第18章 ── 第13話
まず俺は、グリフォニアの衛士詰め所に顔を出した。
マリスが攫われた事を報告したのである。
攫われた子供がいるということで衛士たちは一瞬だけやる気を見せたが、ホルトン家の名前が出た途端、逃げ腰になってしまった。
街の貴族や騎士団に繋がりの強いホルトン家に手を出すことはできないっぽいような事を遠回しに言い出し、俺は追出された。
もちろん、カルネ伯爵の通行証なども見せてみたが、この街でのホルトンの権勢には遠く及ぶべくもなかった。
「なら、救出活動は勝手にやらせてもらうからね。そちらが犯罪に加担するならな」
俺がそう言うと、衛士は恐怖に引きつる顔になって言った。
「す、凄んでもできぬものはできぬ。それに街で問題を起こすというなら、お前を逮捕するぞ!」
「やれるものならやってみろ!」
俺の怒りは頂点に達した。
俺のあまりの剣幕に対応した衛士が顔面を蒼白にして腰を抜かした。
異様な雰囲気に気づいた衛士たちが集まってきたが、俺が一睨みした途端、半数が泡を吹いて気絶し、あとは金縛りにあったように動けなくなってしまった。
俺は衛士詰め所から立ち去ったが、衛士は誰一人として追ってくるものは無かった。
次に向かったのは騎士団駐屯地という所だ。衛士詰め所と違い、体格もレベルも装備も中々優れたもののようだ。その一画にグリフォン騎士団本部が併設されている。
俺はヴォーリア衛士団長に貰った書状をインベントリ・バッグから取り出して、本部受付で見せた。
「ゲーマルクという騎士さんに会いたいんですが?」
「約束がおありですか?」
「いえ、約束はしていません」
「お名前をお伺いしても?」
「ケント・クサナギと申します」
「では、少々お待ち下さい」
受付の女性は書状を受け取ると奥に行った。
この書状で何も状況が変わらなかったら、俺たちだけで事を成すことになりそうだ。
五分ほど待っただろうか、受付の女性が一人の大柄なイケメン騎士を連れてきた。
「これを持ってきたのは君か?」
ピラピラと書状を振りながら騎士が言う。俺は困ったような顔を受付の女性に向ける。
「こちらの方が、アーサー・ゲーマルク副騎士団長閣下でございます」
「副騎士団長!?」
俺が目を丸くするとゲーマルクが吹き出した。
「わははは。アイツめ、俺の階級も伝えずに紹介状など書いたのか」
イケメンで非常に位の高い騎士だというのにかなりフランクな人のようだ。
「今日は少々相談がありましてお伺いしました。あまり時間がありません」
俺がそういうと、ゲーマルク副騎士団長の表情が精悍な物に変わる。
「ふむ。では俺の執務室で話すとしよう」
ゲーマルクの執務室は武具が大量に飾ってあるが、その一方で高そうな酒瓶もズラリと並んでいる。その光景に一瞬不安になる。
「で、相談というのは?」
ゲーマルクはそう言いつつ執務用の豪華な椅子に座った。
「俺の仲間が攫われ、ホルトン家の別宅に囚われています」
「ほう」
ゲーマルクはそういうと目を輝かせた。
「俺のチームは救出をするつもりです。その場合、少々小競り合いのようなものが起きるでしょう」
「ふむ。その戦闘の尻拭いをして欲しいということかな?」
「いえ、もしその行動が罪となるならば、俺が罰せられるのは仕方ありません。だけど、ホルトンの罪を不問にするような事はしないで頂きたい」
ゲーマルクは俺の言葉を聞くと椅子の背もたれにもたれ掛かって顎に手を添えて考え始める。
「ホルトン家の罪が事実であれば罪が不問になることはない。それに君がこれからやろうとしている仲間の奪還が罪となることはない。ホルトン家の罪状が事実ならばだ」
「事実です。レリオンでも色々とありましたが、この王都に来てまでも嫌がらせ……いや、嫌がらせなんてレベルじゃない。仲間を攫うなど……!」
俺の心の中でドス黒い炎がメラメラと燃え始めた。
「ま、待て!!」
ゲーマルクの声に俺は我に返った。
「あ、スミマセン。威圧スキルが入ってしまったかもしれません。申し訳ない」
「い、いや……君の怒りは凄まじいな。この世界が凍りついたような気分になったぞ」
「本当に申し訳ない。少々切羽詰まっておりまして」
ゲーマルクはまた少々考えてから口を開いた。
「解った。君たちがこれから起こす問題の後始末は俺が対処しよう。安心して仲間の救出を行ってくれ」
「ありがとうございます。警備に冒険者などを使っているようですが、そういうものが死ぬ事があるかもしれません……」
「構わん。冒険者などただの流れ者で厄介者だ。何人死のうと街の治安がよくなる事はあっても、不都合はない」
うわ。冒険者という存在を街の支配層がどう考えているのかが良く判る発言だよ。この認識を変えて冒険者ギルドを発足させるのは難しそうだな。
「では、早急に行動を起こしたいと思います」
「ああ、事が終わったら酒でも飲もう」
「はい。その時は奢らせてもらいますよ」
そういうとゲーマルクがニヤリと笑った。
「期待しておこう」
よし、根回し完了だ。
『トリシア、ハリス、アナベル。こっちの準備は完了だ。状況を知らせてくれ』
俺はパーティチャットで仲間たちに問いかける。
『今、別宅の向かいの家の屋根に登って様子をうかがっている』
トリシアは狙撃ポイントを抑えたようだな。さすがにハンドガンでの狙撃は無理だろう。今は弓を出しているのかな?
