第18章 ── 第14話
「な、何事だ!?」
そこには大きなペガサスと
「何事かじゃない! 何の騒ぎだ!」
「て、天馬の守護者!?」
俺が彼女に声を掛ける前に衛士が叫んだ。
「やあ、ソフィアさんじゃないですか」
「強大な魔力の波動の揺れを感じたから来てみればお前たちか。何をしている?」
「仲間が攫われましてね。今、救出してきたところです」
ソフィアの目がハリスの腕の中でグッタリとしているマリスを見留めた。
「ふむ、ケント。お前の仲間が攫われるとはな」
「何かの魔法道具を使われたのではないかと思いますが」
ソフィア・バーネットが
「確かに。命に別状はなさそうだ。程なく目も覚めよう」
何か解除系の魔法を掛けてくれたのかな?
「お手数お掛けします。ところで……ソフィアさん、なんでグリフォニアに?」
「錬金術の素材を買いにね」
「なるほど」
そうこうしている内に、猛烈な勢いでグリフォンが飛んできて、ペガサスの隣に凄いスピードで着地した。
ペガサスが一瞬慌てて後足で立ち上がった。
「バーネット殿~~~!!!!」
グリフォンから鎧姿の巨漢が飛び降りて大声を上げて走ってくる。
「何じゃ! ケストレル、騒々しいぞ!」
「申し訳ない! バーネット殿のペガサスが降りるのを遠目で拝見致しましたので! 何事ですか!?」
巨漢の騎士は俺たちとポカーンとした衛士たちを見回している。
「相変わらず声がデカイ。少しは静かにしたらどうだ?」
「はっ! 申し訳ない!」
マジで
俺の怪訝な顔を見たソフィアが苦笑いを浮かべた。
「ああ、こいつはケストレルという。グリフォン騎士団の長をするものだ」
「へ?」
ソフィアがそう言うのを聞いた騎士が、俺の方に顔向けて頭を下げた。
「我が名はジークフリート・ケストレル。グリフォン騎士団長だ。バーネット殿のお知り合いとお見受けする」
「あー、俺はケント・クサナギです。よろしくお願いします」
俺がそういうと物凄い爽やかな笑顔で巨漢の騎士団長ケストレルが俺の手を強い力で握ってきた。
「バーネット殿とはどういうご関係かな?」
「えーと……」
笑ってはいるが、握る力を入れてくるので手が痛い。
「我が弟子の姪の主人だ。ある国の貴族でもあるぞ。失礼のないようにしろ」
ソフィアがやれやれという感じで俺を紹介した。
「おお、バーネット殿の身内の方でしたか、これは失礼」
力を込めるのはやめてくれたので助かるが……身内じゃないんですけど?
「ソフィアさん、どういう事です?」
「何、
「私は天馬の守護者、ソフィア・バーネット殿に結婚を申し込んでいるのだよ」
「は?」
あまりの驚きに思考が停止する。
「私は断ったはずだぞ、ケストレル。それにもう何千年も生きておる。今更結婚などという……そんな感情は持ち合わせておらぬ」
えーと、確かにソフィアさんは見た目は三〇歳くらいだけど……NPCですよ?
「何千年経とうと、私の愛は色褪せることはありません! 我が命が失われるその時まで貴方の返事を待ちますぞ!」
いや、今さっき断ったって言ってたじゃん。
「では、ケント。また会おう」
ソフィアは、そそくさと
えー? この状態で逃走ですか。何という早業。
「行ってしまわれた……バーネット殿、私は諦めませんぞ!」
拳を天に突き出したケストレル騎士団長は、どっかの世紀末覇者伝説の長兄みたいに見えた。
随分と熱い人だなぁ。副騎士団長が熱い人じゃないの? ヴォーリア団長はそう言ってたはずなんだが。
「ところで、君。この惨状はどうしたのかね?」
周囲を見回し、そこかしこに転がる冒険者どもの死体を見て、ようやく気づいたといった感じで騎士団長が
「ああ、ホルトン家の者が俺の仲間を攫ったので救出に来たんですよ」
「ふむ。なるほど。それで衛士たちを連れてきたのだな?」
「いえ、彼らは俺たちを殺人と他人の家に侵入した罪で逮捕すると言っています」
「何だと?」
ゴゴゴゴという音が似合いそうな爛々と燃える目で衛士たちに目を向けるケストレル騎士団長。その視線を受けた衛士たちが震え始める。
この人も威圧スキル使いか?
