第18章 ── 第27話

 今回のパーティで自分を売り込んでくるような貴族はいなかったんだが、逆に商人系の街の名士は相当な人数が挨拶にやってきたよ。


 レオナルド・ジョイスも来たが、彼とは既に一つ契約をしているので割愛。

 いくつか他国との貿易を行っている商会のものがいて、その人物たちと周辺国の物流情報の交換をした。俺の提供する情報は東側の情報だけどね。


 この情報交換で判明した事だが、米の産地はルクセイドの北西側の地域全般で、大陸西岸あたりに広く分布するらしい。

 最も生産量が多いのはフソウ竜王国。次いで大陸の北西の端、フソウの北にあるトラリア王国も米の名産地だそうだ。

 この二国は米と共に味噌ミゾ醤油ショルユ、米酒なども大量に輸出しているという。


 これは是非とも「行かねばならない国リスト」の最重要国として記入しなければならない。漠然とした情報が確定情報になったのは嬉しい事だね。これらを手に入れるのがこの旅の目的なんだし。


 フソウに行くならバルネット魔導王国を経由していくのが安全なんだが、それを商人たちに言ったら眉をひそめられた。

「バルネットは止めたほうが……」

「え? どうしてです?」

「あそこは魔法使いスペル・キャスターが治める国ですからね」

「それが問題に?」

「辺境伯様は貴族ながら冒険者とお伺いしておりますし……」


 話に寄るとバルネットは冒険者を入国させないお国柄らしい。それと常時、魔法使いスペル・キャスターによる監視が行われているそうで、些細な違反で重罰を受ける事もあるとか。非常に旅をしづらい国らしい。

 入国の際に能力板ステータス・ボードなる魔法道具にて入国審査を行うという情報も入ってきた。


 能力板ステータス・ボード能力石ステータス・ストーンと同じようなものらしく、その人物の本名や能力、スキルや称号などを強制的に映し出すという。


 そういや、時間属性魔法の独占を図ってるんだっけ? トリシアも一応時間属性魔法が使えたような気がするし、俺らの所有スキルを知られるとマズイかもしれないな。


 となると、西の蛮族の地を経由するか大陸北側から回り込むかの選択肢しかないか。魔法を使った警戒網があるのだとすれば、ダイア・ウルフたちも利用できない可能性が高いしな。


 となるとルクセイドの西に出てからバルネットを避けて北上するというルートが一番楽そうだ。



 パーティが終わり、仲間たちと迎賓館の居間で仲間内で話し合う。


「さて、ルクセイドでの仕事も粗方終わった」

「そうだな。で、ケントはどうするつもりだ?」

「で、俺はフソウ竜王国とやらに行きたい。その北にあるというトラリアという国にもな」


 俺がそう言うと四人が目配せをして頷き合う。


「米……だな……」

「米じゃな」

「米なのです」

「米だろうな」


 何、その認識。図星だけどさ。


「そう、俺の目的は米、味噌ミゾ醤油ショルユ、そして海苔もな」

「ま、ケントじゃからな。ミエミエなのじゃ!」

「食道楽、ここに極まれりって事だ」

「ケントさんは神様をも魅了する料理の腕前なのですから当然ですね!」


 言いたい放題だ。ハリスまでメッチャ頷いてるし。食いしん坊チームのリーダーのトリシアに食道楽とか言われるのは癪な気がするが。


「ま、ええじゃろ。エンセランスのヤツもここの西におるでのう」

「は?」


 エンセランスって例のファフニールの種族のヤツだっけ?


