第17章 ── 第12話
次の日の昼前には迷宮を終了し、地上へと戻った。
あまり遅い時間だと戦利品の売却とかが後日になってしまうからね。
いくつかのアイテムを除き、他の発見物やモンスター素材をそれぞれ買い取り屋で売り飛ばすために買い取り屋の区画へとやってきた。
まず武器と防具の買い取り屋に入ってみる。
「いらっしゃいませ。買い取りですか?」
「そうだ」
俺はカウンターに手に入れた武器を並べる。
『銀の短剣+1』、『盾+1』、『ショート・ソード+1』の三つだ。
他にも見つけてはいたが、全部ただの鉄製ノーマル武具だったので破棄したり、他の冒険者チームに貰ってもらった。
「ほう。銀の短剣ですな」
「珍しいのか?」
「珍しいと言えば珍しいのですが、銀シリーズはライカンスロープに効果がありますので需要は高いんですよ」
うは。ワーウルフとかいるのか。あれって感染するんだよね?
「ただ、短剣なので値段はそれほどではありません」
「まあ、そうだろうねぇ。+1ってのが付いてるみたいだが、どの程度の価値になるんだ?」
一応、店の親父は『
「ふむ。短剣は金貨五枚、銀で五枚、+1だと金貨一五枚ってところですか」
合計で金貨二五枚か。
「魔法の武器なのに随分安いんだな」
「そりゃそうですよ、お客さん。あれ? お客さんは迷宮に初めて潜った人?」
「ああ、そうだ」
店の親父は納得した顔をした。
「お客さん、いいですか。迷宮産の武具は、五年で消えてしまうんですよ」
「は?」
店の親父が言うには、迷宮が発見されて探索が開始されておよそ五年経った頃から、迷宮産の魔法の武具の紛失騒ぎが大量に発生した。
そのうち、武具が消えていく瞬間の目撃例が多数寄せられるようになる。
迷宮の武具には五年の所持有効期限が存在し、それを過ぎると迷宮に帰っていくと現在では
ちなみに、どこに消えていき、どこに行くかは本当の所は誰にもわからないのだそうだ。
「え? じゃあ、五年で消えちゃうのに買っていく人がいるの?」
「そりゃいますよ。五年も迷宮に潜れば、自分の故郷に家が二~三軒も建ちますからね」
確かに、たった三日ながら迷宮に入ってみて金は結構手に入った。鉄貨に至っては恐ろしい事になっている。インベントリ・バッグや
「そんなだから、迷宮産でも良いから欲しいヤツは腐るほどいるわけで」
「なるほどなぁ。不思議なこともあるもんだね」
「ま、それがあの迷宮ですから」
で、この話から思いついた疑問をぶつけてみる。
「巻物とかポーション、それと金貨とかも五年で消えちゃうの?」
「いや、そういう魔法道具やお金は消えないみたいですね」
ふむ、消費系アイテムは問題ないのか。消えちゃうなら、とっとと使ってしまおうと思ったんだが。
「それじゃ、こっちの盾と小剣も+1の魔法が付いてるみたいだから、全部で金貨一二五枚です」
「それでいいや。ありがとう」
俺は金貨を受け取り、店を出ようとする。
「あ、お客さん。これ持っていきな」
「ん? これは何?」
「ああ、魔法道具の買い取り価格表。魔法の強さとか効果で大凡の買い取り価格が判別できるようにしたものだよ。魔法道具は買い取り屋系の店同士で標定価格を取り決めてあるのさ」
なるほど、それは効率がいいね。
俺は一覧をチェックしながら、ヴォーゼンの店を目指す。
へぇ……+1ばかりでなくて、+4なんてのもあるね。金額はとんでもない数字だけど。
でも、呪いの掛かった武器も買い取りしてるのは何でだ? ますます某有名RPGっぽいじゃないか。
ヴォーゼンの店に来ると、親父が店先につっ立ってタバコを吹かしていた。この世界でタバコを見たのは初めてなんですけど。あったんだな……
「よう」
俺に気づいたヴォーゼンが挨拶してきた。
「こんち。今日も買い取り頼める?」
「ああ、お前さんなら歓迎するぜ」
この前持ってきたのが貴重なものだったせいで、期待するような目が痛い。
「いやー、この前のような貴重品じゃないんだけどね」
「ま、見せてみろや」
ヴォーゼンに連れられて店内に入る。
「迷宮に潜ってきたんでね」
「そうか。なかなか面白いところだろう?」
「不思議な迷宮だったなぁ」
俺はヴォーゼンが空けてくれたテーブルの上に手に入れたモンスターどもからとれた素材を並べていく。
「一階層と二階層を回ったんだけど」
ドサドサと置かれていく素材に親父が慌て始める。
「おいおい。いったいどれだけ狩ってきたんだ!?」
テーブルの上はすでに素材が積み上げられて、俺の目の高さよりも高くなってきている。
「え? これの倍くらい?」
あまりの量にヴォーゼンは呆れたような顔になる。
「初めて潜ったんだよな?」
「そうだけど?」
復活する部屋のモンスターを何度も狩っていたせいで、素材や食材がすごい量、手に入ったからねぇ。
マップ機能のお蔭で、敵の位置が判るのがこの量の原因なんだけども。
「迷宮初心者がこんな量を持ってくるのは初めてだぜ……」
なにやら
全て出し終わって査定が終了したのは二時間も経った後だった。
「しめて金貨一二枚と銀貨四枚、銅貨三枚だ。端数はオマケして銅貨にしといたぜ」
一~二階層レベルだとこんな物なのだろうか?
