第21章 ── 第22話

「さっきは避けられたのじゃが、今度はそうはいかぬのじゃ」

「よくぞ人族の子供ごときが、あれほどの動きとスキルを身につけたものよ」


 マリスにラウムがカチカチとくちばしを鳴らす。


「舐めた口を利くのう。では本気で行くのじゃ!」


 身構えたマリスの目が光る。


「スイフト・ステップ! ガトリング・ソード・スティンガー!」


 マリスの身体が四つの残像になり、ラウムの周囲を取り囲む。

 そして、機関銃弾のように猛烈な連続突きがラウムの部位を個そぎ取っていく。

 翼がもがれ、肩の肉が吹き飛び、あばらが露出する。


「ぐぉ!? な、何だ……この力は……」

「おらおら! よそ見してると瞬殺だぞ!?」


 その声に振り向いたラウムの目に巨大なハンマーヘッドが飛び込んできた。


「雷剛転神槌!」


 稲妻を纏ったウォーハンマーがアナベルの身体の周囲をグルグル周り、上下左右からラウムを襲う。

 しかし、ラウムは人間では考えられないような姿勢で攻撃から逃れようとする。


「させぬ………模技……四肢切断ディスメンバーメント……」


 ぬ! 俺のスキルを!? 模技って事はスキル模倣をするためのスキルか!?


 ラウムの四肢が吹き飛んだ。


「とどめだ! スナイピング・ヘッド・ショット!」


 乱戦でライフルを打ち込むのは凄い自信だ。スキルによって命中率などが上がっているにしても、相当自分の腕を信用してないとできない。


 仲間たちもトリシアに対しては凄い信頼感ですよ。

 射撃音を認識しても、身体の挙動に乱れがない。俺なら銃声なんか聞こうものなら硬直したり、伏せたり、テーブルの下に隠れるかもしれん。


 トリシアの発射した弾丸は、正確にラウムの狭い額のど真ん中を貫いた。

 ラウムは糸が切れた人形のようにグタリと地面に崩れ落ちた。


 やはりラウムのレベルでは仲間たちの敵にはならなかったか……まずあの四人を舐め過ぎだったのがラウムの敗因だろうね。


「こちらは……まだやらなくて良いのか?」


 俺が余所見をしているというのに、攻撃すらせずにフラウロスは待っていた。


「ああ、すまん。あっちの戦闘が気になってね」

「そうか。確かに興味深いものがあった。人族とエルフがラウムを一瞬で片付けるとは……」


 フウラウロスは腕を組んで顎の下に手をやる。


「あの戦闘を見ると、貴殿も相当な腕であろう。我も滅せられるやもしれぬ」


 フラウロスは悲壮感もなく淡々としゃべる。

 先程の笑っていた態度とは全然違い、フラウロスは静かに喋っている。


「殺されるかもしれんのに怖がりもしないんだな」

「まあ……我も長く生きてきたからな。そろそろ死んで楽になってもいいと考えている」

「戦わずに死ぬつもりか?」

「いや、抵抗はさせてもらおう」


 俺が剣を構えると、フラウロスも防御体制を取った。


 こいつとはもう少し話してみたいんだが……


「魔族はティエルローゼで何をしようとしているんだ」

「知らぬが、この世界を破壊したいのだろう。我は命令されているに過ぎぬ」


 小手調べに紫電を打ち込んで見る。


 フラウロスの爪を延ばした両の手が容易く紫電を弾く。

 やはりあの爪は体の一部を変化させただけでなく硬質化も行われている。オノケリスも同じような能力を持っていたね。

 魔族には似たような能力もあるわけだ。


「では、こちらの攻撃だ。炎の輪フレイム・サークル!」


 俺とフラウロスを取り囲むように炎の壁が出現する。

 やはり魔族は当たり前のように無詠唱だ。


「これで、貴殿の仲間たちは我らの戦いに手を出すことはできぬ」


 包囲殲滅されるのを防ぐ手としては悪くない。だが、それは隔離した敵が自分より劣っている場合だ。


「そして、もう逃げられぬ」

「それは俺のセリフだよ。レベル六八程度じゃ俺には勝てないね」

「な、なぜ我のレベルを……」

「それが俺の特殊能力なんだよ!」


 剣を素早く振り、鋭い爪を切り落とそうとする。

 だが、フラウロスは剣を防ぐのではなく、斜めに受け流すことで爪が破壊される事を回避している。


「中々手慣れているな……」

「ふふふ。並の攻撃など我の驚異にならぬわ。では、こちらの攻撃だ」


 フラウロスが腕を交差させる。爪の先に火が灯る。


「我の最終奥義で決着をつけてやる……炎の牢獄フレイム・プリズン!」


 フラウロスが手をバッと広げた瞬間、炎の壁の内側が完全に炎に飲み込まれる。


「くっ!!」


 炎耐性がある俺でも、さすがに炎に包まれればダメージを受ける。

 それに、この魔法は持続魔法のようで、消える気配は全くない。


 俺のHPバーからジワジワと生命力が奪われる。

 俺の皮膚が黒く変色し、動く度にパリパリと変な音を立てる。


「一瞬で倒せば……」

「ふははは。無駄だ。この魔法は我が死んだとて消えることはない!」


 ぬぬ。自滅覚悟の魔法だったのか!?