「エンセランスって蛮族の地にいるのか?」

「んー? 良くは解らぬがここから西の大陸の端っこの山じゃ。アヤツはあまり下界の事に興味はないからの。山に籠もって小難しい事をやっておるのじゃ」


 ファフニールか。それも今回の冒険の目的だったっけな。マリスを友達に会わせるのは悪くないし、俺もこの世界の本来の姿のままのドラゴンには会っておきたい。


「条約を結ぶ国の脅威、西の蛮族とやらを排除して恩を売るのも手だろうな。民間人を守る事にもなるはずだ」


 トリシアの言うことももっともだ。


「アナベルとハリスは?」

「聞いた話では蛮族と呼ばれてる種族たちは神々への信仰が薄いそうです。マリオンさまの威光を示しておくのも悪くないと私も思いますのです!」

「俺は……ケントに……付いて……いく」


 ハリスは聞くまでもなかったな。初めてファルエンケールに行った時からドラゴン退治まで着いてくるとか言ってたもん。

 アナベルは……まあ神官プリーストだし、布教活動に熱心なのはどこの世界でも一緒だろう。


「では西にある蛮族の地に向かうって事で決定ね」


 四人も無言で頷き同意を示す。


「では、準備に取り掛かろう。出発は二日後でいいな?」

「了解だ。例のドングリ弾は多めに頼むぞ」


 まだ何千発かあるが、蛮族の地でどれほど戦闘をするか解らんからな。


「了解だ。ついでに新武器も考えておこう。野外戦闘ではハンドガンは射程的に不利だしな」


 そういった途端、マリスの目がギラリと光る。


「我には!?」

「あー、うん。そうだなぁ。盾はアダマンチウムになったけど、鎧と武器はミスリルのままか。うーむ。よし考えておこう」


 マリスがガシッとガッツポーズをした。この世界にもガッツポーズがあるのかよ。


「それじゃ、ハリスとアナベルのも考えておかないと……」


 戦力的にアンバランスになりかねないからな。


「新武具……か」

「今度は緑の法衣になるのでしょうか?」


 ハリスは宙を見つめ、アナベルは銀色に近い自分の神官服を引っ張って見つめる。


「しかし四人分の武具を作るとなると……二日後は無理か?」


 工房に戻ってエマとマストールに手伝わせるのが良さそうだな。

 マストールはあれからトリエンにずっと滞在しっぱなしなんだよね。ファルエンケールでの仕事は弟子に任せっきりらしい。


「どうするんだ?」

「そうだな。出発は三日後にしよう」

「三日で平気なのかや?」

「ああ、何とかなるだろう。では準備開始で」


 俺がそういうと四人は準備のためか居間から出ていく。


 さて、アダマンチウムのインゴットも工房に取りに行かないといかんなぁ。さすがに四人分の在庫はないからな。


 基本、ドーンヴァースではアダマンチウム製の武具は五〇レベル以上の装備だ。

 アルハランの風のリーダー、ジンネマンは四〇レベルにも満たずにアダマンチウムの鎧を着ていたが、あれだと装備ペナルティを受ける。ドーンヴァースだと条件不成立で装備できないのだが、ティエルローゼではレベル不足でも装備できるのだ。

 ただ、レベル不足だときついペナルティを受け、本来の武具の性能は発揮できない。足りないレベル×二パーセントも武具の能力が落ちるからな。よってジンネマンは三四パーセントも武具性能が落ちていたわけだ。それじゃサブリナ女史に勝てるはずもないわな。


 ちなみに、ミスリルは二五レベルからの装備ね。オリハルコンは七五レベル装備だよ。


「さてと、俺も行くか」


 転移門マジック・ゲートで工房に移動する。


「お帰りなさいませ、ご主人様」

「あ、うん。マストールとエマはいる?」

「エマさまはお出かけ中でございます。マストールさまは鍛冶部屋にて作業をしております」


 エマめ、ソフィアの所に入り浸ってるな。こっちの業務も怠るなよな。


「了解。これから二日間、鍛冶部屋に籠もる予定だからよろしく。エマが帰ってきたらトリエンの仕事もしろと言っておいて」

「畏まりました」


 フロルが深々と頭を下げる。


 鍛冶部屋に入ると、もろ肌脱ぎのマストールがガツンガツンとハンマーを振り下ろし、白熱した金属を叩いている。


 何を作っているのか後ろから観察すると剣か何かだと判る。


「剣を作っているのか?」


 マストールは夢中でハンマーを振るっているせいか、俺が話しかけたのにも気づかない様子だ。


 この状態のマストールに何を言っても無駄か。


 俺はさり気なくマストールの作業の補佐を始める。炉への送風の調整、相槌、その他諸作業をマストールの進めやすいように行う。


 作業が順調に進み始めたマストールの作業スピードが上がり、二時間程度で焼入れ段階に入った。

 焼入れは菜種油で行う。菜種油の温度を指を入れて確認しておく。温度は上々。


 マストールが金属の色を見ながら、徐に菜種油の中に刀身を突き入れた。


──ジュウゥウゥゥゥゥッ!


 マストールは焼入れが完了すると油から抜き出した刀身を綺麗な布で拭い、じっくりと刀身を見ている。


「うむ。良い出来だ」

「おつかれ」


 俺がそういうと、マストールが驚いた顔をする。


「うお。いきなり現れるな! ビックリするじゃろが!」

「いや、さっきからずっといたろ」

「そうか? そういえばいつの間にか補佐されておった気がするな」


 これだよ。仕事に夢中になると周りが見えなくなる。職人気質全開ですな、マストール師匠。


「最近、ファルエンケールには帰ってないって聞いたけど?」

「そうじゃな。ここの方が道具がそろっておるからのう」


 つーか、ここの材料は俺のじゃん。まあ、細かい事は気にするつもりはないけどさ。


「で、旅に出ているんじゃなかったのか? 戻ってきているとは知らなんだが」

「ああ、作らなきゃならんものがでてきたんでね。一時的に戻ってきただけだよ」

「ふむ。手伝うか?」

「そうだな。ヘパさんの薫陶くんとうを受けたマストールに手伝って貰えば早く終わるだろね。頼むよ」

「任せるがよかろう。相槌でも何でも言え」


 言わなくても俺みたいにサポートする積りだろうが。師匠の行動はお見通しだよ。


「とりあえず、四人分の武具が必要だ。フルプレート、ブレストプレート、ガントレット二つ、グリーブ二つ、チェインメイル二つ、神官用の法衣一つ、忍者服、それと忍者刀と小剣、トリシアの射撃武器、ウォーハンマーだな。全部アダマンチウムで作る」

「そんなに作るのか」

「ああ、ウチのメンバー全員分だ。できれば二日で」


 マストールが少し呆れた顔をする。


「普通なら一ヶ月以上掛かるのじゃがな」

「俺とマストールなら問題ないだろ? まず二つ必要なものは一つ作って工房で自動生産させればいいし、労力は半分で済む」

「武器はそうは行くまい」

「ま、そこは分担するさ。魔法の付与は旅の途中でやるからね」


 俺が言い終わるのも待たずにマストールは作業の準備に取り掛かる。


「鎧と小剣、ウォーハンマーは任せろ。部品状態だが二日後には手渡せるはずだ」

「組み立てと加工は俺がするからそれでいいよ」

「射撃武器や法衣やニンジャなんとかいうのはワシには無理じゃぞ?」

「ああ、そこは俺がやるよ。そこらは俺の世界のヤツだからな」


 マストールは良く解らんという顔だが、言葉もなく頷く。深い話は聞かないように女王に言われているのだろう。

 さて、これから二日、ガッチリ徹夜で作業しよう。どんな魔法を付与するかは後で考えよう。

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