第17章 ── 第16話
次の日になり、一階層へ続く二階層の階段区画にパウルたち冒険者たちを送り届けた。
「助けてもらった事を感謝する」
片手を失ったが生き残ったギルバートが感謝を述べる。
「ま、君たちならここから行きて帰れるだろね。ただ、左手だけになっちゃったけど、大丈夫か?」
ギルバートは自分のなくなった右手を見る。
「これは俺の教訓だ。無謀な挑戦は死を招く。片手では……冒険者として今後苦労することになるかもしれない。だが、貴方の言葉を教訓に、再起を目指すつもりだ」
そうして左手を出してきた。俺はその左手を握ってやる。
「頑張ってね。それから、これ」
「ん? これは?」
「
俺は彼らの死んだメンバーが入った下級
「ほ、
「貸しておく。用が済んだら返してくれ」
「……」
ギルバートは驚いているが、下級のは三〇個以上持ってるからねぇ。この世界では貴重品らしいけどさ。
「わかりました。次に貴方に会えた時、必ず返す事を約束します」
「頼んだよ」
ま、期待しないで待ってるよ。
あまり、この辺りの冒険者を信用しない方がいいと思う。もし、返しにこなければ、それはそれで考えればいい。
俺から逃げ隠れすることは不可能だからね。検索すれば一発だし。
ま、迷宮内にいたら検索は無理だろうけど、あの実力で一生迷宮に隠れていることは不可能だろう。早晩死んでしまうよ。
「また、会いましょう! ケント様!」
女
なんで「様」付きなの?
「さて……ちょっと時間を無駄にしたかもだけど、探索を続けよう」
「大した時間じゃない」
「ああ……」
「行きましょう!」
「了解じゃ!」
ほんの一時間程度で、三階の東階段に到着する。ボスもシケたモンスターだったので一瞬だったしね。
「よし四階に降りるぞ」
俺たちは慎重に階段を降りる。予想通りなら一〇~一四レベルの敵がわんさか出てくるな。
モンスター・ハウスなんかに遭遇しちゃうと、チーム・メンバーの平均レベルが二五とか無いと全滅必至ですな。ウチらにはあまり関係ないけど。
第四階層、ここからは救援部隊も来ない。ここで窮地に陥ったものに待つ運命は死のみだ。
探索を開始して二時間、やはり大して驚異になるモンスターは現れない。その代わり、陰険なデス・トラップが否応なしに襲ってくるようになった。
持ってきた長い棒が非常に役に立つ。
先の道を棒で突きながら移動するわけだ。罠があれば棒に反応して発動する。
発動しない場合もあるけど、
しかしまぁ……どっかで見たことある罠ばかりだな。
落とし穴、毒針、電撃、石化、転送、回転床、無限ループ、落ちてくる天井、水攻め、転がってくる巨大な岩……
知ってるRPGや有名な映画などで見たような、ありとあらゆる罠のオンパレードだ。
さすがの大マップ画面も罠までは表示してくれないから、一つ一つぶち破っていくしかないね。
「よっと」
四階の階層ボスのミノタウロスを撃破した。
オーガスたちと比べると、このミノタウロスは別種のようで、パワーとスピードは相当なもんだったんだけど知性の欠片もなかった。
だけど、マップ画面でのデータだとモンスター表示だったんだよね。この違いがサッパリ解らない。
二日目の一八時、鼻歌交じりに料理をしていると、他の冒険者が匂いにつられてやってきた。
「なんだか……良い匂いが……」
「おい、こんな所で料理しているヤツがいるぞ?」
ぞろぞろと入ってきた奴らが驚く。
「む、魔法銀の冒険者チームだ」
「魔法銀の? ああ、あの噂のか」
「何だよ、それ?」
何やらヒソヒソと始めた。
「マジかよ!?」
「ああ……伝説らしい」
伝説? 一体、何の伝説が?
気にしても仕方ないので料理を続ける。
今回は、前に約束していた鍋料理。ただ、同じ鍋を作っても面白くないので、辛旨なのを作ります。キムチ鍋にしたいが、キムチなんか無いので、唐辛子をベースに旨味を出すように
具には、豚肉、白菜、ニラ、大根、特製コンニャクなど……ああ! 豆腐が欲しいなぁ!