「バーネット殿の身内の方を逮捕するだと……?」
「め、滅相もありません! 我々は騒ぎがあったということでここに来ただけです!」
衛士の発言がさっきとはまるで違う。まあ、別にどうでもいいけど。
「ふむ。では衛士たちよ。後の事は任せたぞ? 死体の片付け、ホルトン家の者の捕縛。私は忙しいのだからな」
その言葉に衛士たちは言葉も無く敬礼のみで応えた。
「ケント・クサナギ殿と言いましたな? どうだろうか。私とお茶でも飲みながらバーネット殿の話でも」
爽やかなニコニコ顔に戻ったケストレルが言ってきた。
断れそうもない感じなので従う事にする。
「いいですよ。騎士団本部に行けばいいですか?」
「うむ。私がご案内しよう」
場所は解ってるんですけどねぇ……
「ラムダ! 厩舎に戻ってくれ。私は徒歩で本部に戻る」
「ピキャー!」
命令を受けたグリフォンがバサリと翼を広げて空に舞い上がり、そのまま南側に飛び去った。
「では、参ろう」
「りょ、了解です」
この騎士団長は随分と押しが強いな。でも、ソフィアのお陰で騎士団のトップと知り合うことができた。これはこれでコネクションとして使えるだろう。何せ、この国を治めている騎士団の一番偉い人らしいからねぇ。衛士たちも追い払うことができたし、ちょっと便利かも
『みんなはマリスを連れて宿屋に戻っていてくれ』
『承知』
『ちょっとビックリしたのです』
『ああ、随分と我の強い人物のようだが。ケント、上手くやれよ』
言うことは言ったのでパーティチャットを閉じておく。
騎士団長は中々面白そうな人物だが、俺の言葉一つで今後の状況がどう転ぶか分かったもんじゃないから色々と気をつけておこうと思う。
騎士団本部に団長のケストレルと戻ってくると、本部入り口でゲーマルク副騎士団長が行ったり来たりしていた。
「だ、団長! 今までどこに……あれ? クサナギ氏?」
「おお、アーサー。出迎えご苦労。今日はバーネット殿の身内の方を連れてきたぞ。ん? 何だ、アーサー、この方と知り合いか?」
騎士団長に気づいたゲーマルクが慌てて駆け寄ってきたが、俺の顔を見てポカンとした顔になってしまった。イケメン台無し。
「あ、彼はレリオン衛士団のヴォーリア衛士団長の知り合いでして……」
「ん? あの酒飲み筋肉男の?」
「ええ、書状で、彼の便宜を図ってほしいと」
「当然だ。クサナギ殿はバーネット殿の関係者。十分便宜を図ってやるつもりだ」
えーと、話がどの方向に向かっているのでしょうか? さすがの俺も困惑気味です。
「君の計画は上手くいったのか?」
「ええ、無事に仲間は救出しました」
苦笑気味のゲーマルクの問いに俺は素直に応える。
「アーサー、王都の治安がなってないな。バーネット殿の関係者が攫われるなどあってはならんことだ!」
「確かに。ホルトン家の者が貴族や騎士に取り入って好き放題しているという報告が最近俺の所にも回ってきたところでした」
「先ほど、衛士たちにホルトン家の者の捕縛を命じておいた。そのうち報告が来るだろう。私にも上げろ。それと、レリオンのホルトン自身も……」
「それは承知しています。既に手配を命じておきました」
「うむ。後は頼むぞ」
「お任せを」
俺はそのままケストレルの執務室へほぼ連行されるような状態で連れて行かれる。
腕を絡めないで頂きたい。まるでエージェントに捕まった宇宙人の気分です。
その姿をゲーマルクに見送られたのだが、気の毒なものを見たという彼の視線が痛かった。
でも、なんか俺の知らない所で勝手に話が進んでいるような気がするけど、俺の望んだ方向に行ってるようなので良しとしようか。
ケストレルの執務室は騎士団本部の最上階にあった。
副団長の執務室は一階だったのにね。概ね、実務は副騎士団長任せなのかもしれないな。さっきのやり取りを見る限り、副騎士団長は実務に優れた人物なのだろう。騎士団長からの信頼も厚そうだ。
ケストレル自身も武勇や決断力などがあると見ていい。瞬時に周囲の状況を察知し、少ない情報から正しい認識を導き出していると思う。
ただ、ちゃんと調べないで決断してた気もするので信じて良いのかどうか判断に苦しむが。
「バーネット殿の顔を久々に見たが、随分と険がとれた感じだったな」
ケストレルが自分で入れたお茶を口に運びながら言う。
「そうでしょうね。長年心に引っかかっていた問題が解決したからだと思います」
「何? バーネット殿は何か大変な問題を抱えておいでであったのか!?」
「ああ、この国の建国前からの問題だったんですよ。それももう解決しました。詳しくは話せませんが」
俺がそういうと随分と物欲しそうな顔のケストレル騎士団長は渋々続きを聞くのを諦めた。
「その問題の解決にクサナギ殿が手を貸したのですな。それは有り難い。私からも礼を申したい」
む。この人は洞察力が鋭いね。確かに、ペールゼンと王女の問題は俺が解決したし、さっきの会話でそう判断したとしたら、結構な切れ者なのだろうか。
「クサナギ殿、バーネット殿が申していたが……ある国の貴族なのですかな?」
「ええ。ここより東方にある国で辺境伯の称号を賜っています」
「ふむ、なるほど。バーネット殿のお弟子の姪御さんを雇っておいでと?」
「ええ。私の家臣団の中でも最も魔法に優れた人物です」
「なるほど。さすがはバーネット殿の弟子の姪御さんだ」
ある意味。事情聴取のような気がしてきた。一見馬鹿なフリをしているが実は抜身の真剣って感じの人である印象を受けるね。嘘とか言っても見抜かれそうな気がするので素直に答えておくことにしょう。
実際、ソフィア・バーネットと結婚しようとしているのだって、強力な
中々に油断はならないかもしれない。だが、この人物と友好関係を築ければ、ルクセイド領王国においては敵なしだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます