第22章 ── 第28話
固まっている護衛たちに同情の視線を向けながらアースラと話す。
「突然、知らない人間が現れたら、家の警護している人間としては真っ当な反応だぞ。許してやってよ」
「確かにそうか……」
アースラが納得して頷く。威圧も解いたようだ。
護衛たちは威圧がなくなった途端、床にへたり込む。
「すまんな、お前たち。いきなり刃を向けてきた其の方たちが悪いが、許そう」
アースラは神になってから長いせいか、相当上から目線だよ。
謝るならともかく、許そうとか言ってるし……
「申し訳ない。こいつは俗世から離れて長いんで、失礼な言い分だけど、許してやってくれ」
俺はすかさずアースラのフォローをしてしまう。
「あの人は一体……」
「他言無用だが……彼はアースラ・ベルセリオスって言うんだ」
「「「!!??」」」
俺が教えてやると護衛たちは威圧の時のように固まってしまう。口をパクパクしているので、正体は解ったようだ。
護衛の一人は五体投地よろしく平伏している。信者かな?
「で、ケント。例のものは?」
「ああ、これだよ」
メガネメガネ言ってるアリーゼの横にあるパソコン型神器を俺は指差す。
「随分汚れたな。まだ動いているか?」
「俺が点検してみたところ、電源ユニットに問題があるな。古くなった所為かもしれないけど、魔力供給が不安定になっている。必要な魔力が足りないタイミングがあるな」
不具合を指摘すると、アースラはパソコン神器を入念に調べている。
「これは五台作ったうちの一台だな。あとの四台は神界に返された」
「へぇ。これは下界に置いておいていいのか?」
「ああ、これは下界に下ろして構わない知識を収めたデータベースだ。最後に使ってたのはアーネンエルベ魔導文明の奴らだな」
漸くメガネを探し当てたアリーゼが、俺とアースラがパソコンをいじくり回しているのに気付いた。
「あれれ? 一人増えてますね。どなた?」
「アースラだよ」
「アースラさん? 英雄神様と同じ名前ですね!」
「ああ、俺の事だからな。本人だ」
アリーゼは首を傾げてから頷いた。
「そうなんですか。で、この
「直すことはできるが、材料も細工道具もないからな……神界にいかなければ駄目だ」
アースラの言葉にアリーゼはガックリと肩を落とす。
「私の発掘品が動くと思ったのに……」
まあ、面白い物を見せてもらったし、直してもやってもいいかもしれんな。
「おい、アースラ。小型の魔導バッテリーで動くか?」
「魔力の蓄積量によるが……」
俺はインベントリ・バッグから、飛行自動車を作成していた時に幾つか作った予備の小型魔導バッテリーを取り出す。
「俺のお手製なんだけど、これは使えるか?」
差し出した魔導バッテリーを受け取ると、アースラは入念に調べ始める。
「ほう。空気中の魔力を自然に蓄積する機構か。面白いアイデアだな」
アースラによると、このパソコン型の神器は、使う者の魔力を吸い上げて使用するような仕様で電源ユニットを設計していたらしい。
「コネクタの改造は必要だが使えそうだな。出力も問題ない」
アースラからコネクタ部分の仕様を聞いて、ミスリルの端材を使ってその場でコネクタを自作する。
「ケント。お前、器用だな」
俺がちょちょいとコネクタを作ると、アースラは感心している。
「まあ、ここのところ、魔法道具とか色々設計してるからねぇ」
「え!? ケントさんは魔法道具の設計してるのですか!?」
「ああ、色々作ってるよ。君が腕で弄り回してたコレも自作だよ」
俺は左腕を上げて小型翻訳機を見せる。
「え!? これも!?」
ビックリしているアリーゼを放置して、電源ユニットを交換する。
他の部品は損傷もなさそうなので、起動実験をしてみる。
アースラも自分が作った神器なので、立ち会うようだ。
「スイッチ・オン」
前面にある起動スイッチを押すと、神器のボディ表面に複雑な魔法術式が浮かび上がりながら起動した。
「大丈夫そうだな」
アースラが
「ちょっと中身を見せてもらっていいか?」
「好きにしろ」
アースラの許可をもらって神器の中のストレージ内容を確認する。
基本動作はマイクロン・システムズ社のOSと全く同じなので、中身を確認するのは比較的簡単だ。
「アースラ。これ、どうみてもマイクロン・システムズのOSだよな?」
「そりゃそうだ。俺はマイクロン・システムズのプログラマだったからな」
「え!? マジ!? すげぇ!」
どうやらアースラは転生前、マイクロン・システムズのグラフィカル・ウィンドウOSの開発に携わっていたらしい。
「PCを組むのも趣味だったからな。こっちに来てから幾つか作ったんだよ。お前んところの工房のサーバとデータベースも俺の自作だぞ?」
