第15章 ── 第3話

 アナベルの武具や他のアイテムが完成したので工房から出てくると、仲間たちが集まっていた。


「そろそろ準備は終わった?」

「ケント待ちだな。そっちは終わったのか?」

「一応ね。ちょっとアナベルの装備とかを作ってたんだよ」

「私のですか?」


 俺はインベントリ・バッグからミスリル製の各武具を取り出す。


「西の方は戦争間近っぽいし、今の装備だと不安があるだろ?」

「そうでしょうか」

「後衛支援職に何かあると、前衛が困るからな。ま、要は今の装備だと他の仲間の装備とのバランスが悪いんだよ」

「素敵用語じゃ」

「ケントの言いたい事は、アナベルがチームの弱点になるということだ」


 トリシアにそう言われてアナベルがショボンとした顔になる。


「みんなに迷惑が掛かるのですね」

「そういうことだな」


 受け取ったアナベルが、ミスリル装備に着替え始める。

 下に衣服を着ているといっても、人前で着替えるのはどうかと思う。揺れるメロンに目が行ってしまいますよ!


「これがミスリルですかー。随分軽いんですね」

「そして丈夫だよ。あ、これ説明書」


 ウォーハンマーと神官服用の説明書を渡す。


「コマンド・ワードを使う事で気絶スタン効果がある電撃がハンマー部分に付与されるよ」

「気絶はいいですね! 死なないように無力化できます!」

「そういうこと」

「神官服もありますよ! キラキラしているのです!」


 以前のものと同じ彩りで染色をしてあるが、表面にはシルクのような光沢があるので非常に高価そうに見える。

 渋っていた割に神官服は気に入ったっぽい。


「その神官服もコマンド・ワードがあるからね。ヘパさんに頼んで神力を使った効果が発揮されるんだ」

「神力を!?」

「そう。やってみたら?」

「では早速~。えーと……戦いの女神よ!」


 アナベルの言葉に神官服が反応を示す。


 すると、淡い緑色のフィールドが展開される。

 これは再生リジェネレートの魔法と保護プロテクションの魔法が発動するコマンド・ワードだ。

 このフィールド内にいる仲間たちに、これらの効果が与えられる。魔力を持続的に消費するのが難点だが、使い方次第で非常に強力なサポートを期待できる。


「ほえー、なんか凄いのです」

再生リジェネレート保護プロテクションの魔法が自分を中心に掛かるんだ。もちろん仲間と敵をより分けて効果が発揮されるようにしてある」

「便利なのです!」

「うん。集団戦闘などで非常に効果的だろうね。有効に活用してくれ」

「はいなのです!」


 俺はさらにインベントリ・バッグから取り出した。


「これはハリスに。前に約束していたものだ」


 ハリスが俺の手から受け取ったものは、黒い布で出来た忍者服だった。


「こ……これは……!!」


 広げてみたハリスの顔に嬉しげな色が爆発した。


「忍者服だよ。ミスリル糸で作ったからかなり丈夫だぞ。黒に染めて、さらにマット仕上げで光も反射しない。ちょっと自信作」


 俺は得意げに説明する。


「各部所には様々なモノや武器を収納できるポケット付き。胸の部分のスロットは棒手裏剣を収納できるよ」


 さらにミスリルの棒手裏剣も渡してやる。


「この八本の棒手裏剣だけど……ちょっと投げてみて」


 ハリスが庭に植えてある近くの木に棒手裏剣を投げると、上手いこと突き刺さった。

 刺さってから一秒ほどすると、自動的に抜けてクルクルと回転しながらハリスの手に戻ってきた。


「おー、戻ってきたのじゃ!」

「そう。自動回収オート・リターン機能付き」

「失くさずに……済みそうだ……」


 ミスリルの手裏剣を使い捨てするほど、俺は気前は良くないからな。


「さて、こんなものかな」

「我のは無いのかや?」


 マリスがワクワクした顔をしている。トリシアも少々期待したような目だ。


「ごめん。マリスとトリシアの分は今回はないんだよ」


 マリスが絶望にも似た悲壮な表情で肩を落とした。トリシアも少々失望した感じ。


「次回、何か作るよ。みんなのレベルも結構上がってきたし、次の装備はアダマンチウムかなぁ」


 それを聞いたトリシアの目が輝く。


「ほほう。これに匹敵する装備を作るのか」


 グイッと義手を持ち上げて握りこぶしを作る。


「それに匹敵できるかどうかは少々ハードルが高いよ。マストールの力作だぞ?」

「ケントならやる。きっとやるはずだ」


 ニヤリとトリシアが笑う。


 ぐぬぬ。ヘパさんの加護は受けたけど、まだマストールに肩を並べられるとは思えないが……


「ど、努力はしてみるよ」


 苦笑気味に答えておく。


「アダマンチウムかや? ケントのとお揃いになるのじゃな!」

「それはどうじゃろな」


 不意に後ろからマストールがやってきた。


「お、休憩?」

「いや、神の御業はここに完成したぞ!」


 得意げなマストールが腰の無限鞄ホールディング・バッグから何かを取り出す。


「お! マジか!?」


 そこには虹色に輝くブレストプレートと手甲ガントレット脛当てグリーブ、そして一振りの剣が!


 それを見た他の仲間たちも目を見開いている。


「オリハルコンの武具だと!?」

「おおー。まさに神の輝きなのですよ!」

「ぐぬぬ! またもやケントに追いつきそびれたのじゃ~」


 マストールから受け取った防具は羽根のように軽い。剣は曲剣である「グリーン・ホーネット」に似た感じだが、どちらかと言うと日本刀に似た作りだ。鍔とか柄の作りとかね。


「ヘパさん頑張ってくれたんだ。お礼言わなきゃな。今どこに?」

「調理場じゃな。さっき駆け込んでいったぞ」


 食い気が先か。


 俺は調理場に向かった。

 調理場ではヘパさんが、館の料理人たちに料理のリクエストを出していた。


「供物はカレーとかいうものが良い。それとカツ丼というものじゃな。噂に違わぬものを期待する」

「それならカツカレーにするといいですね」


 俺の声にヘパさんが反応する。


「カツカレーじゃと? カレーは至高じゃとアースラ殿がいうておったが。それにカツというものがどう融合する?」

「んー。ご飯の上にカツを乗せて、そこにカレーをかけるんですよ。なかなか美味いですよ」

「ふむ。ではその供物を作るが良い」

「装備を作ってくれたお礼に俺も腕を振るいますよ」

「期待しておるぞ!」


 俺はカツカレー、カツ丼、ついでにカツサンド、さらにはカレーパンを作ってみた。


 昼食には少し量が多そうだが、ヘパさんの巨体を考えると食べきってしまいそうだ。


 料理をメイドや料理人たちと運び込む。

 食堂には既にアースラ、ヘパさん、マストール、クリストファ、そして仲間たちが来ていた。


「さて、西に出発する前に、食事会といこう」

「うおお! これ! カレーパンか!?」

「さすが日本人、気付いたか。どうせ揚げ物とカレー作るからやってみた」

「ケントは心得てるな。懐かしすぎる」


 これら料理の半分はすでにインベントリ・バッグに収めてあるので、旅先でも食べられる。


「美味である!」


 いただきますの号令前に、ヘパさんがカツカレーに食らいついている。


「じゃ、いただこうか」


 俺がそういうと、他のものが料理を食べ始める。


「クリストファ、俺が留守の間、トリエンを頼んだぞ」


 食べながら、クリストファにトリエンの運営を頼む。


「ああ、鋭意努力しよう。ケントたちが帰ってくる頃には第二城壁は完成させておかねばな」


 現在のトリエンは人的面でも財政面でも非常に上手く回っているので、甚大な問題はそう簡単には起きないだろう。基本的に俺がいなくても回るような体制を整えてある。


 行政にはクリストファたちが、魔法道具などを作り出す工房にはエマとフィル、軍事面ではフォフマイアー率いる五〇〇〇体のゴーレム部隊がいる。

 政治的決定権をもつものが居なくなるが、そこは小型通信機を各人にもたせてあるし、連絡や報告が迅速に行えるはずだしね。


「アースラ、ヘパさんといつまでいるか解らないけど、その間、無茶するなよ?」

「俺がいつ無茶をしたよ? ま、神が下界で問題を起こすわけにもいかないからな。大人しくしているよ」

「ワシは供物があればよい。下僕しもべに色々と仕込んでおいてやろうぞ」

「ありがたき幸せに存じます!」


 なんかマストールはヘパさん来てからキャラが変わってる気がするが、この際気にしないことにしておこう。

 ヘパさんがいるうちはファルエンケールにも帰らないだろうし、トリエンの為に色々と作ってくれると助かるね。



 食事も終わり、各人が騎乗ゴーレムに乗り込む。

 アナベル用のはまだ作っていないので俺の後ろだ。最初に買った馬車をスレイプニルに引かせてもいいんだけど、小回りがきかなくなるからね! 決して背中の感触が嬉しいからじゃないから!


「よし、みんな。出発だ!」

「了解じゃ!」

「行くぞ」

「承知……」

「私はケントさんの後ろなのです~」


 銀の馬と銀色の大狼に乗った俺たちは街の西門へと向かう。

 これから、どんな冒険が始まるのか、期待に胸を膨らませて。


 ジュンディエル(四月)一二日、アドリア(木曜日)の午後。

 こうして俺たちはトリエンを後にした。

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