第17章 ── 第31話

 探索を再開する。


 二日目の探索も順調に進む。午後を過ぎた頃には八階層まで到達する。

 七階層から下への階段が一つだけになったので、八階層も同様に一つのようだ。この階層は北側に下り階段区画がある。


 レベル二二~二五程度のモブ・モンスターがひっきりなしに襲いかかってくる。上層階に比べると、遭遇率がかなり高いし、敵が強い所為か一度の遭遇での敵の数は少なくなっている。


 にしても、レベル二〇前半の敵をモブと言ったら一般的な冒険者や兵士などに怒られそうだが、俺たちの敵にはなりえないよ。


 一直線に階段に進んでいるせいで、あっという間にボス部屋まで来られた。


 ボスの間に入ると巨大な鋼鉄の人形が立っていた。


「おー見事なゴーレムだなぁ」


 俺の声で反応したのか、アイアン・ゴーレムが動き出した。


──ズシーン、ズシーン……


 めちゃくちゃ重そうな足音を響かせ、ゴーレムが俺たちに襲い掛かってくる。

 余りにもスローモーだが、質量攻撃は相当な威力になるだろう。


「やるのじゃ!」

「いや、待て。コイツは使えそうだ」


 俺は突進を始めたマリスを呼び止める。


「何に使うつもりだ!?」

「いや、折角のゴーレムだし……」


 俺は指輪の力を発動する。


『服従せよ』


 俺が命令を発すると、マリスに拳を振り下ろそうとしていたゴーレムが動きを止めた。


 さすが『ゴーレムの命令の指輪リング・オブ・ゴーレム・コマンド』だな。


 巨大なゴーレムが俺の前でひざまずく。


「凄い! ケントさんがゴーレムを手なづけたのです!」

「そうか……コイツはコイツで凄い戦利品になるな」

「そういう事だ。こいつをレリオンの街に譲り渡せば結構な金になるだろ? それに、コイツはダンジョン・マスターが作ったか、どっかから持ってきたヤツに違いないし、多分五年じゃ消えない代物だ」

「ふむ。街の門番になるじゃろうな!」


 データを確認してみれば、レベル四五のアイアン・ゴーレムだ。ちょっとこの階層の敵にしては強力すぎるボスだが、前のグレーター・サラマンダーと同様にレア・ボスだろう。調べた時に判明したのは情報欄に製作者の名前がない事だ。『野良ゴーレム』ってやつなんだろうか?


 というか、こんなのに出会ったらアルハランの風程度じゃどうにもできないだろ。マジでダンジョンのバランスどうなってんだよ。


 俺たちはゴーレムを引き連れて先を急ぐ。



 迷宮に潜って二週間ほど経った。

 一〇階以降、この迷宮の嫌らしさが際立ってきている。転移の魔法が多数仕掛けられていて、自分の居場所が解らなくなる。大マップ画面のある俺には何の障害にもなりませんが。


 ただ、結構な頻度で飛ばされるので無為な時間を過ごしている。

 一番頭に来たのは、一二階層の転移の罠に引っかかった時だ。一階層の下り階段区画に飛ばされたんだ。


 振り出しに飛ばすのって反則でしょ! 今までの苦労が全部水の泡だよ!


 速攻で戻ったけどな。

 このダンジョンは各階層が別マップ指定されているようで、一二階層の元の位置に転移門ゲートを開くことも出来なかった。


 こういった罠のお陰で二週間もの時間を使ってしまったのだ。


 だが、その甲斐もあって仲間たちのレベルは爆上がりだ。

 トリシアがレベル六五に、マリスはレベル五八、アナベルがレベル五七、ハリスはレベル五三と四八になった。何故か俺も三レベル上がり、八五レベルに到達した。


 レベルアップ効率は相当に高い。ダンジョン特性にそんな効能でもあるのかね?