英雄神なのに魔法工学の神様みたいな事してやがるな。
ストレージの中身を色々と調べてみると、様々な技術の情報が詰まっている。
金属やミスリルの精錬方法、ティエルローゼの動植物の情報、錬金術関連の技術、魔法道具の作り方、魔法術式入門書……
それら情報が神代文字のテキスト・データとしてギッシリと記録されている。
ちょっと今の時代の人間たちには過ぎた情報が満載な気がするな。
「アースラ、こんな知識を人間に預けておいて大丈夫か?」
「んー……」
アースラは少々考え込む。
「確かに、アーネンエルベの奴らは、この技術で滅んだようなものだな……人間には過ぎた知識かもしれない」
アースラが難しい顔をしている。
人間には危険物と判断されたら没収しそうだぞ。没収されたら弁償しろとかアリーゼが騒ぎ出すかも知れない。
この世界の魔法道具は非常に高価だ。
「じゃあ、不味そうなファイルは消しておくよ」
「ああ、解った」
アースラの返事に俺は少しホッとした。
「えー!? 何か消しちゃうんですか!? 困りますよ!」
アリーゼが騒ぎ出したが、俺はそれを無視して危険そうな知識は全て削除した。
「騒ぐなよ。その代わり、君のお父さんの家業に便利な物を用意してやるよ」
「え!? 商売に便利なもの!? どんなものですか!?」
「まあ、ちょっと待ってろ」
俺は
アースラが開発していたからか、基本的な表計算ソフトの「エクセルシオール」は入っていたので、それを使って取引データを管理する表を作ってやる。
マクロなどを利用して商取引用の簡単なリレーショナル・データベースを構築するわけ。
アリーゼは俺のやっている事を真剣な眼差しで見ている。操作方法とかを覚えようとしているのだろうか。
商取引のデータベースは一時間程度で完成した。
尋常でない速度でキーボードを叩いていたのであっという間だったね。
「お前、そっち方面もいける口だな」
大企業の凄腕プログラマに褒められて少し嬉しい。
「まあ、あっちの仕事で使いこなす必要があったからな」
現実世界でパソコン技術が必須になったのは何十年も前の話だが、日本では使えないやつも多かった。インターネットなどは殆どの人間が使えたが、こういうマクロや簡易言語を搭載した事務用ソフトを十全に使いこなす人間は少なかった気がする。
「という事で、アリーゼ。修理は完了だよ。これでちゃんと使えるようになった」
「ありがとうございます!」
アリーゼは凄い嬉しそうだ。
キーボードの前を開けてやると、ブツブツ言いながら俺がやっていたようにキーボードを触り始める。
「ケントさんは、ここをこうして……」
さすがのアリーゼもおっかなびっくり弄っているので、基本的な操作法と先ほどのデータベースの使い方を教えてやる。
「なるほど! これはこうですか!」
アリーゼは中々飲み込みが早い。二時間程度の講習で何とか使えるようになった。
「これ……凄い便利です!」
「ま、便利なように作られたソフトウェアだからなぁ」
俺がそういうとアースラが嬉しそうに頷く。
「開発者冥利に尽きる言葉だ」
「世界中で使われているソフトだからな。アースラが開発者だとは思わなかったよ」
アリーゼは俺たちの会話に首を傾げる。
「所々に魔法みたいな意味のわからない言葉がでてきますけど、どういう意味ですか?」
「ん? ソフトウェアか? マイクロン・システムズか?」
「そうです。そういう色々理解できない単語が……」
名詞みたいなものだから理解するより、そのまんま覚えればいいんじゃないのか?
そう思っているとアースラが俺の耳元で囁く。
「人間には過ぎた単語は理解できないようになってんだよ」
どうやら、神の使う言語は人間にはノイズのように聞こえるらしい。神々が許可しないと決して理解できないらしい。
セキュリティみたいなものかね。そういうルールなら仕方ないね。俺が理解できているのは現実世界の知識があるからだろう。
「これ、お父さんに見せてくる!」
アリーゼはパソコン型神器を護衛に運ばせて、一階へ上がっていくので、俺とアースラも付いていく。
アースラを知らないリステリーノが、正体不明の人物が増えて渋い顔をしていたが、護衛が真っ青な顔でアースラの事を説明して態度が変わったのは言うまでもない。
お陰で、俺への態度もすっかり変わってしまったんだけど。
突然、降臨した神の存在もはた迷惑だが、神を易々と降臨させた俺も彼にとっては迷惑千万な存在だったのかもしれない。
まあ、金のメダルを貰えたので、彼の傘下にある闇市には無条件で入れるようになったのは儲けものだが。
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