第17章 ── 第13話

 パーティメンバーとル・オン亭で祝杯を上げる。

 初探索で大きく稼げたので当然だ。


 しばらくすると、カルーネル衛士長率いる衛士隊がやってきた。


「よう。相変わらず景気が良さそうだな? 迷宮は上手く行ったか?」

「ああ、衛士長。結構稼げましたよ」

「そうだろう。で、どんだけ稼いだ?」


 カルーネルが俺の首に腕を回してくる。


「まあ、金貨で三〇〇枚って所ですかね」

「初探索でか!?」

「はい」

「凄いな……あまり聞かない額だぞ……」


 俺がそういうと、俺たちのテーブルを囲んでいた衛士たちも驚きを隠せないでいる。


「運が良かったんですよ。グレーター・サラマンダーが出たもので」

「はっ!?」


 カルーネルが素っ頓狂な声を上げる。


「おいおい! お前、七階まで潜ったのか!?」

「いえ、二階までですけど?」

「二階にそんな魔獣が出たのか!?」


 二階層で出てはマズイようなモンスターだったのか?


「ええ……全部で一二匹出ましたけど……」

「後で団長閣下に報告する必要があるかもしれないな」


 衛士長が言うには、グレーター・サラマンダーは七階あたりで遭遇できるモンスターだという。非常にレアなモンスターで、その皮は大変高価なのだ。


「一匹で金貨五〇〇枚はするはずなんだが……」

「ああ、一人金貨三一五枚ですよ。それに、グレーターは一匹で、他の一一匹はグレーターじゃないですよ」

「!?!?」


 どうやら衛士長は全部で三一五枚だと思ってたようだ。


「すげぇ……団長が見込んだチームだけはある……」

「ああ……期待の新人チームが現れたな……」

「そういや、衛士長が言ってたっけ? バジリスクを討伐したチームだとか……」


 周りの衛士たちの囁きを聞くと、相当な額を稼いで来てしまったようだ。


「衛士長……もしかして過去最高なんじゃ?」

「ったりめーだろ! 新人の過去最高記録は金貨八一枚だぞ!?」


 カルーネルが、そう言った兵士に向き直り大声を上げる。


 どうやら新人が初ダンジョンで稼いだ金額というものが記録されているらしいな。


「アルハランの風を越えたか……」

「あ、潜る前に広場で見ましたね。なんでも一〇階層を目指すとかなんとか噂されてましたけど」

「ああ、この街最高の迷宮探索チームだ」


 迷宮探索チーム「アルハランの風」は、大商人が後援するダンジョン攻略チームで、迷宮で見つかる高価な魔法道具や武具を惜しみなく投入して探索をしているという。


「あいつらに匹敵……いや、あいつらを越えるチームが現れたのかもしれないな!」


 カルーネルが何やら大変嬉しそうなのが気になる。


「いや、こりゃ飲まずに居られねぇ! おーい! こっちのテーブルにも酒もってこーい!」


 カルーネル衛士長たちは、俺たちが占領するテーブルの横にある二つのテーブルを占領し、ウェイトレスに酒を注文した。


「良い稼ぎが出来たし、今日も奢らせてもらいましょうかね?」

「おお、相変わらず太っ腹だな!」


 運ばれてきたジョッキを手にすると、衛士長が乾杯の音頭を取った。


「期待の新人チームが今誕生した。乾杯だ!」

「「「かんぱーい!!!」」」


 俺らもその乾杯に便乗してジョッキを高く掲げた。



 その日いろいろ聞いた話によれば「アルハランの風」は非常にプライドが高いチームで、街有数の大商人が後援に付いているせいか、衛士たちにも横柄な態度なのだという。

 当然、衛士たちには嫌われており、いつか奴らの鼻を明かしてくれるチームが現れる事を願っていたんだと。


 まあ、期待するのはいいんだけど……

 迷宮の完全攻略なんて目指してないので、彼らの期待が少々重いんですけど……


 俺の主要目的は、西方を冒険して米とか味噌とか醤油などの和食用食材を探す事。迷宮の探索なんかじゃない。それなりに迷宮を探索をしたら、さっさと別の所に行く予定なんだよね。

 彼らの喜びに水を差すのも何なので、公言するつもりはないけどね。

 それにルクセイド王国といえば、グリフォン騎士団やらでしょう? それも見に行きたいんですけど!!



 楽しく飲み明かした次の日から二日ほど休養を入れて、本格的な迷宮探索の申請を行いに迷宮管理所に行くことにした。

 今度は八日間の予定で、一気に五階層あたりまでを狙ってみたいと思います。


 その日、全員で迷宮管理所に行くと、低レベルの冒険者チームたちの間で、俺らのことが話題になっていた。


「おい、あいつらだ」

「ああ、あれがそうなのか?」


 俺たちを見ながらヒソヒソと会話するのを聞き耳スキルが拾ってくる。


 俺たち、噂になるような事したっけ?


 気にせず申請用紙に記入をして受付カウンターに持っていく。


「あのー、迷宮に入る申請したいんだけど」

「はい、承ります」


 申請用紙を読んだ受付嬢が立ち上がった。


「チーム『ガーディアン・オブ・オーダー』の皆さんですね? 少々お時間を頂きたいので、こちらの面談室でお待ち下さい」


 受付嬢はカウンターの隣にある一室の扉の前で、俺たちを促す。


「え? 何か用でも?」

「いえ、所長がお会いしたいと申しておりましたので……直ぐにお呼びいたしますので、お待ち下さい」

「はぁ……」


 俺は気のない返事をしつつ、みんなと面談室に入った。

 面談室は簡易なソファ・セットなどが置かれている。


 しばらく待つと、所長らしき人物がカートを押しながら入ってきた。何故かその後ろに衛士団長がいたので少々驚いた。


「あれ? 団長閣下まで? どうなされたのですか?」

「ああ。ケントだったのか」

「え?」


 ヴォーリア衛士団長が満面の笑みで言うので、俺はつい聞き返してしまう。


「え、じゃないだろ? お前たち盗賊どもを捕まえたそうじゃないか」

「あー、あれですか! 別に大したことでは」

「大したことじゃないか。やはり見込んだ通りの男だな、お前は」

「一体、何なんです?」


 俺がそう聞き返すと、黙っていた所長というのが話し始めた。


「えー、『ガーディアン・オブ・オーダー』の諸君は、迷宮内で近年頻繁に発生していた窃盗、および殺人、強盗事件を解決した功績が認められたのだ」

「え!?」

「比較的低レベルの冒険者チームが眠っている間に金銭などを奪われたり、時には殺されたりしていたのだ。犯人の正体も解らず、我が迷宮管理所や衛士隊は、ほとほと困り果てていたのだよ」


 所長は迷宮の管理者として頭を痛めていたそうだ。


「今回、君たちが捕縛した盗賊チームは、事件の一端を担っていたことが取り調べで判明した。他にも複数の盗賊チームが存在しているという情報も手に入れることができた」

「おー、それは良かったですね」

「うむ。そこで、君たちに報奨金をという事になった。君たちに協力したチームにも報奨金が支払われている」


 そういって、所長は革袋をカートの上から持ち上げると、俺らの前に置いた。


「一人、金貨二〇枚。しめて金貨一〇〇枚を支給する。受け取り給え」

「衛士団長としても礼を言いたくてな。俺も顔を出させてもらった。本当に助かった。感謝する」


 ヴォーリア団長は、そういうと俺の手を取って固く握りしめた。


「はい。ありがとうございます。お役に立てたようで何よりです」



 衛士団長は、俺たちの昨日までの探索ぶりを聞き、また嬉しそうな顔をした。

 しばらく団長、所長たちと話をしてから、面談室を出た。団長も用事が済んだということで管理所から出ていく。


 俺たちは次の探索のために、申請の続きをする。申請前に、前回の獲得した物品や金額などの申告もしなければならなかったが、先程の報奨の事もあってスムーズに手続きは終わった。


「今回は八日間、五階層ですね?」

「はい」

「五階層以降は、予定侵入期間を越えてしまった場合でも、衛士隊による救出は行われませんが?」

「ええ、大丈夫です」

「それでは、受理させていただきます。明日からの探索、お気をつけて」


 申請が終わったので管理所を出ようとすると、いくつかの冒険者グループが俺たちに話しかけてきた。


「貴方たちですよね?」

「は? 何が?」

「迷宮の料理人ですよ」

「何の事?」


 突然、そんな事を言われ、俺は面食らう。


「迷宮で高級食堂よりも美味い料理を振る舞う奇跡の料理人の話を聞いたんですよ」

「は?」


 おいおい。他の冒険者チームにご馳走したのは二回だけだぞ? 何でそんな噂が広まってるんだ?


「一体、どういうことだ?」

「いや、ここ二日ほど前から、噂になってるんですよ。迷宮で手に入る食材のみで、物凄い料理を作り出す凄腕の料理人がいると」


 どうも俺がカツサンドとか鍋を振る舞ったやつらが、外に出て盛大に触れ回ったみたいだ。


「いや、大した料理はしてないんだが」

「やっぱり! 貴方が奇跡の料理人!!」


 その途端、周囲にいた冒険者たちが歓声を上げる。


「今度、是非味あわせてくれませんか!?」

「俺たちも食べたい!」

「金なら払う!!!」


 もう、どうしていいやら……


 迷宮内で会えたらねと、何とか言いくるめて俺たちは迷宮管理所から逃げ出した。


 ちょっと料理を振る舞っただけなのに、こんな事になるとは……

 俺だけでなく、仲間たちもビックリしていた。


 迷宮という劣悪な環境で、温かくて美味い料理が食べられたら、そりゃ美味しく感じるだろうけど、ちょっと大げさなんじゃないかと思うけど。そこ、どう思う?

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