第21章 ── 第10話
もう深夜だが、俺はパティに連れられて海賊ギルド総会というのにお邪魔することにした。
既に危険も無さそうなので仲間たちは宿に帰らせた。
もっとも、ハリスの分身一体が勝手についてきているようだが。マップ画面を呼び出すと絶えず光点が表示されているからな。
ギルド総会の会場は港の大型エレベータ近くにある登り階段を三階分くらい上がった所にある。
この岩盤を堀り抜いた階段の上には、各種会議や商取引の契約などで使用する小部屋などが数多く作られている。総会会場はそういった部屋を六つほど繋げたような大きさがある。
俺たちが顔を出すと、部屋の中央にある円卓に既に海賊らしい奴らが集まっている。
「パティ、遅ぇぞ」
パティが入ってくるのに気付いた一人が、強面の顔をさらに厳しく歪めつつ言った。
「悪いな。客が来てたんだ」
強面が俺の方をジロリと見る。
「そいつが客か?」
「ああ、そうだ。五〇人を一人で
会話が聞こえた他の海賊たちも興味深げにこちらを見てくる。
注目されるのは苦手なんですけどね……
「パティがとうとう男を作ったのかと思ったぜ」
「パティと比べると、ちょっと老けてるが」
「というか、顔が平凡過ぎて拍子抜けだよ」
パティが腰の六本の短剣を抜き円卓の方へと投げた。
六方向に飛んだ短剣が異常な軌道を描きながら、男たちの周辺をグルグル回ってパティの手に戻ってくる。
「詰まらねぇ野次飛ばしてると耳を削ぎ落とすぞ!」
パティの目が威圧を載せたようにギラリと光る。
さすがに海賊ギルドのボスだけあって堂々としたものですな。
それにしても、あの短剣って魔法の短剣なのか。ハリスの手裏剣みたいで面白いな。今度、調べさせてもらおうかな。
「パティ、そう粋がるな。お前が言うんだ、相当な腕なんだろう」
椅子に座っていた巨漢のヒゲ男がジロリと俺の方を見ながら言い放つ。
「全員揃ったな。椅子に座れ」
巨漢ヒゲが声を掛けると、集まっている男たちも円卓の席に着いた。
パティも椅子の一つに歩いて行き座る。パティの横が一つ空いているので俺もそこに座ってみる。
「もう聞いていると思うが、青髭の船がセイレーンに殆ど沈められた」
巨漢ヒゲの言葉に円卓の雰囲気は重苦しいものになる。
「ここで手を引いては海賊の面子に関わる。三日後までに出港の準備をしろ。総力戦だ」
巨漢ヒゲの言葉を聞いた殆どの男が頷いたが、数人は渋い顔をしている。
「反対の者は?」
「俺の所は一ヶ月の航海を終えた所だ。船員たちは休暇に入っている。船が動かせねぇ」
「俺の所も似たようなもんだ。修理中の船が殆どで戦闘なんて無理だ」
「俺は反対だ。奴らと総力戦をやって負けたらどうするんだ? 全員、海に沈むに決まってる」
最後に喋ったヤツ以外にも三人ほど頷いているのが見えた。
静かに聞いていた巨漢ヒゲが左手を振り上げて円卓に叩きつけた。
ドカンと大きな音が鳴り、円卓がギシギシと軋む。
その左腕の先はフック状の義手になっている。ベタな海賊ですなぁ。
「甘ぇ事言ってんじゃねぇぞ! 一八隻だ! ダチの船を沈められて黙ってられるのか!?」
強烈な剣幕に男どもが身動ぎする。
威圧スキルを使わずに、この迫力は凄いなぁ。歴戦の勇士のそれっぽい雰囲気があるし。
「アタイの所は参加するよ。母さんの敵は討たせてもらう」
「パティ、お前の所は快速船が二隻しかない。戦闘用の物資輸送を担当してくれ」
ガタリとパティが立ち上がる。
「そんなガキの使いみたいな扱いするな! アタイのギルドは百戦錬磨だぞ!」
「それは解っている。だがな、俺はお前をマリーに託されたんだ。無駄に命を捨てさせるような事は出来ねぇ……」
巨漢ヒゲにそう言われると、パティは椅子にドカリと座り直した。
この巨漢ヒゲってパティの保護者みたいな人?
俺はパティの耳に小さい声で話しかける。
「あの人は誰なんだ?」
面倒くさそうな目でパティが俺の方を見る。
「あいつは隻腕のドレイク。海賊ギルド『
アイゼンの鷹? アイゼン信者か何かかな?
