市も似たりよったりか……」
「まあ、そうだろうな。正規の店とは仕入れ経路が別なのは確かだろう」
セティスに物資を一度集積してから各地に配分されるシステムのトラリア王国では、それを管理する官僚たる貴族がその体たらくだとすると、腐敗を誰も止められないに違いない。
王族が全ての采配を振るえない以上、担当する貴族だけが美味しい思いをしているに違いない。
そして当たり障りのない報告を国王と女王は受けるのだ。
「ハリスは?」
俺が問うと、ハリスは懐から何枚もの紙を取り出してソファ・テーブルの上に置いた。
「汚職をしている……貴族の……一覧だ……」
そこには数百人もの貴族の名前と繋がりのある闇組織名がズラリと書かれていた。
「え……? 数時間で?」
あまりの情報量の多さに俺はビックリした。
「漏れは……無いはず……だ」
いや、漏れの心配はしていません……
恐るべし超絶素敵忍者……ハリス一人で国家レベルの諜報活動ができるんじゃね?
俺も結構何でもできるようになってきた自負があったけど、ハリスには勝てそうにない。
忍者ってこんなに凄かったっけ?
そもそもドーンヴァースにおける忍者とかの職業って戦闘職としての区分であって、情報収集とかは全く考慮されてないんだよな。
諜者としての本来の忍者の役割をしっかりと説明しておいたのが、こんな素敵忍者になった要因なのだろうけど……それでも想像を絶するな。
「良くやった。さすがはハリスだな」
俺が褒めるとハリスは顔を少し赤らめて顔を背けた。
その様子を見てマリスとアナベルが少し悔しそうな顔をしていた。トリシアはニヤリと笑ってたが。
「で、魔族三人衆は?」
魔族の三人に顔を向けると、フラウロスが嬉しそうに一歩前に出た。
「我が主よ。我々三人は闇市の利用者らしき貴族の邸宅へ招かれていました」
三人が街を歩いていたところ、貴族の馬車が止まって三人に話しかけてきたそうだ。
その馬車には貴族とその夫人が乗っており、アラクネイアのドレスを見て、どの闇市で手に入れたのかと問いかけてきたのだという。
邸宅に呼ばれて饗されたのだが、闇市で買ったのではないので応えあぐねていると、勝手に俺らの泊まっている宿の付近の闇市だろうと勘ぐってくれたらしい。
一番近い闇市はリステリーノ傘下のところだったし、間違いはないのだが。
で、根掘り葉掘りと貴族界の情報を仕入れられた。
今、トラリアの最高権力は女王で、国王は東の国から婿入りしてきている。
なので王権は女王にあるのだが、女王や他の王族は政治には殆どタッチしていない。政治は貴族が回しているという。
なので、貴族が集めてくる金が何に使われているのかも王族は知らない。
王族の生活の運営は、基本的に貴族院がやり繰りしている。
王族の仕事は、他国の王族や政府との外交くらいだそうだ。
貴族は王族に贅を尽くさせていて、今のトラリアの状況など把握もしていないという。
勿論、水路の水が止まって食糧生産が壊滅的な被害にあっていたことは、フソウに情報が流れているくらいだから承知はしているようだが。
何か、この国って末期症状って感じな気がしてならない……いっそ潰れたほうが国民の為になるんじゃないかね……
俺がトラリアの状況に頭を抱えていると、トリシアが口を開いた。
「ところでケント。ちょっと聞きたいのだが」
「ん? 何?」
「今回の件についての事だ」
「何か他に問題でもあった?」
「いや、この国の問題にお前が首を突っ込もうとしている真意を問いたい」
トリシアが何を聞きたいのか俺には解らない。
「ん? どういう事?」
「いや、確かにこの国の状況は市民を餓死させるほどに末期状態だ。だが、それに私たち冒険者が手を出すのは政治に介入する事に他ならない」
ああ……ギルド憲章に違反って事か……
「国の行う執政で被害を被るのは悲惨な事だが、それは国王などの権力者の失政であって、我々が関与する理由にはならないぞ」
