第17章 ── 第10話

 この迷宮の良いところは、同じ階層でも何度でもトライできるところだ。モンスターも宝も補充されるので、飽きが来ないからね。

 本当にローグ系ダンジョンのようだ。トリエンにもあればいいのに。


 東側区画。例の有名チームが向かった方角だ。


 こっちの方角も、西や南と基本的な部分はあまり変わりはない。

 俺たちも慣れてきたせいか、隅々まで探索しても三時間と掛からない。あまりにも早く東側探索が終わってしまったため、北側の探索も開始する。

 そして……一三時には北側の探索も終わってしまった。


「さて、どうしたものか」

「二階層に降りてみるか?」


 トリシアがニヤリと笑う。


「そうだな、それが良いかも知れないなぁ。でも、申請した内容だと第一階層だけって事になってるんだけどねぇ」

「バレなきゃいいのじゃ!」


 マリスが間髪入れずにトリシアに賛成する。


「修行にならん。下へ行くべきだ!」


 ダイアナ・モードのアナベルもやる気満々といった感じだ。


 まあ、俺はいいんだけど……


 基本的に迷宮侵入のための申請は、万が一の事故などで帰還できない冒険者がいた場合、衛士たちが救出任務に出るための目安にするためのものだ。

 俺たちが遭難とか脱出不能の状況に追い込まれるような危険は非常に低いわけだし、大丈夫と言えば大丈夫か。


「よし、第二階層に行ってみるか!」

「そう来なくてはの! さすがケントじゃな!」


 ハリスは無言だったが、俺の決定に異を唱える事は殆どない。


 第二階層への階段を降りていく。

 地上から迷宮の入り口区画までの階段に比べると大分短い階段だ。そこから推測するに、第一階層の地面(第二階層の天井と言うべきか?)の厚さはおよそ一〇メートルだ。


 第二階層もやはり階段付近は安全地帯らしい、一階と構造が全く一緒だ。解りやすいけど面白味はないな。


 例の野営ができる広間も健在だし、すでに一三時を回っているので休憩している冒険者はいない。いくつかの焚き火跡は真新しいものだったから、この階層にも他の冒険者がいるようだな。


 大マップ画面を確認しつつ、探索を開始する。


 階段区画からの通路は三つ、東西と南にある。この階層の階段区画は五つ。

東西南北に四つの上り階段、中心部に下への階段がある。


 東の階段から他のそれら区画へ繋がる経路は入り組んでおり、枝別れたした通路や様々な部屋がひしめいている。


 第一階層よりも複雑化しているな。いくらか探索に時間が掛かりそうだ。


 俺たちが申請した侵入日数は三日。すでに一日半が経過しているので、真ん中の区画には行かず、迷宮の外周を回るようにして、北か南の階段区画に進路をとる。

 探索して進み、時間があれば西の階段区画へ行こう。

 そして、階段区画で夜を明かし、次の日の朝には上にあがって地上に帰還するわけだ。


「ってな感じで行動するよ。北と南、どっちに行く?」

「そうじゃのう……ケントが決めればいいと思うのじゃ」

「右に……同じ……」

「そうですね。ケントさんが決めて下さい」

「ま、リーダーが決定するのが順当だろう」


 全部、俺に丸投げですか。ま、仕方ないね。


 大マップ画面で他の冒険者がいる方向を確認しておく。

 またかち合って変なイザコザが起きても仕方ないからね。

 他の冒険者が南側付近にいることが解ったので、北に向かう道を選んだ。


「よし、北側の道だ!」


 俺がそういうと仲間たちが立ち上がった。


「行くのじゃ!」

「この階はどんな感じだろうな」

「ワクワクするぜ!」

「気を……緩める……な」



 それから四時間。もう一八時を周り夜といえそうな時間になってしまう。

 もう、そろそろ北側の階段区画に到着するはずなのだが……


 広めの部屋に出た。他の部屋と違い天井が妙に高い。二〇メートル程度はある。


 おかしいな? これでは一階の地面を突き抜けているはずなんだが……


「ケント、来るぞ!」


 俺が天井に目を奪われている内に、部屋の中にいるモンスターが俺たちに襲いかかってきていた。


 トリシアの声に俺は我に返る。


「ボケッとするなよ! 敵の数が多いぜ!」


 ダイアナがウォーハンマーを構える。


「サラマンダーじゃ!」


 サラマンダーが一二匹。それも地上で見かけるモノに比べて少し大きい。


「おお、皮と鱗が穫れるな!」


 サラマンダーの皮は耐火性に優れ、鱗は練金素材にもなる。大きければ、それだけ利益も増えるというものだ。


 俺は嬉々として剣を抜く。


「心得てる……な? 背中に……傷は付けるな……」

「誰に物を言っている!」


 トリシアが二丁拳銃を撃ち出した。弾丸はサラマンダーの両目を貫く。


「ヒャッハー! 入れ食いだぜ!」


 アナベルがウォーハンマーを振り上げてサラマンダーの戦列へ踊り込んだ。


「オラオラオラァ!!」


 すくい上げるように振られるウォーハンマーがサラマンダーをガンガン打ち上げまくる。

 空中を舞うサラマンダーが無防備な腹を簡単に見せた。


「忍法……八方螺旋手裏剣……」


 そこにハリスが投げたクルクル回る八本の棒手裏剣が強烈な速度で飛んでいった。


 それって忍法?


 棒手裏剣がサラマンダーの柔らかい腹を円形に切り飛ばし、異様な臭いの贓物を撒き散らした。


『ノロノロ動く短足トカゲどもめ!』


 マリスの挑発スキルに残りのサラマンダーが誘い出されて行く。


「刃よ伸びよ! キリング・ジャベリン!!」


 白いオーラの刃がドリルのように回転しながら噛み付こうとしたサラマンダーを貫いた。


 ええ!? あんな機能は付けてないぞ? 剣の付与機能にスキルを載せているということか!? 完全に自分のものにしてやがるな。凄い!


 さて、俺も負けてられないな。


「んじゃ、俺も! 紫電!!」


 紫電は三連突きだが、敵はもう二匹しかいないので、一際大きいのに二発撃ち込む。


 一分も立たずにサラマンダーは全滅した。


「よーし、解体しよう」


 サラマンダーの内臓は煮ても焼いても食えないので、ハリスが綺麗に内臓を抜いてくれたので助かる。

 皮、鱗、肉が金になる。骨は二束三文だから放置で。


 一時間ほどで解体が終わったので俺のインベントリ・バッグに収納しておく。この迷宮で手に入れたアイテムや素材類はパーティ用の共有フォルダ分けしておこう。


 この部屋をくまなく調べて宝箱を発見。

 中には『盾+1』、『ショート・ソード+1』。それと金貨とか。


 うーむ。+1ってのが効果を表しているんだろうけど、大した効果じゃないんだけどなぁ。命中率が少し上がって、ダメージが少し増えるだけだ。

 なんだか、某有名難攻不落系RPGを思い出すな。ネーミング・センスとかが。


 部屋の奥の扉を開けて先へ進む。


 幾つか枝分かれしているが、階段区画へ続く通路を正確に選んで進んでいく。


 大マップ画面があるから迷うことはないからね。


 やっと階段区画に到着した時には、すでに一九時を回っていた。


「やっと着いたのじゃ!」

「お腹空いたのですぅ……」


 マリスは元気だが、アナベルは空腹で目を回しそうになっていた。


 野営の間(そう呼ぶことにした)に到着すると、一組の冒険者パーティが既に野営をしている。


「お邪魔するよ」


 ジロリと冒険者たちがこちらを見たが、殆ど無視されてしまう。

 

 馴れ合いはゴメンという事かな。


 彼らのデータをチェックすると平均レベル一五という感じで、ギルドのランク分けで言えばブロンズ・クラスの冒険者だ。


 こういった危険な迷宮を生き抜いてきた奴らの警戒心は非常に強いという事だろう。最近、ジントみたいなのも出現していたしね。


 仲間たちが一番端の焚き火跡を使って野営の準備をする。

 俺はというと早速食事の支度に取り掛かる。


 アナベルが腹ペコさんだからな!


 前夜は簡単な食事だったし、ここには他に一パーティしかいないから少しは腕を奮っておこう。

 今晩は鍋料理。

 味噌をベースとした汁を使う。

 鮭の切り身、俺特製のコンニャク、白菜やネギ、キノコなどをふんだんにぶち込んでいく。

 ご飯も炊き始めたため、広間に美味しそうな匂いが充満していく。


「ゴクリ……」


 どこからともなく喉を鳴らす音が聞こえてくる。


 チラリとその方向を見れば、例の冒険者チームだ。


 できた鍋を焚き火に掛けて皆に器を渡す。ご飯をてんこ盛りにした茶碗も渡すと食いしん坊チームがフォークを鍋に突き入れた。


「こらこら、お玉で自分の器にすくってから食べなさい」

「我慢できません!」


 アナベルが目の色を変えて食べ始めた。


「ま、負けないのじゃぞ!」


 マリスもアナベルに対抗して食べ始める。


「おい、落ち着け。ケントの料理だぞ。味わって食べてこそ、その戦力を見極められるというものだ」


 そんな事を言っている割に、器に鍋の具を大量に盛り付けているんですが?

 ハリスは呆れたような顔だが、彼の器にも似たような量が盛られているんだけどね。


 ま、でかい鍋に作ってあるから好きなだけ食えよ。


 釜からご飯が空になる頃、奥にいた冒険者チームの者が全員近づいてきた。


「おい。ちょっといいか……」


 六人の冒険者たちが、怖い顔をして俺たちの焚き火を取り囲む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る