第17章 ── 第27話
俺の問いに、アルハランの連中が笑いながら立ち上がった。
「跳ね上がりを躾けるのも先人の役目だからな」
「悪く思うなよ。命まで取るつもりはないから安心しろ」
「支援者のご意向は無視できない」
「やりたくはないんだけどねぇ」
「そういう事だ。申し訳ない」
「やる気らしいな。皆殺しにして良いんだよな?」
トリシアが相変わらず物騒です。
「身の程を知らぬというのは罪な事じゃのう……食らい尽してやるのじゃ!」
「あの
食べるのはやめとけ。というか、あいつマリオン信者なのかよ。
アルハランの風の連中が、それぞれの武器を抜く。
「やれやれ……死んでも文句ないってことだよね? 他にも冒険者が多数俺たちを狙っているのは解ってたんだよねぇ。まさかアルハランまで馬鹿な事をするとは思わなかったよ」
俺はやれやれといった仕草をして、剣の柄に手を掛けた。
「腕にそれなりの自信があるようだが、上には上がいると知れ」
「はいはい。御託は戦闘が終わってから聞いてやるよ」
俺は仲間たちに顔を向ける。
「腕の一本や二本は構わない。思いっきりやれ。だが、殺すなよ」
「何でじゃ!? 襲ってくるなら敵じゃろうが!」
「そうだぜ、ケント。火の粉は払うだけじゃ火事になる」
マリスとダイアナが不満げに抗議してくる。
「ケントには何か考えがあるのだろう。ケントの言葉に従っておけ」
トリシアが二人にそういうと、二人とも渋々といった感じだが頷いた。
「ま、迷宮のスター選手がいきなり消えたら、レリオンも困るだろうからな。殺した所で何の益もないんだ。ちょっとした教訓を与える程度にしてやろうじゃないか」
東方語で話していたようで、アルハランの風にはチンプンカンプンだったらしく、彼らは怪訝な顔になっている。「スター選手」という所にマリスが反応して「素敵用語じゃ」って言ってたけど無視する。
「話し合いは済んだようだな。それでは始めようか」
お遊びや訓練じゃない言うことだな。覚悟があっての事なら良いんだが、絶対、俺たちを舐めてるよなぁ。
などとガッカリしていると……
もちろん、
「先手はあちらに取らせろ。格の違いを見せつける!」
「承知……」
「おう!」
「任せるのじゃ!」
トリシアの指示で仲間たちの意識が一つになる。
さすがだ。俺の意図を一番理解しているのはトリシアだね。
俺はオリハルコンの剣を抜き、いつでも反応できるように身構えた。
『
アルハランの五人が緑色のオーラに包まれる。
「喰らいな!」
「させぬ! タクティカル・ムーブ!」
マリスが割り込み型の移動スキルを発動し、ひょいと俺の前に飛び出る。
──ガギギン!!
戦士のスキルがマリスの盾にぶち当たり、十文字に切り裂こうと火花を散らした。
「刃よ伸びよ! スパイラル・スピア!」
マリスが剣のコマンド・ワードと同時に螺旋突きのスキルを発動した。
猛烈な回転が掛かったオーラの刃が
「ぐおっ!?」
マリスが刃を引き抜くと同時に
──ガラン……
戦士がラウンド・シールドを取り落とし、部屋の中に大きな音を響かせた。
「そんな紙装甲では仲間は守れぬのじゃ。身の程を知れ」
『……ヘル……フォーリオ!
『
俺は
「ぎゃああぁあぁ!」
「うぐぅ!!」
「くっ!」
「うがぁ!」
アホなのか? 大方、敵味方識別の
ただ、こういう風に魔法を返された場合、仲間もろとも効果を受けてしまう。もちろん、こちらは味方判定されるのでノーダメージ。
「い、いかん……!」
『オルド・ウーシュ・ソーマ・ヒルディス・モート・ライファーメン!
五メートル四方に淡い光の輪が現れ、その中にいた者のHPを回復していく。
何故か俺たちにも回復効果が発揮されているのが間抜けだ。
「馬鹿か? 敵まで回復の範囲に入れてどうするんだよ」
ダイアナが辛辣な言葉を
俺もそう思うけど、慌てたのでIFF(敵味方識別)の
「くっ!」
それを聞いた
表示してある彼らのHP残量はかなり回復したようだが、全回復とまでは行かなかった。マリスに攻撃された
「忍法……影縫い……」
シュッと音を立てて、一本の手裏剣が影の一画に突き刺さった。
「うわっ」
影に隠れてコッソリと移動していた
ハイド・イン・シャドウとサイレント・ムーブの複合技で俺たちの背後に回ろうとしていたらしいね。
HPバーとかステータスが表示されているので、俺の目からは隠れられてないんだけどね。
「稲妻よ!」
ダイアナがウォーハンマーのコマンド・ワードを発動する。
バリバリとハンマーヘッドに稲光が発生し始めた。スタン・モードだね。
「連聖撃破槌」
ダイアナが敵陣に飛び込み、流れるような槌捌きの連打を離れてる所にいる
スキルのダメージとスタン効果によって三人が昏倒する。だが、
「ピアシング・バレット!」
その防御の隙をトリシアは逃さなかった。
スキルによる貫通性特殊効果を弾丸に乗せ、
防御膜を簡単に撃ち抜いた弾丸が、
「ぐはっ!」
さすがの
「ほい、戦闘終了。一ターンで片が付いたなぁ……」
この世界にターンという概念はないが、何となくゲーム用語が出てしまう。
「馬鹿な……俺たちが負けるなど……」
「当たり前だろ。三〇そこそこのレベルで俺たちに勝てるはずないだろ」
俺は呆れ顔で言う。
「お前たちは……俺たちよりレベルが高いというつもりか……?」
「つもりも何も事実だからな」
「いや、そんなはずはない! その魔法の武具のおかげに違いないんだ! そうでなくて、俺たちが負けるはずはない!」
現実から目を反らしても何の意味もないんだがなぁ。
冒険者をするなら徹底的にリアリストになるべきだ。自分の実力に幻想は要らない。実力を過信しすぎた結果が今の状況なのだから。
俺のように敵のレベルやHP、脅威度を表示できるならともかく……そういった情報を目隠しされている状態なら、相対する者の身のこなし、雰囲気、武装などから実力を判断していかねばならない。
長く冒険をしていれば培われる能力のはずなんだがなぁ。
「俺たちは五〇レベルを越えたチームだ。お前らじゃ勝ち目はない」
俺がそう言うと
「嘘だ……嘘だ! そんな人間がいるわけない!」
信じられない事を知って子供のように喚き始めたよ。
「そんなはずはないんだ……俺より強いヤツなどいるはずはない……」
床に這いつくばって、ブツブツと呟くコイツはもう立ち直れないかもしれない。
「こいつ阿呆じゃろか? 上には上がいるのがこの世じゃろ?」
「まあな。人間がどんなに頑張っても、神には勝てないだろうし」
「ドラゴンにものう」
それ、君が言うと嫌味だね。エンシェント・ドラゴンという高みから言うのだから言葉に重みがあるけどさぁ……
ハリスが手裏剣を回収し、
「痛ぇ! 離してくれよ! もう逆らわないから!」
「こんな……もんだろう……」
「ご苦労さま」
ハリスはウチの仲間の中でも一番レベルが低いんだが、戦闘における安定感は一番だ。どんな状況でも対応できる忍者スキルが大変頼もしい。
さて、一応、片は付いた訳だが、これからどうしようか。
あまりにも呆気なかったので拍子抜けだけど、レベル差ありすぎて当たり前という気もする。
ただ、アルハランが失敗した以上、他の冒険者たちが襲撃してくるとは思えない。アルハランもホルトンに報告くらいするだろうし、それでホルトンが諦めてくれればいいねぇ。
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