 その時だ、充満した炎がユラリと揺れた。


「我ガ主ニ、コノ仕打チハ許サヌ」


──ゴゴゴゴゴ……!


 炎が一箇所に集まっていくと、その中から巨大な爪を持つ炎の腕が現れる。


「あらら……あいつも魔法使わずに出てくるんかよ…‥」


炎の境界をかき分けるように巨大で厳つい顔がヌッと現れる。


「な、なんだとっ!? イ、イフリート!?」


 炎を操る事を得意とするフラウロスも、さすがに驚くよな。

 俺も驚くのを通りこして呆れてしまいます。やっぱ俺、人間やめちゃったかも……


 イフリートの全身が現れる頃には、取り囲んでいた炎の壁も、充満する炎の渦も綺麗に消え、熱風も何も感じなくなる。


「イフリートを自在に使役するか……」

「イカニモ。我ガ主ハは精霊の主人。我ラガちからを掠メ取る貴様らとは違う」


 む。イフリートの語り口がどんどん滑らかになっていくよ。


「負けだ……我の負けだ。潔くこの生命を捧げるとしよう」


 観念したフラウロスは抵抗を諦めて目を閉じた。


「待て!」


 フラウロスにイフリートが手を延ばしたので、俺は攻撃を止めさせる。


「御意……」


 イフリートは従順に従う。


「な、なぜ殺さぬ?」

「無抵抗のヤツを殺す趣味はないんだよなぁ。例え、それが魔族であってもな」


 フラウロスは信じられぬものを見たという顔だ。


「魔族と人類種は三八二六七年前より天敵同士。後悔することになるぞ?」

「別に生きたまま逃がすとは言ってないぞ?」

「どういうことだ……」

「俺に従え。そうすれば生かしてやる」

「裏切るやもしれぬぞ?」

「裏切った時は、瞬時に精霊たちがお前の命を奪う」


 俺がそういうとイフリートの厳つい顔が頷く。


「その通りである。全ての精霊がお前の一挙手一投足を監視し、叛意を感じた瞬間に抹殺する!」


 フラウロスは諦めたような顔になる。


「なるほど……イフリートだけではないと言うことか……」

「無論である。主殿は全ての精霊の主なれば!」


 おいおい……マジで全てなのかよ……


 これは不用意な発言をしないように気をつけないと相当マズイな。

 チートとかそんなレベルじゃないだろ。世界のバランスを破壊しかねない。


 なんて空恐ろしい……俺の魔法の威力が跳ね上がったのも精霊の力を支配したからかもしれん。


「そういう事であれば、我はこの世界で……この人間の役に立てば良い。太古の昔、かの世界でも我はそうしてきたのだから」


 太古の昔? かの世界? 何を言っているんだ?


「それは俺の下僕にでもなると言っているように聞こえるんだが?」

「無論、その言葉通りの意味だ。陰ながら貴殿を支援・守護する所存だ」


 それを聞いたイフリートが口を開いた。


「ならば命は取らぬ。従順に主に仕えよ」


 そういうとイフリートは元の世界へと帰っていった。


「では主殿、我も闇より貴方様をお守りいたそう」


 そういうとフラウロスは地面の影に沈み込み、姿を消した。


「やるのう。あのメフィストと同じように配下にしたのじゃな?」


 マリスがポカーンとしている俺の所までやってきた。


「ここまで来ると、さすがに普通とは言えないな」


 トリシアも苦笑している。


「新たなる神話が今紡がれているのだ! 私はこの物語を神殿に伝えなくてはな!」


 アナベルが鼻息を荒くしている。でも、ダイアナ・モードの時の記憶は元に戻ると覚えてなんじゃなかったっけ?


「ビックリ箱だ……俺は……この言葉だけは……使い続ける……」


 ハリスまで……


 でも仕方ないか。

 この世界の理の源である精霊たちを支配してしまったという事は、創造主並の力を手に入れたという事だと思う。

 善悪に関わらず、この力の行使は世界に甚大な影響を与えかねない。

 より一層、自制しなければ……本当に気をつけないとマジでヤバイ。

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