第17章 ── 第5話
その夜、俺は色々と準備に入った。マリスたちの鎧や武器の整備などがメインだ。なにせ俺が作ったものばかりだからな。
夜遅く、というよりほぼ朝まで色々やってたので、二時間くらいしか寝れなかった。
ル・オン亭で全員で朝食を摂る。
俺は眠い目を擦りつつ目玉焼きとベーコンのサラダ、固い黒パンを水で流し込んだ。
「寝てないのです?」
「二時間は寝たよ」
心配したアナベルが聞いてきたので、欠伸まじりに応える。
「寝たうちに入らんのじゃ!」
マリスから叱責が飛んできたが、やることが色々あったんだよ。
「何か……作ってた……な」
「ああ、トリシアの新装備だ」
俺がそういうと、パンを齧っていたトリシアがむせ返った。
「私の新装備だとっ!?」
「ああ、ちょっと凄いぞ? 迷宮で試してみてくれよ」
トリシアが妙にワクテカしたような感じで、朝食を食べるスピードが早くなった。
「早く迷宮に行くべきだな!」
「なんじゃ、トリシアばかり。ずるいのじゃ」
「ああ、マリスのも少しいじったぞ」
とたんにマリスも目がキラキラし始める。
「さあ、迷宮にレッツ・ゴーなのじゃ!」
珍しく、マリスが英語まじりに言う。現実世界の言葉を知りたがるマリスが最近覚えたヤツだ。用法は正しいな。
朝食を終えて迷宮区へと向かう。
朝の迷宮の入り口は、やはり冒険者が多いようだ。ちょっと見でも三〇人以上いるんじゃないかな。
チームで集まっているものもいれば、ソロで潜るやつもいるようだ。
その中でも一際目立つ団体が入り口に一番近い場所にいた。
その団体は
それぞれの装備がやたら金が掛かっている感じがする。
他のメンバーも武器やアクセサリに相当金を掛けているのが確認できる。
「アルハランの風がまた潜るらしいぜ?」
「ほう。この前帰ってきたばかりじゃないか。じゃあ、またもや一〇階を狙ってるのか?」
「そうらしいな。今回は成功するんじゃないかって噂だぜ?」
周囲の冒険者がヒソヒソと話しているのを聞き耳スキルが拾ってくる。
あのチームは『アルハランの風』というらしい。どうやらこの迷宮都市のトップ・チームなのだろうな。
ヒソヒソ話から推測するに、一〇階層まで到達したが攻略ならずで帰ってきたのかね。
一〇階層か。どの程度のレベル帯なのかは想像するしかないが、この街では相当な手練と言えそうだ。
一応レベルを確認してみると、レベル平均三〇といった所だ。
しばらくすると、迷宮の入り口の大きな鉄製の扉が開く。
中から衛士たちが出てくると、並んでいる冒険者たちの持つ書類を確認している。
確認の終わった者から順次迷宮に入って行っている。
俺らは一番最後に入ることにして、列の一番最後に並んだ。
あと数組で俺たちの番というところで、後ろから声を掛けられた。
「お、ケント。今日からか」
振り返ると、カルーネル衛士長だった。詰め所に出勤してきた所だろう。
「おはようございます。ええ。これから突入します」
「無理せずに行ってこいよ」
「はい。今日は様子見ですよ。一応一階層を回ってみるつもりです」
「それがいい。まずは雰囲気を掴んでおくのが利口だな」
カルーネル衛士長は、そう言うと笑う。
彼も迷宮で帰ってこない冒険者などを探して奥に入ることがあるので、迷宮の恐ろしさは知っているのだ。
ただ、彼が言うには、四階層より下に行って帰ってこないものは探索しない規則なのだという。
そりゃ、探しに行って衛士が二重遭難したら本末転倒だからなぁ。
カルーネル衛士長が俺たちに手を振って別れてから直ぐに俺達の番になった。
俺は書類を当番の衛士に見せる。
「えーと、ガーディアン・オブ・オーダーね。今日が初めてか」
「そうです」
「ふむ。チームの人数は五人ね」
ジロジロと衛士が俺たちを見る。
「侵入日数が三日となっているが、随分と軽装だな」
彼の言うのは武装のことでなく、荷物の事だろう。
「
「なるほど。準備は万全ということだな。よし。入ってよろしい」
俺は書類を返してもらいインベントリ・バッグにしまう。
迷宮は扉を入ると直ぐに下りの階段になっている。ここから一〇メートルほど下ると第一階層の入り口となる。
マップ画面で確認すると、この第一階層の入り口付近の一〇〇メートル四方が、構造の変わらない区画のようだ。
この区画の半分は衛士たちが詰める防衛基地らしく、常時三〇人の衛士がいるようだ。
また、この区画には宿屋や道具屋の出張所があり、外に出なくても迷宮内でしばらく生活できるようになっている。
入り口の区画まで降りて迷宮の状態を確認する。
石造りの壁には苔が生えていて、いい感じに不気味なダンジョンの雰囲気を醸し出している。
壁には五メートル間隔でクリスタルが嵌め込まれており、そこには不思議な光が宿っている。
これだけ明るいと松明やランタンなどの光源は必要なさそうだな。
入り口区画から奥に入る通路は四つあった。それぞれ東西南北に向かっている。
マップ画面の縮尺を広げて、下への階段を確認する。これも東西南北に一箇所ずつ存在している。どの方向に行っても、階段には辿り着けそうだ。
「さてと。どの方向から攻めるかね?」
「四方向に通路があるなら、東から行きたいところだな」
トリシアがそういうと、マリスが首を振る。
「いや、西じゃろ」
「その根拠は?」
「先に降りていった奴らが東に向かったのじゃ。後から行ったのでは獲物が少なそうじゃぞ?」
「ふむ……」
マリスにそう言われてトリシアも納得している。トリシアが東を選んだのは何となくという事かな。
「よし、マリスが言う西に行ってみよう」
トリシアはそういうと西に向かう通路がある方向に歩き出した。
「マリス、トリシア。歩きながら説明させてもらうぞ」
俺はトリシアとマリスに話しかけた。
「まずはマリス。盾を改造したよ」
「おお、待っておったのじゃ!」
「コマンド・ワードを一つ追加した」
「おー」
「『
「ということは、敵を通さない事も可能じゃな!」
俺は頷きながらも説明書を渡しておく。
「あっちからは通れないが、こっちからの攻撃……剣とか矢とかは通るから一方的に攻撃することも可能だ」
「便利すぎじゃな」
「確かにな」
俺は苦笑してしまう。下手すりゃチートだと言われそうだな。
もっとも、そんな力を使う必要があるとも思えないけど、念の為ね。
「次にトリシアの新装備だが……」
俺はインベントリ・バッグから二つの物体を取り出した。
それは小さなハンドガンだ。
「それは何だ?」
「ああ、これ? これはハンドガン……俺の国では拳銃と呼ばれる武器だな。従来は火薬を使って弾丸を発射する武器なんだが……俺はティエルローゼで火薬をまだ見たことないので、魔法で実現してみた」
トリシアはチンプンカンプンといった顔で小首を傾げる。
「そうだなぁ……まずは見てくれ」
俺はハンドガンの一丁からマガジンを取り出す。
「これはマガジン……弾倉というものだ。ここに弾丸を装填する。これには二〇発の弾丸を詰めることができるよ」
俺は弾丸が入った革袋も取り出す。
「ここに、このドングリみたいな弾丸を押し込んでいくんだ」
薬莢がないので、比較的小さいマガジンに二〇発も詰め込むことができるのだ。
「ふむ。これが飛ぶのか……」
トリシアは弾丸の一つをつまんでじっくりと見ている。
「で、弾倉に弾丸を詰めたら、これをこの穴に滑らせるように入れる。カチッと音がなるまで押し込めよ」
マガジンをハンドガンの本体に装填し、音がするまで押し込むのを実践して見せる。
「はい。これで準備完了。今度はここ。ここを引っ張る」
俺はハンドガンのスライドを引っ張って、すぐに離す。
──ジャキッ!
軽快な音を立てて、弾倉から
「こうすると薬室……火薬使ってないからチャンバーと呼ぶが、そこに弾が入るわけ。この動作は弾倉を入れた最初だけ行えばいい」
俺はハンドガンを地面に向けて構える。
「で、この
──ボシュッ!
通常の銃の発射音とは違うが、少々軽量な音が聞こえて、スライドが後退した。
銃身から発射された弾丸が、スライドの後退と同時に地面にめり込んだ。
「とまあ、こういう感じね。ちょっと反動はあるけど、結構威力あると思うよ」
俺はそう言って、トリシアにハンドガンを二丁渡した。ついでにハンドガンを収めるための革製のホルスターもプレゼント。
「すごい武器だが……」
「あ、弾がなくなっても撃てるようにしておいたよ。トリシアの『ファル・エンティル』と同様のコマンド・ワードで氷の弾丸を撃てるんだ」
他にもトリシアのスキル『
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