トリシアの言っている事はもっともだ。
確かに、この状況を招いているのは国家権力に他ならない。
ヤマタノオロチとの交渉で水路の水を何とかするのは冒険者の範疇に治まるが、経済状況の改善は違うと言いたいのだろう。
「確かに、そう見えるね」
「違うとでも言うつもりか?」
「ああ、違うと言えると思う」
「説明してくれ」
俺は何故、この国の経済について口を挟もうとしたのかを手短に仲間たちに説明する。
「まず……昨晩、俺が説明した事柄を覚えているか?」
「昨晩? 何じゃったかのう?」
「社会……なんとか……共産……なんとか……」
マリスはサッパリ聞き流していたようだが、ハリスは何となく覚えていたようだ。
「そう。社会主義とか共産主義とか自由資本主義とか説明したよね?」
「ああ、それは覚えている」
俺はトリシアに頷く。トリシアは富の再分配とかに気付いてたから覚えていて当然だね。
「そういう社会体制についての考えは、このティエルローゼの時代背景には存在しない概念だ」
俺の応えにトリシアも首を傾げる。
「いいか。この世界は未発達な経済体制なんだよ。そこまで成熟するわけがない。なのに、この国だけが社会主義を推し進めている。
王族がトップにいる段階で社会主義なんてありえないんだがね」
「良く解らんが……」
「だから、この経済体制はティエルローゼで発祥したものじゃないって言ってるんだよ」
「ということは?」
「多分、プレイヤーが絡んでいる」
俺がそう言うと魔族以外の全員が衝撃を受けた顔になる。
「また新たなるプレイヤーが!?」
トリシアがそう言いながら、アースラに視線を向ける。他の仲間も一緒だ。
魔族たちはアースラの正体を知らないので、首をかしげるばかりだ。
「何だよ。新しいプレイヤーだと? そんな者は転生してきてないぞ?」
アースラという神に断言されたので、仲間たちは安堵の息を吐いた。
「ならば、どういう事なんだ?」
「俺はシンノスケの所為じゃないかと思っている」
シンノスケは正義の味方としての理想を追求したような人物だ。
彼がいた当時の王族とも面識はあったと思う。
その彼が、何かしら、理想的な社会体制について口を滑らせたりしたのではないか。
世直し隠密などという制度が今も残っているらしい西側諸国の状況を考えてみても、そういった逸話に感銘を受けた支配者が、それを実行してみた結果……今のトラリアの経済状況という気がする。
平時は上手く行ってた事だが、食糧生産の要である水路の水が止まった事で破綻が始まった。
多分、そういう事だろうと思う。
貴族たちの腐敗については王の権力が衰退している証拠とも言えるかな。
全ての貴族が腐っているとは思えないが、かなり蝕まれているのは間違いない。
そこを、どうやって正していくかが問題だな。
「外世界の知識という外的要因によって市民が危機に陥っている。これは国家ではどうにもできないんじゃないかなぁ。
どうにかできる俺たちで何とかした方が良い気がするんだよ」
トリシアは眉間に皺を寄せて考え込んでいる。彼女もどう応えて良いか判断できないのだろう。
「まず、現在の状況を王族が把握していない事は間違いない。その辺りの情報を女王に知らせることから始めようと思うんだ。
意見具申も冒険者はしちゃ駄目なのかい?」
トリシアが漸く目を開けた。
「いや、それは問題ない。了解した。ケントの好きにやっていい。私たちも協力しよう」
トリシアが他の仲間にそう言うと、ハリス、マリス、アナベルも頷いた。
よし……今の所、ギルド憲章にも違反しないみたいだから、明日は王族の住む宮殿に顔を出してみようかね。
今度は、フソウの通行手形を使って、正面から行ってみよう。
流石に王宮に身分を隠して行っても意味はないからね。
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