第20章 ── 第12話

 夜中にシャシーや他の搭載機器の設計を行う。


 ミッドシップ型でデザインしてみる。エンジン部分を車体の中心に置かないと空を飛ぶ時のバランスが悪いからだ。

 車体前方は操縦席と助手席だろうな。衝撃吸収装置や姿勢制御、飛行管理ユニットなども前に置くかね。

 車体後部には魔力蓄積装置を置く。エンジンを囲むようにコの字型のものにしよう。魔導バッテリーのさらに後ろにトランクルームや整備工具などを入れるんだ。


 シャシーやフレームはアダマンチウムによる頑丈なもので作るとしよう。事故などが起きた時に搭乗者を守るのにも最適だろう。


 シャシー下部に闇石ダーク・ストーンを利用した反重力装置を各所に取り付ける場所を確保する。中央の左右に二つずつ、計四つ。前後左右に二つずつ、計八つ。シャシー中央部に大型のを一つ。全部で一三個だ。


 闇石ダーク・ストーンの実験をちょいちょいやってきて判明した事だが、魔力の流し方によって重力を切り離す力、所謂「反重力」的な波動を発生させる事ができるのだ。

 継続的に流した場合は闇の力が死者を生き返らせるような反生命的な波動になってしまうわけ。


 なので、魔力をパルス波長で一定のリズムで断続的に流さなければならない。

 それを制御するために魔導リレー回路を開発しておいた。非常に少ない魔力で、導線を流れる魔力をミリ秒単位で遮断したり開放したりを繰り返すんだ。

 この間隔が細ければ細かいほど反重力波は強くなる。改良すればナノセカンドとかピコセカンドまで減らせるかなぁ? やりすぎてブラックホールが出来たら困るけど。


 こんな感じなので、現状では一三個もの反重力装置が必要になるわけだ。


 推進装置、姿勢制御装置は、魔導エンジンによって発生するガスを主に使い、風属性の飛行魔法を補助として使う。飛行魔法の魔力消費は非効率だからね。



 朝からトンカントンカンとシャシーとフレームの鍛冶仕事。


 例の事件に関しては、奉行所の反応待ちだ。一応、相手の動向はハリスに監視させている。トリシアは長屋の警備をしてもらっている。

 マリスとアナベルは……例のごとく子供たちと遊びに興じているな。


 シャシーとフレームがほぼ完成した頃、マリスとアナベルが四人のグッタリした男を引きずって、意気揚々と帰ってきた。子供たちが身を寄せ合って怯えているのが印象的だ。


「ケント~、獲物じゃ」


 獲物って……どうみても人間ですけど……


 作業の手を止めて、やってきたマリスたちの元へと向かう。


「何かあったのか?」

「我らと子供たちに襲いかかってきたのじゃ」


 見ればならず者のような男たちは半死半生といった感じでピクリとも動かないが、一応生きているようだ。


 マリスが俺の前に獲物人間を放り投げてきた。


「うぎゃ……」


 地面に投げ出された衝撃で一人の意識が戻った。


 俺が仁王立ちで睨みつけると、男は慌てて正座して身を縮める。そしてガタガタと猛烈に震えている。


「か、堪忍してください! ま、まさか天狗様だとは夢にも思いませんで……」


 え? 天狗?


「マリス、何かしたの?」

「んー、ちょっと翼を出して空から蹴りをお見舞いしただけじゃが?」

「マリスちゃんはカッコよかったのです!」


 得意げなマリスをアナベルが褒めそやす。マリスはどんどん胸を反らせる。


 増長するから辞めなさい。


「マリス」


 俺がジロリと見ると、マリスが何か悪い事をしたらしいとやっと気づいた。


「し、失敗だったかや?」

「当たり前だろ。人前でたとえ一部でも本性を出すなよ。誰に見られているか判ったもんじゃない」


 俺がそういうとマリスは腑に落ちたといった感じだ。


「そ、そうじゃな。今後気をつけるのじゃ。許してたも」

「でも、カッコよかったのですよ?」


 アナベルもオロオロとしながら弁護する。


「ま、それはいいや。で、子供たちに怪我はないな?」

「もちろんじゃ! 我が庶民を傷つけさせるようなヘマはせんぞ!」


 ふむ。さすがは守護騎士ガーディアン・ナイトだな。アナベルの援護もあっただろうし、この二人を組ませておいたのは正解だろう。


「おう、お前たち。少し怖い思いをしたようだな。無事で何よりだ」


 俺はそういって子供たちの頭をポンポンと軽く叩く。


「こ、怖くなんかないやい! 俺は強いんだ!」


 マタハチが強がるが、目には泣いたような後がしっかり残ってます。チヨとハナの二人もそうだ。

 メガネは顔を強張らせているが泣きはしなかったようだな。さすがは武士の子だ。


「ボ、ボクたちは何で襲われたんでしょうか?」


 気丈にメガネが俺に聞いてくる。


「うーん。ここに出入りしたからかもしれないな」

「そ、そうなの?」


 マタハチが衝撃を受けたような顔をする。


「俺たちは冒険者だと話したよな」


 俺がそういうと、子供たちが頷く。


「ここに来る前……旅の途中の出来事だが、このあたりを荒らし回る盗賊団をひっ捕らえた」

「凄いですね……」


 メガネが目を見開く。


「そいつらの仲間に恨まれている……のかね?」

「どうじゃろ?」

「悪は成敗なのです!」


 俺は震える男をジロリと見る。視線を向けられて男は平伏した。


「お、俺らは命令されただけなんだ……て、天狗様に関わるつもりなんて毛頭ありません!」


 天狗じゃねぇって……


「誰に命令されたんだ?」

「へぇ……名前は知りません。酒も飯も金もくれるヤツでして……」


 そう男が言い、続きを話そうと口を開いた時、屋根の上にいたトリシアが警戒の口笛を吹いた。


「おい、お前たち。屋敷の中に入れ。押し入れに入って襖をしっかり閉めておけ!」


 俺がそう言いながら縁側に置いておいたロングソードを引っつかむ。

 すでにマリスは無限鞄ホールディング・バッグから大盾と小剣を取り出している。

 アナベルもウォーハンマーを引き出した。


 それを見たマタハチは慌てたようにチヨの手を取って引っ張った。メガネもハナの手を取る。


「いいか、俺たちが声を掛けるまで絶対出てくるな!」


 子供たちは長屋の中に駆け込んでいく。


「周囲に二〇人以上の気配がある」


 トリシアの澄んだ声が屋根の上から聞こえてきた。ま、この状況で打ち下ろし可能な地点を確保している段階で負けはないな。


 俺は大マップ画面を呼び出し敵の襲撃位置を確認する。


 東と西から挟み撃ちらしい。総勢三八人ほどだ。


 西側には玄関があるな。


「マリス、アナベル。玄関からの侵入を許すな。そちらに一五人ほどの敵が近づいてきている」

「了解じゃ。目にものを見せてやるのじゃ!」

「ふふふ。バカな奴らだ。私たちの住居を襲うとは。蹴り甲斐がある」


 走り出すマリスの後をダイアナにチェンジしたアナベルが追っていく。


 どこを蹴るつもりだダイアナ……一五人じゃ簡単に全滅だな、こりゃ。


「さてと」


 俺は剣を抜き、攻性防壁球ガード・スフィアを展開する。


「おい、お前。逃げると敵とみなして確実に殺すからな」


 背を向けているのを良いことに、コッソリと逃げ出そうとした男に俺はそう声を掛けた。


「い、いえ! 逃げません! 邪魔にならないように隅に行こうと……」


 苦しい言い訳だな。ま、マップ画面を見れば移動しているのが丸見えなんだよ。


 そう思って苦笑いした所に、五本の矢が飛んできた。


 攻性防壁球ガード・スフィアが反応し、火属性の球が自動的に矢を迎撃した。


 土属性の球が正確に反撃し、地面から巨大な岩の槍が突き上がるのが遠目に見える。五つの悲鳴が上がり、直ぐに消えた。


 東側はあと一八人。


 待ち構えていると、西側で戦闘が開始されたことが音で判った。トリシアが屋根の上から支援攻撃を開始した音も混じっている。


 やはり西側の方が攻めやすいと見て、突入が早かったようだなぁ。


 俺は東側の一八人全員にステータスバーを表示する。


 一番奥の一人だけが二三レベルと高めだが、あとは八~一六レベルと初級から中級レベルだ。


 俺が一人で待ち構えているのに気づいたのか、ようやく敵が姿を表した。


「へへへ。一人かよ。楽勝だ」


 さっきの土属性攻撃を見てないのだろうか? それともただのバカか。装備面での実力差は歴然だろうに。


 ニヤニヤしている最前列の五人に、俺は音もなく近づいてスキルを炸裂させた。


「五連撃……紫電・改」


 ストトトトトッと軽い音と共に、五人の心臓あたりに穴が穿たれた。


 ピッと血を払うように剣を振ると同時に、五人がバタバタと紐の切れた操り人形よろしく倒れていく。


「あと一三人」


 俺がそう言うと、襲撃者たちが色めき立つ。


「き、き、聞いてない……物凄い剣士だぞ!?」

「剣士ってレベルか!? 剣聖なんじゃ……」


 剣聖? 最上位クラスのサムライが一〇〇レベルになった時に貰える称号だっけな。サムライに転職するつもりがない俺にとっては無縁の称号だけどさ。


「次は誰だ?」


 襲撃者たちを見渡すと、一番うしろからニヤニヤしながら歩いてくる着流しの侍っぽいヤツがいる。


「どけどけ。お前らじゃ相手にならねぇ」


 何故だか腕には自信があるらしいな。レベル二三だけど。


「俺はハヤミ、ハヤミ・シンノスケだ。お前は?」

「クサナギ・ケント」

「クサナギか。伝説の剣の名を姓に持つとは面白い」

「好きでこの姓になったわけじゃないがな」


 クククとハヤミが笑う。


「ちげぇねぇ。俺も好きで落ちぶれ浪人になったわけじゃないからな」

「で、やるのか?」

「俺は強いやつとやるのが好きなんだ……よっ!」


 突然抜き払われた刀の先端が俺の腹を切りつけてくる。


 これを攻性防壁球ガード・スフィアで自動迎撃しては興ざめだな。球たちを動かないようにしておく。


 薙ぎに来た剣先を一歩下がるだけで避ける。


「ははっ! そこだよ!」


 通り過ぎたと思った剣先が、ヒラリと軌道を変えて俺の首を狙ってきた。


 再び飛んできた剣先の腹を、デコピンの要領で左手の人差し指を使って軽く弾いてやる。


──ガキンッ!


 そんな音を立てつつ、剣先が俺の頭の上を通り過ぎていった。


「な、何をしたんだ?」


 さすがにハヤミの顔色に変化があった。


「指で弾いただけだ」

「くっ! 味な真似を」


 やれやれ。バカだから盗賊団なんかに入ってるんだろうし、実力差すら理解できないって事か。

 ちょっとしたデモンストレーションで解らせようとした俺がバカだったのかもしれん。こういう輩には甘い顔をしても無駄って事かね。

 それじゃ、とっとと終わりにしてしまおうか。

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