第14章 ── 第24話

 ゴーレムの増産を始めておよそ一〇日。予定の数を造り終えた。


 長い戦いだった。

 エマと二人で必死に付与作業を続けたお陰で、全ゴーレム部隊が完成した。

 接近戦型の歩兵ゴーレムが二五〇〇体、遠距離攻撃型ゴーレム二〇〇〇体、魔法支援型ゴーレムが五〇〇体……総勢五〇〇〇体。


 MPはほぼ無限なのでそっちに問題はなかったが、スタミナは別でエマは満身創痍ですよ。俺も少々疲れた。


 フィルが特製のSP回復ポーションを大量に作ってくれたけど、水っ腹でそんなに飲めませんって。


「早く上級や特級のSP回復ポーションが開発出来ればお役に立てたのに……」


 フィルが少々打ちのめされているが、そこは仕方ないね。そんな簡単に上級や特級が作れてたまりますかって。


「気にするな。俺はともかく、エマは二・三日休めば復活するさ」


 俺の自然回復スピードは、現地人のエマたちとは違うからね。俺の場合は二時間くらいで復活します。ドーンヴァースのシステムが微妙に作用しているから便利な身体です。


「私はへっちゃらよ!」


 エマがフラフラと立ち上がるので、支えてやる。


「無茶したらあかんで」

「どこの方言?」


 あ、大阪弁でした。


 何はともあれ、俺はエマをお姫様抱っこで屋敷へと運ぶ。心配そうなフィルも着いてきたが、自室前まで来てエマが暴れだしたのでフィルは帰っていった。


「俺はいいのかよ」

「ケントは別に良いのよ」


 良くわからないけど、そういう事にしておこう。


 エマの部屋に入り、ベッドへと寝かす。

 俺の首に回されているエマの腕に力が入り、ギュッと抱きついてきたので、俺はしばらく屈んだ姿勢で動けなくなった。


「どうした?」

「いいじゃない。一仕事終えたんだから少しくらい」


 怒らすと怖いので、やりたいようにさせた。

 しばらくすると力が緩み、エマが離れた。


「二・三日安静にな」

「あのカツサンド作ってよ」

「ああ、エビカツサンドな。わかったよ」


 俺は安請け合いをしてエマの部屋を後にする。


 まだ午後になったばかりなので、出来上がったゴーレムたちを見に駐屯地へ向かう。


 現場に到着すると、すでに建築用ゴーレムたちの手により駐屯地は完成しており、見事な石壁で囲まれている。北と南に出入り口の門が設置されていて、歩兵ゴーレムが二体ずつ警備に当たっている。


 中を覗くと二部隊が稼働していて模擬戦をやっているようだ。


 駐機場の方には三〇〇〇体が並んでいて壮観です。


 ウロウロとしていると、トリシアとマリスがこちらに歩いてきた。


「ケント! すごいのじゃ! すごい数なのじゃ!」

「一〇日程度で、よくもまあ、作ったもんだな」

「見学?」

「一応、数日前から見に来ている」

「ゴーレムと戦ってみたのじゃ」


 ゴーレムと模擬戦したの!?


「今だと二〇体が限界じゃのう」

「ハリスがいれば、もう少し相手にできるだろ」

「アナベルも呼ぶべきじゃな」


 は? 二人で二〇体も相手したの?


「壊してないだろうな?」

「壊すかよ。ちゃんと規則を作って戦ったからな。破壊判定はアースラさまがやった」

「げ、アースラも来てるのか?」

「ああ、興味深々みたいじゃな。今は第二と第三部隊を相手に模擬戦しておるぞ?」


 げげ、アースラ対ゴーレム部隊なのかよ。


 俺は慌てて模擬戦が行われている奥へと走っていく。


「はい。ここの五〇体破壊!」


 ブンブンと大剣を振り回しているアースラが宙を舞いながら、ゴーレムたちに声を張り上げている。


 ゴーレムたちも剣、槍、弓、魔法と繰り出すが、尽くアースラによってかわされ、払われ、撃ち落とされと全くダメージを与えられていない。


「はぁ……一〇〇レベル相手だと仕方ないか。ゴーレムは三五レベル程度だしなぁ」


 ものの三〇分程度でゴーレム部隊が全滅判定をされてしまった。


「よう、ケント。来たな」

「随分楽しそうじゃんか」

「お前のゴーレム、なかなか面白いな」

「全部倒しておいて、面白いかよ」


 アースラはご満悦といった顔だ。


「久々に大規模戦闘をやってみたが、ゴーレム部隊はまだまだだな」

「改良が必要かな?」

「いや、ゴーレムに改良は必要ないだろ。問題は、指揮をしている人間の方だな」

「ほう?」


 アースラが言うには、指揮官たる人間がゴーレムたちを上手く扱えていないという事らしい。


「ま、こんな軍隊を指揮した人間は、この世界にはいないからな」

「ふむ。色々と戦術や戦略を考えておいたほうが良さそうだね」

「そういうことだ。さてと、俺も随分と遊ばせて貰ったし、そろそろ帰るとするか」


 アースラの言葉に俺は彼を見上げる。


「神界に戻るのか?」

「ああ、そうする。ヘスティアのやつも連れて帰らなきゃならんしな」


 ヘスティアさんを連れてきたのは、やっぱりお前か。


「俺の仲間を鍛えてくれたり、色々とありがとな」

「それじゃ、ケント。またな」

「もう、行くの?」


 アースラがニヤリと笑う。


「あ! そうそうずっと言い忘れてたんだが」

「ん? 何?」

「お前も含めてだが、トリシアたちにも言っとけよ。スキルを発動させる時、スキル名を叫ぶのはやめておいた方が良いな。特撮ヒーローみたいで面白いが、戦術的に不利になる」

「え? ちょ!」

「それじゃ、またな!」 


 アースラがそう言うと眩い光の柱になって一瞬のうちに消えてしまった。

 相変わらず早業だ。

 しかし、彼の言い残した言葉が問題だ。


 スキルを発動する時、技名を言うのがデフォになってたけど……必要ないの?


 今までそうやってスキル使ってたから、必要なのかと思ってたんだが。

 トリシアやハリス、マリス、アナベルもスキル使う時に叫んでるじゃん。


 俺は今までの戦闘などを振り返ってみる。


 確かに皆、技名言ってるよ?


 俺は少し混乱してしまった。ちょっとトリシアたちに聞いてみるか。


 俺はトリシアたちが歩いていった建物の方に向かう。


 石造りの二階建ての兵員詰め所みたいな建物を覗いてみると、一階のロビー的な所にテーブルが運び込まれていて、そこでトリシアとマリス、フォフマイアーとヘインズがいた。


「ここにいたか」

「ん? アースラさまの模擬戦は終わったのか?」

「ああ、満足して神界に帰ったよ」

「なんじゃと? もっと色々教えてもらおうと思ってたのじゃが」


 四人がなんとも残念といった顔をしている。


「ところで、トリシア。ちょっと聞きたいんだが」

「ん? 何だ?」

「スキルを使う時だが……」


 俺はアースラに言われた事をトリシアたちに伝える。


 トリシアもマリスもキョトンとした顔になってしまう。


「ケントがやっていたからな。私も真似をしているだけだが?」

「そうじゃな。ケントにならっているだけじゃ。何か格好良いしのう」

「げ!? マジで!?」

「そうじゃぞ?」


 ぐはっ……マジかよ……


 俺はただ格好良いスキル名を言いながら剣を振ったりしていて、それでスキルを習得していたから、スキル名を言いながら使うのが当たり前なのかと思ってた。


 俺の表情を見ていたトリシアが不思議そうな顔をしている。


「何か問題があるのか? オルドリンもケントの真似していたじゃないか」

「そうじゃな。ケントと戦った時は何も言わずにスキル出してたのう。アナベルの時はスキル名を言っておったし」


 どうやら、スキル名を叫びながら技を使うのは、今、トレンドと化している可能性が高くなってきている。

 俺の厨二病的な行いが、必要もないのに世界に広まっているのだ。


 俺はあまりの衝撃に床に崩れ落ちる。そして、俺の心の中で羞恥心がむくむくと湧き上がってくる。


 両の手で顔を覆い、俺は床の上を転げ回る。


「うがー! なんかこっ恥ずかしい~~~!」

「ど、どうしたのじゃ!? ケントが壊れたのじゃ!」


 俺の痴態を見てマリスが慌てたような声を上げる。


「何故、恥ずかしがるのか判らん。自らの手を晒して相手に備えさせつつも撃破する。真に勇敢な行いだと私は思うがな」


 トリシアの追撃が俺の胸にグサグサと突き刺さる。


 フォフマイアーとヘインズは困惑したような顔で俺を見つめている。


「そうだ。フォフマイアーさんとヘインズ兵長は、スキル使う時その名前を言ってる?」

「いや……そういう事はしたことないですが……」

「はい、普通は掛け声程度ですかね?」


 あ、そうですか。やっぱりそうなんですね。


 俺は立ち上がると肩を落として詰め所から出る。

 心配そうにマリスも着いてきた。


「なんじゃ? 何が問題なんじゃ?」

「いや、厨二病の為せる技です」

「お? どんな技なのじゃ? 見せてたも!」


 マリスが俺の心の傷に粗塩を揉み込んで来る。

 穴があったら入りたい。

 まさにこの言葉どおりの心境でトボトボと駐屯地を後にする。


 館の入り口でハリスに出会ったので、軽く手を上げて通り過ぎる。

 そのまま自分の寝室に入ってベッドへと倒れ込んだ。


 あー、完全にイタイ人状態だったんだ。俺に忖度して、みんな真似してたんだ。へこむわー。


 自分の撒いた種ではあるが、それが普通だと思いこんでいたので知らずにハズカシイ行動を取っていた。

 俺の黒歴史にまた一ページ。

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