「サラマンダーの皮とか安すぎないか?」
「ああん? どれだ?」
俺は二階層で狩ったサラマンダーの皮を指差す。
「ふむ。これか……」
改めてヴォーゼンはサラマンダーの皮を査定し直す。
「広げてみたら随分とでけぇな」
「ああ、どうも階層ボスっぽい感じだったが?」
「何だと? すまん。量が多すぎてちゃんと見てなかったようだ」
ヴォーゼンは皮の計算をやり直した。
「ボス級だとサラマンダーの皮は高いからな。これが一二枚も? げっ!? 一枚はグレーター・サラマンダーの皮じゃねぇか!」
「貴重品か?」
「グレーター・サラマンダーの皮は耐火性能が高ぇんだよ。+3相当だぞ?」
そんなの知らねえよ。
「こりゃ不当に安く買い叩く所だった……バレたらスミッソンのやつに店を潰される……」
「は? あの両替商の?」
「ああ、お前さん、スミッソンの所で何かやったんか?」
慌てて再査定に入っているヴォーゼンは冷や汗を掻きながら言う。
「いや、別に何もしてないが?」
「それなら良いんだが……」
スミッソンが何か言ってきたのかね? まあ、ちゃんと査定してくれるなら良いんだけどさ。
再査定が終了した時には金貨が一五〇〇枚ほど上乗せされていた。
おいおい。一五〇〇枚もチョロマカされそうになってたのかよ。
「いや、本当にすまん。許してくれ」
「いや、払ってくれるなら良いんだけどさ」
「この事は他所では内緒にしてくれ……頼む」
必死に、かつ祈るような仕草で親父がいうので、俺は許してやる。
「わかったよ。他の店とかでも言わないよ」
その言葉にヴォーゼンは安堵の息を漏らした。
「助かるぜ……俺ら商人は信用が第一だからな。失った信用を取り戻すのは本当に難しいからな……」
それは判るよ。信用されなきゃ商売なんかできないもんな。
ヴォーゼンは一五〇〇枚分は引換証を発行し、他は現金で払ってきた。
引換証だと手数料が二〇%も掛かるから損なんだが、大金だから仕方ないよな。
面倒だけど、スミッソンの両替屋に顔を出しておくか。
スミッソンの店に行くと、本人が対応してくれた。
「これはこれは、よく来てくれました。ケント・クサナギ様でしたね」
「ああ、迷宮に行ってきたんで……」
俺を迎えたスミッソンはえらく上機嫌だ。
「今日はどんなご用件で?」
「一応、引換証を持ってきたんだけど。それと鉄貨とか細かいのをまとめたくて」
俺がそういうと、スミッソンは棚から計量器などを持ってくる。
「引換証は……一五〇〇枚。また随分と稼いできましたね?」
「なんか階層ボスが、そんな値段ついた」
「ほほう……買い取り屋はヴォーゼンの所で?」
「うん。前に高値で買ってくれたからねぇ」
俺がそういうとスミッソンはニコニコしながら頷く。
「それは良かった。取引のある店を贔屓にしてもらえれば、私の所も儲かりますから」
その後、手にいれた鉄貨や黄銅貨、青銅貨などを計量してもらい、金貨や銀貨、銅貨に換金する。
もちろん、二〇%の手数料は取られるが、大量に持ち運ぶよりは楽だ。
鉄貨四五三一二〇枚、黄銅貨、一二四七一八枚、青銅貨九七一二六枚が換金され、金貨一六三七枚、銀貨八枚、銅貨六枚となった。
手数料を金貨三二七枚、銀貨三枚、銅貨三枚、黄銅貨二枚ほど支払うことになるが、これを暗算で俺が算出するとスミッソンは妙に満足げな顔になる。
「計算も早いようですな」
「ま、算術スキル持ってるからね」
「なるほど……クサナギ様は商人向きですな」
「いや、商人になる気はないよ」
俺がそういうとスミッソンは少々残念そうな顔になる。
「気が向いたら声をお掛けくだされば、私が後援いたしますよ?」
「俺は冒険がしたくてね。そのつもりはない」
「左様で……」
両替してもらった分と引換証の分の金を受け取って店を出る。
第一回迷宮探索での総収入は、金貨一五七九枚、銀貨三三七枚、銅貨七八六枚、黄銅貨八枚となった。
端数はチームの共有資金に回すとして、一人あたり、金貨三一五枚、銀貨六七枚、銅貨一五七枚だ。
たった三日、迷宮内を回っただけで、こんなに稼げるとは迷宮恐るべし!
つか、これって……普通に金稼ぎするならここに来れば良いんじゃないの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます