第20章 ── 第55話
夕食後の入浴で石鹸が女性陣に大好評。
ただ、髪の毛を洗った後に髪がゴワゴワになるとか言われた。
油分を完全に洗い落としちゃうからな。後でトリートメントでも開発するか。
オリーブオイルとかを髪の手入れに使う女子の話を聞いたことあるし、酢もいいとかなんとか。髪の保水が問題なんだろうと思うし、色々考えてみよう。
左官道具を欲しそうにしていたので自室でキヨシマ組の面々に使えそうな道具の作成を行っておく。
ミスリル製武具作成で出た端材などを流用し、ミスリル製の道具にしてみた。
翌朝、キヨシマ組に顔を出した。
「おはよ~」
「兄貴分、おはようございます!」
「「「おはようございます!!」」」
俺が挨拶すると、若頭のブンキチが元気に挨拶を返してくる。周囲の若い衆も同様だ。
「親分! 兄貴分がいらして下さいましたぜ! 親分!!」
自分を呼ばわる声にタツゴロウがドタドタと大きな足音を立てながらやってきた。
「デケェ声出さなくても聞こえてらぁ! 朝っぱらから騒ぐんじゃねぇ!」
タツゴロウは上がり
「すまねぇ兄貴。ウチはこんなヤツらしかいねえもんで」
「いや、威勢が良くていいじゃないか。それよりも昨日は材料ありがとうね。無事に増築完了したよ」
「おお、それは結構なことで。お祝いにお伺いしなくては」
「いや、それはいいよ。それで、今日は昨日のお礼に色々と持ってきたんだ」
俺は上がり
「昨日、俺が作った道具を随分と褒めてくれたからね。仕事道具をいくつか作ったんだ」
「こ、こりゃあ……」
置かれていく道具を見たタツゴロウと周囲の若い衆が目を丸くする。
「こ、こ、こりゃあ……」
さっきから、それ繰り返してるな。
「どうかな? 俺の道具は鉄だったけど、こっちはもっと丈夫で手入れも簡単なミスリルで作ってみたんだ」
タツゴロウが
「す、す、すげぇ……な、なんて輝きと鋭さだ……」
「気に入ったようで何よりだね」
タツゴロウは姿勢を正して俺の方に向き直り、真面目な顔をする。
「兄貴、これほどの道具を……何故、俺らみたいな直ぐに頭に血が上るバカ者に下さるんで?」
ん? 昨日の勝負が面白かったしなぁ。材料も助かったからなんだが。
「別に深い意味はないよ。材料のお礼だな。あと、昨日の壁塗り勝負は、本番の練習にもなったし、俺としてはすごく助かったんだよ」
「そ、それだけ……?」
「うん。それだけだね」
「でも、兄貴。これだけの道具ですぜ? 百金……いや、千金の値……あんなもんで釣り合うもんじゃねぇ」
んー? 漆喰と板材なんかを普通に仕入れるよりも原価掛かってないんだけどな。
「俺の手持ちの余った材料なんかを流用して作った道具だから、そんな価値はないよ。そうだな。原価で銀貨で二〇枚くらいかな?」
俺がそう言うと、タツゴロウは他の道具も手に取ってじっくりと調べる。
「町の鍛冶屋に作らせたなら……一つで金貨一〇枚は取られやす……いや、ミスリルとなると……それの一〇〇倍は……」
そんなにするのか。
まあ、ミスリルの製法はドワーフやスプリガンと魔法が使える他の妖精族の協力が必要不可欠。しかも普通の場合、加工までドワーフたちがやるので、完成品しか出回らない。だからミスリル・インゴット自体が人族の領域では珍しいんだよな。
得てしてこういう強力な魔法金属の製品は武具にしか使われない。一般的な道具として庶民が利用することは皆無ということだ。
「ま、ミスリルは妖精たちの金属だからねぇ。俺は自分の領地の近くに協力的な妖精の国があったからな」
「兄貴はフソウの人じゃねえんです……?」
タツゴロウが微妙な顔つきをする。
「ああ、俺は冒険者なのに貴族に祭り上げられてね。そんな窮屈な生活はまっぴらだから、大陸東側からここまで冒険の旅をしてきたんだよ」
タツゴロウがポカーンと開けた口を閉じて座り直す。
「他国の貴族様だったんですかい……そんなお人に兄弟盃などと失礼な事をしまして、申し訳ありません」
深々と頭を下げるタツゴロウ。
タツゴロウは直情的で単純な感じだが、男気があって俺は好きだな。
「頭を上げろよ。もう俺たちは兄弟分なんだろ? 親分の心意気は、同じ男として羨ましいよ。これからも兄弟分としてよろしくお願いしたいね」
俺は結構女々しい部分があるから、男っぽい性格には憧れがある。
ヤンキーとかの乱暴者に憧れているわけじゃない。竹を割ったような気持ちのいい性格に憧れているわけ。
昨日の敵は今日の友という言葉を実践しているタツゴロウは、本当に男らしい。だからこれほど多くの若者が付き従っているんだろう。
「そうだ。タツゴロウ親分、一つお願いしてもいいかな?」
「何を改まっているんですか。何でも言ってくだせえ! 俺の……いや、俺たちの出来ることなら何でもやりますぜ!」
タツゴロウが熱い口調で言いながら手を突く。
「俺の生活の基盤は東側にある。ここにずっと住むわけじゃない。時々、フソウに来ることもあるけど、殆ど留守にするんだ。
だから、俺の留守の間、屋敷は俺の雇ったハイエルフたちしかいなくなってしまう。もし、ハイエルフたちが困っていたら力になってやってくれないか?」
ハイエルフは長い間、自分たちの領域から追い出されていた。
表立ってフソウで暮らせるようになったとしても生活様式や文化の違いから困ること出てくるかもしれない。
そんな時、マツナエに助けてくれる勢力があったら助かるはずだ。
虫のいい話だが、タツゴロウに頼んでおけば、マツナエでの生活でハイエルフたちに有利に働くはずだ。
タケイが居住を認めているんだから問題はないとも思うが、庶民たちはどうだろうか? 種族は違うし、九人しかいない。もし、庶民たちに疎まれたり、襲われたら大変な問題になるだろう。
彼らのレベルからすると庶民程度では相手にならないだろうが、もし殺傷事件など起こしたら、さすがに俺の関係者だと言えど政府は黙っていないだろう。
そういう問題を未然に防ぐには現地庶民たちの中に味方を作っておいてやるのが重要だと俺は考える。
そんな理由でタツゴロウはうってつけの存在ってわけ。
「水臭いですぜ、兄貴。あの別嬪さんたちが困っていたら助けるに決まってます。それが兄貴の身内の方なら尚更でさあ。
いいでしょう、兄貴たっての願いだ。このタツゴロウ率いるキヨシマ組は、兄貴の屋敷に住む姐さん方の力になりやす!」
タツゴロウがドンと自分の厚い胸板を拳で叩いた。
「ありがとう。タツゴロウ親分にそう言ってもらえると安心だよ」
俺はニッコリと笑って頷く。
「それじゃ、よろしく頼む。そうだ……タツゴロウ親分にも渡しておくかな」
俺はインベントリ・バッグから小型通信機を取り出す。
「これは?」
「これは、緊急時に俺と連絡を取るための魔法道具だ。もし、俺の屋敷周りや彼らハイエルフに、タツゴロウ親分では扱いきれない問題が起きた時に使って欲しい」
「魔法道具!?」
「うん。このボタンを押すと俺の付けてるコレで遠く離れていても話ができるんだ」
タツゴロウは手渡された小型通信機をしげしげと眺める。
「すごい魔法道具ですね。離れている人と話せるんですかい……」
「うん。俺のコレとしか繋がらないけどね」
携帯電話みたいに小型通信機と相互通信できるようにしたら、仲間たちや各国で知り合った人々の間で連絡が取り合えるかもな。
ま、それをするには色々と問題があるんだけどね。各装置の個体判別、混線しないように通信の管理……
色々と盛りだくさんにすると増大する魔力消費に伴って装置の大型化……
自然界にある魔力では足りなくなると、使用者の魔力に依存させるしかないが、魔力量は人それぞれで、レベルにもよるがMPが少ない人も多数存在するわけで……
考えるだけで頭痛くなるな……
まあ、これは今考えることじゃないか。
「お預かりいたしやす」
タツゴロウが恭しく両手で通信機を持ち、俺に頭を下げた。
「使い方は簡単だから。何かあったらよろしくね」
「お任せ下さい」
タツゴロウが力強く頷くのを見て俺は立ち上がる。
「よし……親分に願い事も聞いてもらったし、俺は帰るね。ちょっとこれから忙しくなるんだ」
「何か始まるんで?」
「いや、ちょっと大掛かりな魔法道具を作らなくちゃならないんで、それに没頭するつもりなんだ」
「兄貴は職人の鑑ですね。同じ物作りに携わる者として尊敬しますよ」
タツゴロウが朗らかな笑顔になる。その笑顔の方が怖い顔しているよりいいねぇ。子供に好かれそうだよ。
キヨシマ組を出て林の付近までやってくると林の入り口のあたりにハリスが立っているのが見えた。
「おーい、ハリス」
俺がハリスを呼ぶと、彼は急いで来いという感じで手招きをした。
「何だ? 何かあったか?」
「客が……来た……」
「え? 客?」
なんか客が予定あったっけな? というか、ハリスが客が来たくらいで呼びに来るかな?
「誰が来たんだ?」
「モギという……例の頭領だ……」
ああ、御庭番の頭領のモギさんか。何か用事なのかね? ハイエルフの事が嗅ぎつけられたかな?
俺はハリスと急いで屋敷へと向かう。
いやいや、御庭番の頭領自らが俺の屋敷に来るくらいだから、何か政府筋の要件かもしれない。
酒の準備が整ったにしては早いし、何らかの大問題がフソウに起きたという可能性もある。
次から次へと何が起きてるんだよ。もしかして俺はトラブルの神様か何かから不興でも買ってるんじゃないだろうな?
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