「一番大きな船団を従えている大物だよ。アタイの保護者面するから困るんだ」
パティは不満そうだ。
「母さんが生きていた頃、ウチのギルドはもっと大きかった。ドレイクと母さんはアニアスの双璧と言われてた。凄いカッコよかったんだよ」
その母親、マリーはセイレーンとの戦いで命を落とした。
他の海賊たちを逃がすためだったという。
その時ドレイクは、マリーにパティの事を頼まれたと言っているらしい。
巨漢ヒゲは撤退する船を率いて港に戻ったが、待てど暮せどマリーの船団は戻ってこなかった。
戦いが始まった頃に損傷を受けた快速船二隻だけが、パティに残された母親の遺産なのだ。
「ま、ああ言われたけど、パティは行くつもりなんだろ?」
「ああ、アタイはやる」
パティの決意は固いようだな。
「好きにすればいい。死ぬも生きるも自由だ」
俺がそういうとパティが笑った。
「死ぬ気はないけど、一矢報いたい。母さんの無念が晴れるとは思わないけど」
「そこは俺たちに任せておけ。誰も殺させはしないさ」
「凄い自信だね。海の上はそんなに甘くないよ?」
俺は肩をすくめて見せる。
「楽天的なのが俺のチャーム・ポイントさ」
「ちゃ……ぽ?」
「ああ、魅力って事かな? 神経張り詰めて事に当たっても、あまり良い結果は出せないもんだ。程よい緊張感は必要だけどね」
パティも俺の言葉に頷いた。
会議は朝方に終わり、三日後に海賊ギルドの連合艦隊がセイレーンに打って出る事が決定した。
二つの海賊ギルドは使える船や船員がいないという理由で連合艦隊に参加しない事になったようだが、船を出すのを渋っていた他のギルドはドレイクの一喝で船を出す事にしたようだ。
ま、船での戦闘はティエルローゼだと弓矢やバリスタなどで戦うそうなので、人魚と戦うのは難しいだろう。
俺たちが水上、あるいは水中で戦うしかないと思う。
海賊だけの味方になるつもりはないけど、セイレーンに襲われたら人魚側に多少の死傷者は出るかもしれない。
そうなったら、人魚たちに恨まれる可能性は高いな……さて、どうやろうか。色々と戦術を練っておかないとな。
宿屋に帰って一眠りした後、仲間たちを集めてミーティングを行う。
「……てな事で、三日後に出港する。俺たちはパティの船に乗って戦場となる海域に行くことになる」
「海上でどうやって戦う?」
さすがのトリシアも海上での戦いは経験がない。不安は隠しきれない。
「魔法を使うよ。水中で息ができるようにするつもりだけど、水面を歩けるようにしてもいいね」
ただ、水面を歩けるようにした場合、海に引きずり込まれた後の対処ができない。
「俺は
「ふむ。ケントは使えるのか?」
「ああ、使えるよ。水属性の中級魔法だから覚えている」
対象が一人なので、皆に掛けるには術式の改造が必要ですがね。全体化と効果時間延長をするつもりだ。
問題があるとしたら、海賊たちの船への攻撃をどうやって防ぐかだが、これも魔法の草案を思いついているので、出発までには何とかなるだろう。
「水中戦は水の抵抗が厄介になる。ここを計算に入れて戦闘するようにしてくれ」
「水中は動きづらいのかや?」
マリスは風呂で泳いだりするからか、それほど気にならないと思っているようだ。
「水中では地上で戦う時よりもスタミナの消費が激しくなる。
俺もゲーム上の経験しかないから何とも言えないんだが、スタミナの消費配分は考えておいた方がいい」
「肝に銘じておこう」
トリシアも頷いた。
「海の中での戦闘なんてワクワクしますね?」
「アナベル……これは……遊びじゃない……」
アナベルはマリオン信者で戦闘狂だから、初めての戦闘シチュエーションに興味津々なのだろう。
ハリスが厳しい表情を作って嗜めるが、イメケンがやるとカッコ良いので迫力はあまりないね。
「そうだぞ、アナベル。気を引き締めておけよ。それと今回、縛りを一つ儲けておく。殺すなよ?」
「また、それかや? ここの所『殺すな』ばかりじゃのう」
マリスが不満げだ。
「俺らは戦争を止めるために行くんだぞ。虐殺したいわけじゃない。
俺が暗黒面に堕ちた所を見たいのか?」
「暗黒面って何じゃ?」
う……某有名SF冒険活劇の用語だったわ。
「魔神みたいになってもいいのかって事だよ」
「それは嫌じゃのう。ケントがドス黒い闇みたいな顔でウロウロするのは……似合わんのじゃ」
「そんなのはダメなのです! ケントさんはいつもニコニコしているのが似合っているのですよ!」
「私はそれをさせない為にケントに付いてきている。マリス、あまり我儘を言うな」
トリシアに窘められ、マリスがシュンとしてしまう。
「俺は……ケントがどんな存在になろう……と付いて行く……」
ハリスの兄貴、ありがとう。でも、俺もシンノスケみたいに闇落ちするつもりはない。
ダーク・ヒーローには憧れるところは無いとは言えないけど、そんなのを演じるのは難しいに決まってる。
面倒くさい。この一言に尽きる。
俺は自分自身のままで、この戦争を止めてみせるよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます