第18章 ── 大空のグリフォン騎士

第18章 ── 第1話

 俺たちは詰め所を後にし宿へ戻った。


 ヴォーリア団長とカルーネル衛士長は早速サブリナ女史に会いに行ったようだが、どうなった事やら。


「レリオンを出発するのはいつになるかや?」


 宿屋の部屋に戻った俺達はスケジュールを話し合う。


「そうだな。もうこの都市でやる事は全部済ませたし、明日にでも出たいと思う」

「次の目的地はどこにするつもりだ?」

「そうだな。まだ生きたグリフォンを見ていない。ルクセイドの王都へ向かいたいんだ」

「グリフォンですかぁ。空を飛んでいるのを見たいのです」

「ペガサスみたいに飛ぶんじゃぞ?」

「マリスちゃんは見たことあるんです?」

「我は見たことあるのじゃ。一緒に飛ぼうとしたら逃げられてのう……」


 それ、本来の姿の時にやったんか。そりゃグリフォンも逃げるわ。


「王都は……どの方向に……あるんだ?」

「ここから西の街道を二日半って所だな。騎乗ゴーレムで飛ばせば一日も掛からないけどね」


 ルクセイド領王国の首都グリフォニアは、城塞都市カルネを挟んだ向こう側にある。


 城塞都市カルネは、旧カリオス王国と旧バーラント共国の国境にあった城塞が起源の都市だ。

 二つの国が合併したお陰でその存在意義を失ったが、立派な城塞は周辺の野生動物や魔物などから身を護る上で便利だったため、いつの間にか人々が集まって大きな都市に発展したらしい。


 その向こう側にルクセイドの王都であるグリフォニアがあるわけだが、名前がグリフォンから来ているのが丸わかりなのな。


「よし、次はグリフォン見物だ。今日のうちに必要になる物資を仕入れておけよ。出発は明日の朝だ」

「承知……」

「解ったのです」

「武具の手入れを怠るなよ」

「それはケントの仕事じゃろ」



 翌日の朝、インベントリ・バッグから騎乗ゴーレムを取り出し準備をしていると、ヴォーリア団長、カルーネル衛士長、スミッソンとサブリナ女史、アルハランの風の連中が見送りにやってきた。


「もう行ってしまうのですか」


 スミッソンは名残惜しそうだ。


「ええ。レリオンでの仕事は終わりましたからね。あとはサブリナさんが上手くやってくれると信じています」


 俺はそういいながらサブリナ女史を見やると、彼女は微笑みながら頷いた。


「大丈夫ですよ。彼らも協力してくれますし」

「もちろんですよ、あねさん。俺にまかせてよ」

「ああ、その通りだ。リンウッドねえさんは俺が守る」


 盗賊シーフ戦士ファイターが胸を叩く。


「彼女に勝ってから言うべき言葉ですな」

「まさしく。力の無いものが言うと滑稽に聞こえるな」


 神官プリースト魔法使いスペル・キャスターが苦笑いしている。


「ケント様、お元気で。また会える事を楽しみに鍛錬していく所存です」


 聖騎士パラディンが差し出してきた手を俺は握り返す。

 勇者様はやめろと言ってからケント様におちついたけど、まだ「様」付きなんだよなぁ。同僚冒険者なんだから要らないのにね。


「君なら、もっと高みに行けるだろう。神はいつでも君を見守っているはずだからな」


 ジンネマンは一瞬身を固くしたが、すぐに力を抜く。


「はっ! その言葉を戒めに更なる精進に励みます!」


 ジンネマンの次は衛士団の二人だ。


「ケント。王都に行くのだろう?」

「ええ、そのつもりです」

「ならば、この書状を持っていけ。何かあった時に役に立つだろう」

「これは?」


 手渡された手紙は蝋で封印されている。


「グリフォン騎士団の知り合いに宛てたものだ。ゲーマルクという。地位に似合わず熱い男だが、何かと役に立ってくれるはずだ」

「お預かりします」


 インベントリ・バッグに書状を仕舞い込む。


「ケント。準備万端じゃぞ」


 すでにフェンリルに乗り込んでいるマリスが声を掛けてきた。


「しかし、何度見ても壮観だな。銀の騎馬隊は」


 カルーネルが朝日を反射するスレイプニルたちを見て眩しそうに言った。


「銀の騎馬隊を見た時から確信していたよ。こいつらは何か事成すだろうってな」

「そういえば、レリオンに来て最初に話したのが衛士長でしたもんね」

「そうだったな。旅の安全を祈ってるよ。ま、お前たちが危険に遭うってのも考えられないが」


 俺はスレイプニルに乗り込んだ。


「では、皆さん。また会いましょう。いつになるか解りませんけど。スレイプニル、常歩ウォーク


 俺が馬を歩ませると仲間たちの馬も自然と着いてくる。


 振り返って手を挙げると、スミッソンたちも手を振って見送ってくれた。



 西の城門までくると門を警備している衛士たちが綺麗に整列し、胸を叩く仕草の敬礼で見送ってくれた。


 俺たちの事をしらない衛士や冒険者は、迷宮都市レリオンにはいない。皆が敬意を持って接してくれるようになった。


 そういえば、昨日の午後に旅の準備で商店街を彷徨うろついたけど、迷宮攻略前の時と違って、値段を釣り上げたり、物を売らないような商人の姿が消えていたんだよね。


 ゴーレムを持ち帰った事でジョイス家が手のひらを返したっぽいね。ホルトン家と手を結んでいたはずなんだが。まあ、俺にはあまり関係ないんだけど。

 自分で用意するのが面倒だから買ったりしてるだけだからねぇ。道具の作成にしろ、服などにしろ、俺の手持ちのスキルで何でも作れるからな。武器や防具だって作れるし、修理も整備もお手の物だから。

 材料もフィールドで手に入るものはインベントリ・バッグにストックはあるからね。



 西の街道は商人たちの行き来が盛んなのか整備が行き届いている。

 この街道は荒野を突っ切って作られたもので、いつ徘徊するモンスターに襲われるかもしれないような場所なのだが、周囲に敵対反応は皆無だった。

 途中ですれ違う商人の馬車には護衛らしき騎馬や徒歩の人員が目につくところを見ても、危険なはずなんだが。


 大マップ画面で全周警戒をすると、一~二キロの範囲に白い光点が俺たちを囲むように配置されていた。


 クリックするとサンダー・ウルフとダイア・ウルフの混成部隊だった。


 ああ、そうか。ルクセイド一帯のサンダー・ウルフとダイア・ウルフをフェンリルが支配していたんだ。忘れてた。

 となると、過度な警戒は必要ないということか。

 それではノンビリといくとしようか。


 途中、野宿で夜を明かしたが、襲ってくる動物や魔獣は皆無だった。やはり大狼早期警戒網は優秀ですなぁ。



 翌日の昼前には城塞都市カルネに到着する。異国の都市なので入門時に少々聞き取り調査などをされたのだが、俺たちがレリオンの冒険者だと知り、すんなりと通ることができた。

 レリオン帰りの冒険者は、他の流れ者冒険者よりも信用度があるらしい。

 衛士が俺たちの武装を見て納得していたので、武具なども判断基準なのかもね。


 だが、問題はここからだった。どこの宿に行っても宿泊を拒否されてしまったのだ。


 木賃宿ですらだよ。どうなってんだ?


「おい、ケント。これは異常事態だぞ」

「ああ、俺もそう思う。まさか黄銅貨で泊まれるような安宿ですら追い出しに掛かるってのは普通じゃないな」

「何か原因があるのじゃろうか?」


 あるだろうな。俺の予想だが……都市を管理する関係から圧力が掛かっている気がする。ようは貴族か何かだ。


 俺以外の仲間の格好は冒険者、それもミスリル製の武具で統一感がある。そういった装備の冒険者を泊めてはならないという命令がどこかから出ていると思う。


 それが出来るのは権力者か裕福で影響力のある者だろう。


「早急にここを離れたほうがいいかもしれん」

「ふむ……」


 まあ、この都市には別に用事はないからな。素通りしても問題はないか。


「よし、そうするか」


 マップ画面で確認して西の門へと向かう。


 西門に向かう途中、少し考えてみる。


 街に入る時には何の妨害も無かった。衛士たちに呼び止められはしたが、概ね反応は良好だった。なのに街の宿などは既に塩対応だ。

 突然そういう事になったという事は考えられない。

 であるとするならば……


 西門が見えてきた時、俺たちの姿を見た衛士が声をあげた。

 その声に反応した他の衛士たちが門を固めた。誰も通さないという感じだ。


「止まれ!」


 衛士の一人が俺たちに大きな声を放ちつつ槍を構えた。


 あー、やっぱりそうなっちゃいます?


「どうやら罠に掛かったみたいだな」

「どういう事だ?」

「東の門の対応が緩かったのは俺たちを都市内に入れるためだな」

「なるほど……罠……か」


 ハリスは白銀の上から分身を出し、それら分身は一瞬で影に消えた。


 俺たちは衛士の命令に従い、馬を停めた。


「何か御用で?」


 俺は馬上から衛士に声を掛けた。


「お前たちには他国の間者という嫌疑が掛かっている!」

「間者だって?」


 何が間者だ。名前の誰何すらしてないのに間者もクソもあったもんじゃない。


「俺たちがですか? 何かの間違いでは?」

「煩い! 直ぐに馬から降りろ!」


 さて、どうしたものか……逃げるのは簡単だし、衛士をぶちのめしてしまうのもわけはない。

 でも、騒ぎを起こしてしまうと、後々のルクセイド観光がやりにくくなる気がするし……今のところは従っておくとするか。


「はいはい。降りますよ」


 俺がスレイプニルから降りると、仲間たちもそれに従う。


「動くなよ。おい、ケッセン。木枷を持ってこい!」


 命令を受けた衛士の一人が門の横の扉から入って木の手枷を人数分持ってきた。


 最初から罪人扱いか。まあ、今は大人しく捕まっておくけどな。何の罪状もない人間を捕まえるんだ。後でどんな容赦のない反撃をされても文句言うなよ。


──ガチャリ


 木の手枷は金属製の簡単な錠前がついているが、ちょっと力を入れたらバキリと折れそうな程ちゃちな作りだった。


 その手枷が全員にはめられ、俺たちは引っ立てられた。


 来た道を戻る格好だが、概ね街の中心にある城塞跡地に連れて行かれるんじゃないかな。


「この馬すげぇな。ただの銀じゃない」

「馬鹿、これがミスリルってやつだ」

「こんな馬は見たことがないな」

「ゴーレムってやつなんじゃないか?」

「取り敢えず、道の真ん中に置いてあると邪魔だ」

「おい、引いても押しても動かないぞ?」


 城塞跡地に目をやっていたら、後ろからそんな声が聞こえてきた。馬鹿だな。その騎乗ゴーレムは俺たちの命令でしか動かないよ。ま、奴らの武装では壊すこともできないだろうけど。

 もし、動かないなら壊してしまえなんて短慮な行動に出たら……屍の山が築かれる事になるだろうね。

 ハリスの分身が何人か影に消えたし、どんな状況になっても対応はできると思うし、もう少し情報を集めてから行動に出てみようかね。

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