第17章 ── 第6話

 トリシアにハンドガンの説明書を渡しつつ注意点を教えておく。


「一つだけ注意ね。この弾丸を撃つだけなら大した魔力消費量じゃないんだけど、氷の弾丸とか『空弾』なんかを併用で撃つと、ちょっと魔力消費が多くなっちゃうので、MPの枯渇には要注意だよ」


 次々と予備弾倉を取り出して、トリシアが腰に付けている無限鞄ホールディング・バッグに勝手に放り込んでおく。


「ちょっと試しに撃っていいか?」

「お好きに」


 他のメンバーもトリシアの新装備に興味津々といった感じで眺めている。


 トリシアはハンドガンを片手で構えると、前方の何も無い空間に向けて引き金を引いた。


──バシュ!


 空気が破裂するような音とともに弾丸が飛んでいった。まあ、飛んでいく弾を肉眼で見るのは至難だけど。


「ふむ……随分とまっすぐ飛ぶんだな。山なりに飛んでいくのではないようだ」


 え? 弾が飛んでいくのが見えたの? なんという動体視力だよ。さすがにおじさん、ビックリするで。って、まだおじさんじゃないよ!


「この上のところにあるのは何だ?」

「ああ、照準器だな。先端にあるのが照星フロント・サイト、後ろのこれが照門リア・サイトだ。ここと、ここが合うように狙って撃てば当たる目安になるんだ。まあ、距離によって微調整とか必要になるから、慣れも必要だろうね」


 トリシアは飲み込みが早く、すぐさま二〇メートル程度の距離の目標なら命中弾を集められるようになった。


 射撃ならば武器を選ばないのって、エルフの特製なんですかねぇ?


「少々反動が気になるが……いい武器だな! ケント、感謝する!」


 どうやら気に入ったようで何より。


 そのうち、魔力弾とか撃てるように改造してみるのも手かな。魔法野伏マジック・レンジャーのトリシアなら、総MP量も多いし、モノにできそうだね。


 俺はホルスターをトリシアに付けてやり、ハンドガンを二丁、左右にぶら下げてやる。


「こうすると武器が収納できるわけ。取り出すのにも仕舞うにも便利でしょ?」

「なるほどな」


 トリシアがスチャッとハンドガンを二丁取り出して構えている。


 二丁拳銃かよ! 一丁は予備と思ってたけど、そういうのも絵になってイイね! トリシアがやると、美人なだけに本当に様になるなぁ!


「用意した短弓ショート・ボウは無駄になったが……予備武器にすればいいな」


 あ、やっぱりそういうの用意してたのか。申し訳ない。



 トリシアの新装備のお披露目も終わり、西の通路を進むことにする。


 迷宮の通路は三メートル×三メートルだ。通路が比較的広いので、二列縦隊で行けそうだね。


 ということで、前衛に俺とマリス、真ん中にトリシア、後衛はアナベルとハリスという隊列にした。


 しばらく進むと、通路が真っ直ぐと右へ曲がる丁字路に出た。


 マップ画面で確認すると、右側は大きな部屋に繋がっている。入り口の対面に二つの出口。部屋の内部に赤い光点が一〇個ほどある。

 真っ直ぐの通路は、左右に小部屋がある区画に繋がっていて、通路はさらに奥まで続いている。各小部屋に、これまた赤い光点が複数ある。


「どっちに行っても敵がいるな。数的には右の通路の方が少ないが」


 俺は手短に状況と地形を説明する。


「ならば、右だろう」

「まずは小手調べじゃな」

「どんな敵が待っているのでしょうか……うっ」


 アナベルがガクリと頭を下げた瞬間、笑い出す。


「ふふふふ。戦闘だな! 私の出番だ!」


 あー、ダイアナが出てきか。そういや、最近あんまり出てこないなぁ。


 右への通路に入っていく。部屋の前には木製の扉があった。

 一応、罠などがないかハリスが調べてくれた。大丈夫そうだね。


 俺は部屋の中の音を確認する。


「キャンワー、キャン」

「キャキャワーン」


 何語だよ?


 中からは全く理解できない言語が聞こえてくる。

 マップ画面で赤い光点をクリックしてみると。


『コボルト

 脅威度:なし

 犬のような顔をした小型のモンスター。団体行動を好むが、知能は低い。体表に鱗を持つため、ある程度の防御力がある』


「お、コボルトか。ティエルローゼでは初めて見るなぁ」

「犬妖精か。雑魚だな」


 まあ、俺らのレベルからしたら雑魚中の雑魚だろうさ。


 でも、トリシアが『犬妖精』と言っているということは、魔族ではなく妖精族なのかな?


