第21章 ── 第18話

 走りながら、海賊たちに顔を出すなと言っておく。


「しかし、ケントさん!」

「マリーさんは、港の他の場所を確保してくれ!」


 同じ街の人間同士が争うことはない。汚れ仕事は俺たちがやるさ。


 四本ほど矢が飛んできたが、二本はマリスが盾で弾き返し、残りは俺が剣で切り飛ばした。


「矢が効かねぇ!」

「に、人間かっ!?」


 はい、人間です。多分だけど。


「盾よ! チャージ・デストラクション!」


 マリスが盾のコマンドワードで防御を強化し、回転しながら敵のバリケードにぶち上がる。


──ドガーーーン!


 バリケードが一瞬で半壊し、それの余波を受けて周囲した海獺シー・オッターの男たちもふっとばされる。


「ハリス!」


 俺の掛け声と共に、吹き飛ばされた男たちの周囲に分身ハリスが男たちを拘束していく。


「しゃらくせいっ!」


 シミターを左右の手に持った男がグルグルと独楽のように回転する。

 拘束しようとしたハリスが切り刻まれていく。


「なんだとっ!?」


 普通の人間にハリスを切り刻む事などできるはずはない。


 こいつ! やってくれたな!


 俺は無意識に左手を男の方に延ばした。俺の手が虚空を掴む。


「ぎ、ぎゃぁあぁぁ!!!」


 悲鳴を上げている男の身体が何か大きな圧力を受けたように拉げていく。


「ぎぎぎ……」


 男はあっという間に潰れていき、妙な声を洩らし意識を失った。


「ハリス! 無事か!?」

「問題ない……」


 俺の後ろからハリスの返事が帰ってきた。振り返るとハリスが影から顔を出して手を振っていた。


「ビビらすなよ……分身だったんか」

「本体が……安全地帯から……分身に仕事をさせる……のが……基本戦術……」


 ごもっともですな。でも、さすがの俺も慌てたよ。


「それより……今のは……何だ……?」

「今の?」

「触れもせずに、あやつを握りつぶしたのじゃ。やはり原初魔法に似ておる気がするのじゃ」


 マリスが感心したように俺の左手を手にとって見つめている。


「いや、俺は何も……」


 しかし、そうは言ってもあの男は何かに潰されて虫の息だ。


 他の男は他のハリスに縛られてモゴモゴやってて動けずにいる。


「敵はこれだけか?」

「今のところ他にはいないようじゃな」


 俺も周囲を大マップで確認するが他の敵は確認できない。


「ということは、敵の本体は街の方という事だろうな」

「何者じゃろうか?」

海獺シー・オッターの手のものだと海馬シー・ホースの戦闘員が言っていたな。捕まえた奴らを尋問すれば正確な情報が解るだろ」


 ハリスの分身たちが引きずってくる男どもを見ながら、俺はマリスにそう応えた。


「さて、とりあえずの脅威は排除した。このまま街まで上がるか」


 その戦闘の一部始終を見ていた海賊たちは唖然として俺たちを見ていた。


「お母さん……見た?」

「ええ……あの人たち……物凄いわね。自分たちの二倍の数を一瞬で……」


 パトリシアが得意げに鼻をこする。


「ふふん。アタイが見込んだだけはあるよ! さすがケントね!」


 親子二人は感心したように俺たちの方を見ていた。



 男どもをパトリシアたちに引き渡し、トリシアとアナベルを合流させる。


「街を攻撃しているのは、多分この街の海賊だと思う。

 俺の推測では……」


 海獺シー・オッターのやつらは動揺はしていたけど、パトリシアたちと認識した上で攻撃してきた。


 俺はギルドの会議で顔を合わせた面々を思い出す。

 あの会議に出た海賊ギルドの奴らで、今回の総力戦に参加していないのは二つのギルド……


 一つは海獺シー・オッター。もう一つは……


海鮫シー・シャーク……だったかな……」


 遠洋航海のせいで船員が休暇でいないために参加できないといっていたヤツのギルドだ。

 この街の襲撃を行っているのは、海獺シー・オッター海鮫シー・シャークなのではないか?


