第15章 ── 第17話
オーガスたちと別れ、ウェスデルフの王都を散策する。
途中、ゴーレムの巡回部隊と一緒に街を見回っていたトリシアとマリスに出会う。
「よう。見回りか?」
「ケントじゃ!」
マリスが俺の姿を見留めトコトコと走ってくる。
「お前とオーガスが話している間、暇だったんでな」
「何やら難しい話ばかりで退屈じゃったからのう」
俺はキョロキョロと周囲を見回し、アナベルの姿を探す。
「アナベルは?」
「あいつは街にある神殿を探して、どっかに行ったぞ」
「東の方に歩いていったのじゃ」
ふむ。東の方に神殿あるのかな?
マップ機能で検索すると、アナベルは街の東をウロウロしている。確かにそちら側に神殿地区というものがあるようだな。
ん? これは?
神殿地区の隣の地区に騎士団駐屯地という名称がテロップで表示されている。
「騎士団駐屯地か」
「騎士団駐屯地かや?」
そういや、シルーウの第一騎兵団が駐留してるはずだ。彼には用事があったんだった。
「ちょっと騎士団駐屯地へ行ってくるよ」
「何かあるのか?」
「ほら、覚えてるだろ? 森で会った子供たち」
「ああ、腹がぽんぽこりんなやつらじゃな!」
お前もぽんぽこりんだったろが……
「父親が騎士団長だっただろ。子供の無事を知らせてやらなくちゃならないだろ?」
「あー、忘れておったのう」
「そういえば……シルーウ・ウルフェンか。確かに父親の名前がそれだったな。私も忘れていたぞ」
おいおい。ま、会った時に俺も忘れてたけど。ミノタウロスとかオノケリスの事があったからね。そっちの対応が忙しかったからなぁ。
「一緒に行くか?」
「行くのじゃ!」
「私も同行しよう」
俺たちは連れ立って駐屯地へ向かう。
この街は王都だけあってトリエンより大きいが、王国の大都市や王都に比べると大変小さい。帝国のプルミエくらいかな?
ただ、王都の周辺に
バラックも含めて都市とするなら王都くらいあるね。この都市だけで王都の二倍は人口がいるのにねぇ。人口過密過ぎ。
街の雰囲気としては、例の『力こそ正義』を廃止したことで安定した治安を保っているような雰囲気。街角を子供や女性たちが元気に、そして安心した顔で歩いているのが判る。
以前は強い獣人が女性を無理やり押し倒すような事件が多発していたというし、出生率が高かったのもそのせいじゃねぇか?
子供も女性も安心して暮らせる街になったなら良いことだよね?
駐屯地は神殿地区の東側にあった。駐屯地内は戦争も戦いも停止状態だというのに訓練に勤しむ獣人たちが多い。
俺たちが駐屯地に入っていくと、獣人たちが
「楽に、楽にね」
「はっ!」
それが固いんだよ。アーベントもそんなだから何とも言えないが。
「シルーウに会いたいんだが?」
獣人の一人に聞いてみると、駐屯地の奥にある建物で仕事をしているという。
建物に案内してもらい中に入る。
「お邪魔するよ」
「はっ! 王の主さま!」
「いや、そういうのいいんで。ケントかクサナギでいいよ」
「では、クサナギさま!」
シルーウが
シルーウ・ウルフェンは狼人族だ。ただ、銀色の体毛が非常に美しい種類の種族だ。ケシュとセイナは灰色だったが別の種族との混血だからだろうな。
彼は銀狼と言われる種族なのだそうだ。通常の狼人族よりも優れた身体能力があるらしい。
「楽にしてくれ。今日は君の家族について話があって来たんだ」
「私の家族……?」
「うん。君は家族を東へ逃しただろう?」
「ど、どうしてそれを……妻がトリエンに辿り着いたのですか!?」
「いや……そうじゃないけど」
俺は経緯を説明する。
エルフの女王に請われて探索に出た事、その道中に二人の獣人の子供に出会った事などだ。
「ケシュとセイナが!? して二人はどこに!?」
「俺の配下にトリエンに送らせたから、今はトリエンの孤児院に身を寄せているよ」
「妻は……サスターシャは一緒ではないのですか?」
「うーん。森にサスターシャという名前の遺体があったよ。残念ながらね」
「そうですか……」
シルーウが涙を流す。だが、すぐに涙を拭う。
「我が子供たちを助けて頂き……飢えを満たして頂いて真にありがとうございます!」
やはり飢えを満たすというのが感謝の基準なのね。食糧難だし当然だけど。
「すぐに連れてこようか?」
「いえ、私がトリエンに迎えに
「いや、トリエンにも獣人の冒険者が結構いるから平気じゃね?」
「それでは……!」
シルーウの顔がほころぶ。
「ああ、俺たちが帰る時にでも一緒に行くか?」
「是非! ご同道を許されるのならば!」
うんうん。素直なのは良いことだ。
「もう暫くここに滞在するから、それまで待機していてくれ」
「はっ! 拝命致しました!」
シルーウとの会見が終わり、駐屯地を視察していくことにする。
第一騎兵団というだけあり、馬や鹿などを騎乗動物として扱っているようだね。物資輸送用の動物が象だったのは驚いた。パワーありそうだもんな。
訓練度を見るに、非常に精強な軍隊だと思う。平均レベルが二五ほどだしね。シルーウがレベル三七と一番高い。獣人の中で見ても相当なもんだ。
武器や防具などは整備がちゃんと行き届いており、エリート部隊だというのが良く判る。
鉄製の武器ばかりだけでなく、皮革や甲羅や鱗などの珍しい素材のものも存在する。
それぞれの防具の特性を活かして役割別に装備分けされているのも特徴だ。
騎兵たちは大亀の甲羅を使ったラウンドシールドを装備しているし、槍兵は敵の攻撃を弾きやすい鱗のスケイルメイル、弓兵や後方の輸送部隊などが皮革のレザーアーマーといった感じだな。
「相当訓練が激しいな。ファルエンケールの遊撃団も見習わせたいものだ」
「でもアースラの訓練より遥かにマシじゃぞ?」
「あれは訓練というか……拷問だな」
拷問なんかよ。アースラは厳しいからねぇ。ギリギリの線まで攻めるからな。俺も訓練してもらった時は結構追い込まれたもんね。
「外国に来て……帝国でも思ったけど、やっぱり他国は文化とか制度とか違うねぇ」
「それはそうだろう?」
「でもファルエンケールは王国に似てたよ?」
「エルフは人間に親しいからな。エマを見れば判るだろう? 混血児すら生むことが出来る」
なるほどねぇ。混血が生まれるって事はDNAレベルで近いってことだな。普通数パーセントも違いがあったら混血できないんじゃ? チンパンジーと人間の相違が三パーセントだっけ? それくらいで混血はできないはずだ。
ということは、エルフと人間の差異はそれ以下の差異しか無いということかな。
「ドラゴンとの混血もできるかや?」
「どうだろうな? そういう話は伝説でも聞いた事はないが」
「今度、ケントと試してみるのじゃ」
「そうだな。私も試してみよう」
おいおい。何を言っている。そういう破廉恥な事は人前で言わないように! というか、俺と試すのかよ。まあ、興味がないわけじゃないけど……初めては他種族より人間の方がいいと思うんだが。
「獣人との混血も可能だと聞くぞ。ほら、お前が関わったチームのリククという者がいただろう。あれも獣人との混血だな」
おお、リククは半獣人だったのか。確かに顔とかは人間だったしな。耳と尻尾の所だけ獣っぽかったもんね。
半獣人はアキバの大きなお友達たちには絶大な人気が出そうな気もする容姿になるわけか。トリエンのギルド受付の猫耳女性も半獣人だったんだな。
「随分と簡単に混血が生まれる世界なんだなぁ。俺の生まれた世界では歴史的に見ても混血は忌み嫌われる事多い存在だったようだけど」
「そうなのかや?」
「どっちの種族でもない。ただそれだけで迫害を受けたという記録は多かったね。俺が生まれた頃はそういうのは殆ど聞かなかったけど、田舎の方ではまだあったんじゃないかねぇ。ネットでそんな話を読んだことがあるし」
「下らん事だな。子が授かったなら、それは神の意思だ。それを祝福せんとは神にツバを吐くのと一緒だ。神罰が怖くないのか問いたい所だ」
うーん。地球にも宗教はあるし信仰の
俺も神と名乗る人物が目の前に現れたのはティエルローゼが初体験だったしね。
「ま、良く判らんけど、迫害を受けない世界のティエルローゼは良いところだな」
「迫害が無いわけじゃないぞ?」
あるのかよ。
「そうなの?」
「私生児などは迫害されるさ。周囲に望まれずに生まれた子はそういうものだ」
「親が望んだなら良いじゃん」
「親も望まない時は間引かれるか捨てられるものだ」
間引くって……物騒な。まあ、地球でもそういう習慣は聞かないわけじゃない。昔は双子は不吉とされていたし、片方が殺されたなんて話は枚挙にいとまがない。
「運良く生き残ったとしても、そういう子供は迫害を受ける」
「ふむ。案外、そっちの方が厄介な気がするな。見た目は変わらないし」
「そうだな。周囲に出生の秘密を知られた段階で問題が起こるだろう」
やれやれ。そういうのも含めて法律を整備しなきゃいけないんだろうけど……こういった問題は手を付けてもいきなり変わることはない。風習というものがすっかり変わるまで物凄い時間が掛かるものだからね。
「さて、そろそろ行くか。途中でアナベルを拾って帰ろう」
「了解じゃ!」
「そうしよう」
隣の神殿区画のマリオン神殿にアナベルはいるらしい。
この都市にはウルドやマリオンは勿論のこと、狩猟の女神アルテルというのがある。これが一番大きいようだね。アルテル……アルテミスっぽい名前だな。ちなみに、アルテルはレンジャーなどにも信仰されてるね。エルフを作った神とも言われているそうだ。
他にもラーマ、アイゼンなどの神殿も小さいながら存在する。
アイゼンと言えば、帝国の女帝に子供を産ませたんだっけ? 神との混血というのもあるのか。厄介なことでございますなぁ。今頃、神界で問題になってたりして。隠し子って称号付いてたし。
マリオンの神殿に入る。
大きさはトリエンなどとは比べ物にならないほど大きい。帝国のよりも大きいかも。
「ケントさーん!」
礼拝堂で神官長らしき獣人と話していたアナベルが俺の姿を発見して走ってくる。
「ケントさんも礼拝ですか?」
「いや、城に帰るからアナベルを迎えに来たんだよ」
「ちょっと紹介したい方がいるのです!」
俺はグイグイとアナベルに腕を引っ張られて祭壇の方に向かう。
「この方です! この方こそ、マリオンさまの弟弟子にして私の師匠のケントさんです!」
紹介したいと言いながら、俺を紹介するのかよ。
「どうも。そういう事になってるらしいですねぇ」
俺は少々恐縮しながら神官長らしい獣人に挨拶する。俺は現実世界の頃から坊主とか司祭とか言うのが苦手なんだよね。説教臭いから。
「貴方さまが! あのガリスタ王を打ち負かした強者こそがマリオンさまの祝福を受けていたという事ですな!」
神官長は涙を流しながら打ち震えている。
「そうなのです! マリオンさまの弟弟子は伊達じゃないのですよ!」
「我々もさらなる信仰を捧げねばなりません!」
アナベルもだけど、神官は神の話になるとテンション高いから困る。どう話を合わせていいか悩むんだよな。
マリオンに肩入れすると他の神を蔑ろにしている気がするし。今、俺って神界で話題らしいから上から見られてたら色々マズイ気がするんだけど。
それでなくても俺は三柱の神に加護貰ってるからな。神関係は平等にしておきたい。絶対神的存在がいればいいんだけど、創造神は姿を隠してしまってるらしいからなぁ。ほんと困る。
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