第21章 ── 第11話
出港まで三日あるので、それまでに水中戦用の魔法や道具を開発してみようと思う。
通常の
『オルド・ヴァクムス・オーソリオクリスタ・イクシュール・ウータリス・ヘル・ウィンディア』
となる。
この呪文は、水と風の複合属性の魔法で、四レベル。
対象物に、属性で
これに持続時間の
自分と仲間の人数は五人。となると、
『オルド・セクトセル・ヴァクムス・オーソリオクリスタ・イクシュール・ウータリス・ヘル・ウィンディア』
これで自分と仲間四人に水中で呼吸させる魔法の完成だ。
ただ、五分という持続時間や五人固定の部分に汎用性を感じないので、改良の余地はある。
範囲魔法にした場合、周囲全部が対象になってしまうので、敵と味方を識別する
明らかに、MP消費量が爆上がりするんだよねぇ。
それを軽減するためにキャスト・タイムやリキャスト・タイムを導入してもいいが、呪文がどんどん長くなるんだよね。
今回みたいな場合は短い方がいいし、俺ら以外に効果が及ぶと海賊たちが戦いたがるだろうし、無駄な死傷者を増やす事になりかねない。
なので、変更するなら
消費MPが三〇八と多すぎるのは、
普通なら魔法道具を作る時に使うものだが、どの程度戦闘が続くか解らないからな。
これに術者が任意に魔法効果の停止を行える
これだけで、消費MPの係数は二二倍にもなる。通常なら必要がない部分なので普通に使う時は割愛して、元の
このように、俺が魔法改造をすると一般的な
これと同じように
続いて、新魔法の考案。
俺たちは五人しかいないが、セイレーンたちは何百も何千もいるはずだ。
戦闘エリアを限定的に隔離する必要があるだろう。
そうでもしないと、浮気心を出したセイレーンが海賊の船舶を沈めに行ってしまう可能性が非常に高い。
生命属性魔法レベルは、今六レベルあるし大丈夫だろう。
そこから、色々と魔法術式を色々と弄くり回す。
追加、削除、変更……
色々といじくり回しているが、微妙に決まらない。
全てを隔離するなら簡単なのだが、俺と仲間たち、海水などは対象から外しておく必要がある。
そういった対象の選別を一つ一つ設定するのは、詠唱術式では難しい。
こういうのは、魔法道具などで副次的な記憶媒体を用意して、設定するのが楽なんだよね。
所謂、リレーショナル・データベースというヤツだ。
大抵の場合、工房のどこかにあるデータベースをリンクしてリレーション・ファイルを作ってリンクさせているのだが、呪文に応用したことはないし、それが可能かどうかの文献はシャーリー図書館にもなかった。
という感じで、四苦八苦しているんだよねぇ。
データベースとリンクするにはリンク用の魔法道具を作るしかないかな。
遠距離操作端末を作るしかないんだが、さすがの俺も三日で用意できるか自信がない。一週間は必要だぞ。
小型翻訳機などは、一つのログを引き出すだけなので簡単にできたんだけどなぁ。
次の日も新魔法の作成をしていたのだが、トリシアがやってきたので一時中断。
「ケント、私の武器なのだが」
「ん? ライフルとハンドガンの事?」
「そうだ。スナイプ・エンティルとガンズ・エンティルは水中でも使えるのか?」
また安直な名前付けてるよ。
「問題なく使えると思うんだが?」
「一応、水に潜って試してみた。稼働は問題ないんだが……」
「別の問題が起きたのか?」
「水中では弾丸が直進しない」
俺は頭を抱えた。
水中での抵抗は、弾丸には致命的だ。あっという間に弾丸の運動エネルギーは減衰してしまう。
「確かにそれは問題だな。そこを考慮するのを忘れてたよ……」
さて、これは銃の改造でどうこうなる問題じゃない。となると弾をどうにかしないとマズイ。
しかし、水中でも直進できるような弾を作るとしても、
「解った。武器と弾を置いていってくれ。何か考えておく」
「頼んだぞ」
トリシアが部屋を出ていってから、対応策を考える。
