第20章 ── 第47話

 夕食の後片付けも終わり、ハイエルフたちにお茶を配っておく。


 もう夜になると結構な寒さなので、キノワなどで手に入れておいた箱状の火鉢を何個も出して炭に火を付けておいた。炭は例の圧縮炭ボードだよ。


「お館様、皆のものをご紹介したいのですが」


 シルサリアが膝を進めてこちらにやってきた。ハイエルフなのに日本の屋敷に慣れた感じの動きだな。シンノスケが忍術を教えた時に覚えたのかな。


「ああ、そうだね。聞いておかないとな」


 シルサリアが頷いて、ハイエルフの方に向き直る。

 すでにハイエルフたちは一列に並んで正座している。


「まず、左から行きます。エルヴィラ・クラート・ネルウェン。算術を得意としているので、お預かりした金子きんすの管理を任せます」


 紹介されたハイエルフの女性が頭を深々と頭を下げた。


 この人がエルヴィラさんか。シルサリアと同じで超美人。職業は野伏レンジャーか。


「続いて、護衛隊長、メリアド・スーシャ・セリオン」


 この人はもう会ってるね。最初の三人の一人だ。職業は……忍者だ。レベルも四六とかなり高い。


「シルヴィア・ケイト・パーセル、我が種族の最長老。この地の生き字引きです」


 おー、どんだけ生きているのかね? ファルエンケールの女王より上だろうか。


「ちなみに、既に八〇〇〇年ほど生きております」


 すげぇ。俺の気になった部分を教えてくれてありがとう。ステータスを確認すると、他の人よりレベルが高いな。レベル五二の魔法使いスペル・キャスターだよ。西側で一番レベル高いじゃん。

 ソフィア・バーネットは別ね。あれはNPCだった人だから。


「次は、ルシアナ・ハルト・オーソン。隠れ家を守っていた戦士です」


 ルシアナがおどおどしながら頭を下げた。


 戦士なのにおどおどしてんのは、どうなんだろね? でも他のハイエルフよりも少しガッチリしているな。細マッチョって感じかな?


「次がグート・エッセン・エスラント。彼には狩りなどの食料調達をやってもらっています」


 なるほど。女王の護衛にメリアドが着いてきたのは当然として、仲間の食料を確保するために狩人を連れてきてたんだな。職業は野伏レンジャーでレベルは三九だ。


「メリオン・ファドラン・クワール。彼は非常に器用なので、生活に必要な道具などを作ってもらっています」


 おお、そういう人がいると便利だよね。俺も何か作業を手伝ってもらおうかしら。彼はレベル三〇の盗賊だね。手先の器用さは、そこに極振りしたのかも。


「レオーネ・ヴァル・エヴァン。私の側付きです。メリアドが居ない時に護衛をしてくれています」


 目つきは鋭いが、やっぱり美人。この人も忍者だ。レベル三六ね。

「最後になりました、カストゥル・リーザ・エヴァン。周辺にて情報収集などの任務に就かせています」


 正当な情報収集系の忍者ですな。苗字が一緒だし、レオーネさんと兄妹かな? ちなみに、この人が病人だったらしいよ。もうすっかり元気ですな。

 レベル三九だからフソウの御庭番衆よりもレベルが高いか。確か、頭領のモギさんがレベル三六だったっけな。


「そして私、シルサリア・エルフェン・ド・ラ・モアスリンが、この地モアスリンのハイエルフの全てです」


 数千人もいたハイエルフが、たった九人か。大変だな。

 それにしても男性が少ない。生き残る上で女性を多く残したんだろうか?


 得てしてエルフは出生率が低いという話は、ファルエンケールなどでエルフに聞いた。子供を産む女性が権力の座に就くのも当然の事だろう。


 それが寿命が無尽蔵に近いハイエルフとなると……考えたくもないね。


「我らが一党の忠誠をお受取り下さい」

「解った。以後、ここの管理を任せる。よろしくね」

「「「「はっ!」」」」


 うーん。時代劇の「闇の軍団」みたい。


「お館様。少々お願いあるのですが……」

「ん? 何? 何でも言ってよ」

「しからば……」


 シルサリアがハリスに目をやった。

 俺じゃなくてハリスに用事なの?


「ハリス殿に忍術のご教授頂きたいのです」


 それを聞いたハリスがビクリと体を揺らす。


「ハリスに?」

「はい。我らが先の救世主シンノスケ様にお教えいただいた物とは異質ではありますが、紛れもなく洗練された忍術。我らにその秘術をお授け頂いたい」


 んー。ティエルローゼの忍者とスーパー素敵超人忍者の融合か……非常に面白い。


「俺はいいんだけど……ハリス、どうだ? 教えてやるか?」

「俺は……」


 ハリスが腕を組んで考え込んでいる。


「ケントが……いいというなら……構わない……」


 周囲の職業が忍者のハイエルフが「オオッ!?」と嬉しげな声を上げる。


「では……師匠。今後、よろしくお願いいたします」

「ああ……俺も……ケントに……教えてもらった話を……形にしている……だけだが……」


 エルフに負けないイケメンのハリスが、師匠と呼ばれて顔を赤くして照れてるのが珍しい。


「ま、俺は基本的なスーパー忍者の事を教えただけだからなぁ……ハリスは本当に凄いんだ」

「そうじゃな! スーパー素敵職業のハリスは、ケントの次にカッコいいのじゃ」


 マリスもウンウンと頷いている。


「そうですねぇ。ケントさんには負けますけど、すごく頼りになるのですよ」


 アナベルも大絶賛。


「そうだな。出会った当時は頼りないヤツだったが……みるみる実力を付けているからな。以前の私では勝てないだろう。今はケントの片腕と言っても構うまい」


 トリシアも手放しに称賛する。俺もそう思います。


「よせ……」


 耳まで赤くして照れたハリスが影に沈んで消えた。


「おお……話に聞いていたが……あのような技は見たことも無い! とてつもない技だ!!」


 カストゥルが目をキラキラさせながら叫ぶように言った。


 スキル「影渡り」はハリスが暗殺者の頃に覚えたスキルだよな。忍者の話をした後に使うようになってたから、暗殺者でも使えそうだが。


「ま、ハリスの忍術は、今まで君たちが知っていた正当な忍者のそれとは違うんだ。奇想天外だが、非常に強力な技が多いよ。悪用だけはしないでくれ」

「承知しています。この地の安寧を守るために使いたいと思います」


 シルサリアがそういうので、俺は努めて謹厳な顔をして頷いておく。


 こういう表情は苦手なんだけどね。俺には威厳とかないからなぁ。


「ま、今日はゆっくりしてくれ。布団とか……足りないな」

「大丈夫だ。彼らの寝具も私の無限鞄ホールディング・バッグに入れてきている」

「そうか」


 トリシアに運んでもらってるなら問題ないな。他には……


「では、生活で必要なものはないのかな? 武器とか防具は? 俺が作ってやろうか?」


「お館様はそんな事もできるのですか!?」


 ハイエルフ全員が驚いていたが、道具作成担当者であったメリオンが声を上げた。


「ああ、武器、防具、道具……一通り作れるだけのスキルは覚えたなぁ」

「お館様は魔法道具すらお作りになられる。武器や防具など児戯に等しいと知れ」


 シルサリアが腕に装着している小型通信機を愛おしそうに撫でながらメリオンに言っている。


 あの通信機、そんなに嬉しかった?


「わ、私を弟子にして頂けますまいでしょうか……?」

「スマンな。俺は弟子は取ってない。師匠を紹介した事はあるけど……」


 俺はマタハチをマストールに押し付けた事を思い出す。


「お館様の師匠ですか……羨ましい事です」

「ま、ドワーフなんだけどね。大陸の東側で高名な職人なんだよ」

「このお屋敷で雇われた以上、ここを離れるわけにも行きません……」

「そうかもな……ま、俺がここを買った理由は、魔法道具を作る為なんだよね。もし、作業をしているのを見たいなら見てもいい。作業の邪魔をしなければね」


 メリオンが目を輝かせる。


「是非、お願いいたします」

「うん。解ったよ」


 他のハイエルフが羨ましそうな顔をする。


「あの……先程お出し頂きましたお料理なんですが……」


 経理担当のエルヴィラが手を上げて発言した。


「ん? ああ、全部俺が作ったよ。美味かったかな?」

「美味などという表現では足りません! 素晴らしいお味でした!」


 エルヴィラが顔を高揚させて断言した。


「そ、そう? それは嬉しいね」

「私に料理をお教え願えませんでしょうか! 私は料理をすることができます!」


 ほう。料理スキル持ちか。それは良いね。俺が忙しい時に料理してもらえると有り難い。


「んじゃ、レシピとかコツとか教えようかな。俺も助かるし」

「よろしくお願いします!」


 アナベルとマリスが笑い出す。


「やっぱり、ケントさんは面倒見が良いのです!」

「そうじゃな。ケントの魅力じゃ」


 そう言われてもね。俺の利益になるからだよ。俺は無益なことはしない性格だからね。え? してないよね?


「他の者も何か教えてもらうと良いのじゃ。我もかなり高レベルじゃからな。何か教えることはできるはずじゃ」

「狩人の技などは……」


 グートが口を開いた。グートは野伏レンジャーだったな。そういやエルヴィラも野伏レンジャーか。


野伏レンジャーの技術なら、トリシアとハリスだな」

「私か。エルフの野伏レンジャースキルなら教えてやってもいいぞ」

「よろしくお願いします!」

「ああ、解った」

「エルフとハイエルフの立場が逆じゃな。ハイエルフはエルフの頭領じゃといっておったのに」


 マリスがおかしげに茶化す。


「昔の枠組みでございます。今は……」


 シルサリアが遠い目をする。


「姫、そのような弱事を申しますな。そんな事ではハイエルフの復興は遠のきますぞ」


 生き字引きのシルヴィアがシルサリアに苦言を呈す。八〇〇〇年も生きているのに、三〇代半ばにしか見えねぇ。しかも美人だし。


 それとシルサリアは姫なのか。まだ女王になるには若いって事なんだろうか。


「貴女は魔法使いスペル・キャスターですね?」

「良くぞお解りです。私は魔法使いスペル・キャスターとして姫に仕えております」


 俺の問いにシルヴィアが首を傾げながら頭を下げる。


魔法使いスペル・キャスターか。私も魔法野伏マジック・レンジャーで魔法が使えるが、ケントの魔法は凄いぞ」


 トリシアが面白げに俺の事を紹介する。


「お館様は魔法使いスペル・キャスターなのですね?」

「いや、俺は魔法剣士マジック・ソードマスターだよ。魔法の専門家じゃない」


 シルヴィアに問われ、俺は首を振った。


「おお……お館様もトリシア様も神々に愛されておりますな……」


 ん? 神に愛されてると魔法が使える職業になるのか?

 まあ、イルシスが魔術の神だが、あの女神がよく「愛しの」とか言ってたが……


 こうして、二週間の間、このハイエルフたちと生活を共にすることになった。

 男も女も美形揃いなので、緊張した生活になりそうな気もするが、慣れていかねばなるまい。

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