第22章 ── 妖艶なる黒き貴婦人とヤマタノオロチ
第22章 ── 第1話
トラリア王国に入った俺達は、早速ヤマタノオロチが住むと思われる東の山脈へと向かうことにする。
俺の我儘でアニアスに寄ったため、トラリアの東山脈の反対側、西の海岸沿いからのスタートとなる。
なので経路は自治都市同盟の北側を沿うように東へ向かう事になる。
一応、目立たない為、徒歩で移動をするため、トラリアの東端へと到着するのに一週間は掛かるのではないかと思われる。
マップを確認すると、東への道には都市と呼べそうなものは存在しない。
もう少し北側の道を使えば幾つか都市が存在するのだが、フラウロスが同道しているので、あまり人と遭遇したくないと考えての事だ。
フラウロスは一見、豹人族に見えなくもないが、何らかの事態が起きた時、魔族と見破られる可能性があるので、動物の豹の格好に
こういう時、変身能力がある種族はマリスも含めて便利ですな。
移動がてら、フラウロスに魔族について聞いてみる。
メフィストフェレスは人魔大戦後の魔族事情は知らなかったので、フラウロスから現在の魔族の状況を聞くのが一番早いからね。
「フラウロス、魔族は今、ティエルローゼにどれほどいるんだ?」
「ディアブロ様を筆頭に、およそ二〇人ほどの魔族が未だにティエルローゼで潜伏中です」
「ディアブロ?」
「はい。魔軍将軍ディアブロ様が、全ての魔軍を統括しております。しかし、人魔大戦以降、新たな魔族をこちらに送り込めませんので、今では二〇人程度しか存在しないのです」
その二〇人の魔族が各国や都市などで暗躍しているわけか……
「俺たちも何人かの魔族を退治したんだが、それ以外に二〇人か……」
「あ、ラウムが死にましたので一九人ですね。失礼しました」
フラウロスのラウムへの嫌悪は相当なものなのかね。仲間の魔族だというのに「死んだ」とか歯に衣着せぬ言い方だよ。
「俺たちは他に、アルコーンとオノケリスを倒したんだが」
俺がそういうと、フラウロスが驚愕する。
「オノケリスはともかく……アルコーン様をですか!?」
「ああ、一年くらい前になるかなぁ。大陸東のブレンダ帝国に入り込んでいたのを看破してな。苦労はしたが絶息せしめたのは間違いない」
フラウロスは信じられないといった顔だったが、思案顔になる。
「なるほど……計画の進捗報告などを行っていた割りに返信がまるで無かったのはそのためでしたか……」
「自治都市同盟の計画はアルコーンが立ててたそうだけど?」
「はい。主様が現れた為、計画の頓挫は既定路線となりましたが」
フラウロスの返答は何ら悔しげでもなく、淡々としたものだ。
「魔軍の最終目的は何なの?」
「ティエルローゼの秩序を破壊し、混沌の内に魔族が影から支配することです。
それと、かの青き世界の強力な魔法道具や武具を手に入れることですね」
なるほど、やはり俺が考えていた通りの事を目的としていたようだ。
東側で暗躍していた魔族たちは、ファルエンケールが所有していたタクヤのインベントリ・バッグが目的だった。
西側の魔族は秩序の破壊を計画しているわけだ。
「そのディアブロってのはどこにいるんだ?」
「ここ、一〇〇〇年ほどバルネット魔導王国に潜んでいますね。救世主が持っていたという遺物を何とか我が物にしようとしていますよ」
「なんだと!?」
「主様、あまり大きな声を出されると……」
フラウロスが周囲を警戒するように見回している。
「ああ、すまん。バルネットにはシンノスケの遺物があるのか?」
「シンノスケ……そう、救世主はそんな名前でしたっけ。はい、あるのですよ。シンノスケとやらが残した鞄が一つ」
インベントリ・バッグだ。間違いない。
「で、その鞄のある場所とかもわかってるのか?」
「当然です。とある神殿に納められています。ディアブロ様はそこの神官長に憑依しているのです」
目の前が真っ暗になりそうだよ。もう、そこまで計画が進んでいるとなると、早めに対処するべきだろう。
「ただ……」
「ん? ただ何だ?」
「その鞄は強力な魔法結界が付与されているとかで、我ら魔族であっても触れることも、移動させる事も、開ける事も、叶わぬと聞いています」
当然だな。インベントリ・バッグは基本的に本人以外には使用不可能なんだからね。
たとえレベル一〇〇の魔族がいたとしても、無理な相談ということだ。
だとすると、それほど火急の危機というわけでもないのか。ヤマタノオロチの件が解決した後に、バルネットに潜入してみるか……
「ところで、そのディアブロというのは強いのか?」
トリシアがフラウロスに話しかける。フラウロスは胡散臭そうにトリシアを見つめる。
「主様以外に仕えているつもりはない。応える意義を見いだせないが?」
俺には気さくな話し方だが、他の仲間には横柄になるなぁ。
「フラウロス、トリシアはお前より強いぞ? 俺の仲間たちは全員そうだ」