豆腐の作り方はネットで読んだことがあるから何となく解る。でも、ニガリって何? それが解らなくて作ることが出来てない。いつか、その秘密を解き明かしてみたい。
日本人は太古の昔から食に貪欲だ。あの有毒な芋玉をコンニャクなどという摩訶不思議な食べ物に昇華するほどだからな。
よし、ご飯も炊けてきたぞ。鍋もいい感じだな。
「お、おい! あんた!」
冒険者の一人が、わたわたしつつ俺の所に来る。
「え!? なに!?」
さすがの俺もビックリした。殺気も無いし、危険感知すら反応しないんだもんな。
「驚かせて済まない! あんた……伝説の料理人だろ!?」
「は!?」
伝説ってそっちのかよ! そういや、迷宮管理所あたりで、そんな事を言われてたな。
「た、頼む! 金は払う! 俺たちにも食わせてくれ! お願いだ!」
それはもう懇願というに相応しいものだ。俺に
「な、何なんだよ……」
「あんた、噂の迷宮の……伝説の料理人だろ!?」
「いや、ただの冒険者だよ!」
俺は泣きそうな顔で訴えてくる男を押しのける。
「俺たちは聞いたんだよ。ミスリルで身を包んだ仲間たちに護衛される緑の胸当てをした地味な人物……だが、その実体は……迷宮に潜り幻の食材を探し歩く……圧倒的な力量をもった伝説の料理人がいると……」
何だそれは? そりゃ珍しい食材は欲しいけどさ。別に伝説の料理人ってわけじゃないよなぁ。
「人違いじゃない?」
「いや、そんな見たこと無い簡易炉を持ち込んでる時点で人違いじゃない」
む、確かにこの簡易
「で、俺がその伝説の料理人だったとして、どうしろと?」
「金は払う! 是非、料理を食わせてくれ!」
どうも、何か俺の預かり知らぬ所で、妙な噂が独り歩きしているようだ。というか、前にも同じパターンのセリフを聞いた真新しい記憶があるよ?
「あんたの料理を食べた冒険者は死を免れ、そして富を手に掴む。そう言われているんだ」
「えー」
かなり迷惑な噂だな。俺の料理を食った後で死んだり、冒険に失敗したりしたら、誰が責任取るんだよ。
「銀貨一〇枚! いや!金貨一〇枚だ! 頼む!」
「それだけ言っておるのじゃ、食べさせたらどうじゃ?」
「お嬢ちゃん……噂の鉄壁の金髪少女か! ありがとう! そう言ってもらえて俺らは嬉しいよ!」
鉄壁と言われ、マリスが胸を張る。
「我はケントの盾じゃからな!」
えっへん! と得意そうなマリスのせいで断れそうもない雰囲気になってしまう。
「仕方ないな。ちょっと別の鍋を用意してやるから少し待ってろ」
冒険者たちが歓声を上げる。
そんなに俺の料理って有名になってんの? 迷宮で他の冒険者に会うたびに料理を振る舞わなければならなくなると、少々食材がマズイ事になるんだが。
一時間後、冒険者たちも交えて食事会状態になる。
「今日のは赤いな」
「ああ、辛いからな。でも美味いよ?」
俺は器によそってやり、トリシアに手渡す。
「マリスは辛いの平気だって前に言ってたから大丈夫だよな?」
「うむ。加減を知れば、ショウガもカラシも問題ないからの!」
そうだね。薬味をてんこ盛りにして苦手な食べ物になってただけだし、これは俺が味付けしてるから加減はバッチリですよ。
「匂いがたまりません!」
「落ち着け……」
鍋にフォークを突き入れようとしたアナベルをハリスが止めに入る。
「慌てんなよ」
俺はアナベルにも器を渡す。
「よし、皆に行き渡ったな。それでは頂きましょう」
「「「頂きまーす」」」
号令のように頂きますをして、みんなが食べ始めた。
「か、からい!」
「燃える!」
何人かの冒険者が水を革袋からガブガブと飲んでいる。
「でも……何か後を引く汁だな!」
そりゃそうだ。そういう料理なんだからな。
一時間後、みんなお腹がぽんぽこりん状態になったのは言うまでもない。
食べ終わった後に、ご飯及び
何はともあれ、仲間も冒険者たちも大満足していたので良かったね。
オマケに、俺の財布に金貨が六〇枚増えたのには苦笑しか出なかったな。一人一〇枚だなんて思わなかったよ。
「あんたは、やはり伝説の料理人だった。これほど、美味く、一風変わった料理をいとも簡単に作り出すその腕前は噂以上だ」
汁の味付けはともかく、具材はぶった切って鍋に放り込んだだけなんだけどな。
「満足したなら良かったよ」
「ああ! 金貨一〇枚なんて安いものさ! なぁ!?」
冒険者が仲間たちに振り返ると、彼らがみんな頷く。
さっきの噂の真偽はともかく、「食べたら成功する」という噂を彼らが心から信じるなら、きっと探索は成功するんじゃないかな?
思い込みの力って侮れないからね。引き寄せの法則だっけ? 成功哲学なんてのもあったね。
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