第22章 ── 第15話

「さて、ケント様に仕えることにしたのは良いとして……」


 アモンはトリシアたち仲間をジロジロと値踏みするように眺める。


「こちらがケント様のお仲間たちですね?」


 少し挑戦的な雰囲気がアモンから漂ってきている気がする。


「ああ、そうだよ」


 俺は少し警戒しながらもそう応えた。

 トリシアたちも頷く。


「トリシア・アリ・エンティルだ」

「マリストリアじゃぞ?」

「アナベル・エレンです~」

「ハリス・クリンガム……」


 仲間は一人ひとり自己紹介する。


「お初にお目にかかる。私はアモン。元魔軍侵攻部隊指揮官にしてカリス神の武の体現者」


 貴族風の慇懃なお辞儀だが……


「少々拝見してみて……ケント様の背中を守るには心もとない気がいたしますね」


 ニヤリとアモンが不敵な笑いを浮かべる。


「なんじゃと!? 我をケントの盾と知っての発言かや!?」


 思考を隠すことが非常に下手なマリスは、アモンの言葉に簡単に激昂してしまう。


「よせ、マリス。これはアモンとやらの挑発にすぎない」

「そうなのです……? そうと決まりゃ一発ガツンとやってやるべきだろ!?」


 今にも飛び出しそうなマリスの肩をトリシアが掴んで止めたが、アナベルが会話の途中でダイアナ・モードにシフト・チェンジした。


「おらぁ!」


 止める間もなく、ダイアナの右ストレートがアモンの顔面に直撃したかに見えた。


「どこを狙っているのです?」


 そう見えただけだった。ちょっとした脚の踏み変えだけで、アモンは軽々とダイアナの攻撃を回避した。


「待て待て! 何を突然始めてるんだ!?」


 俺が慌てて大声を出して制止する。


「ケント様、今後一緒に行動するならば、各々の戦闘力を見極めておく必要があります。それに……」


 アモンはチラリと仲間たちを見る。


「先程のオロチ殿とケント様の会話から考えるに、彼らでは足手まといなのでしょう? ケント様に相応しい力量を持っておいでか自分自身で判断したく思います」


 ぐっ……


 俺は一瞬言葉に詰まってしまった。

 確かに、ヤマタノオロチとの戦闘では足手まといになると俺も判断した。


 だが、戦闘とはそんな単純なものではない。

 それにレベル八〇くらいまでの敵であれば、トリシアたちは多いに役に立つ。


 そもそも仲間になる条件に戦闘力なんて関係あるのか?


 俺がそんな風に思考しているうちにダイアナの攻撃性は増していく。


「ケントの足手まといだと! ああ、そうだ! それは私たちが一番痛感している! 他人に言われると腸が煮えくり返るがな!」


 ダイアナの格闘戦闘は初めて見るが、帝都にあるマリオン神殿の神官長の型によく似ている。


 躱された左の裏拳攻撃の反動を利用して右拳によるフック攻撃など、くるくる回りつつの攻撃は隙と見せかけたフェイントだったりするんだよね。隙だと思って不用意に飛び込むと危険。


 だが、アモンはそんな攻撃をいとも容易く回避してダイアナの懐に入り込んでいく。


「隙だらけですね」


 くるりと一回転してきたダイアナの腹にはアモンの掌底が添えられていた。


「ふんっ!」


 そしてアモンは掛け声と共に掌底を突き出す。気が放出されたのか、アモンの動作からは考えられないほどにダイアナが吹き飛ぶ。


「ぐあっ」


 ダイアナの身体は軽く一〇メートル以上飛ぶが、彼女は空中でくるっと回転してから地面に綺麗に着地した。


「トリシア! こいつは一筋縄じゃいかないぜ!?」

「そのようだ……な……」


 トリシアがハリスみたいな口調でしゃべりつつ後退を開始。


「マリス! 最前衛にて防衛行動を! アナベルはその後方にてマリスに強化と回復の支援に専念!」

「合点承知!」

「了解だぜ、トリシア!」


 強力な相手を前に、トリシアは戦闘全体を把握できる後方へ下がっての射撃支援をするつもりなのだろう。


「ハリス! 解ってるな!?」

「了解だ……」


 ハリスは影に沈み込んでいき、戦闘の場から消えた。


「ほう。アラクネイアと同じような技を使いますか。あの男が一番厄介かもしれませんね」


 アモンはそういって少し考える仕草をする。


「お主の相手は我なのじゃ! よそ見しておるとぶちのめすのじゃぞ! タクティカル・ムーブ!」


 インタラプト移動スキルを発動させたマリスが、アモンの左側面へ瞬時に移動し、大盾によるブチかまし攻撃を仕掛けた。


 アモンは左手を軽く構えただけでその攻撃を弾き返した。


「それが攻撃ですか。様子見にしてもお粗末ですね」


 アモンが右手で手刀を作り、そのままマリスの大盾に突き出す。

 アモンの抜き手が大盾に炸裂し、火花がバリバリと立つ。


 なんちゅー手刀だよ。アダマンチウムと互角の硬さなのかよ。


 だが、そんな攻撃をマリスは盾を巧みに操り、受け流し気味に防御姿勢を取っていた。


「お主の攻撃も似たようなもんじゃ。我の防御を突破できねば仲間には攻撃は届かぬと知るのじゃ」


「前言撤回。少々やりますね」


 アモンはニヤリと笑う。


『……モート……ライファーメン……上級物理強化インプローブド・リーンフォース・フィジカル・ボディ!』


 ダイアナがそんな攻防の合間を突いて肉体強化系魔法をマリスに唱えた。

 マリスの身体が青白く光り、途端に身体のキレが良くなった。


 上級物理強化インプローブド・リーンフォース・フィジカル・ボディの魔法は、物理防御力をより強固なものにするだけでなく、筋力度や敏捷度、器用度をそれなりに上昇させる。

 だが、致命的な欠点もあるので些か使いづらい魔法だ。効果時間が尽きると、強化された能力値や防御力が二割ほど同じ時間だけ減ってしまうのだ。


 俺はハラハラしながら戦闘の様子を見守る。


「ふふふ。やはり面白いな。ケントとの戦いも大いに楽しめたが、アモンとケントの仲間の戦闘を眺めるのも大いに心寛ぐな」


 突然始まった戦闘にヤマタノオロチも大喜びですな。

 俺としては止めてほしい所だけど、そういう雰囲気ではないようだし……


「ケントの技を真似てみるのじゃ! ガトリング・ソード・ランチャー!」


 マリスが新技を繰り出した。いつもならスイフト・ステップで高速移動しながら繰り出す連撃系スキル「ソード・ランチャー」を改良して手数を増やしたようだ。

 俺の連射型ボルト系魔法をスキルの応用したっぽいね。


 通常は五連撃ほどの剣先が数十本になってアモンに襲いかかる。


「むむ! 面白い技だ! ははは! これは楽しいな!」


 そう言いながらもアモンは全ての剣先を両手の手刀で叩き落としていく。


「ライトニング・スナイピング・ヘッド……」


 小さい声だったが、聞き耳スキルがトリシアの声を拾ってくる。


 瞬間、一条の閃光がアモンの額に炸裂した。

 その衝撃にアモンは仰け反った……


「おっと……危ない……」


 頭がふっ飛ばされたかに見えたが、アモンは身体を逸して回避したのだ。


 信じられない動体視力だな。俺も人のことは言えないが。


 だが、その攻撃はアモンの額を少し焦がしていた。ノーダメージではない。


「ふむむ。どうやら見くびっていたのは私のようだ。少々本気でやらねばいけないようです!」


 アモンはそういうと、少々大ぶり気味ながらマリスの大盾に強烈なショートアッパーをお見舞いする。


 マリスの身体が空中に浮き上がって少しふっ飛ばされたように見えるが、意図的に後方にバックステップしただけのようだ。


「甘いのじゃ。お見通しじゃぞ」


 だが、アモンを見ると右手に少し禍々しいオーラを纏ったレイピア状の細いロングソードがいつの間にか現れていた。


「素手では埒が空きそうにありませんので、得物を使わせていただきましょう」


 それを見たマリスが俺が作ってやった愛用の剣を鞘に収めた。


「奥の手のようじゃな。では我も奥の手を出すとするかのう」


 マリスは無限鞄ホールディング・バッグから、いつぞやのシミターを取り出した。


 このシミターも少々禍々しいオーラを発していた。


 あれ? あんなエフェクト出てたっけ? マリスや魔族が装備すると出るのかな?


 それを見たアモンが少し顔色を変える。


「フラウロスの差し金か……? ケント様の手の者もマルバスの剣を持っていようとは……」


 場はなんと言えない緊張感に包まれた。


 睨み合ったマリスもアモンもピクリとも動かなくなってしまう。


 こっちも喉がカラカラになってしまいそうですよ。

 さっきから唾を飲み込もうとのどを動かしているけど、ちっとも飲み込めてません!


 手に汗握る攻防とは正にこの事だろう。

 マリスとアモンはレベル二〇近いレベルの差があるんだが、いい勝負をしている。

 もちろん、仲間との連携があっての事だが。


 パーティ・プレイの醍醐味がコレなんだろうね。

 一人では抗いきれない強力な敵ですら、仲間となら戦うことができるんだ。


 それにしても、複数相手にしているというのに……アモンも相当な手練ですな。

 今後、仲間として付いてくるにしても頼もしい味方になってくれるかもしれないな。

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