第20章 ── 第26話

 仲間たちを集めて昨夜の出来事を報告する。


「とまあ、眠り薬か何か判らんけど、俺たちは意図的に眠らされてたわけだ」

「魔法ではないのか?」

「俺らのレベルだと簡単に魔法をレジストできるはずだろ?」

「確かに……」


 そもそもハリス、マリス、アナベルはレベル六〇半ば、トリシアに至っては七〇レベルを越えている。この世界の人々のレベル水準の二倍以上なのだ。


 低レベル魔法は素のステータスで十分抵抗に成功するだろう。


「ま、眠り薬とか神経ガスの類だと、毒物耐性とかスキルがないとペナルティあるからな。攻撃としては効果的といえるね」


 毒耐性スキルを持つ俺が起きることができた理由がコレだと思う。


「それで敵というのは?」

「忍者みたいだったな……」

「超絶素敵職かや!?」


 マリスの目がキラキラしはじめた。


「いや、ハリス的な超絶能力はなさそうだったな。俺が知ってる普通の諜報を行う忍者じゃないかな? 服装が忍者っぽかったんだよ。紺色の忍者服だったし」


 そう言った途端、ハリスが衝撃を受けたような顔になる。


「紺色……だと?」

「ん? 心当たりある?」

「実は……」


 ハリスが下を向いて話し始めた。

 彼によるとキノワの代官ワジマの屋敷の屋根裏で紺色の忍者服を着た人物を見かけたらしい。

 ワジマの身辺調査をしているようだったとのこと。


「ふむ。それはタカスギさんやお奉行のトキワさんが言っていた中央政府の手の者じゃないかな?」


 となると、俺たちは中央政府の忍者部隊に目をつけられたことになる。


 新たな危機的状況なのかもしれない。外国人たる俺らが政治に関わってしまった事を敵対行為と判断されたのだろうか。


「失敗だったかなぁ……規約にもあるけど、冒険者がまつりごとに関わると碌なことがないからな」

「だが、あの事件を解決しなければ、民衆に危機が降りかかる。冒険者としては当然の行動だ。子供まで的にしたんだからな」


 トリシアは俺の行動を正当なものだと力説する。


「もし、フソウ竜王国の中央政府に敵認定されたのだとすると、悠長に旅なんかしてられなくなる。早めに目的を達成して出国するべきだと思うけど、どう思う?」


 俺は自分の考えをみんなに伝える。


「それは確かにな。政府と事を構えたとして、ケントと私たちなら壊滅させるのはさほど難しいことではない。だが、この国は比較的安定したものだ。政府が不安定化した場合、この国の民衆への影響が甚大な結果になる」


 トリシアが腕を組みながら難しい顔をする。

 問題の解決は簡単だが、その後の影響で国が混乱した場合、民衆が酷い目に遭うと危惧しているのだ。


「そうですねー。長屋の子供たちや両親などが不安な生活になるのは私は容認できません。ケントさんの意見に賛成します!」


 アナベルも俺の意見に賛成のようだ。

 彼女も子供たちと仲良くなったからねぇ。


「我らに何の罪もないのじゃ。悠然と堂々と旅をすればよいのじゃ」


 マリスは反対か。彼女は誇り高きドラゴンだけあり、後ろめたい事もないのにコソコソするのは好かないのだろう。職業も守護騎士ガーディアン・ナイトだけに誇りの高さはパーティで一番高いに違いない。


「すまん……俺が……全て報告しておけば……」


 ハリスは代官の屋敷で出会った些細な出来事を全部報告してなかったと酷く気にしているようだ。


「気にするな。どっかの密偵がいただけじゃん。お奉行が中央政府に事の次第を報告したら、俺たちの関与が明るみに出るのは既定路線だ。ハリスの所為じゃないよ」


 ハリスは少し涙ぐみつつも俺の目をしっかりと見ながら頷いた。


「次からは……全てを報告……する」

「わかった、わかった。で、ハリスはどうするべきだと思う?」


 ハリスは少し考えてから口を開いた。


「俺は……ケントに……賛成だ……」


 ふむ、四対一でフソウ竜王国での目的を速やかに完遂し、出国することに決定だ。


「じゃ、アキヌマへは街道を避けて行くことにするね。街道だと人目に付きやすいし……」


 しかし、街道を外れると、強行軍で進んでも移動速度は落ちてしまう。

 速やかに目的を遂行するという目的には合致しない。


 俺が考え込んでいるのを見たトリシアが不思議そうに首を傾げる。


「どうした? 街道を外れたらアキヌマには早く行けないと思っているのか?」


 図星を突かれました。


「ああ、そこがネックだな」

「素敵用語じゃ」


 マリスのツッコミはともかく、マジでそこが問題なんだよ。


 トリシアも「ふむ」と言って思案顔になってしまう。


「ケントさんの転送魔法は使えないんですか?」


 アナベルが魔法の行使での移動を提案してくる。


「いや、魔法門マジック・ゲートの魔法は行ったことがない場所には転送できないんだ。拠点転移ホーム・トランジションの魔法にしても起点となる魔法道具が置いてある場所にしか転移できない。転送や転移は制約が厳しいんだよね」


 知らない場所に転送門ゲートを開いて何が起こるかは神のみぞ知るだ。まあ、この世界の神様でも解らない可能性はあるけどね。


「じゃから我の言うように堂々としておればよいではないか」

「そして無益な殺戮を繰り返すと……俺は理由もなく人は殺したくないんだよ」


 マリスが頭から俺に否定されてショボンとしてしまう。

 マリスの言うことも解るので、俺はマリスの頭をクシャクシャと撫で回した。


「ケント、お前は例のマップ画面とやらで何でも検索できると言っていたな」


 トリシアが思案顔のまま俺に質問する。


「ああ、名前とか解らないと詳しい情報は出てこないと思うけど、種族とかある程度、検索対象が解るならできると思うよ」

「ふむ。ならば手が無いわけでもない」

「ほう。妙案が浮かんだか?」

「フェアリー・リングを使う」


 トリシアが顔を上げてニヤリと笑った。


 フェアリー・リングっていうと……ヨーロッパ地方の伝承によれば、真夜中に妖精たちが踊った後にキノコなどが円状に並ぶ現象だとか聞いたことがあるな。朝、突然現れた円形のキノコ群を見て住人たちが驚くとかなんとか。


「それが何か解決作になるの?」

「あれは我々、妖精族の転移装置として古に利用されていたものだ」

「おー、そんな説が!」


 さすがにビックリ。あれはそもそも菌輪きんりん、あるいは菌環きんかんと呼ばれる自然現象だと現実世界では言われている物なのだが。


「古の妖精族によって世界の各地はリングによって繋がれていた。これは精霊たちを見ることができた当時の妖精族が精霊に力を借りて構築したと伝承に残っている」


 言わんとしていることが解り始めた。


「ということは、精霊を見て、かつ言葉も解る俺が精霊に協力を仰げば利用できる可能性がある?」

「そうだ。だが、もう一つ必要条件がある」

「必要条件?」

「リングの起動にはフェアリー族の協力が不可欠だ。これは他の妖精族では不可能なんだ」


 となると……ああ、なるほど。


「それでマップ画面の検索機能か」

「そういうことだ」


 トリシアが理解したかといった風情で頷いた。


「ふむ。了解だ。フェアリーを検索すればいいわけか」


 俺は大マップ画面を開いて検索ダイアログでフェアリーを検索してみる。


 ポスポスとピンが画面に立つ。


「ああ、いるね」

「見せてくれ」


 俺は仲間にも大マップが見えるように設定を変更する。


「ここから一番近いフェアリーのいる場所は、ここだね」


 俺が指差した地点には複数のピンが立っている。


「ここから北東、フジの麓の森の中だね。二〇キロくらいかな?」

「よし、そこを目指そう。フェアリーとは私が話す。古代妖精語はさすがにケントにも荷が重かろうからな」


 なるほど。フェアリーは古代妖精語というのを話すのか。そういやファルエンケールでフェアリーは見なかったな。

 フェアリーというと背中に羽根が生えてて手のひらほどの大きさなんだっけ?


 現実世界でいうところの、いわゆる妖精と呼ばれる存在に会いに行く事になり、俄然ワクワクしてくる。


 これだから冒険の旅は辞められないな!


 その日、村長や村人に挨拶して、早々に村から出発した。


 周囲を大マップで確認し、追跡者や監視者がいないかをシッカリ確認してから街道をれて森の中に姿を隠した。


「よし、フェアリーのいる場所までは二〇キロ。頑張れば陽が暮れるまでには到着できるはずだ」


 森での移動にはトリシアとハリスの能力が有効だ。レンジャー職は森に特化しているからな。



 その日の昼頃、納屋を借りた村の村長宅に中央政府の特使と名乗る集団がやってきた。

 だが、目的の集団は既に村には居らず、特使団が途方に暮れることになった事を俺たちは知らなかった。

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