 ただ、伊達に二週間も消費したわけではないので、少しだけダンジョン・マスターの性格を掴んだ気がする。

 人がホッとした所で罠を発動させるんだ。陰険な性格に違いないと思う。


 ということで、重箱の隅をつつくように迷宮を隅々まで調べてみた。ヤツの癖のようなものが解れば、仕掛ける罠の傾向などが解析できるはずだ。


 時間を掛けたから、罠というかダンジョン・マスターの癖というか思考傾向、マスタリングの方向性のようなものに気づいた。

 罠の手前にシークレット・ドアがあることが多いのだ。陰険ではあるが、救済策はしっかり用意している部分にゲーム・デザイナーの良心的な部分が垣間見える。

 それを掴んでみると、結構簡単に階層を進められた。


 こうして、俺たちは迷宮の最下層と推測される一五階層へとやってきた。


 この階層に降りてきて判明したことだが、一六階層が存在する可能性がある。

 なぜならば、この一五階層の真ん中に下りの階段がある。大マップ画面に表示されている以上間違いない。

 だが、大マップ画面を使った階層の数をチェックすると、今、俺たちがいる階層が最下層だ。

 各階層の詳細マップは見ることは出来なくても、階層の存在の有無は空間の存在として表示されているのだ。


 ま、あるかどうかは定かじゃないが、行ってみるしかないだろう。


 最終階層は俺の予想通りだ。レベル四五~五〇のモンスターが放たれている。

 だが、個体の確保に苦労しそうなレベルのモンスターだけに、単体か二~三体程度と、明らかに確保に苦労している感じが否めない。


 サイクロプスの首を跳ね、部屋の制圧を終了する。もう少しでボスの部屋だ。


「しかし、随分と敵が強くなってきたな」

「ああ、ボスはレベルが最大で六〇くらいじゃないかな? レアだと判らんが」

「レアというのは希少という意味じゃったな? 六〇とかじゃと、結構なヤツが来そうじゃが」

「ま、行ってみれば解るさ。あ、ハリス。サイクロプスの目玉は傷を付けないでくれ。ある魔法道具の材料に使えそうなんでね」

「承知……している……」


 ここまでの探索で、大量の魔法道具や武具、消費アイテム、金銭がインベントリ・バッグに納まっている。

 いっぺんに市場に放出すると各アイテムは価格の下落に繋がりかねない。少しずつ放出するしかないなぁ。

 ちなみに、お金は金貨五〇〇〇万枚くらい。世界の貨幣市場が確実に崩壊するレベルの金額です。とても全部使うような勇気はありません。


「さて、この通路の先がボスの間だ。通路は一本道だし行ってみようか」

「「「おう!」」」


 この迷宮のパターンだと転送の罠が確実にあるだろう。

 俺たちは壁を慎重に調べた。


「あったぞ……」


 ハリスが巧妙に隠された隠し扉を発見。随分と天井に近いところにある。屈まないと通れないし、まるで通気ダクトだな。


 巨大なアイアン・ゴーレムは通れそうにないのでインベントリ・バッグに仕舞っておく。


 俺たちはダクトのような隠し通路に入り込み慎重に進む。案の定、通路はボス部屋と思しき部屋に直接繋がっていた。


 ボス部屋に繋がる扉から中の音を探ってみると……


「グルルル……」


 獰猛な唸り声が聞こえてきている。


──ドシン、ドドシン、ドン


 複数の足音も聞こえるな。


 大マップ画面で部屋の中を確認。


無知性古竜イグノランス・エンシェント・ドラゴン

 レベル五五

 脅威度:中

 太古の昔に地上を闊歩した知性を持たぬ地竜の一種。強大な顎の力は地上最強と推定される」


 古代竜か!?


「マリス……古代竜らしいんだが……」

「なんじゃと? こんな所にか?」

「ああ、それが二匹もいるようだ」

「ありえん。迷宮をぶち壊して逃げ出さないなど考えられんのじゃが?」


 そうは言っても事実だからな。大マップ画面の情報で嘘が表示されることなど今まで無かったし。


「考えていても仕方ないがないではないか。引き返すか、それとも突入するか。ケントが決めろ」


 トリシアがそう言うと、みんなも頷いている。


 うーむ。レベル的には大した事はない。レベルが五五なら、今の俺たちなら何とかなる。


「よし、ボスはレベル五五。なんとかなるレベルだと思う。

 アナベル……今はダイアナだな。回復と支援魔法を重点的に使うように心がけろ。敵がどんなブレスを吐くか解らない以上、各属性の防御魔法を準備だ」

「私の防御系魔法で有効に防御できる属性は死霊、邪、火だけだぞ?」


 生命、神聖、水属性の防御魔法か。そういや、キマイラ戦の時の防御魔法は神聖系防御だったなぁ。


「トリシアは?」

「水属性の水霧の壁ウォール・オブ・ウォーター・ミストが使える最高レベルだ」


 火属性のみか。


「俺の知識では、ドラゴンは火炎を筆頭に、吹雪、電撃、酸、毒、呪い、闇あたりなんだが……」


 吹雪は俺の炎の壁ファイア・ウォールで何とかなる。呪いも毒もアナベルがいれば問題はなさそうだ。電撃は避雷針で行けるか?


 問題は闇と酸か……ダーク・ブレスは周囲を暗闇にするんだよな。酸は言わずもがなだ。

 光属性は使えるし何か魔法をでっち上げるか。

 酸を中和するにはアルカリ性……この世界で手に入るアルカリ性のものっていうと……石灰。インベントリ・バッグには石灰や木灰も大量にあるし、これらを魔法で周囲に散布すればどうだろうか?


「何か考えておるのう……」

「これは、あれだな。新しい魔法を考えている時のケントだな」

「凄いな。そんな事が可能なのかよ?」

「ケントなら……可能……だ」


 思考を戻した俺はみんなに目を戻す。


「何とかなりそうだ」

「新たな魔法か?」

「ああ、光属性の防御魔法は簡単だ。酸を防御するには……」


 インベントリ・バッグからサラサラとした白い粉末を取り出してみせる。


「コレを魔法に使ってみようかと」

「これは……石灰だな」

「ああ、これを触媒にして魔法を使ってみようと思う」

「触媒……? 魔法に? 錬金術のようだが?」

「いや、錬金術では噴霧は無理だな。だから、使用する触媒を消費して、それが持つ物理学的効果を魔法によって作り出す。」


 トリシアとアナベルがポカーンとしている。


「何だよ?」

「そんな魔法は聞いたことがない。周囲にある物の属性を利用して魔力を転換するのが通常の魔法だ。物をそのまま使うなら念移動とかだろ?」


 念移動というのは物体をテレキネシスで動かす事を言う。まあ、手品に使える程度の物理属性魔法だから、あまり重視していない。動かせる物の数も限られているから今回のように無数の粒子を動かすには適していない。


「でも、ケントならできる気がするな! 新たなる魔法体系か!」


 ダイアナが興奮気味だ。


「で、その魔法の体系を何とするんだ?」


 トリシアも興味津々です。


「そうだなぁ。触媒魔法とかかね? 練金術的な部分もあるし、練金魔法とかでもいいかも」

「触媒魔法……練金魔法か……凄いな」

「ま、そんな些細な事は置いておこう。まずはドラゴンをどうにかしないとな」


 みんなもやる気満々のようなので、いっちょ行ってみますか!

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