第20章 ── 第58話

 午後になってしまったが、飛行自動車の作業を開始する。


 一度作ったので設計する手間も無いし、要領も心得ているため、何の苦労もしないで行けそうだ。


 各種部品を取り付けるフレームから作り始めるが、二台いっぺんに作るので裏庭いっぱいのスペースを完全に占領してしまう。部品の作成は比較的広い台所の片隅に作業台を置いてやることに。


 リカルド国王に贈ったプロト・タイプは盛りだくさんだったので、省ける機能を省いたモンキー・モデルをジョイス商会のレオナルドに納品しようと思う。


 一応、この飛行自動車は俺の技術の全てを注ぎ込んでいる。オーファンラント王国にとっては軍事機密といっても過言じゃないだろうから、国防上の問題と考えておく。


 もちろん、安全基準や性能を落とすつもりはない。最高上昇高度、最大速度、運搬可能積載量、搭乗者数を減らすだけだ。

 要は国王に贈ったのが普通自動車、納品用のは軽自動車って所だね。


 ちなみに、俺のはワンボックスのワゴン・タイプにするよ。仲間が多いからゆったり乗れるものにしたいんだ。


 トンカントンカンと魔法の溶鉱炉で作り出したアダマンチウム鋼材を加工しシャシーとフレームを作り出す。

 フレームを廃止してモノコック構造にしたら重量を減らせるかとも考えたが、設計と作成が面倒なので止めました。


 シャシーやフレームはとにかく強度が重要なので、細心の注意で加工する。


 俺が作業を始めた事をメリオンとシルヴィアが飽きもせずに見ている。


「長老様、あの金属は見たことない色をしています」

「あれはアダマンタイト鉱石を金属化したものだ。アダマンチウムと言われておる。

 お前たちはまだ生まれていない時代のことだが、古き魔導文明の時代に製法が確立されたものだ」


 作業がてら、シルヴィアの昔話に耳を傾ける。


 以前、エンセランスが言ってたが、二三〇〇年ほど前に滅んだ文明がアダマンチウムの製法を完成させた。その文明は「アーネンエルベ魔導文明」と言われているそうだ。

 各種の魔法道具や様々な魔法生物などを作り出し、ティエルローゼ全土で栄えたらしい。

 二三〇〇年前、「寇魔動乱」と呼ばれる突如現れた魔族との戦いが起き、あっけなく滅んでしまったという。


 各地に残る遺跡は、この頃のものが多い。そこから出土した魔法道具は、今でもティエルローゼでは大変な高値で取引されている。


 聞いていた俺としては、「アーネンエルベ」って名前が気になりますなぁ。ナチス・ドイツが秘密裏に組織した魔法を研究する組織だとか、UFOを作ってたとか眉唾なトンデモ伝説がオカルト界隈で囁かれていた名前だからな。



 車体フレームは問題なく二台分完成。

 四時間くらいで作れたので、前より製作ペースが早くなったなぁ。


 夜飯の用意のため台所に行くと、エルヴィラが米を研いでいた。


「あ、お疲れさん」


 俺はエルヴィラの横で作業で汚れた手を昨日作った石鹸で綺麗にする。


「お館様、お疲れさまです。何か大きな物をお作りのようですが」

「ああ、ルクセイドの商人に注文されていた物をね」

「何が出来上がるか、私たちの間で話題になっています」


 ふむ。出来たら驚くだろうな。なんせ空飛ぶ車だからな。


「出来てからのお楽しみですな」


 俺は鼻歌まじりに料理の準備を始める。


 今日はフソウとモアスリンの関係修好もあったし、少し豪華に肉料理三昧にしたいね。


 ということで、牛肉をメインに作ります!


 分厚い牛ステーキ、ビーフシチュー、カルビの焼き肉……このくらいでいいかな?

 他にサラダか何かを作るとしよう。


 料理用のテーブルの上に牛肉の塊をどんどん出すと、エルヴィラが凄い勢いでテーブルの方に来る。


「肉ですか!」

「肉ですねぇ。牛の肉です」

「こんなに大量の肉は初めてみました!」


 まあ、肉メインの食事は出してなかったしな。一五人近くいるなら、このくらい必要だろう。


「これを丸焼きにして……」


 おい。随分と乱暴な料理だな。可憐なハイエルフが言うと凄いチグハグだ。


「いやいや、そんなアウトドアな男料理はしないぞ?」

「男料理……!?」


 エルヴィラがガーンという擬音が浮かびそうな顔で打ちひしがれる。

 ちょっと面白くて笑ってしまった。


「ま、俺の料理の仕方を見て覚えるといい」


 とりあえず、煮込み時間が掛かりそうなビーフシチューの仕込みから。


 一口大に切った牛肉に塩と胡椒で下味を付け、じゃがいも、人参、玉ねぎなどを切る。ゴロッと大きめの具になるようにしておく。これは俺の好みだ。


 バターで牛肉を焼き色が付くまで少々強めの火で焼く。うーむ。いい匂い。

 焼き色がついたら、玉ねぎと人参も入れる。

 玉ねぎに火が通り、しなっとしたら寸胴に入れますよ。

 水と赤ワインを投入して蓋をしてから、弱火で煮ます。アクをしっかり取っておくようにしましょうね。


 鼻歌まじりで作業する俺の横で、エルヴィラがすでにヨダレが垂れそうな顔になってます。


「ここから一時間半煮込むから」


 それを聞いたエルヴィラが、某有名漫画のガラスのお面みたいに白目顔になりそうになってる。

 手間を掛けた料理はそれだけ美味いんだ。腹ペコの人には酷だろうが。


「一応、完成までは、二時間は掛かるからね。だから、この間に他の料理もやっちゃう事にします」


 カルビ焼きの準備、カルビを適度な厚さに切って塩と胡椒で下味を付けておく。

 続いて、上から掛けるタレを作ります。細めのネギを刻みボールに入れる。水と砂糖、味噌、粉末にした唐辛子、にんにくと生姜を下ろした物、ごま油、煎りゴマを入れて混ぜて終了ですが、少し酸味を加えたいのでリンゴをすって、布巾にあけて絞ってタレに少し入れておきます。甘みと酸味が程よく入るでしょう。