運動エネルギーの減衰をさせないようにするには……やはり弾丸の形状が問題だろう。
しかし、新しく弾丸を作るほどの時間はない。
弾丸に魔法を付与して水中でも問題なく使えるようにした方が建設的だろう。
空間隔離魔法も作らなきゃならないのに、弾丸の魔法付与もやらなきゃならないのか……間に合うかなぁ……
二日後……
俺は眠い目を擦りながら宿の食堂で朝食を食べている。
マリスとアナベルが降りてきて、食堂へやってきた。
「ケント、おはようなのじゃ」
「おはようございますぅ」
二人の元気な挨拶に軽く手を上げておく。
「元気がないのう。大丈夫かや?」
「ああ、三日徹夜したからな。かなり眠い」
「無理はいけません! お休み下さい!」
「いや、今日は出港の予定だろ? それは無理」
マリスが横まで来て俺の頭をワシワシと撫でる。
「ケントは頑張り屋さんじゃからの! 褒めてやらねば! いい子じゃ! いい子じゃぞ!!」
可愛い子どもにイイコイイコされるのも悪くない。
「私は肩を揉んでみるのです!」
アナベルは巨乳を俺の背中に押し付けつつ、肩を揉みほぐし始める。
肩より背中が幸せな気分ですけども。
マリスとアナベルのなすがままになっていると、トリシアが食堂にやってくる。
「お前たち、何しているんだ?」
「ケントがお疲れなのじゃ! 我らで癒やしてやらねばならんのじゃ!」
「そういや、昼夜問わずに起きてたようだな。では私も」
マリスとアナベルを掻き分けて、トリシアがやってきたので振り向くと、徐に俺の頭を抱え込んできた。
アナベルに比べれば小さいが、そこそこあるトリシアの胸に俺の顔が埋まる。
「むぐっ」
少々息がしずらいが、トリシアの柔らかい双丘が中々心地いいです。
「どうだ? 中々気分がいいものだろう?」
「お心遣いありがとう。もう少しボリュームあると天国だったんだが」
「ボリューム……意味は判らんが、アナベルの方が良いと言っている印象を受けるな」
トリシアはアナベルの巨乳に目を落とす。
「なら私が!」
「いや、このくらいがケントには良いんだよ。お前がやると、別の所が元気になるだろ」
「別の所ってどこなんです?」
トリシアが不穏な事を言い出し始めたので、俺はトリシアを引き剥がす。
「もういいよ。元気になったから」
「そうか? 私はもっとやってもいいんだぞ?」
マリスは自分の胸のあたりを触りながら少し不満げな声を出す。
「我ももう少しあればのう……」
ペッタンコですからねぇ……半ドラゴン化したときはパーフェクトなんですけどね!
「ところで、トリシア。武器と弾丸の改良は仕上がってるよ」
「おお、さすがはケントだな」
「部屋に置いてあるから、後で持っていけよ」
仲間たちの準備も終わり、俺の方もほぼ終わった。
「よし、皆。港へ向かうとしようか」
「了解じゃ!」
「海の上は初めてなのです!」
「それはアナベルだけでなく、私たち全員そうだろ?」
港へと向かう道を歩きながら、今日の事を考える。
人魚たちと人間が縄張り争いを繰り広げているなんて不毛だねぇ。
海は広いんだし、奪い合いなんてしなくても良いはずだ。
人間と人魚が平和裏に手と手を取り合って生活できればいいのにな。
アドリアーナや俺の作った商業特区などでは上手くいっているんだし、ここでも二種族間で何らかの合意を見いだせれば……
まずは、戦いを話し合いの場にすることを目指そう。
その為に力を誇示しなければならいなら仕方ない。
東方の人魚たちも海なら自分たちに勝てるものはいないと言っていた。こっちの人魚たちもそう思っているんだろう。
そこを人間が我が物顔で移動しているのが気に食わないと思っているはずだ。
だとすると、戦いは免れない。
面倒な事だよ、全く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます