第20章 ── 第17話
フソウのキノワ城下町は時代劇で見る江戸に似ている。
街の中心には天守閣を持つ城があり、そこが代官の執務や様々な行政を行うところらしい。軍隊も城に常駐しているとか。
その城を中心に放射状に道が延びており、道に挟まれた土地に店や住居などが所狭しと並んでいる。
平屋か二階建てしかないので統一された町並みに感じられる。
建物は木と紙が基本で、火事とかあったら簡単に燃え広がりそうな所が江戸っぽい。
道と道で挟まれた部分の塊が「街」といい、各街に名前が振られている。その「街」が、小路で区切られて、それが「町」という単位でくくられる。
城から離れれば離れるほど、「街」は末広がりになるので、城近くの「町」と比べ、俺が買ったあたりは幾つも「町」が連なった感じになっている。
各「町」には町役人という「町」に住む人々の代表者がおり、これが基本的な「町」の行政に関わっている。住人同士の問題を解決したり、税金を徴収し行政に支払ったりと町役人の業務は多岐にわたる。
およそ一〇町ほどの地域とそれに付随した森や林などを購入したわけだが、貧困層が居住する地域であり、古い長屋がゴロゴロあったりする。
この地域の証文や沽券状を書き換えるにあたり尽力してくれた町役人、アサカ・タキジロウに任せることになったわけだが、彼には町を管理する上で貧困に苦しむ住人たちの助けになるように管理して欲しいと依頼した。
時々、俺も見に来るとは伝えておく。また、突発的な問題が起こった時に使える資金として金貨を二〇〇〇枚ほど預けておく。
貧困層の住む場所にありがちで治安が悪いらしいと聞き、この金貨を入れる箱に魔法の付与をしておいた。不埒な盗賊が手を出すと致死性の電撃が発生して黒焦げにするのだ。
アサカ・タキジロウには箱の鍵を渡してあるが、この鍵は本来の鍵ではなく認証キーであり、タキジロウ氏か彼の代理人でなければ箱を開けられないというもの。
長屋の事や飛行自動車の設計開発が一段落ついたので、俺はキノワの城下町を見て歩くことにする。
ここの所、観光的な事してなかったからね。
キノワ城下町の観光スポットは城下町の東側にある巨大な城門だ。この城門は城塞とも呼べそうな物で、これに例の土塁が南北に繋がっているわけです。
今は関所という感じで使われているようだが、何百年か前は東側からの驚異に備えるための軍事施設として機能していたことが窺える作りだ。
「関所だけあって壁が高いなぁ」
二〇メートルくらいある。
「あの尖塔では火矢からの攻撃に脆くないか?」
トリシアが指さしたのは
「あれは火事を知らせるための物だよ。半鐘という名前だが、ベルがぶら下がっているだろう?」
青銅で出来たベル型の半鐘が遠目でもよく見える。
「ふむ。火事の時にあのベルを鳴らすわけか」
「そう言えば、長屋の方にもアレに似たのが建ってたのじゃ」
「ありましたね。あちこち建ってましたよ」
防災警報システムとしての櫓は江戸の町にも多かったらしいからなぁ。興味深いね。
これは現代日本においても同じようなものが設置されていたりするらしい。俗に市町村防災行政無線というものだ。現在は都会には無い代物だが、地方はまだ現役だろう。
多方向に大音声で放送するせいで、「こちらわらわらわらわ……」ってエコー掛かっちゃって何言ってるか解らないなんて話も聞くから無用の長物なんじゃないかと思うけどな。
町の中心にある城に向かって歩いてみると、他国と少々違う点に気づいた。ずっと土壁が並び始めるのだ。
「中心に近づいているのに殺風景になってきたな」
「白塀がずーっと繋がっておるのう」
「神殿施設が多いんでしょうか?」
「この辺りは……役人の住居……だ」
ハリスさん解説ありがとう。
「ハリスの言う通りだ。ここの辺りは町の行政官や武士と呼ばれる支配階級が住む地域だよ。見た限りだと、住人が住む場所と行政官などが住む場所が明確に分けられているようだね」
キノワ城は深く広い掘に囲まれたもので、大マップ画面で確認した所、地下二階、地上四階層というものだ。天守閣も城壁なども戦国時代後期に建築された日本の城にソックリだった。シャチホコよろしくキンキラキンの人物像が建っているのが印象的だ。現実の城との違いはソレくらいだろうか。
帰り道、商店街という感じの町並みに足を運んだ。
そろそろアキヌマ地方に向かうつもりなので、旅の準備も兼ねてだ。
俺たちが足を運んだ場所は小売店が少なく、
俺たちが店に入り購入の意思を示すと、大抵の店では眉をひそめて遠回しに断りを入れてくる事が多く、マリスが何度か癇癪を起こし掛けた。
ただ、購入量を言ったりすると、途端に態度が変わったりする。
今回、海苔問屋、酒問屋、醤油酢問屋、味噌問屋などで、樽単位で購入できた。
産地じゃないので比較的高めだと聞いたが、支配者層の武士が多く住む城下町だけあって品質の良い品物が多かったので、俺はホクホク顔になった。
様々な産地から品物が集まってくる街道の要所だけにキノワ城下は色々な地方の商品があるので、俺好みの味のものを選ぶことが出来た。
必要になったらいつでも来れるわけだし、土地を買って正解だったかもしれないね。
長屋へ戻る道すがら、蕎麦屋があったので腹ごしらえ。
ここもタケノツカ村の蕎麦屋と同じでメニューが味気ないほど少ない。うどんもないのも一緒だ。
小麦粉がフソウでは高いから仕方ないね。さっきの問屋街で小麦問屋を見たけど、値段が五倍だったよ。とても買えたものじゃない。
あと油問屋も見たんだけど、菜種油が一樽約七〇リットルでフソウ金貨一枚もした。
オーファンラントより八倍は高いよ。トリエンだとオーファンラント銀貨一枚で買えるからね。天ぷらが廃れる所以か。
他に小豆や漬物なども仕入れておく。
次の日。いよいよ自動車の外装になる装甲板の打ち出し。
屋根を幌にしようかとも思ったが、アダマンチウム製の屋根にしておく。ボタン一つでオープンカーになるような機構にしたから問題はあるまい。
フロント・ウィンドウやドア部分には透明な板ガラスを用いる。
板ガラス自体は高価ながらオーファンラントでも普通に手に入るが、この世界の板ガラスは強度に問題があるのでドーンヴァース製の板ガラスだよ。
ドーンヴァースで家を建てる時の部材なのだが、非破壊属性付きなので便利です。タクヤのインベントリ・バッグに大量に入っていたので使うことができました。
「よーし、完成」
夕方くらいまで掛かったが、パッと見ても現実世界の自動車のまんまだ。
飽きもせずにマタハチがずっと俺の作業を見ていたが、俺が完成と言ったら飛び上がって喜んだ。
「すげぇ! オレ、絶対鍛冶屋になる!」
だから、鍛冶屋ちゃうねん。
「おっちゃん! 弟子にしてくれよ!」
「おっちゃんじゃねぇ! つーか、俺は教えるレベルじゃない」
「じゃあ、おっちゃんは誰に教えてもらったんだよ。その人の弟子になる!」
鍛冶スキルはマストールに教えてもらったようなもんだが……
「あのな、マタハチ。俺はずーっと東の方の国から来たんだぞ。俺の師匠に弟子入りすると、遠い外国にいかなきゃならん。解って言ってるのか?」
俺はマタハチの肩に手を置いて、彼の目を覗き込みながら言った。
「わ、わかってらい! それでも弟子入りしたいんだ!」
「父ちゃんにも母ちゃんにも、何年も会えなくなるんだぞ?」
「へ、へっちゃらだい!」
うーむ。俺は別にマタハチをトリエンに連れてっても構わないんだがなぁ。マストールに押し付けるだけだし。
俺はマタハチの頭の上に手を乗せて、
マタハチをパーティに入れて、HPバーを表示して確認。
『マタハチ レベル二
HP:三〇/三〇』
という感じに表示される。
まあ、レベル二じゃこんなもんだろう。マタハチはまだ八歳くらいだし、レベルが二もある方が驚きだが。
ふと思いついてマタハチのHPバーをクリックすると、新しいウィンドウが開いた。
ん?
それは俺のステータス画面と同じものだが、マタハチのステータス画面だった。
あれ? 他人のステータス画面も呼び出せる仕様だったっけ?
とにかくマタハチのステータスを確認する。
各種能力値は平均的だが、若干器用度と耐久度が高い。そして……
おいおい。マタハチよ。お前、ユニーク持ちじゃねぇかよ!
マタハチのユニーク欄に「ノービス」と表示されている。
ユニーク「ノービス」は師事を受ける対象人物がいた場合、取得経験値にボーナスが入るという能力だ。
スピード攻略を目指すプレイヤーに人気のユニークだ。
このユニークの良い所は、師事する人物を選ばないという所で、NPCだろうがプレイヤーだろうが目の前に存在する人物なら何でも師匠にできてしまう所だろう。
クエスト・ボスを師匠に設定したというアホなプレイヤーがいた事も有名だったりする。
こいつは中々将来が楽しみなヤツだなぁ。ヘタな師匠より一流の師匠を付けたら化ける可能性が高いぞ。
「マタハチ。本気で一流の鍛冶屋になりたいのか?」
「当たり前じゃん!」
「一流の鍛冶屋は俺のような物は作らないぞ?」
「でも、あれの外側みたいなのを簡単に作れるんでしょ!?」
「まあ、外装はそうだな。鍛冶屋で作れる代物だな」
「なら、オレは鍛冶屋になるぞ!」
決意は固いらしいな。
「なら、父ちゃんと母ちゃんに許可を貰ってくるんだな。外国で何年も帰れなくなる事も含めて、両親の許しがもらえたら俺の師匠を紹介してやってもいいぞ」
「ホントか、おっちゃん!?」
「おっちゃんじゃねぇ!!」
マタハチは喜び勇んで帰っていった。ま、許可が降りたらマストールの所に連れて行ってやるよ。マストールが弟子にするかは保証できないがね。
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