第15章 ── 第28話
馬車がペールランドの王城へと入っていく。
城がおどろおどろしく感じるのはアンデッドの居城だからだろうか、それもと単に夜だからだろうか。
入り口付近には淡い光を放つ鎧に身を包んだ
近衛兵は
ドラゴンの牙を使用して呼び出されると言われるアンデッド・モンスターだが、この世界のドラゴンから考えると本当に
でも、着ている武具は間違いなく魔法の武具だろう。鑑定してみたいけど……無理だろな。
「閣下、任務を完了いたしました」
「辺境伯殿、お待ちしていた。ペルージア女爵、ご苦労であった」
デュラハンであるローハン伯爵が重低音で労いの言葉を発すると、ペルージア女爵が深々と頭を下げた。
「辺境伯殿、陛下がお待ちである。付いてまいられよ」
ローハン伯爵が抱えた頭が目をギラリと光らせるが、別に威圧しているわけではないんだろうね。
でも、この冷気は六〇レベルになったトリシアはともかく、マリスやアナベルにはキツそうだ。特に、一番レベルが低いハリスがブルブルと震えていて一歩も進めずにいる。
それに気付いたペルージアがハリスに腕を絡め、彼をサポートしてくれた。
「私が介添致します!」
「ああ、助かる。仲間たちに恐怖耐性はないから……」
俺がそういうとペルージアが嬉しげに笑う。
「お任せあれ!」
ま、ペルージアも悪い奴じゃなさそうだし大丈夫だろう。
「マリスにアナベルは大丈夫か?」
「な、なんとか大丈夫なのです……」
「大きくなれば問題ないのじゃが……少々背筋が寒いのじゃ……」
そうだろうな。まだレベル五〇そこそこなんだし。
「私は大丈夫だな。レベルのせいか?」
「あのデュラハンはレベル六〇だし、トリシアとレベルは一緒だよ」
「なるほど……大したアンデッドだ。伝承通りの凄さだ」
トリシアも神が見たこともない最高レベルに達した凄いエルフだよ。
というか、うちのメンバーは既に人間の領域から逸脱しつつあるからねぇ。マリスに至っては人間じゃないけどさ。
城のロビーに入り、正面に大きな階段。この階段を登った所にある両開きの扉の向こうが謁見の間だとローハン伯爵が言う。
「陛下がお待ちである」
再びそう言うと重そうな扉を伯爵が開いた。
何本も壁に掛けられた松明によって謁見の間の様子が見えた。
一番奥にある禍々しい感じの玉座に座っているものが恐怖を撒き散らして鎮座している。
目に見えるほどの巨大なオーラが感じられる。
豪華なローブに身を包んだ剥き出しの頭蓋骨にはキラキラとした黄金の冠を被っている。片手剣を杖のように突き、その上に骨の手を添えていた。
パッと見は豪華な衣装を着たスケルトンといった感じだが、圧倒的な闇のオーラはそれを良しとしない雰囲気を醸し出している。
まさにノーライフキングといった風情だな。
ノーライフキングであるペールゼン国王が立ち上がった。
「良くぞ参られた。近くに寄られよ」
外見に似合わず、綺麗で若々しい声でノーライフキングが言う。
俺はその言葉に従って近づいていったが、仲間たちは足が動かないようだ。
「ふむ……申し訳ない。我の特性……とでも言おうか。生者には難しい事を言ってしまったようだな」
ペールゼン国王がガクリと肩を落とした。
「あ、俺は平気です。彼らを他の部屋で休ませてやってくれませんか?」
俺がそう言うと、ローハン伯爵が反応した。
「了解した。隣室にて休憩させておこう」
「よろしく頼むね」
俺はペールゼン国王に向き直る。
「者共、ご苦労であった。この人物と二人で話をしたい。退出せよ」
ペールゼンが言うと、
「いやー、訪問感謝するよ」
骨の身体がどさりと玉座に座った。
さっきと比べて、随分と雰囲気が変わったな。もちろんオーラのような威圧感は消えていないが。
「謁見感謝します。ペールゼン国王陛下。俺はケント・クサナギと申します」
「あ、そんなに堅苦しくなくていいよ。ああいうのは配下の前だけだから」
俺は拍子抜けする。どうも大変砕けた人物のようだ。
「随分とフレンドリーな感じですね」
「そう思う? まあ、三〇〇年もアンデッドやってると友達なんて出来ないんだけどさ」
俺はその言葉に反応する。英語が普通に通じやがった。
「もしかして……元プレイヤー?」
「うん、そう。それを知ってる君も?」
「そうだね。最近転生してきたんだよね」
「そうかー……なるほどなー」
「というか、神にも聞いたけど、プレイヤーは俺を含めても四人しか転生してないはずなんだが……」
ペールゼンが身を乗り出してくる。
中身は砕けた感じでも、顔が骸骨なので大迫力ですな。
「俺はさ、βテスト版ドーンヴァースのプレイヤーなんだよね」
「え? βテスト? ちょっと待て。アースラがこの世界最初の転生者だったはずだけど」
「俺も良くわからないんだよ。ずっと暗い世界を彷徨っていた気がするんだけど、気付いたら西の大陸で転生してた」
「五〇〇年くらい前に二人……シンノスケとタクヤが転生したんだよな。となると四人目が君で俺は五人目か」
ペールゼンは玉座に深く座り、何かを考え始めたようだ。
「そうなの? シンノスケとタクヤってのは?」
そう質問されて、俺は応えてやる。
「死んだらしいね」
魔神と呼ばれたシンノスケとタクヤの物語を聞かせる。
「そんな事が……俺も知らない話だ。その虚空ってやつの向こうが日本なのか?」
「どうだろう? 神も解らないらしいしなぁ」
俺にもサッパリなんだし、君が知らなきゃ知るわけもないよ。
「で、アースラってのは?」
「知らないか? アースラはドーンヴァースの闘技場最強の剣士だったんだが」
「知らないなぁ……というか、今までの話だとドーンヴァースは正式サービス開始したの?」
「もう八年も前に開始してるよ」
「マジか!? じゃあレベルキャップ外れたの!?」
「今は一〇〇レベルがカンストだな」
「すげぇな! 俺の時はレベル六〇がカンストだったんだ。いいなぁ」
「でも、君は今、ノーライフキング……リッチだよね? レベル六五じゃん」
ペールゼンが自分の身体を見下ろしている。
「そうなんだよ。南にある遺跡でアイテム拾ったらリッチになっちゃったんだよな。俺もビックリ。リッチになったからレベルが六五になったんだと思うけど」
「
「ああ、あれは俺には使えない。アンデッドになった所為なのか解らないけど」
「そうなの?」
俺は彼のステータスをマップ画面で調べてみる。
『セイファード・ペールゼン
レベル:六五
脅威度:中
呪いによってアンデッドと化したカリオス王国の
うーむ……職業表示がない。モンスターと同じ表示形態だな。
「モンスター表示だな……」
俺がそう言うと、ペールゼンが頭を抱えた。
「モンスターかよ……まあ、不老不死だし問題ないかー」
「というか、プレイヤーは不老不死らしいぞ?」
「え!? リッチじゃなくても?」
「うん。神になったプレイヤーが言ってたから間違いないね」
「ぐあー」
頭をブンブン振って絶望している。骸骨がやってると昔売ってたダンシング・フラワーって玩具っぽくて面白い。
「モンスターだとレベル上がらないのかね?」
「そうかもしれない……最近一〇万くらいの軍隊と戦ったけどレベル上がった感じしない……」
モンスターはレベルが上がらないっぽい。でも、ドラゴンのマリスはレベル上がってるよね? あれは種族扱いなのか?
「蘇生魔法とか使ったらどうかな? 人間に戻れるんじゃ?」
「いやいやいや。神とか神殿とかマズイんだよ。俺が神殿に近づいたらターン・アンデッドで塵にされそう!」
確かに、アンデッドは生者の天敵というか……そういう扱いになるよな。
「それに、俺が生き返ったら、部下たちを統制できなくなるかもしれない……」
「そりゃ周囲の国が困っちゃうな……」
「そうだろう? だからリッチのままで良いや……」
ガックリとしているようだけど、何百年もアンデッドしてるだけあって心の整理は付いているということか。
「とりあえず、邪悪な存在じゃなくて良かった……邪な存在だったら討伐も考えてたからな」
俺がそう言うとペールゼンが顔を上げた。
「俺は元々日本人だからね。平和な国が一番だよ。でも俺がこんなだから他国と交流するのも難しい」
「俺が事情を知ったからには問題はない。どうだ? 俺の領土と交流を深めてみないか?」
「人間が怖がらなけりゃな……」
「ここまで来る間に見てきたが、アンデッドさえ出てこなかったら問題ないんじゃないか?」
「そうかもしれないが……王国の防衛隊は全部アンデッドなんだけど……」
「そうか。うーん……他国との戦争で考えるなら、北側だけ考えればいいよ。実は西のウェスデルフは俺の国なんだ。南の湿地帯も俺の領土だ。東西南の三方向が俺の領土と言っていい状態なんだよ」
俺がそういうと骸骨なのにペールゼンがキョトンとした顔をした風に見えた。
「え? マジで? 西も? え? ウェスデルフって修羅の国じゃん?」
「そうなんだけど、あそこの王様と一騎打ちして倒しちゃったんだよ」
「すげーな! ケントだっけ? フレンド登録したいところだよ!」
「いや、その機能、ティエルローゼに無いから」
という事で、どうやら神すら知らないプレイヤーの存在が確認された。
今はアンデッド・モンスターだから厳密にはプレイヤーとは言えないか。
でも、同じ現実世界の知識を持つ新しい知人は貴重だ。今後、協力していければ俺としても助かるしな。
アースラは既に神様で下界に影響を与える事はできないわけで、下界に同じプレイヤー出身者がいるなら心強い。
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