 襲っている理由は情報が足りなくて推測できないが、今は街を守ることが最優先だ。


「敵は海獺シー・オッター海鮫シー・シャークの奴らだと推測する。

 これから五人で散開して奴らを潰していくぞ」

「承知……」

「了解じゃ」

「承りだぜ!」

「で、どうやって敵だと判断するんだ?」


 トリシア以外の面子は即答だったが、トリシアが不安点を問いかけてくる。


「そこは大丈夫。こうして……」


 俺は大マップ画面で二つのギルド員を検索し、手当り次第にピンを立てる。


「で、こうやる」


 大マップ画面をパーティ・チャットの吹き出しにドラッグ&ドロップだ。


「おお……これは……」

「なんか来たのじゃ!」

「スゲェ! ケントはやっぱりスゲェ!」

「なるほど! ケントの大マップとかいう能力石ステータス・ストーンの画面だな」


 俺は頷く。


「このピンが全部、海獺シー・オッター海鮫シー・シャークの奴らだ」

「では、このマップを元に奴らを殲滅する! ただし、ボスたちは生かして拘束しろ!」


 トリシアの指示に仲間たちが頷いた。


「マップは自動更新されているから、敵がどこに動こうと見つけられるよ。ボスはコイツらだな」


 検索画面でボスに色の違うピンが二つ立つ。


「確認した。奴らは高級宿屋の一室にいるようだな」


 トリシアが新たなピンの場所をチェックしている。


「それって、この街に来た時見た高級宿屋だな。サミュエル亭の娘の食材を横取りした宿屋だね」

「こいつらを先に捕まえれば良いのかや?」

「いや、こいつらは最後にしよう。ボスが拘束されたと知ったら、奴らの手下は逃げ出すだろう。四散した連中を各個に討伐するのは面倒になるぞ」


 トリシアの言うことももっともだ。


「都市を五人で円状に囲んで、その円を縮めていく感じにしよう。ハリスは二〇人に分身できるから、人手は十分だと思うが?」

「都市はかなり大きいぞ? 二四人で大丈夫かや?」


 確かに街は大きいが、どこに敵がいるのか判明しているなら各個撃破は比較的楽だろう。


「そこは臨機応変に行こう。敵の場所は見えてるんだから、突破されそうな場所はその左右のメンバーで支援してくれ」


 俺がそういうと、アナベルがバシンと右拳を左手に打ち付けた。


「了解だぜ! やっと戦えるな!」

「思う存分やれ」


 トリシアがニヤリと笑いアナベルをけしかけるように物騒な事を言う。


「ほどほどにな……街を壊したりするなよ。被害を賠償するのが大変になる」


 ピンの数は全部で五〇〇ほど。

 それぞれが三~五個ほどで集団行動をしているようだ。


「では行動開始だ!」

「「「「おう!!」」」」



 俺たち五人は螺旋通路を駆け上がる。


 一番上にたどり着き、北側の大型、中型のエレベータ付近にいた二〇人の賊たちを瞬殺しておく。


 賊の死体が無残に転がっている。


「死体はこのままにしておけ。庶民が見たら逃げ出すし、敵が見ればこの場所には近かないはずだ」

「カラスが食いに来るんじゃないか?」


 トリシアが首を傾げる。


「風の精霊に頼んでおく。空を飛ぶ奴らには有効だろう」


 俺は空を見上げて脳内のスイッチをオンにする。


 俺の周囲には妖精のような天使のような小さい存在が飛び回っている。


「シルフたちよ!」


 俺の呼びかけに、その小さい存在たちが集まってくる。


「主様!」

「主様が話しかけてくれた!」

「わーい! 主さま~~!」


 俺の周りを小さい存在が飛び回る。


「シルフたち、お願いを聞いてくれるか?」

「何でも言って下さい!」

「僕もやる~」


 よしよし。いいぞ。


「この街で暴れている者たちがいる。人々を苦しめている者たちだ。俺はそいつらを退治するつもりだ。逃げ出す者を出したくない。それと、死体に群がるカラスなんかは排除してくれると助かる。協力してくれ」

「逃さなければいいの? それとカラスね?」

「そうだ」

「簡単だよ~」

「簡単簡単!」

「町ごと覆っちゃおう!」


 シルフたちの身体が光り始める。


 段々と光が強くなり、そして小さい人影が光の中に見えなくなっていった。


「な、何事じゃ?」

「目には見えんが、周囲の空気が変わったな」

「おおお。まさに神の御業!」

「やはり……ビックリ箱だ……な」


 光が治まったので目を開くと、シルフの姿はいなくなっていた。

 俺の願いを聞いて何か対策を講じてくれたんだろう。


「これで大丈夫だ。街から逃亡する賊どもはシルフたちが抑えてくれるはずだ」

「もう精霊使いとかいうレベルじゃないな。神の領域だぞ」

「私もそう思うぜ! 精霊を魔法も無しに使役するなんざ、人間技じゃねぇ!」


 いや、使役してなんかいないんだがなぁ……お願いしただけだし。


「あまりそういう事言うなよ。俺は普通の人間のつもりだぞ。確かにちょっとレベル高いし、ここの世界の人々とは違う部分もあるが……」


 トリシアとアナベルに俺がそういうと、マリスが割り込んでくる。


「そうじゃぞ! 細かい事を気にするとは! それでもお前らはケントの仲間かや!?」


 マリスの剣幕にトリシアがタジタジになる。


「わ、私はそういう意味で言ったんじゃ……」

「そういう意味でなくて何じゃ!? ケントは我らを守ってくれる素敵な存在なんじゃぞ! そうやって特別視すると、ケントは寂しい思いをするのじゃ! 我は解るぞ。ケントはそこから我を救ってくれたのじゃから!」


 トリシア、アナベルがショボンとした顔になる。


「スマン……マリス……俺は……」


 ハリスまでも謝りはじめた。


「おい! みんな! 今はそんな事どうでもいい! 人々を助けるんだ!」


 俺の言葉に仲間たちが反応した。


「配置に付け! ピンを囲むように移動しろ。自分たちのピンを確認しておけよ。人々の安寧を壊す脅威は排除する!」


 俺が怒鳴ると、仲間たちが動き出した。


「いくぞ! みんな!」


 トリシアが号令を掛け、みんなが各方向に走り出す。


 さて、俺もやるかね。

 まずはこの倉庫区画付近から行こうか。

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