第20章 ── 第46話
「ただいまー」
仲間たちと帰ってくると、玄関の上がり
「お帰りなさいませ、救世主……いえ、お館様」
トリシアやケセルシルヴァの例に漏れず、シルサリアも絶世の美女系の女性なので居心地が悪くなる。
「あ、はい。戻りました。他の二人は?」
「は。お館様のご好意に甘えまして、残りの仲間を連れに崖下の洞窟へ参っています」
「ふむ。トリシアも一緒かな?」
「はい。彼女は
なるほど。衣服や生活用品など様々なものを持って来るなら、そういう魔法道具があると便利だからな。
「あ、お昼はどうした? 用意してなかったよね?」
俺はそういうと、シルサリアは首を傾げる。
「あれだけの饗応を受けたのですし、それ以上何を望みましょうか」
うーむ。堅苦しいな。
「それに、私たちは朝餉まで頂き……」
「そこまで」
俺はシルサリアの発言を止める。
廊下に上がり、シルサリアを連れて居間に行く。マリスやアナベルも面白そうに付いてきた。
「さあ、そこに座って」
ちゃぶ台の対面を指してシルサリアを座らせた。
「我が家の規則を申し渡すよ」
「はっ! 謹んで拝命致します」
それ、それだよ。居心地悪くしてるのは。
「まず、俺が所有する家屋に住んでいる者、俺に雇われている者は、主人に対し遠慮してはならない」
シルサリアがポカーンとした顔になる。
その顔を見てマリスが吹き出した。
「くふふ。やっぱりのう。ケントの言葉で思考停止しよったのじゃ」
「そうですよね。ケントさんは皆の家族になってしまう達人ですからね」
外野が煩いな。仲良くやって行く方が生活は楽しいだろ。俺のリアル家族たちとの生活みたいなのは地獄だからな。
「いいかな? 節度は必要だけど、遠慮はいらないんだ。腹が減ったら、腹が減ったと言えばいいし、必要なものがあれば俺に言え」
「しかし……」
「しかしも、へったくれもないんだよ。俺の居心地が悪くなるから言ってるんだ。俺は家では寛ぎたい。堅苦しいのは息が詰まるんだよ」
俺にそう言われてシルサリアは口を噤んでしまう。
「それと……君たちにこの屋敷を管理してもらう以上、君たちは従業員だな。これに対し、俺は賃金を払うつもりだ」
「お給金ですか……!?」
俺からの申し出にシルサリアは驚いている。
「まず、君たちの仲間に算術スキルを持ったものはいるかな?」
「確か、エルヴィラが……」
ん、隠れ家に残っているハイエルフの仲間かな。
「よし、そのエルヴィラさんが来たら、この屋敷の会計を任せよう。そこから賃金を払ってもらうようにしようか」
俺はインベントリ・バッグの中で革袋の中に金貨を入れてから取り出す。
「ここに……金貨が一〇〇〇枚ある」
ドサリと金貨入りの革袋をちゃぶ台の上に置く。
さらにシルサリアの目が皿のようになる。
「これが屋敷の運営資金だ。一応、一年以上は保つかな?」
「こ、これだけあれば……五年以上は保ちます!」
そんなに? まあ良いか。
「フソウの給与体系には情報がないからなんとも言えないが、俺の領地の給与体系から考えるか」
俺は紙と羽ペンなどを取り出して軽く計算してみる。
「えーと、ハイエルフたちを統括指揮する者……シルサリアさんでいいのかな? 貴女は……一ヶ月、銀貨二枚と銅貨二枚って所だな」
「そ、そんなに!?」
そんなにって驚かれても、これは俺の仲間たちや役所などの上級職員たちと同じ水準だぞ。
ちなみに、オーファンラントの通貨に換算すると銀貨五枚だ。
「この屋敷を管理する者の長なんだ。このくらいは当たり前だな。他の者は一律で銀貨一枚と銅貨三枚って所かな? この辺りの給与についての細かい所は貴女の一存で決めてくれ」
俺はシルサリアの方へ革袋をズイッと押しやる。
「いいか、遠慮はするな。これは屋敷の管理維持に必要な経費だ。これをケチって屋敷や林が荒廃することは許さないからな」
シルサリアは革袋の上に両手を置き、頭を下げる。
「謹んでお預かり致します!」
俺はシルサリアをじっと見ながら頷く。
「それと、ハイエルフがここに住む事は筆頭老中タケイさんに頼んでおいた。彼から否と言われてない以上、貴女たちがここに住む事はフソウ竜王国の中央政府が承認したものと俺は認識した」
俺はインベントリ・バッグからもう一つ取り出した。小型通信機だ。
「これも渡しておく」
「これは……?」
「俺が作った魔法道具だね。使い方は後で教えるけど、何か問題が発生した時、この道具を使って俺に連絡を取るように。そうすれば、すぐさま駆けつけられるからね」
「魔法道具……そんな高価なものを我らに託していただけるのですか!?」
「これ、原価は大したもんじゃない。銀貨二枚くらいかな。お手製だからね。
町とかで売ったら……」
いくら位になるんだろう?
「その魔法道具なら、多分金貨で一〇〇〇万枚くらいですよ」
アナベルが即答する。
「一
「一つでですよ。一
さすがに冒険者経験が長いアナベルだけに、遺跡から発掘される魔法道具の相場をそれなりに把握しているようだな。
ハリスは狩り専門チームだったため、こういう相場には疎いようだ。
マリスは言わずもがな。相場に頓着はしない。
「そんなもんか」
末端価格はもっとするだろうけど、売値でなら納得の値段か。
情報は力だからな。こういう魔法道具は、支配者層とかだと大いに欲しがりそうな物になるはずだからね。
「この魔法道具は貴女たちの生命線だ。紛失には気をつける事。俺との連絡が取れなくなったら、いざというときに困るぞ」
「はっ! お預かりいたします!!」
恭しくシルサリアが小型通信機を受け取った。
「さて、こんな所かな。運営の仕方などは任せるよ。とりあえず、これを食べてね。お腹が空いてるだろ?」
俺はカツサンドを取り出してシルサリアに渡した。
「ありがとうございます!」
さて、これから結構な人数が増えるし、メシの支度でもするか。
「そんじゃ俺は夕食の支度に取り掛かる。何か食べたいものあるか?」
俺が仲間たちに声を掛けると、マリスとアナベルが待ってましたとばかりに口を開く。
「今日はソバという物がいいのう。天ぷらの乗った奴じゃ」
「私はイクラ丼のヤツです!」
「俺は……生姜焼き……」
シルサリアはアワアワしている。俺が何を作れるかも判らんのだろうし仕方ないな。
天ぷらソバとイクラ丼と生姜焼きか……ま、トンカツも作っておくか。トリシアがカツ丼とか言い出しそうだからな。
サラダや味噌汁なども用意しておくとする。
ご飯も一〇合じゃ足りないかもしれないし、釜二つ用意しておこう。
屋敷の台所は結構広いので、冷蔵庫系の魔法道具を設置するとしよう。
インベントリ・バッグには冷蔵庫の在庫が二~三あるので設置する。電源いらずの魔法道具は、本当に便利だな。
一時間ほど鼻歌まじりで食事の支度をしていると、トリシアが帰ってきて台所にやってきた。
「ケント、残りのハイエルフを連れてきたぞ」
「ああ、ご苦労さん。あと三〇分くらいで夕食の準備が終わるから、居間……じゃ狭いか。板の間の広間で食事にしよう」
「了解だ。今、ハイエルフたちはそちらに集めてあるから丁度いいな」
トリシアが頷いたので、そのようにしよう。
「全部で何人だ?」
「シルサリアを含めて全部で九人のようだ。一人、酷く病んでいたのでアナベルに治療させている」
「了解だ」
トリシアが台所から出ていったので食事の支度を急ごう。
出来上がった食事をインベントリ・バッグに移して、板の間へと向かう。
俺が入っていくと、何人ものハイエルフが王を迎えるように片膝を突いて恭しいお辞儀をしてきた。
「救世主様、一度だけ堅苦しい口上をお許し下さい」
シルサリアが他のハイエルフと似たように跪いて言う。
「我らハイエルフの窮地に手を差し伸べて頂き、モアスリン王国全てのハイエルフに代わりお礼申し上げます」
「気にするな」
「つきまして、我らハイエルフは貴方様に永劫の忠誠を」
忠誠かよ。ハイエルフの永劫は本当に未来永劫だろ……なんか重いな……
「ふふふ。ケント教の信者が増えますね……」
アナベルが、こっそりと囁いたが聞き耳スキルでしっかり聞こえてるぞ。
「解ったよ。では、堅苦しいのはここまで。みんな、お腹が空いてるだろう。夕食にしよう」
俺はインベントリ・バッグから長テーブルをいくつも出す。仲間やハイエルフたちが出されたテーブルを移動させて二列に並べる。
設置が終わったテーブルに、作った料理をバンバンと置く。
「おお……物凄いご馳走が……」
いや、普段俺たちが食べてるものばかりだがね。
「酒は? 出したほうが良いか?」
俺がシルサリアにそう聞くと、シルサリアが困惑した顔つきなる。
「よろしいのでしょうか?」
「遠慮は無用だ。エルフなんだしワインが良いかな? 和食系だから合うかなぁ……」
ファルエンケールなどのエルフの都市で手に入れた酒のボトルを何本か取り出しておく。
食事が始まると、ハイエルフたちは夢中で……それも涙を流しながら食べている。
そんなに飢えてたんか……本当に危機一髪だったのだろう。全滅する前に助けられて良かったな。
まあ、これから二週間くらい一緒に生活して、ハイエルフたちの生活様式なんかも知っておきたいね。
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