「ご冗談を……」
「いや、事実だ。俺は今、お前たちと戦った為か、レベル九五になった」
「九五!?」
「ああ、そして仲間たちは……」
トリシアは七九、ハリスは七四と七一、マリスは七七、アナベルは七六だ。
魔族との戦いは、異様に経験値が高いらしいんだよな。
「全員、お前よりもレベルは高いし、全員精鋭だ。怒らせると怖いぞ?」
フラウロスは身震いしている。
「ふん、恐れ入ったかや?」
マリスがニヤニヤしながらフラウロスの頭をポンポンと叩く。
「くっ! そんな人類種がティエルローゼにいようとは……」
「我は人類種に変化しておるが、人ではないのじゃ」
フラウロスが目を丸くしてマリスに視線を向ける。
俺は苦笑してマリスの正体を教えてやる。
「これは秘密だが、マリスはエンシェント・ドラゴンなんだよ。お前たち魔族にとってはカリスの裏切り者なんだろうけどな」
「なんと! カリス様が最初に作りせし最強の存在ですと!?」
フラウロスは興味深げにマリスを見る。
「我はマリソリア・ニズヘルグ。ドラゴンの時はこの名前じゃ。今は、人族に変化しておるからマリストリア・ニールズヘルグじゃぞ。覚えておくのじゃぞ」
「はっ! この生命に代えましても!」
どうやら、フラウロスはドラゴンには頭が上がらないようだ。
「カリス様が最初に創造された方に会えるのは望外の栄誉です」
「あれ? 裏切り者とかアルコーンは言ってたけど?」
「そうなんですが、でもカリス様がお作りになられた存在ですからね。我は畏怖の念を抱かざるを得ません」
「良い心がけじゃのう」
フラウロスの言葉にマリスは気分がいいようだ。
「でも、魔族なのに随分気さくなのですね?」
アナベルがニコニコ顔で言う。
アナベルにとっては天敵にあたる存在だと思うんだが、アンデッドの時と比べると反応が緩やかですなぁ。
「アナベルはフラウロスが魔族なのが気にならないのか?」
俺がそう聞くと、アナベルは首をかしげる。
「何故です? このニャンコちゃんはケントさんが支配なされたのでしょう?」
「それはそうだけど……ほら、アンデッドの時は落ち込んでたからね」
「あのメフィちゃんも神の下僕になったんです。ケントさんの下僕なら、何の問題もないのです」
そういうもんなんですか? アナベルの判断基準が俺にはよく解りません。
「メフィちゃんて誰です?」
「ああ、メフィストフェレスの事だね」
「へぇ……行方不明だったメフィストフェレスは、神の軍門に下っていたのですか……」
どうやら、メフィストは人魔大戦の折、行方不明と魔軍では判断されていたらしい。どこかで死んでいると考えていたので捜索もされなかったようだ。
「ま、お前は俺の下僕になったけど、仲間たちの下僕としても仕えろよ?」
「承知しました……」
フラウロスにとっては不本意かもしれないが、いざという時に仲間の命令を聞かないなんて事になると困るのでね。
俺はインベントリ・バッグからパトリシアに貰った魔法のシミターを取り出す。
一応、鑑定をしておきたいのだ。
「
俺の頭の中にシミターの能力が流れ込んでくる。
「おお、なるほど……こりゃ俺よりマリス向きの武器だな」
「なんじゃ? 我に使えるのかや?」
「ああ、これ、魔族系……というかカリスの眷属が使うと攻撃力が上がるんだ。ドラゴンも一応、カリスの眷属だろ?」
「そうなるのう。不本意じゃが」
この剣はカリスの眷属が使用すると「攻撃力+三〇」、「命中率+二〇」という破格のボーナスが付く。
レベル五〇以上の者が使うことで能力をフルに発揮できるそうなので、マリスにはもってこいだろう。
ちなみに、眷属でないものが使っても攻撃力と命中率が+一〇される。
ダメージ値も普通のシミターの二倍だしな。恐ろしい武器だ。
「あとで、『刃よ』のコマンド・ワードを追加しておいてやるよ」
「頼むのじゃ! 新武器は嬉しいのう!」
そのやり取りを見ていたフラウロスが俺に質問してくる。
「主様は魔法の付与なども得意なので?」
「ああ、魔法道具とか作りまくってるから、得意の内に入るだろうね。
ちなみに、トリシアもできるよ?」
「凄いですね。ディアブロ様配下の者で魔法付与ができるのは一人しかおりませんので、この段階で魔族の負けは確定です」
ほうほう。魔法付与のできる魔族か……フラウロスみたいに配下に加えられたら便利だな。この魔剣を作ったのもそいつだろうし。
「そいつはどこにいるんだ?」
「バルネット魔導王国の北東あたりの
魔導王国を名乗っているだけあって油断ならんなぁ。
潜入時には、監視魔法とか様々な魔法に対抗する手段を用意しなきゃだろうし大変そうな気がする。
しかし、シンノスケのインベントリ・バッグを確保して管理する必要があるだろう。
面倒だけど、そのうち行かねばならないな……
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