『私はホルトン家の近くの脇道で待機している。いつでも良いぞ?』
マップで確認するとホルトン家の壁沿いの道にアナベルの光点があった。別宅の正門を監視できる位置だな。
『俺は館の各出入り口を抑えた。マリスの監禁場所は館の地下だ。マリスは眠っているようだな』
意識がないのは事実だろう。もし意識があればマリスが大人しくしているはずはない。パーティチャットで発言してこない段階で気絶していたり寝ていたりだろう。
マリスの意識がないのは幸いとも言える。ドラゴンの本性が出てしまったら、この王都グリフォニアは今頃壊滅していただろうしね。
それにしても……小さい少女姿のマリスを攫いやすいと思ったからターゲットとしたのだろうが、知らないという事は恐ろしいものだ。
マリスが目を覚まさない内に全ての事を解決しないとマズイな。
『あと、五分待ってくれ。俺が到着次第、総攻撃を掛ける。ハリスの分身の一体はマリスの護衛を!』
『了解だ』
『やってやるぜ!』
『油断するな。まず敵の主力、正門の敵を私が排除する。ケントとアナベル、ハリスはそのまま館に突っ込め。小細工などいらん。迷わずに徹底的にやれ!』
『『『おう!』』』
午後二時四九分、作戦が実行に移された。
まず、トリシアのアロー・レインが正門にいた一〇人からの冒険者を襲った。あっという間に八人の冒険者の命が奪われた。残りの二人も重症を負った。
正門を突破した俺とアナベル、そしてハリスと分身たち。
異変を察知した冒険者が館などからワラワラと出てきた。その数二〇人以上だ。
「連打撃破槌! おらぁ!!!!」
ダイアナのウォーハンマーの連打スキルが冒険者たちに炸裂し、五人の冒険者が空中を舞う。追撃も必要もないほどに冒険者たちの身体はひしゃげ、そして潰れていた。
ダイアナの怒りと本気が垣間見える。
「忍法……火風遁!」
ハリスたちが口から炎を吐き、その炎が渦を巻いて冒険者を襲う。忍法版のファイア・ストームといった所か。魔法みたい。
ほぼ半数の冒険者が炎の嵐に巻き込まれて真っ黒に焼け焦げる。
俺も負けてはいられない。
「
無数の稲妻が俺の周囲に現れる。そして稲妻の剣が冒険者に襲いかかり残りの冒険者を絶命させた。
ホルトンの別宅に突入する。
ロビーに何人かの人間がいたが、これは冒険者じゃなくホルトン家の者だろう。
「さあ、マリスを返してもらおうか」
「ひいっ!?」
「ひいじゃねぇよ。死にたいのか?」
「こ、こんな事をしてタダで済むと思っているのか……!?」
「知るか。抵抗する者は全て殺す」
ギラリと俺の目が光ると、何人かのものが気絶した。
「確保完了……」
横の扉が開いたと思ったら、ハリスがマリスを抱きかかえてやってきた。
「ご苦労」
俺が言うと、ハリスが静かに頷いた。
「よし、撤退だ!」
俺たちは唖然とするホルトン家のものを置いて外に出た。
正門に向かおうと歩き出すと、門を固める衛士団が五〇人以上いた。
「と、止まれ!」
周囲の惨状を見た衛士たちが、槍や剣などを構えて震えながらも俺たちに命令をする。
「何のようだ? 言ったはずだぞ、衛士たち」
「だ、黙れ! 殺人罪、他人の住居を襲った罪、全て現行犯だ! た、逮捕する!」
やれやれ、もう一暴れしなければならないかな。
俺がそう思いつつ、剣に手を掛けた時だった。
空から大きな影が。
──バサバサ……
俺たちと衛士の真ん中に大きな白い翼が舞い降りてきた。
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