第20章 ── 第45話
昼を食べ終えて広間で寛ぎつつ待機していると、
国王との謁見なので正装ということかな。
俺も一応、貴族服だったりする。仲間たちも身だしなみには気をつけている。
マリスなどは服装に気を使わなそうに見えるかも知れないが、俺の顔に泥を塗る事になるかもしれないと、結構ちゃんとした服装を買ったり着たりするんですよ。
逆にアナベルは頓着しませんな。神官服が正装らしいから、いつも同じ格好な気がする。
替えのアダマンチウム製神官服は何着か渡してあるから着替えてはいるはずだ。汗臭かったりはないからな。
「クサナギ様、これより上様とお目通りして頂きます」
「了解。仲間たちも一緒で良いんですよね?」
「無論です。それではご案内仕ります。こちらへ」
タケイや供付きの女官たちと一緒に長い廊下を進む。
謁見の間は四階の一番奥にあるのだ。
五階への階段の近くだが、その部屋に入った時に流石に驚いた。
やたらと広いのだ。サッカーするには足りないかもしれないが、できそうなくらい広い。
奥側に高座があって豪華そうな座布団と肘掛けが置いてある。
タケイはその高座の手前あたりで俺たちに振り返る。
「この辺りにお座りになってお待ち下さい」
高座からおよそ四メートルほど離れたあたりだ。
周囲には人影はないが、天井裏に二〇個ほどの白い光点があるので、忍者の護衛がいるようだ。
襖の向こうにも隣室に一〇個の光点がある。こっちは身辺護衛の侍たちかな?
──ドン! ドン! ドン!
しばらく待っていると、太鼓の音が一定の感覚で鳴り響きはじめる。
「上様の御成りぃ~~!」
別の部屋から国王であるトクヤマがやってくる旨を叫んで知らせてきた。
──ドタドタドタドタ!
大きな、しかし、比較的軽い足音が聞こえてきた。来たかな?
「上様! 走ると危険です!」
「黙れ! 余は急いでおるのだ! 留め立て無用!」
──ガラッ!
奥にある一対の襖の片方が勢いよく開いた。
「おお! 参っておるな!」
そこには
男の子はズンズンと歩き、座布団のところまでやってくる。
やっと追いついたのか、刀を手に持って息を切らして一〇代中頃のイケメン武士がやってくる。刀持ちか側小姓ってやつだろう。
高座の横で正座していたタケイが深々と頭を下げた。
俺もタケイに倣って、一応頭を下げる。
「苦しゅうない。
精一杯背伸びをした感じの少年が嬉しげに言うので、俺は頭を上げた。
「天知る、地知る、俺が知る! フソウ竜王国国王トクヤマ・ヤスナリ、ただいま参上!」
なにやらポーズをビシッと決めている少年が目に飛び込んできた。
さすがの俺も仲間たちもポカーンとしてしまった。
「う、上様……それはやらないお約束では……」
タケイがワタワタしながら少年に諌めの言葉を投げかけた。
「なんだ? 当代の救世主殿は名乗りをせんのか?」
これ、シンノスケの影響だよね?
「上様、名乗りとはここぞという時に行うものです。普段からやってしまっては、ありがたみ……いえ、名乗りの威光に傷が付きますよ」
俺は苦笑気味に言ってみる。まあ、名乗りは敵対者などにするべきだろうしな。
少年がピョンと座布団の上でジャンプしながら、そのまま正座の形で座った。
「誠にそのとおりだな! 肝に銘じる! じい! 当代の救世主殿は道理を弁えておるのう!」
いえ、そんな厨二病な名乗りは、恥ずかしくて出来ないから言っただけなんですけどね。
「上様、クサナギ・ケント様でございます。クサナギ様は救世主様と呼ばれることをあまり好まぬようでございます」
「ほう……おまけに奥ゆかしいとは……さすがだ」
一体、トクヤマに俺をどういう風に報告してあったんだ?
まあ、技名は厨二病っぽいのばかり作ったけどさ。
「クサナギ殿! クサナギ殿は冒険者であるそうだな? 今までどのような冒険をしてきたのであろうか。是非聞かせてくれ!」
少年はワクワクした目で俺を見つめてくる。
「冒険ですか……最近、一番大変だったのは……」
俺はティエルローゼで体験してきた出来事を話して聞かせた。
トリエンでの反逆事件の解決、オーファンラント王国とブレンダ帝国の戦争の阻止……
少年は興奮に頬を染め、身を乗り出して聞き入っている。
そして魔族アルコーン討伐の下りまできた時に、拍手喝采をしはじめた。
「凄いぞ! じい! 物語通り……真の救世主がお戻りになったな!」
「左様にございます。時々現れたまがい物の騙りとは訳が違います」
「余は、国王になってこれほど嬉しかったことはない。昼の膳が豪華な天ぷらづくしであったのも、お祝いだったわけだな。元旦に食べる天ぷらに比べても美味さが比較にならぬほどであった」
「いえ、あの膳の料理は、ここにおられるクサナギ様が上様の為にお作りになられたものでございます」
少年は驚いた顔で俺の方に顔を向けてきた。
「おお……まさに伝承どおりなのか……救世主殿は稀代の料理人という……」
「そうじゃぞ、若造。ケントの料理の腕は世界一じゃ」
マリスが鼻を鳴らして得意げに自慢する。
「確かに、ケントさんの料理を食べてしまうと、他では中々食が進まなくなってしまうのです」
アナベルよ。そんな素振りは全く見えないが? 食べ歩きもいつもやってるし。
「じい。こっちの……ちっこいのは救世主殿の仲間か?」
少年がマリスを指差しながら、タケイに顔を向けた。
タケイは顔面から血の気が引き、冷や汗をかきはじめる。
「上様! 失礼な事を申してはなりません! その御方は、古代竜様にございます!」
悲鳴にも似たタケイの言葉に少年は腰を抜かした。
「こ、こ、こ……古代竜様だと!?」
マリスが古代竜だと知って、少年は力の入らない足腰に必死に力を入れ、正座の姿勢と取ると、マリスに深々と頭を下げた。
「古代竜様とはつゆ知らず、無礼を働きました。
やっぱフソウでは救世主より古代竜の方が地位は上か。にしても、この口調、折り目もシッカリした大人な対応じゃないか。
「許す。我は堅苦しいのは嫌いなのじゃ。先程の元気な子供の対応でよい。我も未だ大人として認められておらぬからのう」
マリスもすんなりと少年の謝罪を受け入れた。
こういう所はサッパリしているんだよな。
少年との会談は数時間にも及んだが、殆ど俺と仲間たちの冒険譚を話して聞かせるという事に集中していた。
トクヤマ・ヤスナリは、救世主フリークの厨二病になりかけた少年という感じで、俺のチームの冒険譚で大いに満足したようだった。
謁見の間を辞して、タケイの執務室に場所を移し、タケイとの面談に入る。
「まさかトクヤマ様が少年だったとは思いもよりませんでしたよ」
「上様も大変ご満足された様子。誠に有難うございました」
タケイはまた深く頭を下げる。
「でも、ちょっと面白いヤツじゃったな。大人になったらお忍びで市中をうろついて正義の味方をしはじめそうじゃ」
クククッと笑うマリスの言葉にタケイが真剣に心配そうな顔になる。
「そ、そんな事になりますと……頭が痛くなります……」
確かにな。国の支配者がそんな事をすると……ウチの宰相閣下みたいに苦労しそうだな。
「あ、そうそう。タケイさん」
俺は例の件を思い出してタケイに話しかけた。
「マツナエの外れに屋敷と土地を買ったんですよ」
「左様ですか。マツナエにお住みくださるのでしょうか?」
「いえ、そのつもりはありませんが、別荘って感じですかね? フソウは、時々米とか仕入れに来たい国ですから」
タケイは嬉しげに頷く。
「我が国に別荘を置いて頂けるとは光栄に存じます」
「それで、その屋敷なんですが、俺がいない間にも管理をする必要がありまして」
「なるほど、人員をご用意致しましょう」
「いえ、必要ありません」
俺はタケイの申し出を断る。
「実は、一〇人ほど既に雇いまして、屋敷に住まわせる予定なんです」
「なるほど、手回し不要でしたか」
「で、その管理人たちは、フソウの住民台帳に名前がありません。住民台帳に登録していただいて構いませんか?」
「速やかに手続きをさせて頂きます。して、どちらの国からお連れしたのでしょうか? オニワバンや奉行所などから報告は受けておりませんが」
それはそうだろう。今のフソウの法律からすれば厳密には密入国者だからなぁ。
「モアスリン王国のハイエルフなんですよ」
「モアスリン……? 聞かぬ名前ですな。ハイエルフというのはエルフの一種でしょうか?」
なるほど……やはり今のフソウ政府は、遠い昔に陰謀で追い出したハイエルフの事など全く認知していないんだな。
わざわざ問題を掘り起こして、諍いの種を撒く必要はないな。
「そうです。エルフの上位種族だという話ですが、蛮族の地の方に住んでいたものたちです。俺の要請を快く承知してくれたので」
「承りました。後々、奉行所の者を伺わせましょう」
「よろしくお願いします」
救世主という称号のおかげで、上層部からトップダウンで役所を動かせるのは便利でいいね。
にしても、これでハイエルフたちはモアスリンの本拠地に戻ってこれるな。
早く教えて、隠れ家の洞窟から残りのハイエルフたちを連れてきてもうらうようにしないとな。
トマルなどの役人とも渡りを付けてもらって、少し目を掛けてもらおうか。
じゃないと、マツナエの街での買い物もできないだろう。
トリシアは別段問題なかったけど、あれだけ背が高いと目立つし、ハイエルフが迫害されたり奇異の目で見られるのも困るしな。
なにはともあれ、今日のやるべき事は全て終わった。早めに帰って、ひと風呂浴びたい気分だよ。
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