 あとは中火で焼いた後にネギダレを掛ければオツマミにも最適なカルビ焼き肉完成ですよ。


 ステーキ肉は厚さ二センチくらいでいいか? いつも鉄板で焼いているが、網焼きなんかどうだろう? 炭で網焼きして風味を付けてみようか。


 いつものように、下ろしにんにく、ワサビ、醤油などをお好みで付けて食べられるように小皿に用意しておく。


 そろそろ、ご飯を炊こう。


 エルヴィラが研いだ米を火に掛け、ゆっくりと釜の温度を上げていく。


 流れるように作業を進める俺を手伝いたいエルヴィラだが、手を出す所がないようなので、必死に俺の作業をメモしている。


 何度もビーフシチューの鍋からアクを取る。


 つづいてデミグラスソースを作ろう。


 鍋に小麦粉を入れて加熱、きつね色になるまで炒りましょう。


 別の鍋を用意してみじん切りの玉ねぎとバターを弱火で炒めます。キノコも投入しておきますか。キノワで手に入れたシメジがいいですかな。玉ねぎがきつね色になったら、さっき炒っておいた小麦粉を投入!


 本当ならコンソメを使うのだが、コンソメがこの世界にあるのを見たこともないし作り方も知らないので、鰹出汁で代用する。要するに味の問題だからな。ついでに、牛の脂も使ってみようか。


 前に作ったトンカツソース、ケチャップ、醤油、砂糖、赤ワインなどを鍋に投入し弱火で火を通していく。

 次第に投入しておいた小麦粉のお陰でとろみが出てくる。


 いいかんじですなぁ。


 肉を煮込んでいる鍋の方もいい感じになってきたので、蓋を取ってジャガイモ、デミグラスソースなどをぶち込む。

 そして更に三〇分くらい煮込みますよ。この三〇分、エルヴィラに鍋をかき混ぜておいてもらうとするか。手伝いたがってたし。


 さて、ビーフシチューが煮えるまでの時間内に焼き物を焼き始めます。


 塩と胡椒で下味を付けたステーキ肉を炭の熱で熱くなった網の上にどんどん乗せる。

 あまり火を通さず、ミディアムレアくらいであげてしまいましょう。表面をさっと焼いて肉汁を閉じ込める感じで。


 カルビも網で焼いちゃえ。

 一瞬で火が通ってしまうのでスピードの勝負です。

 できたものは皿に乗せてネギダレを掛けておきましょう。


 はい。ちょうどご飯が炊けたようです。火を止めて蒸らしタイム。


 エルヴィラがかき混ぜていたビーフシチューも……はい、完成ですね。


「出来たぞ」


 俺がそういうと、エルヴィラが満面の笑みで万歳ポーズをした。

 嬉しかったの?



 いつもの食卓に料理を持っていこうとしたら、なんかいっぱい台所を覗いていた。食いしん坊チームはいざしらず、匂いに釣られてハイエルフたちも大量に覗いてた。


 うーむ。やはり匂いに抗うことはできなかったか。


「お前ら、はやくテーブルの用意しろ」


 俺がそういうとバタバタと全員走っていった。


 やれやれ。ホコリを立てるなっての。


 料理が冷めないように、全部インベントリ・バッグに入れて板の間の食卓へと運ぶ。


 エルヴィラもウキウキと付いてきた。


 食卓にて……目の前に並んだ料理をハイエルフと仲間たちが凝視している。

 いつもの風景ですなぁ。


「久々の分厚いステーキじゃの!」

「こっちのカレーに似た料理は何だろうか? 匂いがカレーのそれとは違うが……多大な戦闘力を感じざるを得ない」

「この何か掛かったのに興味があります!」

「みんな……落ち着け……」


 パンパンと手を叩き、みんなの注目を集める。


「はい。今日はモアスリンのみんなとフソウのオニワバンが仲直りした記念に肉パーティです。好きなだけ食べなさい。肉のお替りが欲しかったら言うこと。直ぐにまた焼いて持ってくるからね」


 ハイエルフが俺と料理を交互に凝視し続けている。

 これ以上待たせたら暴動が起きかねないな。


「では、頂きましょう」

「「「頂きます!!」」」


 可憐、精悍なハイエルフが号令と共にがっつき始める。

 随分と腹が減ってたの? 忍術修行がキツかったの? まあ、美味しく食べてくれるなら問題はないが。



 その後、ステーキのお替りが続出し、大量に作ったはずのビーフシチューもあっという間に空になり、もちろんカルビ焼き肉も一瞬でハイエルフと仲間たちの胃袋に消えた。

 何度目かのステーキを焼いて持ってきたところで、俺が食ってないのを思い出し少し悄気しょげてしまったが、コッソリとワイバーン肉の燻製を齧って空腹を紛らわしておいた。


 ま、ワイバーンの肉の方が豪勢な食事らしいからな。見つかるとあっという間に食べつくされそうだもん。

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