第17章 ── 第7話
ハリスが持ってきた宝箱は、横五〇センチメートル、縦三〇センチメートル、高さ四〇センチメートルで、箱の上の部分がアーチ型になっている典型的な「俺は宝箱だ!」的な自己主張をした格好だ。それぞれの辺が鉄製の補強枠がついているから、より宝箱っぽく見える。
「ワクワクじゃのう!」
「第一階層で見つけたものだから大した物は入ってないんじゃないかな?」
講習でも階層が上の方が危険度が低いとか言ってたし、宝箱の中身もそうだろうと想像できる。
「罠が……あるな……」
ハリスが盗賊系のスキル「罠感知」に成功したようだ。
「どれどれ……」
俺はハリスに罠が設置されている部位を教えてもらう。確かに罠があるっぽい。カチリと頭の中で音がする。
うーむ。『罠感知』を覚える条件ってなんだよ? こんなに簡単に覚えて良いのか?
「簡単な眠りの罠だな。中に気化性の瓶入眠り薬が紐で下がってる。蓋を開けると瓶が落ちて、睡眠ガスが吹き出す仕掛けだな」
瓶はただ、蓋に連動した紐でぶら下がっているだけなので、宝箱を裏返しにして開ければ割れることもない。
「こういう時に罠解除スキルは便利だな」
俺は慣れた手付きで罠を無効化にし、宝箱を開けてしまう。
「ケントは
こういったスキルを使う俺を初めて見たトリシアが感心した顔で言う。
「まあ、俺は結構特殊な能力を持っていてね。
「そう言えば……追跡スキルも……覚えていた……な」
ああ、そんな事もありましたね! この世界に来てから初めてのクラス外スキルだったので俺も驚いたよ。スキル・ストーンいらずのティエルローゼに万歳!って所だ。
「ハリスは罠解除はまだ覚えてないの?」
「まだだ……」
少々申し訳なさそうだ。
「ふむ……よし、この宝箱を改造して訓練道具でも作ってみるか……」
いつぞや覚えた道具作成スキルを使えば問題ない。罠レベル五くらいまでなら簡単に作れるな。それ以上になると、他のスキルも併用しての作成が必要だから難易度が上がる。
さて、お宝の中身を見聞しましょう。
「スクロールが一つ、液体入りのガラス瓶が一本、この金貨は見たこと無いけどルクセイドのものに似ているな。これが二枚か」
まあ、第一階層ならこんなもんじゃね? 消費アイテムに少量の金だけだもん。
ガラス瓶は下級ポーションだが、回復系ではなく武器に塗るとダメージが五ポイント上昇するというエンチャント・ポーションだった。一瓶で五回分。
スクロールも平凡なものだ。一応レベル二相当の闇魔法が封じてある。目標を中心に五メートル四方の暗闇ゾーンを作り出すというものだ。
「これは売って金にするかな?」
アイテムの効果などをみんなに説明し、それの処分方法を話し合う。
「暗闇か。私の光魔法の逆の属性だし、私がもらってもいいか?」
「ああ、構わないよ。みんなが良ければね」
「構わんのじゃ」
「私もいいですよ」
「俺も……構わん……」
ということで、暗闇スクロールはトリシアの物で決定。
「こっちのポーションはどうする?」
「魔法のポーションなのだろう?」
「そうだね」
「これを塗った武器で敵を攻撃した場合、魔法しか利かないゴーストなどにもダメージが行くな」
ああ、エマ救出の時に遭遇したゴーストには利いたねぇ。
「それなら、ハリスに持たせるべきものだ」
ふむ。他の仲間の武器は俺の魔法付与がなされているし、トリシアは魔法も使える。ハリスだけがミスリル製だけど魔法付与されていない武器を使用している。
「なるほど。んじゃ、これはハリスに」
「助かる……」
ハリスの分身の術は、武器なんかも一緒に分身してるけど……これ塗ってから分身したらどうなるんだろう?
ちょっとした疑問は湧くけど、使用回数があるアイテムを実験で使いたくないので黙っておく。
俺がそんな事を言ったら、ハリスは確実に試そうとするだろうからね。それはそれで勿体ない。
金貨は冒険資金に直行でした。まあ、いまさら金貨二枚なんて言われてもね。すでにみんな金持ち過ぎて、ちょっと金銭感覚があやふやですよ。
午前中の探索を終えたあたりで、第一階層と第二階層を結ぶ階段にたどり着いた。
それまでに一〇回ほどの遭遇戦と五つほどの宝箱を手に入れた。
戦利品はダメージと命中力が少々上がる『銀の短剣+1』が一番のお宝だった。階段前にいた階層ボスらしきリザードマン・イミテーションというモンスターが持ってた。
階層ボスは各階段の手前にいるのだろうか? 午後の探索でそのあたりの検証をしてみたい。
それと金貨五枚と銀貨一二枚、銅貨が八〇枚、青銅貨が三〇四枚、黄銅貨が五九三枚、鉄貨にいたっては三五一二枚。
値踏みスキルが無かったら、数えるだけでも一日終わっちゃう勢いだよ……
あとは大したものはなく、売り払い決定品としてインベントリ・バッグに入れておいた。まとめて売り払うよ。
階段付近は構造変化がない区画と講習で教えられたので、ここらで休憩を入れて昼食にしよう。
階段付近の広間には石で囲んだ焚き火跡のようなものが幾つかあったので、以前に来た冒険者たちが設置したものだろう。
これを利用してお料理タイムです。
何度かの戦闘で、食べられそうな獲物を仕留めていたので、折角だしダンジョン食材で料理をします。
テイル・ツリー・アナコンダの肉は少々臭みはあるけど鶏肉に似た感じなので、アナコンダの唐揚げに挑戦します。
また、ランニング・シェパーズ・パースは、茎の所がセロリっぽい匂いがするので、鹿肉のステーキに香味野菜として使用してみる。実の部分はスープに使ってみるよ。
料理をしていたら何やら声が聞こえてくる。
「あそこで、レッサー・ジャイアント・センチピートの群れに襲われるとは……」
「おい。いい匂いがしないか……?」
そんな会話を聞き耳スキルが拾ってきたところで、広間に四人組の冒険者が顔を出した。
ヘトヘトの所で匂いにつられてやってきたといった感じだな。
「うお? 迷宮で料理しているヤツがいるぞ?」
「なんか凄い……」
男三人、女一人のパーティらしい。レベルは一二~一三程度だ。ギルド・ランクならブロンズ・クラスくらいかな。
言葉の解らない三人は大人しく焚き火跡の崩れた石を再設置して火を起こしている。マリスは彼らの言葉が理解できるからか、料理の見学をやめてスキップしながら彼らに近づいていった。
「休憩かや?」
「あ? ああ……そうだよ」
リーダーらしいチェインメイルの
「何で子供が迷宮に…‥?」
「え? 何かのビックリ企画?」
確かにマリスは見た目は一〇歳前後にしか見えないからな。一〇歳程度の子供が冒険者をしているなんて事は、いかなティエルローゼでも通常はありえない。
「でも、鎧は凄い業物だぞ?」
「そうじゃろ? ケントの力作じゃからな!」
得意げに胸を反らすマリスが疎ましい。
この世界でミスリル製の防具を作れるのはドワーフくらいなのだ。噂が広まって制作依頼でも殺到したら冒険に支障が出てしまうじゃないか。まあ、断れば済む話だけど。
料理を作りながら、彼ら冒険者の様子を窺っていると、俺たちが使っている焚き火とは別の場所の焚き火跡で火を起こし始め、鞄から固そうなパンと干し肉を取り出して食べ始めていた。
量も質も可愛そうに感じる食事だな。
インベントリ・バッグからテーブルと椅子を取り出し、焚き火の傍に設置して料理を並べた。
「おい、君たち」
羨ましそうにチラ見しているのは解ってるんだ。
「そんな食い物じゃ午後の探索に支障があるだろ。どうだ? 一緒に食べるか?」
俺がそう言いながら声を掛けると、冒険者たちはポカーンとした顔になる。
「い、いいのか?」
「構わんさ。俺たちは今日、初めての迷宮探索だ。君らはもう何度も入ってるんだろう? 先輩方とのお近づきの印にな」
俺がニヤリと笑うと、冒険者たちは嬉しげに微笑んだ。
「そうか、初挑戦か……って、新米がこんな所まで入ってこれる訳は……あ! 他の土地で有名な冒険者なんじゃ……?」
お、この
「ま、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないがね。で、どうする? 一緒に食うか?」
「ああ、喜んでその申し出を受けたいと思う。俺たちはチーム『ナッソー・セイン』。俺はシェリル・ミニット」
「私はバーバラ・スーン」
「ケイズ・ファットマン」
先程の
「ラッセル・ホーン」
短く応えた彼は
彼らと食事をしつつ、迷宮の情報交換をする。
彼らは殆ど言葉を発せずに頷いたり首を横に振ったりだったが、食べることが忙しかったというのが理由だな。
「こんな美味いものは、生まれて初めてだ」
「全くね。酒場にもこんな料理はないわね」
シェリルとバーバラが顔を見合わせて笑い合っている。
「神に感謝」
ラッセルは静かに神に祈っている。
「そうだな。俺としては、ああいう料理道具を携帯するのを考えたい所だけど、重すぎるな」
ケイズは俺の料理に使っていた簡易
彼らは俺たちにしきりに感謝を述べつつ、午後は迷宮の北側に行く予定だと言い残して迷宮探索に戻っていった。
北側ね。なら俺らは南側の探索にしようかな。
料理道具やテーブルなどを片付けながら、俺は午後の探索に思いを馳せた。
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