第17章 ── 第24話
「それで……ケント。ホルトンは何を画策している?」
ヴォーリア団長が重苦しい雰囲気で切り出した。
「レリオンの支配権の確立でしょうね」
「支配権?」
「はい。商業ギルドを解体し、迷宮の全ての利権を
ヴォーリアだけでなくカルーネルですら驚く。
「だ、大それた事を……」
「それほど驚くことでもないと思いますが?」
「だが、何の力も無く……国を支配することなどできぬではないか!」
ごもっとも。だが、そうとも言い切れないんだよ。力とは物理的なものだけではない。
「経済面の支配を狙っていると思います。時に金は力と言える存在ですからね」
「金?」
「そうです。いかな国と言えども、兵士を組織するのに金は必要です。貧乏国では兵士の装備すらままなりません」
「確かに。衛士団の装備も国とレリオンの商業ギルドから金が出て揃えることができている。金の供給が止まったら……給金も払われず、美味いメシも食えない……衛士たちは逃げ出してしまう」
カルーネルの言葉に俺は
「世の中は単純な力である軍事力だけではありません。経済力も立派な力です。それ以外にも力というものは存在します。小さい所では魅力なんてのも力の一つですね? ヴォーリア衛士団長閣下は衛士たちに慕われていますよね? 人を惹きつける力……そんな力は人間を損得無しで従わせます」
俺がそう言うと、ヴォーリア団長はちょっと照れて赤くなった。
「俺に人を惹き付ける力がか? 自分では良くわからんが……」
「なるほど、確かに団長にはそれがあると俺は思います」
カルーネルも俺の言葉に同意する。
ヴォーリアはどんどん顔が真っ赤になるが、咳払いをして場の空気を変えた。
「まあ、それは置いておくとして、金の力でルクセイド全土を支配するなど、他の商人が許すまい」
「それはそうでしょう。ただ、何代にも渡って長い年月を掛ければ……」
「それも可能になると言うことか」
「そうですね。それだけの手腕を持つものが当主に付き続けられればですが」
大抵の場合、二代目は無能という話を聞いたことがある。パウルを見れば言わずもがな……考えなしのあの男では、ホルトン家の次代を担う力はないだろう。
「ふむ……警戒はしておいた方がいいな。俺が個人的に付き合いのある貴族に報告しておこう」
「それは良いですね。貴族と繋がりがあるなら、それは武器になるでしょう。でも、聞いた話によれば、ホルトン家は貴族たちにも繋がりがあるとか」
「レリオンの輸出品の一部を貴族たちにバラ撒いているという噂は聞いてるが」
俺は頷く。
「形こそ違いますが、それも経済力という力でしょう」
「だが、それは法に反しているぞ? 迷宮から産出される品物はレリオンの街のものだ。ホルトン家の所有物ではない」
そういえばレリオンは領王国の保護区だっけね。ホルトン家は輸出などの手数料を受け取る事はできるが、代金などを丸々懐に入れる事は
「その辺りを調べることができれば、ホルトンをどうにかできるかも知れないな」
ヴォーリア団長は腕を組みつつ思案する。
「まあ、俺には関係の無い話ですが……」
「ま、そうだな。一介の冒険者が関わる話ではないな……」
ヴォーリアもその事は理解しているようだ。
「で、ケント。お前、ホルトンを脅したって言ってたよな? 何を言ったんだ?」
「ああ、それですか。実のところ、俺たちはホルトン家が抱える『アルハランの風』よりもレベルは上です」
俺がそういうと、カルーネルが「おお!?」と声を上げる。
「もし、俺たちに何かしたら、ホルトン家一派を殲滅すると脅しました。まあ、この国の法律がどうなのか知りませんが、そんな事をしたら捕まりそうなのでするつもりはありませんが」
カルーネルもヴォーリアも呆れ顔になってしまう。
「そんな事ができるわけないだろう? ホルトン家は有望な冒険者たちを何十、いや、数百程度は抱えているんだぞ? アルハランの風よりレベルが高いといっても、それを殲滅するなど……」
「まあ、レベルが高くても四〇を越えないんですよね?」
「四〇って……そんな腕利きは領王国のグリフォン騎兵団にすら、何人もおらん」
やはりねぇ。ティエルローゼの人間は、普通に訓練しても四〇レベル台が限界みたいだな。
「ちなみに……うちチームで一番レベルの低い仲間でも、五〇レベルはあるんですよ」
「「五〇!?」」
ハリスは、五〇ないけど、二つの職業レベルを合わせたら俺よりレベル高いんだから間違いではないだろう。
トリシアに至っては六〇レベルあるし。
「お前たちは一体……」
さすがのヴォーリア団長もたじろぐ。
「俺らは東方の国からやってきました」
「東方? ウェスデルフか! 獣人の軍事大国だとは聞いているが……そんなレベルの人族までいるのか……」
「いえ、ウェスデルフよりもっと東ですよ。もっとも……ウェスデルフは、俺の国の属領なんですけどね」
ヴォーリアの目が細くなる。
「そんな国の冒険者か……確かにそれなら殲滅も可能か……」
「いや、だから殲滅なんてしません。面倒ですし……貴方の国の問題でしょう? 自分たちで解決して下さいよ」
俺は無遠慮に言う。
「確かに我が国の問題だな。流れの冒険者に協力を願うのはな……」
「そういう事です。俺はルクセイドに恩も義理もないですからね」
ヴォーリアもカルーネルも残念そうに頷く。
「ま、降りかかる火の粉は払いますけどね。もし、この国の法律に触れて捕まりそうなら、実力を以て国外逃亡しますけど」
俺は苦笑を浮かべながら断言する。
「レベル五〇の冒険者チームなら……可能だろうな」
「別に俺はルクセイドと敵対したいわけじゃないんですけど。良好な関係のままでいられれば問題ない事です。俺たちは冒険がしたくて旅をしているに過ぎませんし」
俺は少し間を置いて続けた。
「だけど、ホルトンが俺たちを利用しようとして政争に巻き込むつもりなら、それ相応のしっぺ返しをするつもりです。両人にはご容赦願いたい」
最後の部分に少々の威圧を載せておく。
俺の雰囲気を察知したヴォーリアとカルーネルは表情を固くした。
「ケントたちが犯罪を犯せば、俺たち衛士団はお前ら逮捕しなければならないが……何者かの陰謀によって罪を犯さざるを得なかったというような状況であれば……」
カルーネルがそこまで言って言葉を切った。
「我々はお前たちに協力することは
ヴォーリアが途切れた言葉に補足のように付け足した。
よし、言質は取った。これで、衛士団は俺たちの味方だな。
ま、法に触れるような犯罪を犯すつもりはないから気にしなくていいんだけど。
「ありがとうございます。目下の所、俺たちの目的は迷宮の完全制覇です。政争などに関わりあっている暇はありません」
俺がそう言うと、緊張しっぱなしだった二人がポカンとする。
「迷宮の完全制覇? できるのか?」
カルーネルがとぼけた顔で言う。
長年、衛士をしていて冒険者たちを見慣れているだろうし、迷宮を完全制覇できるとは考えもしていないんだろう。
「多分、可能です。ここの迷宮は俺の調べでは一五階層まで存在します。どうやって調べたかは秘密ですよ?」
大マップ画面という機能については、俺と親しい者だけにしか教えるつもりはないからね。
「一五階層!? 一体どれだけ強い敵がいるのか……」
ヴォーリアも思案顔に戻ってしまう。
「そうですね。俺の推測では五〇レベルくらいでしょうか」
「それでは人間では攻略不可能じゃないか!」
カルーネルが立ち上がって叫んだ。
「そうですね。現在のティエルローゼの人族のレベルは、強くても三〇レベル台、伝説級や英雄級のものでも四〇台後半でしょう。攻略は難しいでしょうねぇ……」
俺は彼らの言葉を肯定するように言いつつ目を閉じる。
だが俺たちなら可能だ。トリシアは六〇レベルに到達し既に伝説を越えた。マリスはドラゴンだし、アナベルは神に寵愛を受けその加護を受けている。ハリスに至っては、世界の法則すら無視した
俺の事は言うまでもないね。世界的には亜神クラスらしいので、魔族が大量に出てくるのでもなければ大丈夫だろう。というか……レベル的にはイルシスと同程度なんだよな……
彼ら二人は、俺が五〇レベルだと言った事で、うちの平均レベルを五〇と思っているだろうけど、勘違いさせておけばいい。
「近々、また迷宮に潜ることになりますが、一ヶ月程度で戻ってくるつもりですので、その時はよろしくお願いしますね」
「あ、ああ……もし攻略が完了したら盛大に宴会で
ヴォーリアが頷いた。内心、信じてないという感じだね。当然だろうけど。
団長たちと別れ宿に戻る。
俺とハリスの部屋にトリシアたち女性陣もいた。俺を待っていたらしい。
「どうだったんだ?」
「もしホルトンが何かしてきたら、排除しても衛士団は俺らの味方って事で話はついたよ」
俺がそう言うとトリシアがニヤリと笑う。
「なら、何の問題もないな?」
「ああ。多分ね。という事で明日から迷宮探索の準備に入るよ。各自、冒険に使う備品やら消耗品を購入する事。金はこの革袋から持っていってくれ」
二回の探索でチーム共有の金袋には、金貨一〇〇〇枚以上が入っている。
「了解じゃ。といっても、何を用意するべきじゃろうか?」
「そうだなぁ。食料はともかく、ポーションなどは手持ちが結構あるからな。ロープとか木の棒、料理用の薪なんかだな。前に楔とか買ったけど、今は俺がインゴットから作れるから要らないね」
原材料さえあれば、大抵のものは俺の生産スキルで作ることが可能になっている。
ガラスなどの特殊な物品は作り得ないが、日用品などは全く問題がない。
「よし、行動開始だ」
「「「了解」」」
俺の号令でハリスは俺と、トリシアとアナベルはマリスとに別れて街へ繰り出した。
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