第21章 ── 第13話
セイレーン部隊の後方から氷の礫が大量に飛来する。
水中を軌跡を描いて跳んでくるそれは、まるで魚雷のように俺たちに迫る。
「
俺は無詠唱で魔法防御の力場を展開させるが、数発が力場をすり抜けて最前面のマリスへと命中した。
だが、マリスは大盾でガッチリと全身をカバーしていた。
アダマンチウム製の盾に巨大な氷礫がぶちあたり、水の中だというのにガンガンと大きな音を立てる。
「くっ! この程度……エンセランスのブレス攻撃に比べれば屁でもないのじゃ!」
大マップ画面を開き、セイレーンの
「げ!! こんなに
魔法が盛んな帝国ですら、王国侵攻軍に
さすがは水生エルフ族であるニンフと言うべきか。
「トレイリアが夢見し深淵より来たれ! 我が脅威なる敵を無力化せよ!
無数の閃光が扇状にセイレーンの群れを駆け巡る。
閃光に触れた人魚たちは、一瞬で身体を硬直させ、周囲の海中を漂い始める。
「むう! 此度の冒険者は魔法を操るか! 魔導部隊は支援に充たれ! 敵の魔法は強力だぞ!」
メアネスが吼える。
「魔法だけだと思うな……ラピッド・インパクト・バレット!!」
トリシアのライフルが無数の透明な弾丸を渦を巻きながら発射する。
その弾丸は前面に展開するセイレーンの前衛たちにぶち当たった。
透明な弾丸は、人魚に当たった瞬間、そこを中心に猛烈に膨れ上がり巨大な竜巻のような渦を発生させ、それぞれの弾丸で一〇人もの人魚が巻き込まれていく。
竜巻の運動エネルギーは水生生物である人魚に対しても絶大な圧力を掛け、次々に人魚の意識を刈り取っていく。
「じゃ、そろそろ我も行くのじゃ! 刃よ!!」
盾と光る剣を構えたマリスが、魚雷のように敵の戦列に飛び込んでいく。
「ミラー・ステップ! フラッシュ・エクスプロージョン!!」
マリスが左右に二人に分裂し、掲げた剣から猛烈な閃光が走る。
閃光は光球となり、人魚を飲み込んでいく。
突然、光球が破裂しその範囲内にいた人魚たちが目を押さえてジタバタと暴れ始めた。
「何をしている! 反撃せよ!!」
今の所無事な前衛人魚たちが、鉾を構えて突っ込んでくる。
「させねぇ!」
ダイアナ・モードのアナベルが絶叫し呪文を唱え始める。
『ジェルス・ウーシュ・ダズール・マジリア・ヴィーガン・シルディス・イクシュール・スフェン・ラクリス・モート・ライファーメン!』
俺たちの周囲に青い防御壁が発生する。
『
飛び出してきた人魚の動きが障壁に入るやいなや、ピタリと止まったように見えた。
人魚たちは通常の一〇分の一程度の速度でしか動けなくなってしまった。
ハリスが二〇人に分裂し、動きの遅くなった人魚たちに襲いかかった。
「絶刀……縛……!」
青白く光る忍者刀が人魚たちに炸裂した。その途端、青いロープのようなものが人魚たちを次々に縛り上げる。
忍者特有の素早さで、次々と人魚たちにハリスの刃が振るわれていく。
この第一ラウンドで、あっという間に三〇〇人からの人魚が行動不能に陥った。
その状況を見た人魚たちは明らかに浮足立っている。
「ば、馬鹿な……たった……たった五人だぞ……?
それってシンノスケが手加減してたからじゃねぇか?
前にエインヘリヤルでシンノスケが出現した時だって、一振りで二〇人からの忍者をブチのめしてたしな。
メアネスの囁きに、俺はそんな事を思っていた。
「さ、再編せよ!」
メアネスの悲鳴にも似た号令に、まだ無事な人魚たちが隊列を組み直している。
それ、個人戦闘では悪手だよね。一ラウンド無駄にするじゃん。
「我が種族最大の奥義で当たる!」
ほう。それは見てみたい。
「みんな! 何か来るぞ。集結しろ!」
トリシアも俺と同じように思ったのか、再集結の号令を掛けてきた。
マリスを頂点に俺とハリスたちが、トリシアとアナベルを守るように楔形のフォーメーションを構築する。
「ふふふ。この攻撃を受け止める気のようだが……それは無理だ!」
人魚たちの後方で
「むっ! 儀式魔法か! ケント! 多分、想像以上の大魔法が来るぞ!」
儀式魔法? そういやエマからそんな魔法の行使方法を聞いた記憶があるな。
「もう遅い。いけ!」
人魚の
『『『『『『
海水がまるで生き物のように大きくうねり、巨大な海流となり俺たちめがけて襲いかかってくるのが全身で判った。
「こ、こりゃマズイな。確かに隠し玉だよ」
俺は思考を猛烈に素早く回転させる。
魔法の根源が精霊ならば……その根源を抑え込めれば……
「盟約の主として命じる!!」
俺は張り裂けんばかりの大声で、ある存在に話しかけた。
「ウンディーネよ! 我らを守れ!!」
突然、何十メートルもあろう青色のローブを着た女性が俺たちの目の前に現れた。
そのローブの女性が
すると、海流のうねりが一瞬で消えてしまった。
「な、な、なんだとおおおぉぉぉおおぉぉぉ!!!!!」
メアネスの大絶叫が周囲に響き渡る。
「主様の御心のままに……」
巨大な女性が振り返り、俺にそれだけ言うと姿が溶けるように海の中に消えていった。
「あれが水の精霊ウンディーネか……」
トリシアがウンディーネが消えていった辺りをみながら囁いた。
「今までの経緯から、呼んだら来るんじゃないかと思ったけど、うまくいったよ」
俺は苦笑しつつ言う。
「イフリートだけでなくウンディーネまで召喚するとはのう。ケントは凄いのじゃ」
いや、イフリートは魔法で召喚したか、ちゃんとMPを消費して呼んだんですよ。
でも、今回はMPなんか消費してません。マジで呼んだだけなんだよ。
「炎に水の大精霊まで呼び出せるなんて、間違いなく神様クラスだぞ、ケント!」
何故か妙に嬉しそうなダイアナ・モードのアナベルが嬉しそうに抱きついてくる。
うーん、巨乳の感触が幸せ。
「そのくらいに……しろ……まだ……戦闘は……終わってない……」
アナベルはハリスに窘められ、俺から離れた。
「ちっ、良いところなのによ。とっとと全員ぶちのめしてやろうぜ」
相変わらず血の気が多いな、巨乳狂戦士よ。
俺はメアネスに向き直るが、メアネスはブツブツと訳のわからない事を囁いている。
「水の精霊を使役など……いや、救世主など……ネプトゥール様の化身……? だが人間だぞ……?」
指揮官であるメアネスが無防備にブツブツいっている姿を見ている他の人魚たちも動揺を隠せないようで、どうしたらいいのか解らないようだ。
「おい、メアネスとか言ったっけ?」
俺がメアネスに呼びかけると、彼女は飛び上がるようにビクリと身体を揺らし、俺の方に目を向けた。
「き、貴様……! い、いえ! 貴方様は! ネプトゥール様の親族の方か!?」
「ネプトゥールって誰?」
俺は後ろを振り返り、仲間たちに聞いてみる。
「ケント。ネプトゥールとは水や海の神だ。森の神の親にあたると言われている。沼や海のニンフを作った御方だぞ」
そういや、ニンフは水の神の眷属なんだっけ?
森の神の眷属がエルフらしいし、ニンフはエルフの上位互換なのかね?
俺はメアネスに向き直る。
「いや、俺はそのネプトゥールなんて神とは関係ないよ」
「しかし! 先程、精霊様を呼び出したではないか!?」
「ああ、俺は風の精霊も森の精霊も呼び出せるよ」
メアネスが愕然とした顔をする。
「そ、そんな存在、わ、我々では歯が立たぬではないか……」
「だから、最初にやれるって言ったじゃん」
「人間どもは、そんな存在を我らセイレーンにけしかけてきたというのか……」
そう言われてもねぇ。俺は加勢しに来たんじゃなくて、戦争を止めに来ただけなんだが。
「で、もう戦う気は失せたって事かな?」
「我々は水の精霊を使役する存在に戦闘を仕掛けるなどという愚かな事はしない。この戦いは我らの敗北だ」
他の人魚たちもメアネスの判断に同意のようで、俺は目を向けるとコクコクと頷いている。
「んじゃ、話し合いをしようじゃないか」
「話し合い……?」
「そうだよ。何で人間の船を襲うのか。
何百年も前からやってるらしいし、その辺りの理由なんかを聞いて、今後どうするか話し合いたいんだよ」
メアネスたち人魚は、俺の言葉に怪訝な雰囲気を醸し出すが、メアネスは一つ頷くと口を開いた。
「判った。冒険者の言葉に従おう」
ふー、やれやれ。誰も殺さずに済んだな。
まあ、まだ完全に結果が出たわけじゃないけどね。
話し合いの結果次第では、また戦闘なんて事もあるかもしれない。
気を引き締めて油断なく事にあたらねば。
では、両勢力に和平交渉をしてもらうとしますかね?
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