「妖精なのに戦ってもいいのかな?」

「やつらはゴブリンと一緒さ。混沌勢に味方した馬鹿な妖精族の成れの果てだ」


 トリシアがそう言うなら戦っても問題ないか。


「めんどいのう。突入するのじゃ!」


 マリスが堪えきれなくなって、扉をバーーーンと開けてしまった。


 せっかちですなぁ……


『犬ころどもめ! どっからでも掛かって来るのじゃ!!』


 マリスの挑発スキルにコボルトどもが反応する。


「ワンキャキャ!?」

「キャンキャン!」


 ホント、何言ってるか解かんねぇ……単に鳴いてるだけで意味はないのかもしれないが。


 俺もマリスに続いて部屋の中に突入した。


 部屋は一〇メートル×二〇メートルとかなり大きかった。

 中にはコボルトが集めてきたのか、木切れや石材などが積まれて小屋のようなものが造られていた。バッチリ迷宮内で生活してますな。


 そのボロ小屋から何匹ものコボルトが飛び出してくる。といっても総勢一〇匹なわけだが。


 もっとも近くにいたコボルトが三匹、マリスに飛びかかった。

 錆びた短剣やら古びた棍棒といった粗末な武器なので、マリスには傷一つ付けられないだろうなぁ。


──ガキッ!


 当然のようにマリスの大盾に全ての攻撃は弾かれてしまう。


「そりゃ! えい!」


 マリスがショート・ソードを繰り出して二匹のコボルトを仕留める。


──ボシュ! バシュ!


 トリシアが早速ハンドガンを二丁拳銃で射撃する。


 二匹が弾丸に撃ち抜かれて崩れ落ちた。


「魔刃剣!」


 俺は剣を引き抜きざまに斬撃波を飛ばした。並んで突っ込んできた三匹が、身体を縦に割られて消し飛んだ。


「私の獲物も残しておけよ!?」


 後ろでアナベル……いや、ダイアナが吼えるが、三レベル程度の敵だと無理じゃね?


「しゅっ!」


 短く息を吐く音が聞こえると、ミスリルの棒手裏剣が二本飛んでいって、コボルトの眉間に突き刺さった。


「一匹だけかよ!」


 アナベルが猛然と前衛の俺たちを通り越して、残った一匹に襲いかかる。


 コボルトの表情は良く変わらないが、恐怖に染まった目の色だけは見て取れた。


 ダイアナの無慈悲なウォーハンマーの一撃が脳天に炸裂し、頭が身体に半分以上めり込んで、最後の一匹は死に絶えた。


「ダイアナさん? 後衛なんだから後ろで支援だよ?」


 俺がそう言うと、ダイアナはつまらなそうな顔になる。


「ケッ!」


 うーん。最近あまり出てこないからご機嫌斜めっぽいなぁ。やさぐれてる気もするし。


 こんな時は……昔、悪友に教えてもらった必殺技だっ!

 ま、実践するのは初めてだし、効果のほどはこれから確認するしかない。


 俺はつかつかとダイアナに近づく。


「な、なんだよ?」


 怒られると思ったのか、ダイアナが身構えた。


 俺は徐ろにダイアナをキュッと抱きしめる。


「なっ!? ななななな!?」


 混乱して硬直したダイアナの頭を優しくナデナデする。


「よしよし」


 拗ねる女をご機嫌にする必殺技、ナデナデ攻撃だ!


「なーーーーっ!?」


 ダイアナが一際大きな声を上げたと思ったら、クタリと身体の力が抜けたようになってしまった。


「あら? ケントさん? どうなされたのです?」


 ダイアナが逃げ出したのか、アナベルに戻ってしまった。

 俺は慌ててアナベルを離す。


「いや、何でもないよ?」


 俺は苦笑しながら頭を掻く。アナベルは不思議そうな顔だが、あまり気にしてない感じだ。天然め。


「ふむ。あの手は使えそうだな」

「我にもやってくれんのじゃろうか?」


 後ろから妙な視線と声を聞いて振り返れば、トリシアとマリスが指を咥えていた。


 俺と目が合うと、二人ともパッと両手を広げてくる。


 ぐぬぬ。遠慮がないな。この二人は。


 まあ、でも不公平なのはダメだと思うので、二人にもキュッとしておく。

 しないでヘソ曲げられても困るからな!


 なんとか二人とも満足したようなのでようやく次のステップに入れそうだな。


 俺らがそんなイチャラブに近い事をしている内に、ハリスはしっかりと仕事をしていた。


 ハリスの兄貴、申し訳ない。


 ハリスはコボルトの死骸と各ボロ小屋を調べて、宝箱らしきチェストを一つ見つけだしてきた。


 この迷宮、初宝箱ですな!

 といっても、まだ第一階層なので、大したものは入ってないだろうけどね。

 でも、最初の一つ目だし、記念になりそうなものが入ってると良いな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る