第18章 ── 第23話
ゲーマルクの持ってきた酒はミード酒に似た甘い匂いだが、ミードと違い味も甘めだ。喉越しも良くてかなり美味い。
「どうだ?」
「蜂蜜酒に似てますね」
「そうだな。フェアリーが作ってるって噂だし、なんらかの花の蜜で作られているんじゃないか?」
ゲーマルクが
「蜜だけじゃないのじゃ。花粉も用いると聞いておるぞ?」
「おい少女! 博識だな!」
「我の住処の近くだからのう」
おい、マリス。身バレしそうな事は言うな。
「あのあたりに人間の住む国はないはずだが……」
ほら、言わんこっちゃない。
「我の住んでいた所は田舎じゃからのう。街などというときめく場所はないのじゃ」
街だとときめくんですか。それなのに何でトリエンまで来たんだろ?
「でも大きな街じゃと中々良いクエストが無いのじゃ。程よく街で程よく田舎なのが良い」
あー、なるほどねー。でも、今のトリエンは都市レベルだし、街の周りはダイア・ウルフ部隊とゴーレム部隊の治安網で世界的に見ても美味しいクエストはないだろうなぁ。
そのためにもレリオンみたいなダンジョンを訓練用として作ったらどうかと思ったりしたんだよね。そうすればトリエンの冒険者が食いっぱぐれなくなるだろう。ダンジョン管理職員的なのをやってもらったりね。
「では辺境伯殿が出してくれた酒を頂いてみよう」
ゲーマルクがバーボンの瓶に手を伸ばして封を切る。
「いい香りだな。今まで嗅いだことのない匂いだ」
グラスにトクトクと注ぐと俺が声を掛ける間もなく、ゲーマルクは一気に飲み干そうとした。次の瞬間、彼は口に含んだバーボンを吹き出した。
「ぶはっ! ゲホゲホ」
「あー、かなり強い酒ですからね。気をつけてくださいよ」
俺はゲーマルクが作った絨毯のシミをバッグから取り出したタオルで拭く。
「す、すまん……まるでドワーフが好む火酒だ。思わずむせてしまった」
ゲーマルクは再びバーボンに口を付けるが、先程のような一気飲みはしないで口に含むように飲み始めた。
「こいつは美味い……強い酒だが
どうやら気に入ったらしい。
「こいつを試してみて下さい」
俺は魔法で氷を作ってオンザロックに。
「酒を冷やすのか。美味いのか?」
「まあ、やってみて下さい」
ストレートと違って氷が溶けてアルコール度数が低くなっていくから飲みやすくなるんだよ。
「ふむ。こういう酒の飲み方もあるのか。さすがはヴォーリアが見込んだ飲ん兵衛だな」
「ま、大学時代はバーテンのバイトしてたんで。カクテルなんかも作れるよ」
「バーテンバイト? 誰のことだ? カクテルとはどんな酒だ?」
名前じゃねぇよ。確かに繋げるとドイツっぽい名前な気がするけどさ。
シェイカーないからマドラーでかき混ぜるしかないが、少し披露してやるか。
俺は今まで手に入れた酒を使って簡単なものを作ってやる。白ワインと俺が作ったジンジャーエール、レモンを使おう。
「はい、どうぞ」
俺が出したカクテルをゲーマルクがしげしげと見つめる。
「お茶のような色だが……レモンの香りがいいな」
「オペレーターってカクテルです。飲みやすいので女の人に人気ですね」
ゲーマルクは一口飲んで親指を立ててくる。その仕草って現実も異世界も共通なん?
その後、宴会は大いに盛り上がり、ゲーマルクは潰れるまで飲んでしまう。
あれだけガバガバと飲んだら、そら潰れるわ。
うちのトリシアとアナベルも潰れたしな。
ハリスは節度を守ってマイペースで飲んでたので潰れるほどじゃなかった。
マリスは全く酔ってない感じでまるで変わらなかった。さすがドラゴン。
迎賓館のメイドに客室を用意してもらい、ゲーマルクをベッドに放り込んでおく。多分、明日は二日酔いだろうな。
次の日の朝、というか昼近くになってゲーマルクがようやく起きてくる。
「あー……イタタ」
頭を抑えて辛そうな彼に水を出してやる。
「飲み過ぎですよ」
「お前たちは平気なのか?」
「みんな鍛えてますからね」
ニヤリと俺が笑うとゲーマルクはヤレヤレポーズだ。
「さすがだな。また今度やろう」
ゲーマルクが酒を飲むような仕草をしながらニヤリと笑う。懲りない人だな。
「ところで騎士団の仕事は大丈夫なんです?」
「ああ、昨日のうちに片付けるべきものは終わらせておいたからな。今日は非番だ」
「なるほど。俺はこれからケストレル騎士団長を尋ねるつもりなんですよ」
「団長の所に?」
「ええ。例の条約の件と別件のお願いがありまして」
「別件?」
ゲーマルクが興味深げな表情になる。
「ルクセイドにおける冒険者の扱いについてですかね。ほら、俺も一応冒険者なんで」
「貴族で冒険者をしているのは、お前さんの国でも珍しいんだろう?」
「そうですね。いないことはありませんが、珍しい部類ですね」
「で、冒険者をどうするんだ?」
「ま、それは団長閣下にお話するつもりですよ」
「俺も行こう」
どうやらゲーマルクも着いてくるつもりらしい。非番なのに、仕事熱心だなぁ。
ハリス、アナベル、トリシアは西方語の授業だし、マリスは既にグリフォンと駐屯地に遊びに出かけている。
俺はゲーマルクと馬車で騎士団本部へと向かう。
グリフォニアの街は商取引が活発で治安もかなりいい。グリフォン騎士団のお膝元だし当然だろうけど。
冒険者がうろつくような冒険エリアが少ないのもあるかもね。グリフォンの生息エリアなので魔獣や猛獣が繁殖することもない。グリフォン自体が猛獣だが、法律で保護されているので、何かあったら騎士団が出てくるからね。
一〇分ほどで駐屯地横の本部に到着する。
本部入り口の警備の騎士が敬礼で迎えてくれた。受付の女性もニコやかだ。
「いらっしゃいませ、トリエン辺境伯閣下。副騎士団長閣下、おはようございます」
「ああ、おはよう」
「おはようございます。騎士団長閣下とお会いしたいのですが」
「騎士団長は執務室におられます」
俺がそういうと受付の女性が応える。それを聞いたゲーマルクが片手を上げて奥に歩いていく。
俺が入っていいのか戸惑っていると、ゲーマルクが振り返る。
「どうした? 早く行こう」
確認のために受付の女性に目をやると、静かに無言で頷いた。
「あー、はい。今行きます」
どんどん歩いていくゲーマルクに早足で追いつく。
「団長の予定は大丈夫なんですかね?」
「平気だよ。実務は基本、俺が取り仕切っているからな」
やっぱりそうか。副騎士団長は有能そうだもんなぁ。
「お前の提案とやらが厄介そうなんでな。俺も団長との話に参加しておかないとマズイと思ったんだよ。後で人を介して聞いても解らん事が多いからな」
ゲーマルクとしては俺の提案で何らかの実務が騎士団に発生した場合を考えて行動をしているということなのだろう。手回しがいいねぇ。
以前来たことのある騎士団長の執務室の前まで来るとゲーマルクが
「団長、トリエン辺境伯殿がいらっしゃいました」
「うむ。少々まってくれ」
ケストレルが何かを真剣にやっていた。
彼の机の上には結構精巧な帆船の模型が作りかけで置いてある。
俺がポカーンとした顔で見ていると、ゲーマルクが難しい顔でケストレルを叱り始めた。
「団長! 来客なんですよ! 遊んでる場合じゃ無いでしょう!」
「今、良いところだ。少しまってくれ……」
「団長!!」
ゲーマルクにゲンコツを落とされてケストレルが涙目になる。
巨体だけど子供だ。まあ、男はいつまでも子供な所あるからな。ゲーマルクだって酒に関しちゃ節度が無くなってたからな。
「団長閣下、帆船模型とは趣味が良いですね」
「おお、トリエン辺境伯殿も嗜まれるか!」
団長は俺のセリフを聞いて嬉しげな顔になる。
ま、まあ、帆船模型は作ったことはないけど、プラモとかは嫌いじゃないよ? 素組み派だけど。
最近は色々と魔法道具とか武具とか物作りしているので、作ることの楽しさは知ってるよ。
「辺境伯殿まで何をいってるんだ。話があってきたんだろう?」
「まあ、そうですが。一段落付くところまで進めないと団長も職務に集中できないでしょう」
「確かに。さすがは辺境伯閣下だ。物事をよく解っていらっしゃる!」
団長、貴方が言うのはダメだろ。嬉しげなのがさらに「仕事が出来ない感」を醸し出してますよ
「では、俺も手伝いましょう」
俺はインベントリ・バッグから工作道具や木片などを取り出す。
「では腕前、しかと拝見」
団長がニヤリと笑って小刀を握る。俺も彫刻刀を握ってニヤリとしてみる。
ま、色々と道具も材料もあるし、少々遊ぶのもいいだろう。
彼の作っている帆船はツーセイルの中型帆船のようだし、俺が手伝えばあっという間に仕上がるだろう。ついでに色々小物などを作ってやればリアルに仕上がりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます