第15章 ── 第18話
マリオンの弟弟子ということで、マリオン神殿の
簡単な戦闘訓練を課してみたが、ものの三〇分も持たず
「なんだ、たった三〇分しか持たないのか……」
俺は少々嘆くと、この光景を見ていたマリスとトリシアがボソリと呟いたのが聞き耳スキルで聞こえてきた。
「前にも思ったが……鬼だな」
「アースラより厳しいのじゃ」
「は? ただの基礎訓練じゃんか!」
俺は例の某ブートキャンプ的何かをやっただけだぞ?
「アースラは戦闘訓練じゃから、やってて面白いし身になるのじゃがのう」
「ケントのは地味な分、精神に来るんだ。あれはキツイ」
「えー?」
「アースラのは面白いからのう」
「地味かなぁ……多分だけど、あれはアースラも知ってるフィットネスだぞ? もしかしたらやったことあるかもしれないし」
トリシアとマリスが衝撃を受けた顔になる。
「そ、それは本当か!?」
「素敵用語じゃな。訓練の意味じゃろな」
「あ、うん。一時期、俺の国で流行ったヤツだからな」
トリシアとマリスは顔を見合わせて何か
「俺も三ヶ月ほどやったけど、結構筋肉ついたな」
もっとも現実での事だからゲームのキャラとは関係ないわけで、この身体に影響があったかは解らないけど。
「つーか、アナベル。いつまで寝てるんだ? もう帰るよ」
他の
「こ、これは二度めだけど……き、キツかったのです……」
「ほら、これ飲んで」
俺は中級SP回復ポーションをアナベルに飲ませる。
フィルの開発したヤツですな。
ゴクゴクと飲み干したアナベルが少し元気になる。SPバーが半分程度回復する。
「こ、これで大丈夫なのですよ」
「じゃ、帰るよ」
「はーい」
三人で王城まで帰ってくると、オーガス自ら出迎えてくれる。
「お帰りなさいませ、我が主よ」
「どうした? 王自らお出迎えとか何かあったのか?」
「はい。東側に攻め込んでいた軍が撤退を開始しました。早馬にて報告が来ております。三日ほどで帰還致します」
「それは朗報。東側諸国の反応は?」
「今の所、何もございません」
ふむ。これからが大変だ。何らかのアクションが東側諸国からあるはずだ。
一応、攻め込んだ東側の国は三国ある。ダルスカル小王国、カリオハルト自治領、そしてペールゼン王国。
この内、ダルスカル少王国の国王はオーファンラントの国王と血縁関係がある。リカルド国王に口添えしてもらう必要があるかもしれない。
カリオハルト自治領は、もっと厄介かもしれない。王国北西側、ウェスデルフの遥か北方にあるシュノンスケール法国という国の飛び領なのだ。このシュノンスケール法国は、基本的に他国との取引はないらしく、唯一貿易をしているのはグリンゼール公国のみだという。
グリンゼール公国で産出される
ちなみにカリオハルトは一応、秘密盟約のメンバー国なのだが、自治領主は法国とは関係ない国から順番に選出されている。そういう契約なんだって。
何はともかく、本国がどう出てくるか……これが問題だね。
ペールゼン王国は良くわからない。かなり小さな国らしいが、噂は殆ど聞かないんだよね。王国と群小諸国たちの秘密の盟約にも関わっていないらしいし。付き合いが悪い国王が治めているのかな?
ま、この国々の出方を待つしかないね。
二日半から続々と獣人の侵攻軍が帰ってきた。
夕方までに全部隊が戻ってきたのだが、その総数がおかしかった。
オーガスに聞いていたのは三〇万。戻ってきたのは一六万程度だ。
内訳を調べてみると、ダルスカル少王国とカリオハルト自治領のものは殆どが戻ってきている。ペールゼン王国に派遣された部隊だけ殆ど戻ってきていない。
その夜、各侵攻軍の指揮官と副官たちによる報告会が行われた。ペールゼン王国への派遣部隊の指揮官は戻ってこなかったため、残兵の内の一人が出席している。
「それでは報告をしてもらおう」
重苦しい雰囲気の中、オーガスが報告会の開始を宣言した。
「ダルスカル少王国派遣部隊より報告致します。ダルスカル少王国との国境の街、ハルエトラは陥落させましたが、第二の街で抵抗軍に阻まれました。戦線が膠着した所で撤退命令を受諾。王都への帰路に付きました」
被害はおよそ二〇〇〇人程度だそうだ。ま、そんなものだろうね。
「続いて、カリオハルト自治領派遣侵攻部隊からの報告です。あの国は少々おかしいです。兵士もいましたが、一般市民まで向かってきました。一つ目の都市は殲滅しましたが、それ以降は領民全てが敵となりました。思わぬ戦闘により一〇〇〇〇人以上の死者を出してしまいました」
領民が抵抗したんだな。防衛軍や兵士などもいたらしいけど、死ぬ事も恐れずに向かってきた領民の方が怖かったようだよ。信仰によって死を恐れないというのは何か不気味な気がするなぁ。
「次はペールゼン侵攻部隊。どうした?」
「あ……あ……」
どうしたんだ? 呆けている感じだが。
「おい。しっかりしろ!」
指揮官の一人が、ペールゼンへ侵攻した生き残りの兵士を揺さぶっている。
「うわぁぁぁあぁぁ!」
そう叫んで兵士は気絶してしまった。
「一体何だというんだ……」
周囲の雰囲気が硬直してしまった。
「ちょっと待ってくれ」
俺は王の後ろの椅子から立ち上がった。
「何者だ!?」
別の指揮官が立ち上がる。
「やめよ。我が主に対する暴言は許さぬ」
「主!? 王よ! それは一体どういう意味でしょうか!?」
「我は主に負けた。この国の全ては主のものだ。主が望まぬゆえ、代理として国王に就いているに過ぎぬ」
参加している指揮官と副官たちが驚愕の顔を浮かべる。
「ば、馬鹿な……王が負けるなど……」
「試してみるか?」
俺が手をワキワキさせながら威圧スキルを発動する。
するとオーガスも含め、指揮官も副官もガタガタと震えだした。
「し、失礼しましたー!!! 失言でした!!! お許しください!!!」
「お許しください!!!」
指揮官と副官たちが次々にテーブルに頭を打ち付けながら謝罪し始める。
「あー、もうその辺りでやめて。許すから」
「ありがとうございます!」
最後に一発テーブルに打ち付けてからやめてくれた。
「さすがは我が主、ひと睨みで
「そうなのかな? まあ、いいけど」
俺は例の兵士に目を向ける。兵士は気絶したままだ。
「この兵士はよほど怖いものを見たんじゃないかな。自我が崩壊しているようだ」
指揮官たちも頷いている。
「ちょっと記憶を探ってみようか。
俺は兵士の額に手を当てて魔法を唱えた。
脳裏に真っ黒なスクリーンが浮かび上がる。何も映されていないスクリーンは真っ黒なままだ。
暫く見ていると、何かがぼんやりと見え始めた。
そこには髑髏が次々と現れる。
「ん? スケルトン?」
スケルトンの軍勢はギッギッギッと骨を軋ませながら迫ってくる。
よく見れば、スケルトンの後ろには生きた人間もいれば、強化型スケルトンである
なんだこりゃ?
そこに大きな声が響き渡る。
「愚かな獣人どもよ。我が国土を犯すことは許されぬ。死して我が軍勢に加わるが良い」
その声の方向にスクリーンの映像が流れる。
スクリーンに新たなる姿が映し出された。
リッチ──最上級アンデッド。ノーライフキングとも呼ばれるレベル六五のモンスターだ。恐怖の視線、魔法行使能力、ドレイン能力、数々の特殊能力を持つ凶悪で最悪なアンデッド。
「我が名はセイファード・ペールゼン。死してなお国の安寧を護るものなり」
そこで映像が途切れてしまう。
恐怖で意識が狩られたな。比較的初期段階で気絶したお陰で命が助かったということかな。しかし、ノーライフキングに精神を侵されたものは二度と元には戻らないという。
しかし、それは伝説上での事。壊れた精神を元に戻す方法はある。それは回復や治癒といった神聖魔法ではないため、巷では知られていない方法。
シャーリー・エイジェルステットが考案しただけで終わってしまった門外不出の方法。
『
魔法が発動すると、兵士の頭に金色の輪が現れる。金色の輪から無数の糸が現れ、頭の中にズブズブと入っていく。
うーん。
うねうねと動く金糸が頭の中で何をしているのかは解らないけど、精神の再構築や回復をしているのは間違いない。
「う……う……うわぁああ!」
少しうなされていた兵士が突然悲鳴を上げて起き上がった。
「大丈夫だ! もう大丈夫!」
俺は物凄い力で暴れ始めた兵士を力で押さえつける。
少しして周囲の状況を認識し始めた兵士が落ち着きを取り戻した。
「ここは……」
「ここはウェスデルフの王城だよ」
「お、俺は助かったのか……?」
「ああ、君は助かった」
ボロボロと涙を流しガタガタと震える兵士の背中を俺は撫でてやる。
ノーライフキングは人間だけでなく生命全般と相反する存在だ。それが国の防衛に出てくるというのが良くわからない。
しかし、この状況はオーファンラントだけでなく隣接したダルスカル少王国、ブレンダ帝国などにも影響が出る可能性がある。
早急に調査が必要な案件かもしれない。
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